電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ブラームス「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く

2017年09月06日 06時03分32秒 | -室内楽
最近の通勤の音楽は、スーク・トリオによるブラームスのピアノ三重奏曲集を聴いております。2枚組のCD(DENON:COCO-70798-9)の中で、今回はとくに第1番が心に残りました。

添付のリーフレットの解説(大木正興さん)によれば、この曲の初稿は1854年に完成したのだそうで、このときブラームスはまだ20歳、シューマンが「新音楽時報」に「新しい道」として紹介した頃です。その後、クララ・シューマンのもとで非公開初演され、楽譜が出版され、ニューヨークで公開初演されるといった時期に、シューマンの病状が進み、ライン川に投身自殺未遂を起こした後にデュッセルドルフの精神病院に入院してしまいます。このあと数年間は、ヨアヒムとともにシューマン家を支える献身の時期となり、さらに長い時間が流れます。1890年、ブラームス57歳の年に、彼はこの曲を大幅に改訂・改作します。豊富な楽想を整理して古典的様式美へと転換するものでした。スケルツォ以外は大きな変更を受け、同年、改作初演されます。

第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ
第2楽章:スケルツォ、アレグロ・モルト
第3楽章:アダージョ
第4楽章:アレグロ

ふーむ。60歳も近くなって、20歳ころの作品を目にしたら、自分でも恥ずかしくなる気持ちはよくわかります。実にまったく、穴があったら入りたいほどでしょう。当時のはやりの衣装はすっかり野暮ったくなり、付け焼き刃は剥がれ落ちます。しかし、にもかかわらず、根本のところであまり変わっていないところもあったりします。おそらく自分自身の核となる部分に近いからなのでしょう。ブラームスの場合は、第2楽章:スケルツォの部分あたりがこれに相当したのかな、と思います。たぶん、ブラームスの青春の刻印。

円熟した面も、若さへの憧憬も、どちらも感じられる音楽。じっくりと聴き、繰り返し聴くほどに、味わいがあります。晩夏の、強さを失いつつある陽光の中に涼しさを感じる車中で、あるいは週末の夜の室内で、耳を澄ませるのに絶好の音楽と感じます。

1976年9月7日〜11日、プラハのルドルフィヌム(芸術家の家)で収録されたアナログ録音で、スプラフォン原盤。偶然にも、40年ほど前の今頃に、この録音が行われていたのですね。この当時、私は何をしていたのだろう? たしか、父に胃がんが見つかり、就職希望に転換して、まだ面接を受けられる企業を必死に探していた頃ではなかろうか。思わず遠い目になってしまいます。

参考までに、演奏時間を記します。
■スーク・トリオ
I=13'20" II=6'05" III=8'15" IV=6'40" total=30'20"

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