電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

門井慶喜『シュンスケ!』を読む

2013年12月22日 06時03分31秒 | 読書
角川書店刊の単行本で、門井慶喜著『シュンスケ!』を読みました。シュンスケとは伊藤俊輔、のちの内閣総理大臣・伊藤博文のことで、彼の青春時代を描くものです。

百姓の子・利助が様々の偶然と人の縁から、来原良蔵や吉田松陰の弟子になりますが、吉田松陰の描き方が通念とはだいぶ違っています。明治維新を精神的に準備した偉大なる教師というのではなく、

完全に(狂人の相じゃ)/ 俊輔はそう決め付けた。

というのですから、スゴイ(^o^)/
たぶん、著者は長州生まれではなかろう、と予想したら、案の定、群馬県人でした(^o^)/

いわゆる長州ファイブのエピソード、井上聞多らとともに英国に密航留学したときに関する場面はごくわずかで、七ページしかありません。これは残念。加えて、英国での状況はほとんど描かれず、むしろ伊藤俊輔が一冊の本に出会う場面が描かれます。それは、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』で、struggle for existence つまり生存闘争という概念を前にして、英国の本質を

1600年代いらい、イギリスという最強国がインドを支配し、清国を蹂躙し、いままた日本へと手を伸ばしているのは、------そのためには日本人がどんなに辛苦をなめようとも------罪悪でもなく、不道徳でもなく、ただただ自然の法則なのだった。彼らには、うしろめたさはまったくない。死にたくなければ勝つしかない。
「文明というのは、無慈悲なもんじゃ」
俊輔はテーブルの上に両腕を伸ばし、あらためて戦慄した。イギリスでしか生まれ得ない、強者の論理としか言いようがなかった。こういう連中をもしも正面から相手にしたら、
(平然とふみつぶされるわい。紳士の靴が蟻をふみつぶすように)

ととらえます。ふ-む、著者は幕末の若者の西欧文明との出会いと体験にはあまり興味がなく、「生存闘争」という概念に帝国主義の本質を見ているようです。

弱肉強食の強者の論理というのは、下克上の戦国時代には普通であったわけで、当時としても武士の常識の中にあったのではないかと思います。その意味では、何を今さらという感もないではありませんが、どちらかといえば青少年向けと思われる本書には、インパクトのある設定なのかもしれません。



長州ファイブが、海軍を目的に英国に密航留学し、開国の必要性を痛感するようになる状況をもう少しくわしく知りたい(*)と思いますが、資料は今も別途探索中です。ノンフィクションのジャンルで、いくつか成果もありました(^o^)/

(*):幕末の長州五人組は英国で何を学ぼうとしていたか~「電網郊外散歩道」2012年3月

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