電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

モンゴメリ『赤毛のアン』を読む(4)

2009年06月26日 05時31分08秒 | -外国文学
モンゴメリ作『赤毛のアン』(松本侑子訳、集英社文庫)の続きです。ギルバートと共にクィーン学院に進学したアンのその後は・・・。

第35章「クィーン学院の冬」第36章「栄光と夢」。クィーン学院で勉学に励むアンは、ギルバートを意識することはあっても、浮ついた気持ちはありません。全試験が終わり、結果はギルバートが金メダルを、アンがエイヴリー奨学金を獲得します。レドモンド大学への進学を希望するアン、ギルバートは学費を稼ごうと教職への道を選びます。アヴォンリーに帰ってみると、若者たちが自分の将来に夢中で努力している間に、マシューとマリラがずいぶん老いて弱っていることに気づきます。そして、全財産を預けている銀行が危ないという情報も伝わっています。
第37章「死という命の刈り取り」第38章「道の曲がり角」。生の終わりは唐突に来るものなのでしょう。マシューが突然倒れ、そのまま亡くなります。マリラの悲しみは深く、アンが心からの話し相手となります。マリラの青春時代、そこにはギルバートの父との愛と別れがあったのでした。銀行の破産のため、グリーン・ゲイブルズを売却する決心をしたマリラに、アンは自分が学校で教師になって働くと言います。それが、若い教師アンの誕生でした。

運命は、しばしば人の進む道を変えてしまいます。もし、あのとき○○だったら、と考えるときには切ない思いがつのりますが、しかし人生万事塞翁が馬です。今になってみると、実際にその時そうなるのが本当に良かったかどうかわかりません。私の大学時代の恩師は、どうしても決断に迷うときは、周囲の人が喜び、幸せに思う方を選ぶのが良い、と言ってくれたものでした。たしかに、むしろ方向転換後の歩みの確かさのほうが、より説得力があるように思います。アン・シャーリー、16歳の勇気ある決断です。

いや、面白かった。この本は、少女のための児童文学ではありませんでした。大人の目で見ても、十分に魅力的な世界です。若い人ならば、主人公アンのひたむきな努力や、数々の失敗にもめげない天真爛漫な性格の魅力、好青年ギルバートとのぎくしゃくなどに夢中になるのでしょうが、中年おじんにとっては、むしろマシューとマリラの人間的な深まりや、レイチェル、バリー家の人々、アラン牧師夫妻やステイシー先生など、周囲の多彩な人間観察を面白く感じます。主人公の魅力だけでは名作にはなれない、脇役や舞台となる土地や生活などの描き方によって、名作となるのでしょう。その意味でも、中学生向けの本と誤解して読まないですませてしまうのはもったいない、実に魅力的な名作です。

訳文は読みやすく、豊富な脚注に、引用の出典探しの面白さが加わります。原作を読むまでは、グリーン・ゲイブルズはローカルな地名だと思っていました。実際は、"Green Gables" は「緑の切妻屋根」という意味で、家の名前だったのですね。

【追記】
全4回の記事のリンクを追加しました。
(1), (2), (3)
コメント (4)