電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ジュード・デヴロー『時のかなたの恋人』を読む

2008年05月05日 05時53分45秒 | -外国文学
タイムスリップするお話は、だいたいが実に都合良くできている、という共通点があります。酒場で喧嘩をして殴られたら中世のアーサー王の時代に飛んでいた(マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のヤンキー』)とか、恋人に置き去りにされた悲しみに泣いていたら16世紀の貴族が鎧を着てやってきた(本書)とか、訓練中の自衛隊が時震に遭遇して戦国時代に飛ばされた(半村良『戦国自衛隊』)とか、そもそも想定からして作者の御都合主義(^o^)/

ただし、異なる時代で何をするかはだいぶ違いがあります。マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のヤンキー』のほうは、中世の教会権力に対抗して革命戦争をおこしますし、『戦国自衛隊』は歴史に不足する駒として働いてしまいます。では、今はすでに絶版になっているという、つい最近古書店で見つけた本書、新潮文庫のジュード・デヴロー著『時のかなたの恋人』は?

こちらは、なんと四百年を隔ててテレパシーが伝わってしまう相手を救おうとする話です。その意味では、マーク・トウェインのような過激さもありませんし、半村良のような時代劇としての異色さもありません。むしろ、近過去を対象に、両親のロマンスを成功させようとする映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に近いかもしれません。

前半は、現代が舞台です。なんともお人好しのアメリカ女性ダグレス・モンゴメリーが主人公。英国旅行中に恋人に置き去りにされ、泣き悲しんでいたら、上半身に鎧を着た16世紀の貴族ニコラス・スタフォードが登場しますが、彼は無実の反乱罪で告発され、エリザベス女王に死刑宣告を受けて、処刑の三日前、母親への手紙を書いている途中で急死したことになっているのです。このニコラス卿、実に現代社会への適応が早い。早過ぎでしょう、と思わずつっこみたくなりますが、まあそこはもともとが御都合主義のタイムスリップ・ロマンスですので、目をつぶりましょう。結局、ニコラスを陥れた真犯人がわかるのですが、二人が愛し合ったらニコラスは16世紀へ戻って行ってしまうのです。なんとまあ(^o^)/

そして後半は、愛するニコラスを助けようと、ダグレスが16世紀のイギリスへピューン。女性が中世社会で生きていくことの難しさを描いているところは、本書の独自性でしょう。いろいろ苦労しますが、ついに歴史を変えて愛するニコラスを救い、二人が愛し合ったら、また彼女だけ現代へピューン(^o^)/

最後に、アメリカへ帰る飛行機の中で、ニコラスの子孫と恋をする予感が描かれて、一応のハッピーエンドを迎えます。思わずどきりの大人向けお色気場面サービス描写もあり、この現代的な物語を楽しみましたが、マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のヤンキー』を超える作品を構想するのは難しいのだなぁと、正直言って痛感させられた次第です。まあ、でも、けっこう面白かった(^o^)/

写真は、タイワントキソウのクローズアップ。
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