電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

デュマ『モンテクリスト伯』を読む(14)~ダングラールの場合と復讐者の幸福

2007年01月12日 21時11分38秒 | -外国文学
エドモン・ダンテスを14年間土牢に閉じ込めた四人のうち、カドルッスは刺されて死に、フェルナンはピストル自殺、ヴィルフォールは発狂しますが、残る一人、ダングラールはどうなったのか。もとはといえばこの男の恨みと嫉妬心がすべての発端です。しかし、ヴィルフォールの妻と子も毒死した凄惨な様子を見て、自分の復讐が一線を越えたのではないかと疑うにいたったモンテ・クリスト伯は、ダングラールをどうしようというのか。それは、吝嗇な守銭奴から命を奪うのではなく、命より大切な金を奪う、というやり方でした。

破産して逃亡したダングラールが、ローマのトムスン・アンド・フレンチ商会に現れたのを知り、モンテ・クリスト伯に忠誠を誓う山賊の首領ルイジ・ヴァンパは、ダングラールを捕えます。が、何も要求せず、何の強要もしない。地下墓室にとらえたままただ放置するだけでした。
空腹に耐え切れなくなったダングラールは食事を要求します。その値段は、メニューにかかわらず1食十万フラン。はじめに505万フランを持っていたダングラールも、財産がどんどん減っていくのを見て、戦慄します。金の亡者らしく、財産を守ろうと絶食しますが、生死の境でダンテスの父が餓死する様子を思い出し、額を壁に打ち付けておののきます。モンテ・クリスト伯は、少なくともダングラールが死ぬほど苦しんだことを知り、最後の一人は命を助けます。

だが、復讐したはずのモンテ・クリスト伯自身もまた、苦しんでいたのでした。自分の復讐を実現するために、多くの人を不幸にする罪をおかし、自分自身が人間らしさを失ってしまったのではないか。モンテ・クリスト島の洞窟に招待されたマクシミリヤン・モレルが、死んだはずのヴァランティーヌに再会する幸福に酔っていたとき、モンテ・クリスト伯の罪の意識も少しやわらぎます。ひたむきに愛情を寄せる若く美しいエデと、失った人生をもう一度やり直すことができるのではないか?
遠ざかる船から、モンテ・クリスト伯がマクシミリヤンとヴァランティーヌに対して贈る最後の言葉は、「待て、そして希望を持て!」(松下和則・彩子訳)でした。



かたや40歳くらいのモンテ・クリスト伯と、まだ20代前半と思われるエデと、倍も年の離れた二人が本当に幸福になれるものなのか、大きな疑問も残りますが、長い長い物語も、ようやく終結。当ブログ記事も、連載の回数は全14回でした。楽しかった!この作品を、充分に満喫しました。やっぱり名作といわれるだけのことはあります。何度読み返してもあきない面白さです。毎回ちがう発見があります。たぶん、数年たつとまた読みたくなるのでしょうが、そこは再生機器を必要としない本のよさです。私の目が小さなポイントの文字を追うことができる限りは、たぶん同じように楽しむことができることでしょう(^o^)/

【追記】
全14回の記事にリンクを追加しました。
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