とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

『鹿の王』上・下:上橋菜穂子/著

2015-06-18 07:17:30 | 読書
鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
クリエーター情報なし
KADOKAWA/角川書店


鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐
クリエーター情報なし
KADOKAWA/角川書店


上巻内容(「BOOK」データベースより)
強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、絶望的な戦いを繰り広げた戦士団“独角”。その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。ある夜、一群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。その隙に逃げ出したヴァンは幼子を拾い、ユナと名付け、育てるが―!?厳しい世界の中で未曾有の危機に立ち向かう、父と子の物語が、いまはじまる―。

下巻内容(「BOOK」データベースより)
不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。何者かに攫われたユナを追うヴァンは、謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。ヴァンとホッサル。ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、この地に生きる人々を救うために選んだ道は―!?

2015年の本屋大賞受賞作品である。今週図書館の予約が届き、二日ほどで上下巻とも読み終えた。上下巻で1100ページにも渡る長編作品だ。内容的には、弓矢と剣の時代における架空の世界のファンタジーである。こういったファンタジー物は、最初にその世界を綿密に構築しておかなければならない。いろんな国や民族、言葉、文化、歴史などあらゆる分野でつじつまが合うようにしなければ、物語の構成に齟齬がでてくるからだ。この作品でも、いろんな国の名前や歴史、文化などの話が出てくる。国の名前や人の名前等、難しい漢字だったりカタカナだったりと、良くも考えたなあと思う事ばかりだ。ファンタジー物を考える作家の想像力には、まったく凄いものだと感心する。また、登場人物が多いので、登場人物の紹介欄があったのは良かったが、この世界の地図がなかったのは残念だ。

さて、どんなお話かというと、謎の伝染病から生き残った父子と、その伝染病の治療法を懸命に探す医術師の物語だ。出だしは、戦士団<独角>の頭であったヴァンが、奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていたシーンから始まる。そこへ、凶暴な犬が侵入し、噛まれた人間がことごとく死んでしまう。生き残ったのはヴァンと幼い少女ユナだけだった。出だしから、どんな展開になるか気になり次へ次へと読み進んでしまった。

岩塩鉱で死んでしまった人々は、犬が感染していた病原菌によるもので、犬を操っていた人間の深慮遠謀によるものだった。物語は、強国とそれに翻弄される小国の人々の歴史が深く入り込んでいる。そして、そのカギを握るのが人々を恐怖に陥れる謎の病原菌だ。途中から、病原菌に関する専門的な解説が多くなり、ファンタジーというより医療サスペンスという雰囲気にもなってしまう。剣と弓矢の時代でありながら、高度な医療技術があるというのは、ちょっと違和感があったが、医療関係者の監修を受けているだけあって詳しく書かれている。ただ、物語的には医療の事をこと細かく書く必要はないと思った。

主人公は、<独角>の頭ヴァンと医術師ホッサルの二人だといえるが、少女ユナやヴァンの追手であるサエやホッサルの助手であるミラルも魅力的なキャラクターだ。医療的な内容よりも、ユナがどんな少女に成長していくのとか、ヴァンとサエの関係等もっと掘り下げた描写がもっとあると良かった。また、登場する動物も飛鹿、鹿、トナカイ、犬、狼、黒狼等、どこがどう違うのか今一つピンと来なかった。壮大なテーマでありすぎて、内容が広がりすぎて個々が薄くなってしまった感がある。上下巻1100ページでは納まりきれない。個人的には、上中下3巻くらいあっても良かったのではと思う。そして、最後の結末は、あまりにもあっさりしすぎて物足らなかった。タイトルの『鹿の王』の意味が、あまり伝わってこなかったかもしれない。

本屋大賞受賞作という事で期待していたが、結末が物足らなかったので今一つという読後感だ。それでも、上橋菜穂子という作家の作品を初めて読み、その他の作品も読んでみたいという気にはなった。