とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

グラスホッパー&マリアビートル/伊坂幸太郎(著)

2015-06-03 23:55:51 | 読書
グラスホッパー 角川文庫
クリエーター情報なし
KADOKAWA / 角川書店


マリアビートル (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店


《グラスホッパー:内容(「BOOK」データベースより)》
「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに―「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説。
《マリアビートル:内容(「BOOK」データベースより)》
元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」。ツキのない殺し屋「七尾」。彼らもそれぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込み―物騒な奴らが再びやって来た。『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。3年ぶりの書き下ろし長編。

このところ、伊坂幸太郎の作品を読み漁っている。今まで読んだ作品にも共通することだが、この作家は、他の作家とは一味も二味も違う作風である。まず、取り上げる題材が何とも風変わりなものが多いような気がする。この2作品は、登場人物がすべて殺し屋であり、善人と呼べるような人物は、全く登場しない。みんな冷徹な殺人者ばかりで、作品中何人も殺されてしまう。結構残虐なシーンがあるのだが、何故か怖さを感じさせないのが、不思議だ。ハードボイルドでサスペンス的な流れなのに、コメディ的な描写が入り、いつの間にか人が死んでしまっている。ストーリー的に、特別感動したという事もないが、詰まらなかったという訳でもない。何だかわからないけど、続けて読み進んでしまったという作品だった。

グラスホッパーは、内容にも書いてある通り、サスペンス、コメディ、オフビートなど分類不能の要素があり、読み始めた当初は、どんな結末に落ち着くのか想像もつかなかった。主な登場人物は、鈴木・鯨・蝉の3人が代わる代わる語り手になっていく。最初は、バラバラなストーリーと思っていたのが、次第に3人が重なり合って、複雑な流れになっていくのが面白いといえば面白い。その他の登場人物も、殺し屋という業界に属する人物ばかりである。なかでも、鯨とか蝉なんて名前は、あだ名みたいなもので本当の名前すらわからない。殺し屋といっても、それぞれ得意な手口があり、鯨は、自殺専門の殺し屋で、彼と対面した人間はなぜか死にたくなるという。直接手を下さなくても、相手が自殺したくなってしまうという能力があるらしいのだ。蝉は、ナイフを巧みに扱う殺し屋で、痩身で猫のように機敏な茶髪の青年。口が悪く蝉のように喧しい。鈴木だけは、妻を轢き逃げした男に復讐するために、男の父親が経営する裏社会の会社に入り、妻の恨みを晴らそうとしている。

3人は、結局は「押し屋」と呼ばれる殺し屋にたどり着いていくのだが、この「押し屋」と呼ばれる槿という人物も正体がわからない人物だ。道路や駅のホームで、ちょっと背中を押すだけで一仕事してしまうという恐るべき技を持つ。また、スズメバチという毒針を使う男女の殺し屋も登場する。なかでも、一番の悪党は寺原という闇社会のボスだが、その息子と共に、殺し屋の手にかかってあっけなく死んでしまう。

各登場人物とも、好感が持てるという人物は誰もいないが、一癖も二癖もある人物像に興味が惹かれる。鯨の愛読書がドストエフスキーの『罪と罰』で、それ以外は読んだことがないとか、蝉は、ガブリエル・カッソの「抑圧」という映画の主人公に自らを重ね、苦悩するなんていうキャラクターが、作者の遊び心を感じさせてくれる。槿には、幸せそうな家族がいて普通の生活を送っているように見えたが、実は“劇団”による一芝居だったとは、してやられたと思った。タイトルのグラスホッパーとは、バッタとかイナゴのような昆虫の事なのだが、何を意図するものなのだろうか?

マリアビートルは、グラスホッパーの続編であり、続けて読むと前作の登場人物である鈴木、槿、スズメバチが出てくるのが、何故かうれしい。これらの人物は、前作で生き残っていたという訳だ。内容は、東京発盛岡行きの東北新幹線 <はやて> 内で繰り広げられる殺し合いだ。しかも、高速で走る新幹線内で立て続けに起きるスピーディな展開に目が離せない。前作以上の最恐の殺し屋「蜜柑」&「檸檬」、ツキのない殺し屋「七尾」、狡猾な中学生「王子」と、恐るべき個性的なキャラクターが勢ぞろいだ。

どんなキャラクターかというと、最恐の殺し屋コンビの蜜柑は、A型で文学好きである。もう一人の檸檬はB型で、機関車トーマスを愛し、キャラクターの描かれたカード、シールを携帯しているという。また、王子という中学生は、子供ながらもっとも憎むべきキャラクターだ。まったくこんな中学生には絶対出会いたくない。そして、ツキのない殺し屋七尾。何をやっても、うまくいかず、悪いほう、悪いほうへ物事が進んでしまうという。

これらの殺し屋たちに絡んでいくのが、木村という元殺し屋だ。息子である渉に重傷を負わせた王子に復讐するため、新幹線に乗り込むのだが、あっけなく王子に手玉に取られてしまう。しかし、新幹線に乗り合わせた「蜜柑」&「檸檬」、「七尾」等が絡んで、思いもよらぬ展開になっていく。そして、あろうことか木村の両親までが新幹線に乗り込んできて、事態が急展開する。

新幹線内で次々と登場人物が殺され、いったいどうなるんだろうかとハラハラしながら読み進んでいった。殺されたのは、いったい何人いただろうか。実際に新幹線でこんなことが出来るなんて思いもよらないが、新幹線の構造を相当調べたうえで、ストーリーの幅を持たせたのが面白い。最終的には、納得できる終わり方となり、何となくスッキリはした。読んで感動したとか、泣けたとか、というレベルの作品では全くないが、まさに伊坂幸太郎だから書けたというべき作品ではあった。

グラスホッパーは、年末に映画が公開されるようだ。映像化されると、どんな風に描かれるのかと思うと楽しみでもある。ただ、映画化するなら、マリアビートルのほうが面白いと思う。