とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

池井戸潤『ルーズヴェルト・ゲーム』

2013-02-14 22:08:08 | 読書
ルーズヴェルト・ゲーム
池井戸 潤
講談社


実在の会社のある事件を題材にした代表作『空飛ぶタイヤ』は直木賞候補となり、日本の下町工場の技術や職人魂を描いた『下町ロケット』では直木賞を受賞し注目の作家である池井戸潤の『ルーズヴェルト・ゲーム』 を読んだ。これも、図書館で予約後、借りられたのは3ヶ月後だった。

内容は、業績不振にあえぐ中堅電子部品メーカーと同メーカーの野球部の物語だ。創業者の肝いりで創部された野球部は、成績もよく東京都内では有数の名門野球部だったが、バブル崩壊後、会社の業績不振と相まって成績も芳しくなく、監督と有力選手がライバル企業に引き抜かれ、廃部寸前の状況に追い込まれていく。

野球部の動向は、会社の経営状況にもリンクしていく。業績が上がらなければ、年間何億もの経費が掛かる野球部の存続は難しい。銀行からの融資も野球部廃止は、絶対条件だ。そんな中、ライバル会社から合併の話が持ち込まれる。対等合併どころか足元を見られた吸収合併の条件であり、社長は合併の話を蹴る。しかし、ライバル会社は、策を弄しこの会社の株主を焚き付け、臨時株主総会を開催させる。合併を断った社長を株主総会で止めさせようという魂胆であった。

野球部も、ライバル会社の野球部監督が、以前の監督だったことで俄然として対抗心を燃やしていく。野球部の成績と会社経営が並行して描かれ、それぞれの危機を乗り越えていく様は軽快である。『空飛ぶタイヤ』や『下町ロケット』もそうであったが、大会社でなくても、高い技術力を持っていることや社員が一つになって困難を乗り越えていくというストーリーは痛快である。正しいことをしている人、努力してきた人、あきらめない人は必ず報われるというのが、この作家の小説のスタイルである。いろんな危機が訪れるが、それをどうやって乗り越えていくのかが気になって読みだしたら止められなくなる。読みながら目頭が熱くなるシーンがいくつも出てきて、読み終えた後の爽快感は格別だ。

このタイトルの謂れは、アメリカのルーズヴェルト大統領が、最も面白い野球のスコアは「8対7だ!」と言ったことに由来しているそうだ。まさにその通りで、野球部の試合結果も会社の業績も、そんなスコアで逆転勝利を迎えるストーリーなのである。池井戸潤の小説は、ほぼ結末が予想できるが、そこに至るまでの経緯が飽きることがない。勧善懲悪といったら語弊があるかもしれないが、とにかく読後感がすっきりするエンターテイメント小説である。