駒子の備忘録

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ジェイン・ロジャーズ『世界を変える日に』(ハヤカワ文庫SF)

2016年10月06日 | 乱読記/書名さ行
 バイオテロのため、子供が生まれなくなる疫病に世界中が感染してしまった。このままではいずれ人類は絶滅する。科学の横暴を訴えて暴動に走る者、宗教にすがる者…十六歳のジェシーは慣れ親しんだ世界の崩壊を目撃する。彼女の父親ら研究者は治療薬開発に取り組むが、かろうじて見出されたワクチンには大きな問題があった。それを知った彼女が下した決断とは…アーサー・C・クラーク賞受賞作。

 すごくタイムリーなネタだなと思いましたし、クラーク賞受賞作ということで期待して読んだのですが、肩すかしだったかな…先日感想を書いた『AWAY』に印象が近いかもしれません。今日的すぎる問題を描ききれていない感じがする点とか、ティーンエイジャーのヒロインが好感度高く描けていない点とか。
 全人類が奇病に罹患し、けれど妊婦だけが発病し、致死率100パーセントになる。だから全世界で女性は妊娠しようとしなくなり、子供はあっという間に生まれなくなり、社会に閉塞感が漂う。病気の原因はなんなのか、治療薬はあるのか、いろいろと議論されたり研究が進められたりする一方で、ウーマンリブだのエコ活動だのテロだのが横行するようになる…そのとき、少女は何をどう選択するのか? それは正しいのか? それをどう描くのか?
 すごくおもしろい題材だと思ったのですが、中途半端で放り出したようにしか終わっていないと思いました。残念です。
 ただ、実際にこんなような事態になったとして、今の地球文明社会がどんなことになるかなと思うと、なかなかに怖ろしいです。私は思春期に50年代アメリカ黄金期SFをたくさん読んでSF者になったようなところがあるので、人類なんていずれ滅びる、というか滅びなかった社会も文明も種族も未だかつてない、すべてのものがいずれ滅びる、爛熟し退廃し進化の行き着く先までいったらあとは停滞し後退し落ちるだけなのはあたりまえ、たとえそうでなかったとしてもいずれは太陽が膨張して地球も飲み込んで恒星としての死を迎えるのだから…というビジョンというか死生観?が自分の中に根づいてしまっているので、そりゃ抵抗することとか努力することとかも大事だけれど、無駄なことするよりは残りの日々を大事に暮らして静かに滅んでいった方がいいと思うよ、と言いたい、というところがあるのでした。
 だから、そうでないというのならどんなドラマがあり展望がありオチがありどんな物語になるのか…それを、読ませてもらいたかったんだけれど、なあ…残念。



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