駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『CIPHER』を読んで

2020年06月12日 | 乱読記/書名さ行
 マンガParkで全話無料配信していたので読んでみました。
 私は成田美奈子は『みき&ユーティ』『エイリアン通り』の世代の人間で、だいぶ以前に手放してしまいましたが一時期はコミックスも愛蔵していました。出会ったときはその絵柄やネームのお洒落さ、目新しさに驚愕したなあ! 陸奥田渕太刀掛のおとめチック「りぼん」(もちろん一条も)に飽き足らなくなっていた私は、それで毎月買う雑誌を「LaLa」に替え、ひとつオトナへの階段を昇った気になったものでした。それまで「りぼん」を買ってなかよしコミックスをよく買っていた私が、「LaLa」を買って別冊少女コミック(現「ベツコミ」)のコミックスを買う(渡辺多恵子『ファミリー!』とか吉田秋生『河よりも長くゆるやかに』のあたりです)になった…というのが、私の少女漫画遍歴黎明期最初の変化です。今の連載も「メロディ」でちょいちょい読んでいます。
 購読誌はその後「ウイングス」とかに移っていって、「LaLa」からはいつしか離れてしまいました。清水玲子のコミックスとかは買い続けていったんですけれどね。なので『CIPHER』は読んだことがなかったか、かつてサワリだけ読んだか、だと思います。サイファとシヴァという双子の話、というのと、ボーイッシュ・タイプのヒロイン、というのは記憶というか把握していました。
 以下、まったく褒めていませんので、この作品が心のバイブル、というような方はここでUターンしていただければと思います。申し訳ございません。

 『エイリアン通り』も近年全然読み返せていないので、今読んだらまた印象が違うのかもしれませんが、あの作品のヒロインもボーイッシュなタイプのキャラクターでしたよね。ボーイッシュ、というより女の子っぽくない、という方が近いかな。第二次性徴発現前みたいな、性別未分化みたいな。それにヒロイン、とも言いがたかったかな? 正確には主人公(なのか? つまりシャールのことですが)とはきちんとした恋愛関係にはならなかったんじゃなかったっけ…? 好きだったと言うわりには記憶があいまいですみません。多国籍なキャラクターたちとの共同生活、みたいなのがキモの作品でしたよね。
 で、そのときも思ったし、今回のアニスに対しても思いましたが、このテのキャラってぶっちゃけ全然リアリティがないと思うんですよ…!
 自分の女性性が上手く受け入れられないままに少女漫画家になり、ヒロインが学校の先輩やクラスメイトや近所の幼なじみとキャッ!ドキッ!ウフフ!みたいな典型的な異性愛ドリームを上手く描けない少女漫画家、って実はけっこういると私は思っているのですが、別に恋愛でなくても少女漫画の幅ってこれまたけっこう広いのだし、違ったテーマや世界観の作品が描ければいいんだけれどそうもいかなかったり編集部から要請されてむりやり女子キャラクターや恋愛を描こうとしたときに、こういう穴に陥りがちなのではないかと思うのです。女の子っぽくない、あるいは女であることを忌避した、あるいは性別未分化みたいな天真爛漫系の、ぶっちゃけ現実に絶対に存在しないヒロインを作っちゃう穴、です。
 私は、今の世の中で、少なくとも日本で、そりゃ私が育った五十年近く前と本当の今現在とでは多少は違うかもしれませんがそれでも、子供が自分の性別に無自覚に育つことなんてありえないと思います。男の子でも女の子でも、「男なんだから」「男なのに」「女なんだから」「女なのに」と言われ続けて成長せざるをえない、のが事実だと思う。その受け取り方は男の子と女の子ではまた違うでしょう。もちろん個々でも違うでしょうから、私は女の子のことしか、というよりは自分のことしかわかりませんし語れませんが、少なくとも私はそうでした。私は、「女の子なのにしっかりしているわね」とか「女の子なんだからお行儀良くしなさい、おてんばねえ」とか「女の子なのに勉強ができるんですってね、すごしわね」とか言われるタイプの子供でした。そして「まあ可愛い」とか「美人になるわよ」とかの、容姿を褒める言葉をかけられるような女の子ではありませんでした。そこに私のアイデンティティは立脚されました。そう言われるのなら、私はそういう人間なのだろうし、そういう人間として生きよう、と子供ながらに思ったのだと思います。そんなふうにきちんと覚えているわけではありませんが。
 遊ぶ相手の性別を問わない、という子供はいると思う。たとえば私がそうでした。ホントにおてんばだったし隣の三兄弟とうちの弟と五人で遊ぶのがデフォルトだったし小学校時代はホントお山のガキ大将でした。その意味では男女はなかった。でもそんな私だろうと翼だろうとアニスだろうと、どんなにおてんばで男勝りでも、自分が女子であることに無自覚、無頓着ということはないと思う。たとえばブラジャーをつけたがらない、という心理は、いろいろな理由がありえるしわからなくもないと思うけれど、自分を男子と同じと思っているとかはあるはずないし、アニスのケースもありえないと思う。しかも子供の頃に男の子と間違われて、髪を長くするってエピソードがありましたよね? だったらなおさらアニスのこの在り方はありえないと私は思う。
 私はこれは、作者が自身の女性性を上手く受け入れられなくて、だから自分を上手く仮託できるような女性キャラクターが作れなくて、けれど男性主人公と恋愛するキャラクターが物語として必要で、こねくり回したあげくに結果的にひねり出されてしまった、リアリティーのないヒロインだと思うのです。この作品はヒロインが主人公ではなく、主人公は男性キャラクターですが、当然読者の多くは女性でしょうし、ヒロイン視点で主人公に恋をして物語を楽しむ構造になっています。でもそのヒロインがあまりに嘘くさくて共感も感情移入もしづらくなっている、と私は思う。読者の中には同じように自身の女性性が上手く受け入れられていない女性ってけっこういるとは思うのだけれど、アニスのようにはいられていないと思うので、かえってなおさらシンパシーを感じにくいのではないかと思うのです。なのでこの作品は、導入というか、構造としてハナから失敗していると思うのです。
 また、双子を扱うからには、しかもひとり二役なんかしているキャラクターを扱うからには、双子でいろいろそっくりだけどもちろん差異もある、というアイデンティティの在り方、みたいなものを描くのかな、と思うじゃないですか。少なくとも私は思った。常に私の話ですみません。でも双子はサイファとシヴァのふたりなんですよ。なんでサイファだけタイトルロールなの? しかもそれは本名ですらない。
 もちろん、双子を同等に描くとか、双子の「関係性」に焦点があるのではなく、あくまでサイファ個人を主人公とした物語を描きたかったのだ、という考え方はあるでしょう。でもじゃあなんで『ロイ』ってタイトルじゃないんだろう? 何故あだなというか愛称?の方なんだろう? シヴァというのはふたりがひとり二役でやっていた俳優の芸名でもありますが、それに対しての本名、本当の自分、みたいな意味なのか? でもシヴァの名前でやっている仕事の描写は、実はほとんどないんですよね。人気があるのか、実力があるのか、その仕事のどこをどうおもしろいと思ってどう情熱をかけてやりたいと思っているのか、全然描かれない。ほとんど設定だけの、単なるイメージに見える。あと、ジェイクの立場は?
 ちなみに序盤、アニスがふたりを見分けて、というかサイファを見極められるようになりシヴァはサイファじゃない方として同定していたのだと思いますが、とにかくサイファの方が喜怒哀楽があるとして惹かれていくので、私は「じゃあジェイはもらうね」と思ったものでした。漫画の、というか物語のキャラクターに対して、私はたいていこういう好きになり方をします。三角関係でヒロインとくっつかないもうひとりの男子、とかが好き。メインの方はたいていヒロインとくっつくんだから、余ったもうひとりの方はもらえるよね、みたいな。ヒロインとは戦えませんからね。そもそもそれがおかしいやろ、とかのつっこみは聞き入れません。
 で、ジェイはもらうからロイとアニスの話を進めればいいじゃん、と思うんだけど、なんかジェイターンも始まるじゃないですか。しかもなんか新女性キャラクターとか出てきちゃうじゃないですか。でもすごくご都合主義に死んじゃうじゃないですか。双子の関係をこじらせさせるためだけの展開ですよね、これって。全然愛がないんだよなー。私はジェイが幸せならいいのよ、とかちょっとは思ったのに(ちょっとなんかい)、なんかあまりにイージーで嫌になりました。このくだりでも彼らにとっての仕事の大切さが上手く描けていないから、余計にあの経緯に納得がいきませんでしたしね。
 で、さらに謎のロスターン…さらに謎に出てくる新キャラクターのレヴィ(と呼ぶのが正しいのかどうかすら不明…)…これも次に読んでもいいかなとか以前はちらりと思っていましたが、これではとてもとても…
 というか、男女も美醜も年齢も描き分けられていないようなこの絵柄で、このキャラクターを描こうとするのは無謀すぎる…そもそもサイファたちだって、冒頭で東洋系でエキゾチックとかなんとか台詞があるんだけどどこが?って感じだし、このキャラクターもどうやら女顔であることにコンプレックスを感じているという設定のようなんだけど、それがこの絵じゃ全然わからないわけですよ。画力がないわけではないんだけれど、そういう絵柄じゃないから。なのにどんどんポジション締めてっちゃって、もうついていけませんでした…
 それでも最後まで読んで、えっでも結局なんの話だったの?これでオチ??ってのが私の感想だったのでした。そういえばおでこのアレが特徴的だったけれど、これで回収できてるわけでもないと思うし…
 いったいこの作品の何にどう感動すればよかったのでしょう…? 連載長かったし、今も人気ある作品という印象はあるのですが…ううーむむむ。
 そうそう中盤以降、絵が変化しちゃって、キャラの顔の顎が長くなって正面にフラットになって目に輝きがなくなって、絵として可愛げがなくなっちゃったのもつらかったです。まあこれはよくある現象なんですけれどね…
 というわけで私は終始ノレないままに読み終えたのでした。ワガママな読者ですみません…雰囲気がお洒落、というのは大事なことで、この作品の長所かな、とは思ったのですが…うーむむむ…おしまい。



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