駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『愛するには短すぎる/ジュエル・ド・パリ!!』

2023年09月08日 | 観劇記/タイトルあ行
 梅田芸術劇場メインホール、2023年8月27日16時半。
 神奈川県民ホール、9月2日15時半。

 鉄鋼会社を経営する資産家ウォーバック家の養子であるフレッド(彩風咲奈)は、養父ジェラルド(凛城きら)のあとを継ぐべく、留学先からニューヨークへ戻る船に乗っていた。航海初日、デッキに出たフレッドは、船のバンドのショーチーム・メンバーであるバーバラ・オブライエン(夢白あや)という女性に出会う。バーバラは、フレッドが新聞に婚約の記事が載っていた有名な財閥の御曹司だと気づき、彼の素晴らしい未来を祝福する。けれどフレッドは将来へのとまどいをバーバラに打ち明け、初めて会った彼女に正直な思いを話したことに自分で驚く。ふたりはウェルカム・パーティーでの再会を約束してその場は別れるが…
 原案/小林公平、脚本・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、玉麻尚一、太田健、青木朝子。2006年に湖月わたるの退団公演として上演されたミュージカルの再々々演。

 初演は観ていなくて、星中日版はこちら、月全ツ版はこちら。
 私はこの話が嫌いではないのですが、なんというかかえって、脳内で勝手に「俺が観たい最強の『愛短』」を構築してしまっているのか、どうも実際の観劇ではなんか感心したことが全然ないように思います…というかそもそもこれがワタルの退団公演で当て書きだったと、ちょっと信じられないくらいなのです。ニンじゃなくないですか? 世間的なイメージと私のそれが違うのかな…トウコのアンソニー(朝美絢)ってのはすごくわかるんだけど。それで言うと今回もあーさはとてもよかったし、夢白ちゃんの絶妙なドライさとウェットさの混ざり具合、重すぎないフランクな空気感も、ハリー芝居とバーバラというお役にちょうどよかったと思いました。
 ただ咲ちゃんが、なんかピンとこなかったんですよね…何度でも言いますが私は『はじ愛』の咲ちゃんが印象的で、『ロジェ』『マリポーサ』なんかで鳴らしたミズさんの直系子孫スターだとも思っているので、今回も絶対に似合うはずだと期待していたし、初日が開いて聞こえてくる上々の評判に期待は高まり、ウキウキと席についたのですが…
 つーかバーバラの台詞じゃないけど、咲ちゃんはこの役にはスタイルが良すぎ、脚が長くてカッコよすぎなんじゃなかろうか…「それって…カッコいいってこと?」「…そうは言ってない、けど…」というこれまた絶妙な会話がありましたが、要するにそういうことで、咲ちゃんって顔だけならおぼこくて垢抜けなくてぼーっとしてそうなところがお育ちが良さげでいい、みたいなところがあるじゃないですか(わかっていただきたいのですが、褒めてます)。でもそこにあのタッパ、あのスタイルがついてきちゃうとスマートすぎて、なんかフレッドには似合わない気がするんですよね。鉄鋼王の跡継ぎ、億万長者の御曹司…みたいなポジションに思いがけず据えられちゃって、でもちょっと居心地悪そうにしているのがフレッドという人なんじゃないか、と私は思っているので。でもワタルも咲ちゃんも、そういうポジションをスマートにこなしてしまいそうじゃないですか。そう見えちゃう、そういう意味で「見た目で損している」気がしたのでした。
 ハリー芝居が難しいことはわかりますが、これはもしかしたら若手バウ公演なんかでやる方がいい演目なのではないでしょうか。路線若手のフレッドに別格上級生スターがアンソニー、みたいな形の方がさまになりそうじゃないですか? トップスターって、フレッド役にはもうトウが立ちすぎている気が私はするのでした。
 それか…単に私が咲ちゃんを別に好きでも嫌いでもないから、なんとなくもの足りなく感じただけで、もっと好きで観るとハナからフレッドの境遇にもっと同情的に観られて、もっともっとキュンキュンし感動できていたのかもしれません。でもなんか、特に最初のデッキチェアで目覚めてアンソニーと会話するところの声音がなんかもう、違うなー、と感じたんですよね…つーかもっとフツーにしゃべればいいのに。もともとの声が高い男役さんって男性っぽい低い声を意識的に出そうとしすぎて、なんか喉の奥で籠もって唸るような発声になることがあると私は感じているんですけれど、今回の咲ちゃんの台詞声もそんな感じがして、ハリー芝居らしい自然さをあまり感じられなかったんですよね…
 ここまでうだうだ不満ばかりすみません。が、さらに続けます(^^;)。
 主役ふたりに、ちょっとわずらわしくも感じるふたつの名前があるのは、かつて結婚の約束をしたのはマイケル(絢斗しおん)とクラウディア(琴峰紗あら)でも、再会したのはフレッドとバーバラだったから、やっぱり別れて終わるしかなかったんだよ…というようなことを暗示しているのかな、とも思うのですが、でもそのバーバラは今、母の介護のためにその芸名を捨ててただのクラウディアに戻ろうとしているわけじゃないですか。それに対してフレッドは、そんな彼女と向き合うべく、そしてともに地獄まで堕ちるべく、何かを捨てて、あるいは何もかもを捨ててただのマイケルに戻ることを、一度でも、本当に、真剣に検討したことがあったのか…?と、私は疑問に感じてしまったのでした。これは演技の問題ではなく、脚本として、です。
 相手の気を悪くさせることを怖れて、フレッドはお金すら出していないのです。全然手を汚していない、汗をかいていない、自分では何もしていない。なのになんか女々しいことをバーバラに対してぐちゃぐちゃ言うんですよ。潔くないなー、と思ってしまった…
 義父に恩義を感じているとか、婚約者にも静かな愛情を持っているとか、敷かれたレールなのには忸怩たる思いはあるけれどそういう勉強もきちんと修めてきたんだし自分にはできる、向いている、いい経営者になり事業を発展させる自信がある、そして自分も周りも幸せになる…というビジョンがフレッドにある、のはわかる。だから当然そう簡単には捨てられない、船上の四日間だけでは決断できない、というのももちろんわかります。でも簡単なことなんて世の中にはないんだよ、全部うっちゃってバーバラと、というかバーバラという芸名を捨てたクラウディアと生きてく、っていう選択肢だってなかないんですよ、その気になれば。健康な成人男子なんだし、裸一貫、身ひとつで、何したって稼いで食べていけるんだし。裏切り者と後ろ指差され泣かれわめかれ叱られ罵詈雑言を浴びせられようと、それでもやってやれないことはないんです。その気なら。それでも彼女との人生を選ぶ気があるのなら。
「愛するには短すぎる」というタイトルではありますが、本当の意味は歌詞にあるとおり「決して言うまい、愛するには短すぎると」ということであり、つまり四日間という時間は愛するには短すぎるということはない、愛するには十分な時間である、という意味です。ならその時間の中でもっと真剣に検討したっていいんじゃないの? もしも本当に本気だというなら??
 あなたは優しい人だからそんなことはしない、したらあなたがあなたでなくなる、というようなことをバーバラは言いますが、でもそんな彼女の反応だってどうだっていいんですよ。まず自分がどうしたいか、でしょ? その意志が、フレッドには全然見えない。スノードン夫妻(真那春人、妃華ゆきの)とキャサリン(有栖妃華)とか、オコーナー(諏訪さき)とドリー(音彩唯)、デイブ(紀城ゆりや)とかの事件にフレッドが巻き込まれるのはいいんですよ。それは所詮他人事だし、人のいいボンボンの彼がうっかり巻き込まれて…という、ほのぼのしたユーモアやペーソスにつながる要素であり、物語の重要なパーツなので。でもバーバラとのことは違うでしょう。もっと、まずフレッド自身がどうしたいか、があるべきなんじゃないの? そのあとで、それだとバーバラがかえって負担に感じるだろう、と慮るとか、周りの人みんなに迷惑をかけてすべてを捨てるなんてやっぱり現実的じゃないな、とかで考え直す、ってのはあってもいいし、ありえるでしょう。でも今のフレッドはホント、何もしてないうち、何も考えないうち決めてもいないうちから「どうしよう、どうしよう?」って言ってただジタバタしているだけのようで、私はかなりイライラさせられました。何もできないしする気もないならすっこんでろ、と思った。たとえ人の金でも借金の肩代わりをしたアンソニーの方がよほど男気があると思いました。
 そう、結局これはフレッドのお金ということになるのだけれど(ところで彼自身はまだ学生で、帰国して結婚して親の会社に入社してやっと「自分の収入」が得られるのであれば、これは単なる親の財産にすぎないお金なのだけれど…イヤお小遣いの範疇で賄える程度の金額だった、ってことなんでしょうけど、あーヤダヤダ。要するにこの男はまだ何者でもないのですよ…そんな人間に人生の選択権なぞそもそもないのかもしれません)、フランク(華世京)の借金を肩代わりすること以外にも、お金に関してバーバラにできることがフレッドには他にももっといろいろあるはずなんですよ。でも多分彼は下船したら全部秒で忘れると思うんですよね。バーバラがミズーリの片田舎から細々と返済してきたとしても、そんなのは秘書かなんかに任せて忘れ去り、とっとと決められたレールの上の人生を歩み始めるんだと思うのです。また20年後に何かの拍子に思い出して、甘い感傷に浸ることがあるのかもしれませんが、ケッてなもんですよ。20年後にバーバラが無事に生きていられる保証なんてどこにもないのに。母ひとり子ひとりで看護して、介護して、見送って、どれだけお金がかかるかもわからないし、ソレーヌじゃなくても若い女ひとりで何ができるというの、ってなもんなんですよ。そういうことに対する想像力が全然ないんですよ、おそらくフレッドにも、ハリーにも、小林公平にも。男というもの全員がダメダメすぎるのです。これは公平氏の外遊時の実体験か何かがもとになったお話だそうですけど、男はそうやって青春の甘い1ページ、とか言っちゃうんでしょうが、その陰で件の女がどんなに悲惨に生き血を流して死んだかもしれないことに全然思い至れていないと私は思う。この脳天気な無責任さ、無神経さに、私はちょっと耐えがたかったのでした。
 きつい見方をしているという自覚はあります。でもこのあたりは、作劇上でもっと「でも仕方ないよ」と見えるよう、埋められたと思うのです。それがされていないから、怒っているのでした。フレッドとバーバラ、マイケルとクラウディア、あるいはアンソニーというキャラクターに関して愛着を感じるからこそ、ヒドいヤツとか考えなしとかしょーもない男とかに見えないよう、もうちょっと丁寧にフォローしてやってもいいんでないかい?と言いたい、ということです。何度も再演していて、しかも世相は毎度変わっているんだから、手を入れましょうよ、ブラッシュアツプしましょうよハリー…
 最後の夜は、壁のセットをむやみと移動させることで、ふたりはやることはやっているということを描写しているんだ、と私は思いました。でもそれもホントどうかと思うよ…思うにフレッドはバーバラの盗難疑惑が一応ケリがついた時点ですべて手を引き、以後まったく彼女に関わるべきではなかったと思うんですよね。こんな、お互い別離を承知している状態でやるセックスになんの意味があるんでしょう…イヤもちろん合意でしてるんだろうし、バーバラもしたかったのかもしれないし、女性だってそのときだけ好きな人とあとくされのないセックスをしたいときはあるのでいいんだけどでも、やっぱり男性作家の単なる感傷、という気がしたかなあ…(だって『双曲線~』じゃないけど、妊娠のリスクは女性側にだけあるんだよ? あれもモニカは承知の上での避妊なしのセックスだった、と信じたいけれど…)
 あと、これまた脚本への不満なんですけど、アンソニーってどういう友人なんでしょうね? フレッドのヒモ説はともかくとして、留学前からの友人なのか、留学先で友人になってたまたま一緒に帰国しているのか…というかアンソニーの階級はどのあたりなんでしょう、アメリカはヨーロッパほど厳密ではないんだとしても、実家の裕福さは子供の生き方に影響を与えるはずでさ…てか劇作家志望なら留学って必要ですかね? 最初の夜、なんでアンソニーはフレッドの部屋でわざわざ彼の帰りを待ってるの? さすがに同室ではないようだけど? そして翌日の昼食は何故一緒に取ることになっているの? 別に決まってなくない?
 それでいうとフレッドの執事のブランドン(凛城きら。しかしはばまいちゃんといい、こんなに特徴的なスターの二役は苦しいと思う…ウォーバスク氏もナンシーも誰か別の下級生を立てればよかっただけのことだと思うのですが…)はアメリカでの執事なの? 留学先だけの執事なの? 留学先では身分、階級が違うからフレッドと食事をともにするなんてことはなかったけれど船内ではアメリカ式だからランチは一緒だよ、そして正装だよ、ってことで驚いているようだけど、それは何故? というかこのくだり、要ります? 噛み芝居は天才的に上手かったけれども…
 とまあ、本筋に関係ないようなところがいちいち引っかかって、気持ちよくお話にノレなかった、というのはあるかもしれません。ホント小うるさくて申し訳ない…

 よかったなと思ったのはフランクとデイブ。下級生には難しいだろうに、そしてどちらもそうニンってわけではなかろうに、すごくキャラクターの感じが出ていたと思いました。でもはばまいちゃんはドリーには合わなかったなー、前回までもっとなんかデーハーな服装なんじゃなかったでしたっけこのキャラ? そういうトンチキさもなくなっちゃってて、なんかあまりおもしろくなかった気がしました。それでいうとすわっちもスマートなおじさますぎて、色ボケ親父感がなかった気がする…ソロは風情があって絶品でしたけどねー。
 あとはすわんがどこでも可愛かった! 私が好きな愛空みなみたんが『バロン~』の雉撃ちの紫のドレスを着ていて嬉しかった! 老婦人役も可愛かった! 美味しい船員役のエンリコがやっぱり華があった! …くらい、だったかな…すみません…夢白ちゃんはどのお衣装も似合っていて、ピカピカで、ダンスが抜群で、素晴らしかったです。歌はちょっと苦戦しているように聞こえたかなー、まあ精進、精進。


 ファッシネイト・レビューは作・演出/藤井大介。本公演の感想はこちら
 あーさとあがちんが抜けているところは、すわっちが大事にされつつかせきょーが上げられている感じでしたでしょうか。
 プロローグ、咲ちゃんのサチココバヤシ衣装が変わっていて、おぼうぼも素敵で、やはりこの仕掛けにはテンションが上がりました。
 さらにもともとは初舞台生ロケットだったところ、フルール振り向きとっぱしがすわん! センターははばまいちゃんだけどそのすぐ上手にみなみたん! かーわー!!
 シャガールとモデル場面はあーさとはばまいちゃんに。ここのすわんのフェッテがあいかわらず素晴らしい。送り出すときのすわっちの表情が優しいのにもキュンとしました。
 コンコルドのオベリスクの女は叶ゆうりに。さすがの迫力。ダンサー最下のエンリコ、華あったなー!
 ドーファンとラ・ドゥモワゼルのコレクション場面はみなみたんガン見ですよ、グリーンのビジューはエメラルドかな? かーわー!
 ノートルダムの天使の下級生はどちらも可愛かったですね。そして中詰めへ…
 あがちんセンターだったバスティーユはすわっちがガツンと行っていてよかったです。でもここも最下のエンリコがホント華があるんですよ…!
 退団者場面だったところはディーヴァ圭子お姉様と黒髪ショートボブ鬘の娘役ちゃんたちのウハウハ場面になっていて、梅田ではゆきのちゃん休演でみなみたんが入っていたように見えたんですけど、幻でしたか願望でしたか…? 白黒バトルも引き続き良き。
 カンカンも出てきた瞬間からみなみたんが識別できるようになっていて僕は怖い…男役さんたちのカンカンレディも観たかったんだけど全然目が足りませんでした。そしてフィナーレへ。
 総じて、ちょっと目まぐるしいくらいに景気がいいショーで、まあ出る方はタイヘンなんでしょうけれど、全ツにはいい演目なんじゃないかなと思いました。
 りーしゃもゆきのちゃんも早めに復帰できたし、どうぞ千秋楽まで事故なく、元気に、各地で美味しいものも食べて観光もちょっとはして、楽しく、でも宝塚歌劇をアピールするお仕事もがんばって、行ってきていただきたいと思います。やっとツアーという名にふさわしいコース、公演数になってきましたしね。とはいえまだまだコロナは猛威を振るっているので、気をつけてね…と、祈っております!











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