シアタートラム、2023年9月6日18時半。
劇団活動をしている松坂(橋本淳)が、かつて劇団仲間だった一戸(平原テツ)という男の思い出を語っている。数年前、ふらりと松坂の芝居を観にやってきた一戸は、健康上の理由から故郷の青森に帰ることにしたという。淡々と語られる一戸の近況報告をきっかけに、昔の劇団仲間が集まることになった。坂本(今井隆文)、小久保(夏帆)、大泉(豊田エリー)たちはそれぞれの悩みや現実を抱えながらそれぞれの人生を歩んでいたが…
作・演出/加藤拓也。全1幕。
大空さんが『今日もわからないうちに』に出演して以来、何度か観ている加藤拓也作品で、他にこちらやこちらなど。
今回は完全オリジナルなので、より加藤拓也色満載なのでしょうね。ここの舞台ってこんなに広いんだ、と改めて驚いた、モダンというか無味乾燥というか…なセット(美術/山本貴愛)が印象的で、しかしこれがまたなんにでも化けて照明(照明/吉本有輝子)の効果とともにどこにでもなる、演劇マジックを存分に味わえる舞台でした。
演劇の話だけれど、創作の話でもあるな、と感じました。一戸の話だけれど、加藤氏自身は劇作家役の松坂に自己投影しているのだろうし、彼から始まり彼が締める作品でもあるので、私も彼に共感して観ているかな、と感じました。
というのも、何度か言っていますが私は祖父母とやや疎遠だったこともあって、いわゆる親しい人の死というものをあまり経験しないままにこの歳まで来てしまっているのでした。両親も弟もありがたいことに健康で、自分も人生の折り返しはすぎているとわかりつつも、まだまだそういうことを考えないで済むと思っているところがあります。
なので、病気がわかって自分の死期を見つめた人が一戸のような言動をしそうなことはわからないでもない…けれど、それをぶつけられても松坂のようにとまどい、反応に困り、流すような受け答えもしちゃうだろうな、とそちらの方がすごくわかる気がしたし、だからって「俺の人生を劇にしてくれ」みたいなことを言われても、冗談じゃないよおもしろくないし創作ってそういうものじゃないんだよ、とは言いたくなっちゃうだろうな、とも思いました。
でも、端的にネタバレすると、一戸が亡くなって、松坂は彼の、あるいは彼と自分たちとの出来事を脚本に書き始めるのでした。最初は台詞を音読しながら原稿用紙に書きつけて、やがて集中し没頭してくると発声はなくなって、ただ黙々と書くようになり…そして暗転、で、幕(イヤ幕はない舞台なのですが)。鮮やかな幕切れだな、と感動しました。
作家の業、のようなものも感じるし、やはり人は生きているうちはその生命、人生こそが輝きであり、どんな天才の創作も敵わないのであって、死んで初めて別の何かの物語に仕立てることができる…ということなんじゃないのかな、などとも感じました。だから命を軽んじているとかそういうことは全然ない、生と死を純粋に見つめた、真摯で真面目な舞台だな、と思いました。技巧的だけど、誠意がある、というか…
SNSがどうとかも、ちょうど私もツイッター(現X)不調による避難用にインスタを稼働させ始めたこともあって、なかなか身につまされるところがありましたが、加藤氏も何か身近にこうした出来事があったりしたのでしょうか。それとも、そんな卑近な例から創作するようなタイプではないのかな…?
芝居らしからぬナチュラルな会話、というものがまず出てくるんだけれど、これがホントウザいわキツいわツラいわ怖いわ、なんです。イヤ本物の会話ってこういうものかもしれないけれど、舞台で聞くとつらいしイライラさせられるししんどいのです。それはわざとやっているんだ、ということがよくわかって、次にそれがそのまま舞台にかかる、という場面になると、役者がみんなまた棒芝居が上手くって、ナチュラル会話を下手な演技でやるとこうなる、というのが本当によくわかるのでした。いやぁこのざらざらざわざわ感、たまらんわー。
一戸が青森に帰ってからも、基本的には演劇にありがちな綺麗なスマートな台詞、会話というものは全然なく、ざらざらざわざわしたまま場面は重ねられ、過去の回想や痛みが見せる幻覚などが入り乱れて舞台は進みます。そして、最後のオチに至るのでした。そのリアルさと、演劇マジック度合いが怖い…
そういえば真奈美(鈴木杏)だけが名前で、あとは名字表記の役なのには意味があるのかな? まあ彼女はバツ2のシンママで最後には一戸と結婚するので、名字では表せない、というだけのことなのかもしれませんが。加藤氏は既婚なのかなあ、別姓にできない婚姻制度に思うところがあったりするのかなあ。てか鈴木杏のギャルJK姿! 素晴らしかったですね。その後のまだ最初の結婚をしたくらいかな?のスリムなデニム姿も、めっちゃ脚が長くてスタイルが良くて仰天しました。アレは青森の不良じゃないだろう(笑。偏見)。そういえば何故青森なんだろう、加藤氏の出身なのかな…つーか橋本淳って加藤氏に似てそうですよね……
などと、ついつい作家に思い馳せてしまいましたが、ホントおもしろい舞台でした。そもそも予定されていた主演の窪田正孝が怪我で降板し、代役上演だったわけですが、なんの問題もありませんでした。ただ役者としてはちょっとタイプが違う気もする…もともとのバージョンも観てみたかった気はしました。
劇団活動をしている松坂(橋本淳)が、かつて劇団仲間だった一戸(平原テツ)という男の思い出を語っている。数年前、ふらりと松坂の芝居を観にやってきた一戸は、健康上の理由から故郷の青森に帰ることにしたという。淡々と語られる一戸の近況報告をきっかけに、昔の劇団仲間が集まることになった。坂本(今井隆文)、小久保(夏帆)、大泉(豊田エリー)たちはそれぞれの悩みや現実を抱えながらそれぞれの人生を歩んでいたが…
作・演出/加藤拓也。全1幕。
大空さんが『今日もわからないうちに』に出演して以来、何度か観ている加藤拓也作品で、他にこちらやこちらなど。
今回は完全オリジナルなので、より加藤拓也色満載なのでしょうね。ここの舞台ってこんなに広いんだ、と改めて驚いた、モダンというか無味乾燥というか…なセット(美術/山本貴愛)が印象的で、しかしこれがまたなんにでも化けて照明(照明/吉本有輝子)の効果とともにどこにでもなる、演劇マジックを存分に味わえる舞台でした。
演劇の話だけれど、創作の話でもあるな、と感じました。一戸の話だけれど、加藤氏自身は劇作家役の松坂に自己投影しているのだろうし、彼から始まり彼が締める作品でもあるので、私も彼に共感して観ているかな、と感じました。
というのも、何度か言っていますが私は祖父母とやや疎遠だったこともあって、いわゆる親しい人の死というものをあまり経験しないままにこの歳まで来てしまっているのでした。両親も弟もありがたいことに健康で、自分も人生の折り返しはすぎているとわかりつつも、まだまだそういうことを考えないで済むと思っているところがあります。
なので、病気がわかって自分の死期を見つめた人が一戸のような言動をしそうなことはわからないでもない…けれど、それをぶつけられても松坂のようにとまどい、反応に困り、流すような受け答えもしちゃうだろうな、とそちらの方がすごくわかる気がしたし、だからって「俺の人生を劇にしてくれ」みたいなことを言われても、冗談じゃないよおもしろくないし創作ってそういうものじゃないんだよ、とは言いたくなっちゃうだろうな、とも思いました。
でも、端的にネタバレすると、一戸が亡くなって、松坂は彼の、あるいは彼と自分たちとの出来事を脚本に書き始めるのでした。最初は台詞を音読しながら原稿用紙に書きつけて、やがて集中し没頭してくると発声はなくなって、ただ黙々と書くようになり…そして暗転、で、幕(イヤ幕はない舞台なのですが)。鮮やかな幕切れだな、と感動しました。
作家の業、のようなものも感じるし、やはり人は生きているうちはその生命、人生こそが輝きであり、どんな天才の創作も敵わないのであって、死んで初めて別の何かの物語に仕立てることができる…ということなんじゃないのかな、などとも感じました。だから命を軽んじているとかそういうことは全然ない、生と死を純粋に見つめた、真摯で真面目な舞台だな、と思いました。技巧的だけど、誠意がある、というか…
SNSがどうとかも、ちょうど私もツイッター(現X)不調による避難用にインスタを稼働させ始めたこともあって、なかなか身につまされるところがありましたが、加藤氏も何か身近にこうした出来事があったりしたのでしょうか。それとも、そんな卑近な例から創作するようなタイプではないのかな…?
芝居らしからぬナチュラルな会話、というものがまず出てくるんだけれど、これがホントウザいわキツいわツラいわ怖いわ、なんです。イヤ本物の会話ってこういうものかもしれないけれど、舞台で聞くとつらいしイライラさせられるししんどいのです。それはわざとやっているんだ、ということがよくわかって、次にそれがそのまま舞台にかかる、という場面になると、役者がみんなまた棒芝居が上手くって、ナチュラル会話を下手な演技でやるとこうなる、というのが本当によくわかるのでした。いやぁこのざらざらざわざわ感、たまらんわー。
一戸が青森に帰ってからも、基本的には演劇にありがちな綺麗なスマートな台詞、会話というものは全然なく、ざらざらざわざわしたまま場面は重ねられ、過去の回想や痛みが見せる幻覚などが入り乱れて舞台は進みます。そして、最後のオチに至るのでした。そのリアルさと、演劇マジック度合いが怖い…
そういえば真奈美(鈴木杏)だけが名前で、あとは名字表記の役なのには意味があるのかな? まあ彼女はバツ2のシンママで最後には一戸と結婚するので、名字では表せない、というだけのことなのかもしれませんが。加藤氏は既婚なのかなあ、別姓にできない婚姻制度に思うところがあったりするのかなあ。てか鈴木杏のギャルJK姿! 素晴らしかったですね。その後のまだ最初の結婚をしたくらいかな?のスリムなデニム姿も、めっちゃ脚が長くてスタイルが良くて仰天しました。アレは青森の不良じゃないだろう(笑。偏見)。そういえば何故青森なんだろう、加藤氏の出身なのかな…つーか橋本淳って加藤氏に似てそうですよね……
などと、ついつい作家に思い馳せてしまいましたが、ホントおもしろい舞台でした。そもそも予定されていた主演の窪田正孝が怪我で降板し、代役上演だったわけですが、なんの問題もありませんでした。ただ役者としてはちょっとタイプが違う気もする…もともとのバージョンも観てみたかった気はしました。
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