駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

ラッパ屋『七人の墓友』

2024年07月01日 | 観劇記/タイトルさ行
 紀伊國屋ホール、2024年6月27日19時。

 夏のある日。吉野家の自宅の庭では、年に一度のバーベキュー大会が開かれようとしている。父・義男(俵木藤汰)、母・邦子(弘中麻紀)のもとに三人の子供たちが集まり、それぞれが近況を報告し合うという恒例行事だ。義男の友人・栗原(おかやまはじめ)もやってきて、楽しい宴が始まるが…
 脚本・演出/鈴木聡。俳優座に書き下ろして2014年に初演されたものを劇団創立40周年記念に上演。全2幕。

『シャボン玉ビリーホリデー』『サクラパパオー』なんかのタイトルは知っていて、いつか観てみたいなと思っていた劇団でしたが、桜一花が客演するというので出かけてきました。ベテラン俳優さんたちが活躍できる芝居を、と俳優座に書き下ろしたものを、自分たちの劇団員もちょうどよく歳をとってきたとのことで、自分たちでもやることにしたそうです。「世の荒波に揉まれて酸いも甘いも知り尽くした大人が楽しめる芝居」がコンセプトの劇団だそうで、素敵だなと思いました。また機会あれば観ていきたいです。
 うちの父親は姉がひとりいるだけの長男ですが、親と折り合いが悪いのか、それこそ今の私の歳くらいのときに突然自分たちのお墓を買いました。実家は八王子で遠くもなんともないのに、です。祖父は私がものごころつくころには亡くなっていて、祖母がいる八王子には私が幼いころに数回行ったかと思いますが、あまり記憶がありません。祖母のお葬式にも出たはずですが、やはり覚えていません…で、父が買ったお墓に一度連れていかれましたが、その後何もどうもしていません。両親はとても仲がいいように私の目には見えますが、実は母が父に対して邦子のように「あなたと同じ墓に入りたくない。死んでまで一緒にいなくていい」というようなことを考えているのかどうか、考えたことも聞いたこともありません。母の実家のお墓は横浜の外れですが、そこは母の長兄が継いでいるのでしょうか…こちらも私がものごころつく前に祖父は亡くなっていて、幼いころには祖母のいる家に行って従姉たちと遊んだ記憶もあるのですが、そして中学生のころには祖母のお葬式に出た記憶もありますが、その後すっかり疎遠です。
 私も弟も独身なので、父が買ったお墓に両親を納めたのちは、順番はともかく私と弟でなんとかするなり今流行りの墓仕舞いをするなりするのかな、と漠然と考えていました。自分自身のことは死んだら終わりだと考えているので、お葬式もお墓もどうでもいいと考えています。今後ますますお墓の問題はいろいろ出てくるのでしょうが、弔ってくれる子孫がいないんだからしょうがありません。この国はそうやってゆるやかに滅んでいくのだろう、などと考えたり、ます。
 でも、邦子が朗読ボランティア仲間たちと作っている「墓友」は、死ぬまでのまだ長いとも短いとも言えない期間をより楽しく暮らすための活動なのかな、と思えました。死後、この墓友たちと楽しくいられる、と考えることで、今の生きづらさをなんとか耐えている…そこまで深刻でなくても、現実に倦んでいて、せめて死後の夢を見たい…そんな悲しい明るさがあるように思えました。もちろん舞台はユーモアにあふれ客席から笑いも多く湧き、悲痛なばかりではありません。あくまでよく生きるための発想、なんですよね。あとは邦子以外は全員単身者だから、というのもある。
 遥香(桜一花)の、「私も入る!」と言ってすぐまた取りやめるのも、いいなと思いました。まだ若いというのもあるけれど、生きている限り考えが変わることはあるわけで、それは他の墓友たちも同様なわけです。いつでも変化していいのです。これからひとりずつ見送って、みんながみんな綺麗な死に方ができるとも限らないし、どんな修羅場が訪れるかもしれないし、友が増えたり減ったりすることもあるでしょう。七人、というのは単に語呂がいいだけのものなのです。その自由さ、ゆるやかさもいいなと思いました。
 長男の義和(宇納佑)は結婚していて親に孫の顔を見せていますが、長女の仁美(岩橋道子)は仕事の上司と不倫していて、たとえ相手が別れても結婚する気はなく、次男の義明(中野順一朗)はニューヨークで一緒に暮らしている同性のパートナー・照之(浦川拓海)を連れてくる…あるあるです。遥香は若いホストの剛(林大樹)に入れあげているし、アラフォー独身女性の恋愛事情もあるあるすぎます。剛の今カノの聖子(磯部莉菜子)の在り方もめっちゃよかった。現代の風俗に対する解像度が高い脚本だな、と思いました。
 ただ、墓友の佐和子(松村武)の登場にどっかん湧く客席には退きました…カムカムミニキーナ主宰で有名なんだろうし、それが女役?という妙味はあるんでしょうけれど、こういうマダムってフツーにいるのに、単に女装ってだけで笑うんだもんなー…って気がしたので。なかなか道は遠いです…
 前日に観たモダンスイマーズの『雨とベンツと国道と私』同様、タイトルがいいんですよね! ニヤリとさせられ、感動させられました。邦子の墓友は六人いて、七人目が加わったり脱退したりして、そうこうするうちにひとり亡くなって、その納骨式にみんなが集まり、やがてお寺の本堂に歓談の場所を移していって、庭に残ったのが吉田家の両親と三兄弟と長男の妻と次男のパートナーの七人だった…で、幕、なのです(イヤ暗転ラストだったけど)。これが正解、という主張ではないと思います。ただ、お互いきちんと尊重し合って、依存でも一方的でもない良好な関係が築けているのなら、家や家族といった塊はまとまりとしていたって自然ですし、死んだあと同じお墓にまとまるのも自然なことなのでしょう。いかにも昭和なおっさんだった義男は、少しは変わったのかもしれない。なら、邦子の考えも変わっていくかもしれない。未来はわからない、でも血のつながりは変わらない…未来に縛られることなく、今を一生懸命、楽しく生きていけばいい。そんな元気をもらえた舞台でした。










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする