駒子の備忘録

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『桜嵐ドリチェ』初日雑感~珠城日記ファイナルへ向けて

2021年05月17日 | 日記
 宝塚歌劇月組大劇場公演『桜嵐記/Dream Chaser』初日の5月15日13時と、16日11時、15時半友会貸切を観劇してきました。ご存じたまさくサヨナラ公演です。
 まずは予定どおりに無事に上演されて、本当によかったです。行きも帰りものぞみ車内でごはんしたけど、観劇後も宿に近い街でノンアルビールでごはんしたけど、大休憩もソリオでごはんしたけど、すべてひとりだったし、バッタリした月担友たちとも最低限の挨拶とコーフンの身振り手振りと笑顔ですれ違うだけで、隣の席の友達ともLINEかTwitterのリプでしゃべり(笑)、うがい手洗い手指消毒の飛沫対策は引き続きがんばったつもりでいます。客席もロビーも東京よりかなり静かだったと思いました。公演が無事に続けられるためにも、引き続き心して、できうる限りのことはしていきたいです。完走を祈ります。
 初日は友会で当てたSS席の端っこ、2回目は珠城会のお友達にお取り次ぎいただいたおかげで1階後方どセンターの視線勘違いし放題席、そして友会貸切は芝居冒頭にるうさんに話しかけられる下手タケノコ席でした。「南北朝、ご存じですか?」と尋ねられて、ウンウン頷いてみましたが、華麗にスルーされて台本どおりの説明に入られてしまいました…(笑)
 そう、私は父の蔵書にあった吉川英治の『太平記』を中学生くらいのときに読んでいましたし、大河ドラマの再放送を昨年BSで見ていたので、南北朝の基本的なことは知っているつもりでした。でも最近では、まあそれは現代史だからかもしれませんが、「えっ、日本ってアメリカと戦争したことがあるんですか? しかも負けたんですか?」とか平気で言うお若い方もいるとかいないとかの話を聞かなくもないので、歴史のどのあたりまでがどれくらいの常識、教養として一般的に抑えられていると見るかはけっこう基準が怪しいので、冒頭にるうさんが時代背景を簡単に解説をする、というのはとても安心できる、良き措置だったかと思います。くわしい方には雑なまとめだと思われちゃうかもしれませんが、必要十分だったと思いましたしね。
 そしてここで快活に解説していたるうさんが、なっちゃん老御門跡が現れたところで急に老け声になり、こちらも謎の老人になる…というのがとても鮮やかでした。舞台の魔法ですよねえ。ちょっと予習しちゃうと、そしてプログラムにも記載はあるので先に読んじゃうと、このるうさんはれいこちゃん演じる楠木正儀ののちの姿で、なっちゃんはさくさく演じる弁内侍ののちの姿である、ということがわかってしまうのですが、何も知らずに臨むと、芝居の後半に彼らの会話でそれが明らかになる作りになっています。そういうのもとても素敵だなと私は感心しました。
 そして私の知識も楠木正成止まりで、その三兄弟のことは知りませんでした。で、これまたちょっと予習してしまうと、正行と弁内侍のエピソードはとても有名で、かつとてもせつなくドラマチックなものなので、もうそれだけで物語としてはできたも同然だな、と私なんかはちょっと思ってしまうくらいのものでした。なので初日は、くーみんにしては、しかも直近作がやや変化球と言ってもいい『fff』だったので余計に、てらいのない、非常にオーソドックスな、ベタな、直球な、工夫のない、もっと言えば芸のない作品に思えて、イヤまあその質実剛健さとかド直球ぶりこそ珠城さんの持ち味なんだけどしかし、なんかこう、あまりに…イヤ悪くはないんだけど…やっぱ日本物っていろいろ制約が多くて難しいのかな…『星逢』と比べてもなんか…イヤくーみんはあえて伝統的な日本物に仕立てたい、みたいな意欲も語っていたようだけれどしかし…とか、わりと、ちょっと、いやかなり、私はとまどいました。ぶっちゃけ低評価でした。なんかちょっとあたりまえすぎて、泣けませんでしたしね。私は人が死ぬってだけで泣くようなチョロさは…いえ失礼しました、純真さは持ち合わせていないのですよ…
 でも、2回目の観劇で、どセンター席で冒頭から珠城さんにもれいこにもちなつにもビンビン弓矢で射貫かれたせいもあるかもしれませんが(笑)、全体に流れがある程度抑えられたところでおちついて観てみると、やはりいろいろと繊細に計算されて丁寧に作られている舞台で、そんなに安易にできているものではないな、と刮目しました。前半は確かにコミカルというかユーモラスな部分も多いのだけれど、やはり真骨頂はシリアスになってからの後半部分で、特に桜の吉野から四條畷への変換は鮮やかで、サヨナラ仕様も兼ねたラストシーンの作り方が最高に絶妙で、感動したのでした。やはりこの巧みさは凡百の作家にはできますまい…! そして適材適所、当て書き、退団者への餞、組子への篤い信頼が感じられました。座付きの仕事として素晴らしい。大傑作とか世紀の名作ってほどではないかもしれませんが、『神土地』といい『fff』といい今作といい、「サヨナラ公演に名作なし」という宝塚歌劇界隈に伝わる残念なことわざ(?)を裏切ってくれる、さすがくーみん、という作品かと思います。宝塚歌劇あるあるとしてリピートするのはファンだけなので、組ファン以外の方が一度観る程度でもちょうど良く、ファンがリピートして端々を観たりいろいろ考察を深めて考えていったりするのも楽しい作品なのではないでしょうか。少なくとも私は、来週も雪バウとハシゴで観劇しますし新公もお取り次ぎを頼んでありますし前々楽も友会が当たったし東京公演だってあるしでまだまだ通う気満々なわけですが、楽しく観られそうで一安心です。
 以下、ネタバレ全開で現時点での印象的だったことどもを語らせていただきます。未見の方はご留意ください。

 解説パートのラスト、病に倒れる後醍醐天皇、南朝から去っていく武士たち、残る楠木正成の後ろ姿、そのあとを追って立つ若く凜々しい後ろ姿…それが正茂が長男・正行、珠城さんなワケですよ。そのまま階段上がって、ライト、振り向いて、拍手! …たまりませんね。また五月人形のような麗しさで、輝いていました。
 その前に開演アナウンス…だったかな? 指揮者に拍手するタイミングはないので、私はもう開き直って主演者の名乗りに拍手することにしました。
 続いてれいこ演じる三男・正儀が現れて拍手! さらに続いてちなつの次男・正時が現れて拍手! みんな名前とキャラを名乗ってくれる親切設計(笑)。全部のお衣装がそうってわけではなかったけれど、三兄弟となると珠城さんがアカレンジャーでちなつがアオレンジャーでれいこがキレンジャーな感じなの、めっちゃよかったです。ざっと言えばそういうキャラです(笑)。
 それからするとこの前のターンの、ヒロさん、まゆぽん、おだちんにいちいち拍手を入れるのはちょっと解説が途切れるしこっちも煩雑なんだけれど、あの演出ではもう仕方ないかなー…
 プロローグが終わるとゆりちゃん高師直の湯殿場面。ゆりちゃんが、悪役声もいいけど目元めっちゃ描いててマジで誰!?ってレベルですごいです。専科異動も納得だ、ただのロイヤル上級生じゃなかったよ…という怪演にして快演、素晴らしい。この間までなんか昭和の青春ドラマみたいな不倫カップルをやっていたゆうきに、裸身を見せよと迫る…すごい。さち花とはーちゃんがまたいい仕事していて、侍女が可愛子ちゃん揃いで、師直さまってば…となるところに弟のれんこんが来るんだけれど、こっちもめっちゃええ声で、ナニこの悪役兄弟、魅力的すぎて怖い…ってなりました。
 続いて峠の場面。弁内侍の輿が襲われているのを助けに入る正行さまが、もうめっちゃヒーロー! こういうときつい『BANAN FISH』のショーターの「入ってほしい時に入る助け まんがはこーじゃなくっちゃね」という台詞が脳内をよぎる私なのでした…
 ここのふたりの会話がまず、いい。弁内侍がけっこう失礼な態度を見せるので、正行もへりくだって見せているようでけっこう慇懃無礼なのがいいんですよね。正行さん、女子に対しても甘くチャラいところがない、朴念仁なのであろう…(笑)そして人足ジンベエ役のからんちゃんがまたいい仕事をしていて、正行さんはそれをまた上手く利用して、弁内侍を行軍に同行させる。「飯の煮炊きでも~」と言うのは内侍の気持ちを軽くさせるために言っているんだろうとも思います。あえてざっかけないことを言っているんですよね、愛しいわ。
 そしてカッコ良く登場するちなつ正時、弓を振り扇を振って…何故か猪を丸焼きにしている(笑)。こういうの、実はくーみん上手いよね。やはり関西人だからなのか!?(笑)(東京者のお笑いへの偏見…)でも戦争って補給も大事だし、人は食べないと生きていかれないので、食事のシーンって大事ですよね。お嬢さん育ちでお料理なんかしたことないんだろうな、という弁内侍の怪しい手つきもまた愛しい。そこからのソルフェリーノ展開がまた上手いし、敵軍といえど雑兵はただの雇われ民間人なのだから勝負が決したあとは正行が負傷者を救わせた、というのは史実なんだそうですね。処刑の振りと、そこからのそれを弁内侍の恩赦だとするところ、正行さまったらニクいわー。そして歌い踊られるどっこいせの歌、盆回り…上手い。上下花道をハケていく北朝の兵士たちの芝居がまたイイのよ!
 盆が回って現れるのは赤坂の楠木の館で、郎党の子供たちに剣術を教えているのは三兄弟のママでこれが退団の香咲蘭、正しい。子役の芝居がまた上手い…! そして一足早く帰宅した愛妻家の正時と、くらげ演じる愛妻・百合との『キックオフ』(古い…)展開にまたニマニマ。しかしここでの「何があっても生きていけ」みたいな台詞は、のちの伏線にもなり、また正時にもこの先のさらに厳しい戦いが見えていたということを表しているんですよね…
 さて、行軍はもうすぐ吉野というところで最後の休憩を取ります。「どう?」一言で笑いが取れるれいこ、ホントいい(笑)。てかこの場すべてたまらなくイイ。さくさくの歌がまたすごくいい。正儀が引き返してきてからの河内弁についてのやりとりもめっちゃイイ。「無理」はこの時代っぽくない台詞なんだけどくーみんはあえてやらせてるんだろうと思うし(『月雲』のセンス発言を想起しました)、そこからの結局しゃべってくれる正行さまもホント優しくてイイ。そしてこれがまたのちに、素で河内弁になる「じゃかあしい!」に通じていくのですよね…私は呼称とか口調フェチなのでもうホントたまりませんでした。
 京では高兄弟とおだちん尊氏のトーク。花一揆がゆーゆにゆうき、菜々野ありちゃんに羽音みかちゃんなのサイコー! そしてそんなん侍らせておきながら師直に「女性(にょしょう)の脂は身の毒ぞ」とか言っちゃう尊氏さまサイコー!
 場面は簡素な吉野の行宮へ。正行の戦勝報告を聞いてもてんでやる気がない公家たちを、さち花やはーちゃんたち娘役にやらせているのがまた上手い。そしてヒロさんのスーパー・アモナスロタイムへ…『fff』の雪原場面ほどではない、舞台ではよくある回想が現実に入り交じる演出ですが、やはり上手い。花一揆のメンツに血の猿楽役を与えているのも憎い。スターの起用都合かもしれないけれど、やはりあえてのことだろうと思いました。
 今回は勝った、しかし依然武力の差は歴然としている。戦いは新たな戦いを生むだけ…正行は南北朝合一を目指して北朝と和議を謀ろうとし、優しいありちゃん後村上天皇もその意見を容れようとし、しかし父・後醍醐天皇の幻、またの名をアモナスロがそんな惰弱を許さない…かつて後醍醐天皇のもとで弁内侍の父・日野俊基ギリギリも死した、ヤス北畠親房の息子・顕家るねっこも死した、正行の父・正茂まゆぽんも死した。残された者はその想いを背負って生きるしかない、戦い続けるしかない、和睦など許されない…夫を失い、息子に賭ける阿野廉子たんちゃんがまた素晴らしい。これまたこれで退団ですが、そうなのよ可愛いだけじゃないのよダンスだけじゃないのよ芝居もできるのよ最後にこの起用は嬉しいわ…! この「主上…!」にはしかし、呪いもまた込められるのでした。私は『ベルばら』(もちろん原作漫画の)で夫がギロチンにかけられたあとアントワネットが息子に跪いて言う「新国王…ルイ17世陛下…」を思い起こしました…
 しかし正儀は言わないではいられない、「父は北朝に殺されたのか、それとも無謀な戦を命じた南朝に殺されたことになるのか…」と。武士の息子は武士、しかも戦は得意で嫌いじゃない、だからやってきた。しかしこのままでいいのか? あんな者たちのために…? 正行は強要はできない、しない…自分にも迷いや悩みがあるからです。長男の背負う重みと苦悩、似合うわー…そして銀橋のソロ。花は咲く意味を知って咲くのだろうか、どうせ散るのに何故咲くのだろうか…といったことが歌われ、負け戦とわかっていても戦わなければいけないのか、死ぬとわかっていても戦地へ赴くべきなのか…というようなことが重ねられます。それでいったら人間はみな、生まれた瞬間からいつかは死ぬことを知りつつ、それでも生きていくわけですが、それでもこんなに短いスパンでは考えたくないものだし、また戦死するのと天寿をまっとうするのとは違いますものね…
 正行を迎える後村上。ふたりが実は幼友達、というのがまた、お互い月組の御曹司として上げられて育ってきた珠城さんとありちゃんを思わせるようで、響きます。じゅりちゃんの中宮がまたイイんだ! そして弁内侍を正行の妻にどうか、と提案される。「よろしいな?」と聞かれて小さく「…は」と応えるさくさくの可愛らしさったら! しかし正行さまは老い先短い身で妻など持てない、内侍にまた親しい者を亡くす経験をさせたくない、と断る…もう、もう…!
 そしてさもありなん、それこそ彼らしいと思いつつも、泣いて歌わずにはいられないさくさく…!!
 正行が帰宅すると、尊氏と高兄弟がナンパに来ている。これはさすがに創作なのかしらん? 「斬れということですか」と言って静かにキレている正行さまがまたたまらん。そして百合の顛末…そのあと、全員が出てきて主人公にアレコレ言うのは最近だと『夢千鳥』でもあったこれまた定番の演出なのだけれど、なんせ人数が多いし凄みがありました。
 さてここで、「なんのために戦うのか」という問いに正行は「日の本の大いなる流れのために」みたいなことを答えとします。これまで、父親の仇である北朝を倒すため、とも恩義ある南朝の栄耀栄華のため、とも明言せず、「なんのために戦うのかを知るために戦っている」というようなことを言ってきた正行が、です。でも、残念ながら私はこれがちょっとピンとこないんですよね…要するに分が悪いことははっきりしていてほぼ負け戦確定とわかっていて何故なお戦うのか、という話で、そこにどんな観客が納得しやすい答えを用意するか、という問題です。幼友達の天皇を見捨てられないとか米を作り貢いでくれる在郷の人々を守りたいとか天皇中心の国家を作る大義とか敬愛する父への忠孝とかまあいろいろあるんだけれど、そういうことではなくて…ということなのでしょうが、でも歴史の渦中にいる人にはその流れなんか見えなかろう、とも思っちゃうんですよね。あと、敗色濃厚でも自分たちが負けることでむしろ南北朝合一が早まって結果的にいい、というほどの要素も正行たちにはないように見える(少なくとも作中ではそう説明はされていない)。なので、いろいろ足抜けしづらいのはわかるんだけどでもやっぱり犬死にじゃね?って気はしてしまうんですね、私は。この結論に納得できない。そもそもこの命題、女子供からしたら「イヤなんのためであれ戦うなよ、生き延びていこうよ」と言いたくなるものなわけですよ。もちろん腐敗した政府とかには戦っていきたいよ、今なんざまさに立ち上がるべき時ですよ。でもそれはたとえば泣き寝入りしたりせず正しく声を上げていこうね、とかちゃんと選挙に行こうね、ってなことであって、剣とか弓とかは振り上げないわけじゃないですか。そういう暴力的な、戦争に関するようなことはとにかく何がなんでもNO、というのが戦争放棄した現代日本での考え方であって、ここにこの主人公の結論を添わせるのはかなり難しい。しかも現状、そうして彼らが築いてくれたその日の本が、ろくな国になっていないだけに…
 ただしここには実は、宝塚歌劇107年の歴史の流れの中で月組のトップスターを5年半に渡り務めた珠城りょう、というのが重ね合わされていて、それはとてもよくわかるのです。私は若い頃から珠城さんが好きだったけれど、劇団のアピールの仕方やお膳立てが下手で、特に前政権でのポジション作りが変で、要らぬ苦労もいろいろさせられたでしょうが、全部背負って飲み込んで引き受けて、一作一作真摯に主演を務めることで応えてきて、組を盛り立て、なんとかかんとかやってきて今、卒業していこうとしている。2番手である弟と、3番手である幼友達兼主君に次の世を託して…それは、珠城さんご卒業後も宝塚歌劇を見続けていき、その大いなる流れを見ていくつもりでいる私たちファンにとっては、わかりやすい感覚です。私なんざすでに次の博多座初日にれいこセンターの『ドリチェ』を観て号泣する自分の未来が見えています。
 でも、正行が南朝で戦う理由の「日の本の大いなる流れのために」は、正直よくわからない。彼が作ってくれた日本の未来である今を私が生きていて、その渦中にあるから、今までの流れがこれで正しかったのかどうか判断できず、自信も持てないからかもしれません。今の世が情けないことになっているだけになおさら、彼の犠牲のおかげで今の世の幸せがある、ありがとう、あなたは正しかったんだよ…とか、残念ながら思えない。だから私はこの物語を観ていて最後まで泣けないでいるのかもしれません…
 出陣を明日に控えて如意輪寺を訪れる正行、桜は満々開。今年の桜はことのほか美しく見えると言う弁内侍に対して、毎年美しいですよと無粋な答えをする正行。でもこれはその前に、廉子が夫を失ったのちは桜が美しく見えなくなった、と言ったことを引いていて(正行はこれを聞いていないけれど、作品として)、そういうことのないように、として言っているんですよね。つまり自分は次の戦で死ぬ、自分に心を寄せてくれているこの人は心を痛める、けれどそれで毎年花が楽しめなくなってしまうことのないように、自分がいなくとも幸せに生きていってくれるように願う…ということなんですよね。そこからの今宵一夜、要するに死ぬ前にやることやっときましょう(オイ)、ってのを内侍の方から言うのがいい。まあ男が言い出すと結局ソレが目当てかよってなるんだけどさ、この娘役の方から押せ押せな感じが実にたまさくでイイのですよ! 舞台セットが全部飛んで、ホリゾント全面が桜で、猿楽の女たちが踊り、盆が回り…ベタ最高! カゲソロはりりちゃんと聞きましたが本当かな? とにかく美声で酔わせてくれます。ふたりのセリ下がる後ろ姿によかったねえぇと泣く…暇もなく、舞台は鮮やかに四條畷の戦場に変貌し、舞い散る桜吹雪は砂埃と化します。兵士たちが斜めに入ってくるのがまたいいんだよ…!
 正時と義父ぐっさん、義弟うーちゃんとのやりとり、その死、そして父と幼いころの蘇る思い出、どっこいせの歌。卒業するトップスターが次期トップスターにかける言葉に重ねる台詞は数あれど、珠城さんかられいこちゃんへは「おまえがやれ!」ですよ、たまらん! そして万感の「さらば」「さらば」。あとからんちゃんのまたまた泣かせる慟哭ね…!
 そしてそして、ここで最後に正行が言う「ひとりの女」はもちろん弁内侍のことなのだけれど、私たちファンひとりひとりのことでもあるよなと思うと、もうありがたいやらせつないやらで胸が締めつけられるのでした。そしてやはり同時退団でないとこういう台詞は重ねられない気もしたので、当初はれいこのために残ってくれてもいいのよさくさく同時就任ではなかったのだし…とか思ったものでしたが、やはり一緒に卒業することを選んでくれてありがとうさくさく…!となるのでした。
 盆が回ると、聖尼庵。冒頭のなっちゃん御門跡とるうちゃんの老人が思い出話をし終えたところとなっています。あのとき泣くのでやっと今言えた、ってさくさくどんだけ…イヤそれもラストを考えれば納得なのでした。ともあれ正儀は40年かけてやっと戦を終わらせ南朝を終わらせ、南北朝合一をはたして楽隠居できるのでした。
 下手に正儀、上手に正時が現れて、最後の出陣式の様子が再現されて、物語は終わります。上手花道から現れた正行が銀橋真ん中まで悠揚出てきて、正面向いて「お別れを、みなさま」…なんという『忠臣蔵』案件…! 後村上が「戻れよ」と声をかけ、しかしその後顔をゆがめて扇をかざします(袖だったかも…)。勝って帰れと祈りつつも、それは無理だと知っている幼友達の顔。そして卒業していくトップスターが二度と戻らないことを知っている、跡を継いでいく路線下級生の顔です。さらに本舞台へ走り出てきたさくさく弁内侍が号泣しながら伏せてなお手を伸ばす。みんなを見渡した珠城さん正行は、くるりと踵を返し、まっすぐ下手花道を引っ込んでいく。幕…美しい!
 死出の旅立ちでも、すがすがしくもある。卒業しても珠城さんには未来があるし、ファンは愛し続けるものだから…死んで終わりでも悲しい虚しいばかりの涙ではない、温かな構成の舞台なのでした。ありがとうくーみん…!

 それからするとスーパー・ファンタジー『ドリチェ』は焼き直しというかいつもどおりのAショーでしかなく、宙担としては『ビバフェス』の幻がよぎりまくった手抜きショーに思えて、ホント新たなショー作家の育成を少しも早く…!と念じましたが、まあサヨナラ仕様パートはよかったので一応ヨシとしましょうかね、という感じでしたでしょうか。なんせAショーは普通より場面数がひとつ少なくて、つまり一場面は長くてやや退屈するんですが、なんせ人をたくさん出すので(Bほどではないですが、Bとも出し方がまた違うんですよね…)端からじっくり観ていくためにはいい、というのはあります。しかしなんかもっとがっつりれいこセンター場面があってもよかろうよ、ってのと(K‐POP場面はホントはもっと若手がやるものなのでは…でもあんまアイドルっぽくなっていないれいこが最高に良きでした(笑)。しかし若手はワンフレーズずつしか歌っていないんだからもっと歌がんばってくれよ、息上げてんじゃねーっつの!)、たまれいこありの123場面があってもよかろうよ、とは思いました。なんか組み合わせ方が謎なんですよ…あとプロローグも中詰めもれいこのお衣装はもう一段階豪華にしてほしかったです。次期トップさんなんですよ!?
 それと、そもそもプロローグと中詰めのお衣装を全員に新調しているから予算が足りなくて、電飾とかセットとかがショボいんでしょうか、という邪推…ま、舞台を埋めるには大階段が一番!とハナから大階段出してスタート、ってのはアガるのでいいですけどね。
 というわけで佐々田ラブ一郎先生に盛大に拍手を送れてありがたい時間を持てたあとに、珠城さんピンの板付きから。三日月の大きなアーチも素敵。手を差し伸べられるのでどセンター席では早くも爆死。そしてざかざか降りてくる組子たち、さらにれいこがもう一群引き連れてざかざか降りてきて、やっぱり全員参加のショーっていいですよね! 娘役が出てくるとアダージョになる、わかりやすい…本舞台でたまさく、れいこくらげで踊るターンが短いながらもちゃんとあってとても良き。手拍子は入れやすく、本当ならここで客席降りだったろうなという感じもあって、楽しいですわかりやすい主題歌も良き。珠城さんがひとり残ってお着替え時間捻出タイム。
 続いてスパニッシュ、ブルーのマタドール衣装のちなつが登場。脚長ッ! 対するありちゃんは水色の上着に白のパンツなんですけど、それって我がロドリーゴのものかしらん…? 白のレースがたっぷり袖も裾もゴージャスで背中はがっつり開いたドレスのさくさくが登場、三角関係を踊ります。フラれたありちゃんがナイフを取り出さない不思議さよ…(笑)それにこれで卒業のトップ娘役が別格スターとラブラブで終わる一場面ってどーなんだ…
 スーツになったありちゃんが登場してタンゴの場面へ。侍るゆうきとゆーゆがそれぞれセクシーでたまらん! ハットで口元隠して登場する珠城さんが素敵! 床に一度捨てたハットに投げキスして拾う珠城さんが素敵! たまちなありにからんちゃんとうーちゃん、組む娘役はくらげにじゅりちゃん、はーちゃんとききちゃんおはねちゃん。もう4カップルいるけどとても目が足りません。相手と組まずにホールド姿勢で踊るターンがあり、抱かれている気分になれて良き!です。たまちな、たまありで組むくだりもあって良き。じゅりちゃんを珠城さんから奪い返すちなつも良き。銀橋に出てきてラスト、くらげちゃんを抱き寄せながら客席にワルい指差しする珠城さんがサイコー! ヤンさん様様の振付です。てか私はくらげちゃんがそんなに好きじゃないんだけれど、さすがに上手いなと感心させられました。あとここのじゅりちゃんの黒髪ショートの鬘も素敵で、私はじゅりちゃんもそんなに好きじゃないんですけれど(丸顔の娘役が好きなんです…)、さくさく挟んでくらげとシンメでバリバリ踊るターンも多く、ダンスいいなー素敵だなーとちょっと評価を上げつつあります…チョロい。
 韓流アイドルのはずなのに昭和感があってたまらなくいいれいこセンターの「I’ll be back」、れいこのダンスがイイ! れいこって別にダンサーじゃない印象なんだけど(オイ)、ホント顔がいいしキメキメでやってくれてテレもなく、素晴らしい! メンツはるねっこおだぱるに柊木くん一星くんるおりあで、るおりあがさすが華があるのと一星くんがドヤ顔ができててぱる負けてるぞ!ってのが印象的でした。
 そこからたまちなありが超絶スタイルをシルエットで見せて中詰めスタート! 主題歌のアレンジが元気で、ラストはパブロ手拍子にぴったりになっているので、そこはもうソレでやっちゃいたい! ちなみにここでやってることは宙組ソーランとほぼ同じです。ちったぁ考えろよA…
 続いてれいこから始まる生命の場面が、よくあるのはふたつの勢力の諍いがあって誰かが死んで再生と和解…みたいなのなんだけど、別にふたつに分かれていないし珠城さんもナイフを取り出さない不思議…めっちゃゆりかちゃんのデジャブ感あるお衣装なんですけれどね? てかこの貧困なイメージはなんなんだAよ…退団者とわちゃわちゃするくだりは今後日替わりになっていきそうですね。
 フィナーレとっぱしの歌唱指導はおださん、謎のムード歌謡感がたまりません。さくさくが素敵な背中の飾りとスカートにメッシュの部分があって脚が透けて見える赤いドレスで出てきて優勝! 娘役群舞は、かつてちゃぴがすーさんと絡んだときにもじーんとしたものでしたが、今回はさくさくとくらげちゃんが絡むターンがあり、それもまた良き…ロケットはももさり振付でなんの新味もなくちょっと呆然とするくらいでしたが、人数が多いのはいいことだ!
 そして珠城さん板付きからの黒燕尾、飾りナシ! デュエダンのさくさくはベビーピンクから裾が濃いピンクのグラデになったまさしく桜のドレスで、リフトもあるし銀橋出てからもわりと長いし、ふたりが幸せそうで何よりです…! そこからおかわりがあって、はーちゃんと麗ちゃんのカゲデュエットの「The way we were」で、珠城さんがゆりちゃん、ちなつ、からんちゃんと次々に絡んでいって、るうさんのターンではなんと額の汗をハンカチで抑えてもらって、れいこ、まゆぽん、ありちゃんと絡んでいって…万感のもうひと踊り。滝汗で大変だとは思うけれど、トッブスターといえどここまでやらせてもらうことも、それをファンが見させてもらうこともなかなかないことですよ…! 楽近くなればさらに号泣案件でしょう、ありがたや。大階段をよぎる流れ星の電飾が美しいです。
 エトワールはさくさく、ここの新調ドレスもめっちゃプリンセスでたまらん! パレードで組長副組長前がゆりちゃんとまゆぽんなの、たまらん! 銀橋ラインナップ会釈はちゃんとたまれいこのあとたまさく。でもさくさくはちなつではなくありちゃんと挨拶させてほしかったぞ…初日は幕が下りても手拍子が拍手にならずそのままカテコおねだり手拍子になって、ちょっとおもしろかったです。カテコでは公演後半と千秋楽が中止、無観客上演になった花組さんへの気遣いの言及もありました。最後はカニ歩きで緞帳前にも出てきて、あいかわらず可愛くて優しかったよ珠城さん…!
 舞台の無事の完走と深化、進化を心からお祈りしています。梅雨入りして蒸し暑い季節となり、体調管理も大変でしょうが、私も在宅勤務を粛々とがんばり、またシュッと遠征していろいろ胸に焼きつけてきたいと思います。そして今年のマイ誕生日の二日後の大千秋楽まで、心を寄せ続けたいと思います。まだまだ思い出になんかできないわ…!





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