駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

「黄金の馬」アハルテケに会ってきました。~八戸旅行日記~

2023年11月16日 | 日記
 話せば長いので詳細は割愛しますが、私は二十歳の頃から二十年間ほど、実家の近所の乗馬クラブで乗馬をしていました。社会人になると都心でひとり暮らしを始めましたが、週末には実家に帰って上げ膳据え膳一番風呂というウィークエンド・パラサイト・ライフを送り、昼間はクラブにレッスンに行くウィークエンド・ライダー・ライフをしていたのです。障害飛越でローカル競技会なんかにも出場したりもしましたが、まあ全然へっぽこな、単なる趣味です。
 四十歳になったときに突然「終の棲家を手に入れねば」と思い立ってマンションを買い(絶賛ローン返済中です)、そうなると週末に我が家にいないのはもったいないため、実家に帰るのをやめて乗馬クラブも退会しました(会費をローン返済に回したともいう)。それでも当時のクラブ仲間たちとは連絡を取り続けていて、新年会などごはん会をしたり、たまに旅行先で外乗したりはしていました。
 そんなところに突然、そんな仲間のひとりから「八戸にアハルテケがいる牧場があるらしいから、行ってみない?」と誘われて、突然の女子ふたり旅と相成ったのでした。ほぼ毎週末クラブで会っていた友達とはいえ(彼女はクラブを替えこそしましたが、今も乗馬を続けています)、旅行に行くのは初めてで、しかもふたりきりで、気が合わなかったりしたらどうしようかな…とちょっと心配にならないこともなかったのですが、旅行に向けてあれこれ段取りなどを相談するLINEのやりとりで、どうせなら美味しいものを食べよう、とか観光もしよう、なんて希望に対して、こだわる点やかまわない点なんかが似ているな、と思えたので、まあ大丈夫だろう、お互い大人なんだしさ…と出かけてみたのでした。で、結果的にとても気楽で楽しい一泊二日の旅になったのでした。

 まずは上野駅から東北新幹線で八戸まで。車内はまあまあ混んでいましたね。3時間ほどと、私のいつもの東京~新大阪間よりちょっと長い乗車時間でしたが、あれこれしゃべっていたらあっという間でした。
 友達が運転できる人で、レンタカーを手配してくれていたので、カーナビに従ってまずは八食センターへ。これは八戸食品、とか食材、とかの略なのかなあ? 要するに市場とお土産屋さん、お食事処が揃っている施設、とのことでした。
 駐車場はけっこう混んでいました。ぶらっと一周まず見学だけして、お昼時だったのでさっそくランチへ。美味しいと聞いていた回転寿司に入りました。運転手役の友達に気を遣ってノーアルコールでしたが、それより何よりネタがホント美味しい…! お互い好みのものをバクバクいただいてしまいました。すごく安いということはなくて、豪遊しただけのお代はお支払いしたのですが、大満足でした。 
 で、腹ごなしに再度ゆっくり一周して、お土産を買ったり、夜呑み用のお酒やおつまみを買ったり、実家に地酒飲み比べセットを宅配したりしました。
 その後は、いわゆる三陸復興国立公園エリアと呼ばれているらしき、種差天然芝生地、葦毛崎展望台、蕪島神社を順にドライブ、観光。どこも外国人観光客の姿を見ましたが、基本的にはやや閑散としていて、ゆっくり回るには快適でした。海や空が暮れなずむ様子を眺めるのもオツでした。
 そして本八戸のみろく横丁あたりを冷やかし、お目当ての和食屋さんは残念ながら臨時休業だったので、並びにあった居酒屋にテキトーに入りましたが、フツーに美味しかったです。ぶりかま、白子の天麩羅、よかったなあぁ…
 お店を出たら、天気予報どおりの雨でした。ここから牧場に向かうつもりだったのですが、なんと住所を入れてもナビに出ない…! なのでまずは聞いていた道案内どおりに行ってみよう、と進みました。その後三度ほど道を間違え、暗いし目印ないしでもうどうにもならないので牧場にお電話して、口頭でナビしていただいてやっと入り口の私道を見つけました。小さくていいからゼヒこの角に看板をつけてくだされ…

 訪れた先は、「アハルテケ長谷川牧場」さん。
 シャワールーム付きのシングルルーム二室があるキッチン付きのクラブハウスがある、と聞いていたので、いい温泉旅館みたいなものが近くにあるわけでなし、市内のビジネスホテルなんかにわびしく泊まるくらいなら、そちらにお世話になって翌朝早くから牧場ライフを楽しもう、と予約したのですが、そんなわけでなんとなく、無骨な、最低限の設備のプレハブめいたものを想像して、ホテルみたいな支度はないだろうからパジャマもタオルも何もかも用意して行きました。それで大荷物だったのですが…夜の雨の中現れたのは、なんとも小洒落たコテージふうの、小綺麗な別荘めいた建物だったのでした。
 中は広い玄関ロビーと立派なキッチンとリビング、そして確かにシャワールーム付きの個室がふたつ。インテリアは欧風というかなんとなくリリカルで可愛らしく、あちこちに馬のぬいぐるみやら馬モチーフの飾りが置かれて、カーテンも馬柄。個室も木製のベッドとソファが入れられていて、カーテンが可愛らしくて、立派な羽根布団が用意されていて、軽井沢あたりの別荘かな?みたいな雰囲気の良さ。タオル類も用意されていて、リビングではストーブがガンガン焚かれていて温かく、実に快適でウェルカムなムードなのでした。
 電話で道案内してくださり、牧場の入り口で傘を差して待っていてくださった牧場オーナーの長谷川百合子さんは、もうすぐ夜飼いの時間だから、と言いつつ甲斐甲斐しくあれこれ説明してくださり私たちの世話を焼いてくださって、お茶も入れてくださり、明日の朝食は朝市に行きましょうと提案してくださいました。
 私たちは簡単な荷解きをして、リビングにある大量の馬関連の写真集などを端から眺めながら呑みつまみ語る小宴会をして、そして静かな雨音を子守歌に眠りについたのでした。

 朝、スッキリ起きて支度してリビングに出ると、窓からちょうど朝日が上がってくるのが眺められました。雨は夜のうちに上がったようでしたが、手前に見える丸馬場はまだ下がぐちゃぐちゃです。
 社長がお迎えに来てくれて、スタッフさんの運転で4人で移動。
 八戸の朝市と言えば、毎年3月中旬から12月までの毎日曜日に開かれる館鼻岸壁朝市が日本最大級で有名だそうですが、この日は平日だったので、その近くの陸奥湊駅前の魚菜小売市場へ連れていっていただきました。魚介やお総菜などをその場で買って、食堂でごはんとお味噌汁を買って定食にするスタイルです。ホタテが甘くて美味しかった…! ホッケの焼いたのも注文してしまい、お腹ぱんちくりんになりました。

 ネットにあった牧場と社長の紹介記事なんかもざっと読んできたのですが、道すがら当人から聞く牧場開設までの道のりは波瀾万丈すぎて、おもしろすぎました。マジで朝ドラのヒロインにできると思います(笑)。
 もともとはごく普通の主婦だったそうなのですが(とはいえ話を聞く限り、非常に裕福そうな、セレブマダムなかほりがしました…)、更年期で体調を崩し、その改善のために乗馬を始めて、さらには自分で乗馬クラブの経営をし始め、けれどその運営が厳しくなって、最後の思い出に、とロシアに行ってアハルテケを見たらその魅力にとりつかれてしまい、世界的にも数が減少しているこの純血種を増やす活動に関わりたい!と燃え上がったんだそうなのです。なんと情熱的な…! で、全国あちこち土地を探して今のこの地にたどりつき、日本で唯一、アハルテケを生産・育成する牧場を作ってしまったそうなのです。もちろん国際アハルテケ協会の認可済み。ホント、すらりと美しい、小柄なマダムなんですけど、エネルギッシュで耀くオーラがもうものすごいのです。
「世界で最も美しい馬」、「黄金の馬」とも呼ばれるアハルテケとは、現存する世界最古の種のひとつと言われていて、中央アジア南西部のトルクメニスタン原産の馬だそうです。今では世界でも三千頭ほどしか飼育されていないのだとか。
 サラブレッドと比べると耳の形が細長く、短毛で、絹糸のような毛が密集しているため、太陽の光の当たり具合によってはイエローゴールドやシャンパンゴールド、あるいはピンクゴールドのような金色に耀いて見えるんだそうです。社長はまずは30頭まで増やすことを目標にがんばっていて、今は一日一組限定で牧場一日滞在コースを受け付けている他、乗馬レッスンやトレッキングをやっていて、馬を預託することもできるそうです。

 朝ごはんからコテージに戻ってひと息ついたのち、馬を放牧に出すので見学に、と呼ばれました。日が差して暖かく、けれど地面はまだ濡れてぐちゃぐちゃなので、馬着を着せたまま出すとすぐ寝転がって濡らして冷えて良くないだろう、ということで、脱がせて放牧することになり、私たちもその耀く馬体を拝むことができたのでした。
 厩舎の外に引き出されたアハルテケたちは慣れていて、綺麗に立って見せておとなしくポーズしてみせるのでした。もう大コーフンの撮影タイムでした。
 まだ低い朝日が横から当たると本当に金色でツルペカで、美しい! そして確かにサラともアラブとも違う体つき、顔つきなのでした。無駄な肉が全然なくて、筋肉が柔らかそうで、目つきがとても賢そう。だんだん飽きてくるとじりじり動き出して、ニンジンに簡単につられるのも可愛かったです。
 近寄ってツーショ(笑)の撮影もできました。そういう意味ではフツーの馬です。首や肩などペタペタ撫でてお近づきになり、頭絡に手をかけて、顔を近づけさせてもらいました。彼らにとっては毎度のことなのでしょう、ちゃんとカメラ目線のいいショットが撮れました。牧場スタッフさんも手慣れていて、スマホを渡すとめっちゃ連写してくれました。あとからベストショットが選びたい放題でした。
 その後、放牧場へ向かう馬たちについていきました。どの馬も放たれるとたーっと走ったあと、すぐにいわゆる砂浴びを始めるのですが、下はどろどろのぐちゃぐちゃなので要するに泥んこになり、金色も何もあったものではありません。でも、どの馬も楽しそう…痒いところがかけておちついたのか、満足するとすっくと立ち上がり、そしてあちこちさすらいつつむしゃむしゃ草を頬張り始めるのでした。
 馬を放つとスタッフさんたちは厩舎の掃除にかかり出したので、私たちはコテージに戻ってゆっくりと身支度しました。私は実家に一応取っておいたキュロット(乗馬ズボン)とチャップス(キュロットの上から膝下につけて、乗馬ブーツの代わりにするもの)、グローブを持ってきていました。キュロットはまだ入ることを確かめてきたのですが、チャップスのファスナーが古びていて固く、3人がかりでないと下がりませんでした…面目ない。ヘルメットは牧場のものをお借りして、日もだいぶ高くなってきたのでトレッキングに出てみましょう、とまずは丸馬場へ。お借りして乗るのは残念ながらサラブレッドです。
 ほぼ10年ぶりでしたが、乗れましたよ…鞍に自分の身体が持ち上げられるか不安なくらいだったんですけど、鞍に手をかけたらちゃんと思い出しました。馬はこれまた観光客を乗せることに慣れているようでしたが、その分、馬場の蹄跡から内に入ってショートカットして楽したがるので、なんとかしっかりコントロールに努めました。
 ひととおり慣れたところで、丸馬場を出て、ロングコースのトレッキングへ。とはいえ今日は下がぬかるんでいるので、常歩のみでのんびり行きましょう、となりました。私が先頭、友達の馬があと。それぞれにスタッフさんが一応付き添って歩いてくれました。
 放牧地を眺めながら、草ぼうぼうの脇の歩道をぽこぽこ歩いていき、いつしか小高い丘を登ったな、と思ったら、振り返ればまばゆい海と空でした。気持ちいーい! フォトスポットということでスタッフさんがまたまた激写してくれました。ここを走り回れたら確かに爽快だったでしょうが、なんせ景色がいいので十分満足です。その後はのんびり丘を下って、小一時間の外乗でした。
 これまでにも北海道の十勝や岩手や長野や千葉のあちこちで外乗をしてきましたが、コロナもあってそうしたサービスのある観光牧場は減ってきているようです。なので今となってはなかなか貴重な経験だったかも…
 ランチはコテージで、鯖サンドを中心に洋風でたっぷりのものをいただきました。
 その後はちょっと昼寝したり、厩舎や放牧地を見て回ったり。スタッフさんも作業のかたわら、あれこれ解説してくれたりととても親切でした。お天気が良くて、熱くも寒くもなく快適で、空気がきれいで、馬コンシャスでのんびり流れる時間にのんびり癒やされました。でもこれ、日本人っぽい感覚だそうですね。これも社長さんからうかがったお話ですが、海外の人は動物を見ると自分が癒やされるのではなく、動物をどう癒やしてあげるかをまず考えるんだそうです。動物との関わり方とか、考え方の違い、文化の違いを感じる話です。
 今の日本では馬はペットではないので、競走馬か観光馬車、乗馬・馬術競技が主な用途でしょう(この「用途」という言い方もアレですが、家畜とも言い切れないのでまた難しい…)。乗馬用としてきちんと生産、育成されているものはごく少なく、たいていがリタイアした競走馬です。動物園で見るような動物でもないし、普通の人にとってなかなかマイナーな存在なのでした。そうした中で、馬の幸せを考えてこうした仕事をしていくことは、意義はありますが大変なことでもあるでしょう。お客としてのんびりさせていただきましたが、何かできることがあればしたいな、とは少し考えました。それが何かはまだわからないけれど…

 夕方、シャワーを浴びて汗と埃を落として、街の格好に戻り、牧場をお暇して八戸駅まで戻り、レンタカーを返却して駅ビルで早めの夜ごはんをいただいて、東北新幹線は爆睡で帰京しました。

 是川縄文館にも興味があったのですが、定休日だったんですよねー。なのでまた季節を変えて行ってみたいなと思いました。これまた店休日が合わなかったのですが、地元の食材を使った小洒落たフレンチやイタリアンレストランもたくさんあるようでしたし、大きい方の朝市もやはり行ってみたいものです。日の出から朝9時くらいまで、という営業時間がすごいけど…!(笑)
 あとは、ハワイとかでホース・トレッキングがしたいです。実は行ったことないのです、ハワイ。ホノルルとかはあまり興味がないので、何島なんでしたっけ?火山とかの自然が多い、天文台があるような、そして牧場があって乗馬ができるような島がありますよね。そこに行きたいのです。
 自転車と同じでしばらく乗っていなくても跨がれば思い出して乗れる、という自信が今回ついたので、元気で体力があるうちに、またあちこちで乗馬したいな、などと軽率に思ったのでした。それくらい、本当に楽しい旅となりました。誘ってくれた友達に感謝!
 そして、アハルテケを初めとするすべての馬に、動物に、幸せを祈ります。


※インスタに写真を上げました(^^)。こちらこちら










コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『尺には尺を』『終わりよけ... | トップ | 『ビロクシー・ブルース』 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (でこかっぱ)
2023-11-16 06:08:23
アハルテケとはもしや「乙嫁語り」14巻に出てくる「テケ族の馬」ですか?
アミルさんが「あれは特別です」と言っていた最高の馬…
そうだと思います! (でこかっぱさんへ)
2023-11-18 00:33:45
あの作品に出てくるああした馬はサラブレッドともアラブとも違うように描かれているようで、
やはりあれくらいの時代のあのあたりの地方にはこうした馬がいて、
その中でも希少な存在だったのかな、と思います…!
機会があったら跨ってみたいものです、乗り味も違うそうなのですが、
感じられるかなあ…

●駒子●

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事