駒子の備忘録

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『ウーマン・イン・ブラック』

2024年06月16日 | 観劇記/タイトルあ行
 PARCO劇場、2024年6月12日18時。

 ヴィクトリア様式の小さな劇場。舞台に特別な装置やセットはなく、がらんとしている。そこへ中年の弁護士キップス(勝村政信)と若い俳優(向井理)が相次いで現れる。キップスには青年時代、家族や友人にも告白できないようなある呪われた体験があった。以来、その記憶のために悪夢に悩まされ、安らぎのない日々を送っていた。悩み抜いた末、キップスはこの忌まわしい記憶を家族に打ち明けようとする。あの怪奇な出来事を家族や身内の前で語ることによって、悪魔祓いに代え、呪縛から解放されようというのだ。その手助けに俳優を雇ったのだが…
 原作/スーザン・ヒル、脚色/スティーブン・マラトレット、演出/ロビン・ハーフォード、アントニー・イーデン、翻訳/小田島恒志。1987年イギリス・スカーバラ初演。日本では1992年の初演以来8回目の上演、全2幕。

 前回上演は2015年で、俳優役は岡田将生、キップスは同じく勝村政信だったそうです。タイトルは知っていて、『黒衣の女』も以前読んだことがあるようにも思いますが中身はまったく覚えておらず、ふたり芝居というのでおもしろそう、と出かけてきました。
 ふたりなんだし、休憩なし90分か2時間弱くらいの舞台かな?と思っていたら、しっかり2幕あって驚きでした。正確にはふたり芝居ではないのかもしれないけれど…でも台詞もアクションもふたりでずっと回すので、神経使うし体力的にもかなり大変な作品なのでは、と感じました。ただ、もちろん上手いふたりなので、安心して観られました。私はスプラッタはわりと平気ですがホラーは全然ダメなので、そういう部分については怖くてまあまあ涙目になりましたが、悲鳴を上げたりはせずにすみ、楽しく観ました。
 ただ、ミステリー部分については、だんだんことの顛末がわかってくると同時にお話のオチについても類推できるようになっていくので、トータルで観ると、これはもっとおもしろくできる演目なのではあるまいか?と私は思いました。権利関係が厳しいのかもしれませんが、一度日本人演出家でガッチリやってみたらどうなんでしょう…
 というのも、これは俳優が俳優を演じるタイプの芝居、作品なんですよね。ムカイリの「俳優」は当初は、キップスが自伝というか自作の回顧録? 日記、告白文? を読み上げるテクニックについて指導するのですが、まだるっこしい、となって、俳優が若き日のキップスを演じ、キップスはそれ以外の自伝の登場人物である地主とか管理人とか御者とかを演じ出すわけです。で、読むのはたどたどしかったキップスが、なりきり演技はものすごくて、だんだん劇中劇がそのまま回想になっていくというかなんというか…な構造になっています。いかにも舞台作品のギミック、という感じです。
 ただ、その過程で、キップスは語ることで肩の荷を下ろし回復していき、黒衣の女の呪いを俳優に押しつけてイチ抜けた、と去っていき、傲慢で上から目線だった俳優がキップスを演じるうちに自信を失いその呪いごと引き受けてしまって、今度は自分の家族に災厄が…というオチになる、はずにしては、その変化が描かれていなかった気がしたのでした。現実と演技の境目がなくなる、あるいは逆転するのがこういう作品の醍醐味なんじゃないの? そこが私には弱く見えて、アレッこれで終わり?という気がしてしまったのでした。これは演出とか演技指導の問題じゃないのかなあ。それとも私が穿って見過ぎ…?
 あとは、まあイギリスのゴーストとはこういうものなのである、と言われたらまあそうなんでしょうけれど、この黒衣の女の呪いというかなんというか、には節操がないというか際限がなさすぎて、これだとちょっと同情しづらいな、というのがちょうど観たばかりの『四谷怪談』のお岩さんとの違いかな、などと考えたりもしました。代わりの子供を殺しても自分の子供は帰らないのだし、、自分も救われたり癒やされたり気がすんだりしていないようだし、不幸な家族を増やすだけで虚しいどころか害悪だよね、という気しかしなかったのです。理屈っぽい人間ですみません…
 あとは(が多くてすみませんが)、もう一回り小さいハコでやるとより効果的だった気はします。客席登場の使い方なんかはホント上手いですよね。ザッツ演劇らしい演劇で、さすがイギリス作品なのかもしれません。
 数十年後、若い俳優を迎えてムカイリがキップスをやるときまでに、適度に中身を忘れてまた観たい、と思いました。かつて俳優をやっている西島秀俊も上川隆也も、そろそろキップス役ができそうですよね。そういうの、楽しいと思います。
 ところでプログラムのムカイリのスーツ姿の写真が素敵すぎますね…罪な男だぜ!












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