駒子の備忘録

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宝塚歌劇月組『Eternal Voice/Grande TAKARAZUKA110!』

2024年06月28日 | 観劇記/タイトルあ行
 宝塚大劇場、2024年4月5日13時。
 東京宝塚劇場、6月13日15時半(新公)、25日18時。

 ヴィクトリア女王統治下のイギリス。考古学者のユリウス(月城かなと)は、古美術商を営む叔父ジェームズ(凛城きら)に頼まれてアンティークハンターとして各地を飛び回る生活を送っていた。ある日、エディバラの鑑定即売会を訪れていたユリウスは、ひとりの男からスコットランド女王メアリー・スチュアート(白河りり)の遺品とされる首飾りを見せられ…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/玉麻尚一。月組トップコンビの退団公演となるミュージカル・ロマン。

 マイ初日雑感はこちら
 結局その後、東京では新公を先に観ることになってしまい、どれが誰の役だっけ、とか点呼しているうちにあっもうオチ?てかじゃあさっきのくだりがクライマックスだったってこと??と新鮮に驚いてしまい、そのあと観た本公演ではもっとおちついて観たつもりでしたが、しかし私はやっぱり全然ダメなのでした…
 なので、感動した! 超名作判定!! …という方はここまでで読むのをおやめくださいませ……
 ちなみにもちろん生徒さんにまったく罪はなく、完全にハリーの問題だと思っています。

 私は理屈っぽい人間なので、遺品に残る残留思念が読み取れるとかの特殊能力、あるいはいわゆる超常現象なるものに対しては全体に懐疑的です。非科学的だと思う。ただないという証明は難しいものだし、現実にできていないわけですよね。それにロマンとしてはあっていいとも思います。
 ただ、フィクションのモチーフとして扱うなら、明確なルールが必要だと思うのです。どういう条件でどんな能力がどう発動するのかを定めてほしい。でないと魔法や超能力と同じで能力者は無敵の人になってしまい、その力ですべて難なく解決できてしまうはずで、物語としてまったくおもしろくなくなってしまうからです。あと、観客とか読者とかはそうした能力を持たない一般人が大半だと思うので(まれに「わかる! 私のことだ! よくぞ描いてくれた!」って人がいるのかもしれませんが…)、自分とは関係のない、知らない星の人の話だ…となってしまわないよう、よりキャラクターに感情移入させる工夫が必要だと思います。
 主人公だから、ヒロインだから、トップスターが演じるキャラクターだから、観るのは宝塚歌劇のファンが大半だから、そのあたりは担保されているのかもしれません。でも、甘えないでほしい。少なくとも私は、もしかしたら意地悪すぎる見方をしているのかもしれませんが、ユリウスのこともアデーラのことも特に好きにはなれませんでした。どういう人間なのかはそれなりに描かれていたと思うけれど、あまりチャーミングに思えなかったのです。それでお話そのものにもノレなかったというのはあると思うけれど…もっと主役を好きになって応援する気持ちでお話を追えるよう、脚本や演出にきちんとお膳立てしてほしかったんですよね。望みすぎですか? でも、それって創作の基本では? 主役が嫌なヤツのお話なんてごまんとあるけれど、たいていは共感しやすい視点人物が他に置かれているものですが、今回のヴィクター(鳳月杏)やダシエル(風間柚乃)、カイ(礼華はる)がそれを担えていたとは思えません。というか要ります?この役、みたいな役しかなかったじゃん…もちろんそれが贔屓ならなんとしてでも萌えて観ていたかもしれないけれど、正直、今回、つらくないですか…?
 ユリウスはなんかオラついた男で、それは自分の特殊能力故の生きづらさにイラついていて、でも開き直って生きていくことにしているのでその虚勢なのかもしれないし、考古学だけでは食べていけないことにもイラついているのかもしれないけれど…いくられいこちゃんが素敵でも、ちょっと幼稚で、周りに甘えて当たっている、よくいるプチ傲慢な男性の典型にも思えて、私はなんか萌えませんでした。アデーラも、そうなる状況に追い込まれている、というのはわかるにしても、神経質でヒステリックな女性に見えて、またそれ以外の個性や特徴は特に描かれていないので、私にはなんか好きになるも何もなかったのでした。
 それは他のキャラクターも同様で、ジェームズ(凛城きら。東京でやっと観られた! お元気そうで何より)とアマラ(羽音みか)の謎のイチャつきとかもニヤニヤしないことはないんだけれど、それでなんなんだ?という気がしたし…エゼキエル(彩みちる)とマクシマス(彩海せら)も、あみちゃんの「もうやめよう、姉さん…!」みたいなのには萌えたんですが、結局なんだったの?という気しかしませんでした。てかアデーラが先祖の意志云々っていうなら彼女たちだってそうだったんでしょ? ヴィクトリア女王(梨花ますみ)を呪うのは筋違いだから叶わなかったんだ、ってこと? そんなのもっと早くわからないものなのか…? トリックスターにしてはエキセントリックすぎて、そしてそれなりに上手いみちるちゃんがいろいろかなぐり捨ててやっているのを観るのは、私はなんかホントしんどかったんですけど、やや考えすぎなんですかね…?
 有能で敏腕なしごでき女性エイデン(天紫珠李)と、その後輩でやはりやる気がある若い女性エレノア(花妃舞音)、ってのだけは、好みもあるけど響きました。ただ、話の本筋にはあまり関係ないキャラ立てだった気もしますけどね…あと、フツーならこのあたりを七城くんとかわかとかしゅりんぷに振ってもよかったんじゃないの?とも思うので、正直言って微妙なフェミ媚びに感じました。まあ次期トップ娘役にまあまあちゃんとした役を書いた、という意味では評価できるのかな…?(毎度上から目線ですみません)実質的に彼女の救出劇がお話のクライマックスになっているわけでもありますしね。ただ、そんなんでいいのか?ってのはあるけど…なんせ主役ふたりは彼女自身とはほとんど関わりがないようなものなので、今ひとつドラマチックに盛り上がらなかった気がするのです。
 それこそエイデンは家の都合によるユリウスの婚約者なんだけど、当人同士は全然その気がなくて…とかにしてアデーラ含めてちょっとこじらせたりしたほうが、もう少し何かのドラマが生まれたのでは…? なんでも色恋にすればいいということではなくて、人の感情が動くエピソードを作ってほしい、という意味です。だって昔のスコットランド女王の無念が云々言われても、大多数の人にはなんじゃソレ、ってなもんじゃないですか。イヤそれが国家元首の隠遁につながっていて政情不安で、ってのは国民としては大問題なんだろうけど、あの説明台詞ではその深刻さは上手く伝わっていないんじゃないでしょうか…てか「クイーン・オブ・スコッツ!」ってナニ? カッコいいから言わせてみた、みたいなの、やめたら…? ただでさえイングランドとスコットランドとかカトリックとプロテスタントとか、わかりづらいんだからさ…
 生徒さんはみんな脚本に書かれたことを上手く演じてみせていたと思うんですけれど、なんせその脚本がまたひどくて、「ル・サンク」を買っていたら私は5行に1回は赤入れしていそうな気がします。指示代名詞が何を指しているのかわかりにくい、省略された語尾や言葉が類推しづらい、掛け合いの意図がわかりづらいなどなど、問題山積だったと思います。実際の人間のしゃべり言葉や会話ってこうだよ、というんだとしても、芝居の台詞は現実とは違うものであるべきだし、ハリー節云々という味わい深さはあってもいいけど、無駄にわかりづらいんじゃ台無しじゃないですか。
 こういう引っかかりも全部飲み込んで、補完して、思い入れて観れば、味わい深いれこうみの関係性が楽しめて、なかなかいい佳作だったよ…みたいな評価になるのでしょうか。そこまで人間ができていなくて、すみません…という気持ちにはなっています。ホント申し訳ございません。

 前日に知人からお声がけいただいて、生で観劇できた東京新公についても、以下簡単に感想を。ちなみに最後のラインナップで正面がまのんたんのお席で、ホクホクでした私…
 ま、全体としてはハリー芝居はやはり下級生には難しかったかな、という印象でした。
 初主演コンビで、ユリウスは雅耀くん。前回の新公でおださんのところをやっていて、華がある若手キター!な印象はありました。確かに美形、でももちろんメイクはもっと洗練されていくことでしょう。立ち姿なんかも、登場時がズボンの皺とかがあまりにも美しくなくて、本役の着ている物をお直ししているから限界があるのは当然なんだけれど、とりあえずこういうこともスキル、場数、年季で、どんなに好素材でもそれだけでは舞台は務まらないものなんだなあぁ、と改めて痛感しました。歌も緊張もあってかけっこう怪しかったし、デュエットはどこをハモってるの?という微妙さでしたね…でも声は深くていいなと思いました。これは役者として武器ですよね。上手く育ててほしいなと思いました。
 アデーラは乃々れいあちゃん、組ファンには美人で知られた存在だそうですが私はほぼお初。確かにこちらも美形。まあソツなくやれていたのかな? でもこちらもまだまだ天然なだけの美でぷくぷくしていて、娘役として洗練されていくのはこれからだな、と感じました。のびのび育てー!
 それからするとヴィクターの七城雅くんはさすがおちついていました。主演経験者はやはり違うなあ…!
 あとはザンダー和真あさ乃くん、よかったです。上手い! 印象に残りました。
 わかのダシエルは…フツーだったかな…どうにも伸び悩んで見えるけど大丈夫かしらん…
 エイデンは俺たちのまのんたん、キリッと作れていて、よかったです!
 ジェームズまひろんは安定の上手さ。てかまだ新公内なの…!?
 エゼキエルはスーパーおはねタイムでした。しゅりんぷのマクシマスもなんせ顔が良くて、やっとわかりやすく目立つところがキタ!って感じでしたね。
 ヴィクトリア女王は私が大好きな静音ほたるちゃん、素敵でした。
 アンナ・クリフトンの美渦せいかとメアリー・スチュアートの咲彩いちごの歌声は圧巻。
 ハリエットの澪花えりさもクールでしごできで良きでした。
 あとはフィンレイの美颯りひとくん、顔がいい! 期待!!
 …そんなところかな……


 レビュー・アニバーサリーは作・演出/中村一徳。
 安定のBショーで舞台にいつも人が多く、銀橋にもいろんな生徒がバンバン出してもらっていて、娘役が銀橋にズラリなんて珍しい場面もあって、まあフツーに楽しかったです。目新しさはまったくなかったですけどね…れいこちゃんセンターの荒城の月くらい?
 大劇場では初舞台生ロケットだったところが東京では多少構成が変わって、スーパーおださんタイムになっていたのも良きでした。イヤすごいよホント、大スターさまだよ…!
 我らがまのんたんは2列目の一番端っこ、みたいな立ち位置が多く、2階席からの方が被りなく見えたかな…とも思いましたが、どの場面でもくるくる表情変えて良きだったので満足です。マスカレードの扱いなんかは良くて、もっと起用してくださってかまわないんですのよ?のキモチ…あー今から『BLUFF』が楽しみすぎます!!
 この期に及んでやっばりみちるあましシンメってなんなんだ、とは思いますが、次代も楽しみです。
 れこうみもご卒業、おめでとうございます。まあいろいろ思うところはありますが…私はくらげちゃんはひらめのように先にやめてくれるものとばかり思っていたのですけれど、当人は自己評価が低いタイプなのか、全然満足できず、なので結局同時退団となったようですね。なんなら残ってまだやりたい、突き詰めたい、くらいすらあったのかなとも思いますもんね…なんとも不思議なコンビでした。まあれいこちゃんは安心できる相手でよかったのかな。個人的には、違う相手役とも組んでより新しい顔を見せてくれていたら…とも思いますけれどね。
 2番手に関しても、結局変わらないままでしたしね…まとぶんも大空さんからえりたんになって、珠城さんもみやちゃんかられいこちゃんになって、こっちゃんも愛ちゃんからせおっちになって…やっぱりのびのびしたと思うんですよね、やっぱり上級生2番手って変則的なんですよ。なんなら珠城さんのあとちなくらげだってよかったんじゃないの?とすらも思いますけれど、まあこういうたらればは言っても仕方ないんでしょうし、劇団はそもそもレールを敷くのが下手でかつ事が敷いたレールどおりに進むとは限らないんだから、もう仕方がないですね。私はれいこちゃんのお芝居は好きなので、芸能のお仕事を続けてくれたら嬉しいです。まあその美貌を活かして、ただのめっちゃ綺麗なお姉さん、になって生きていく…というのもアリなのでしょうが…
 まずは七夕まで、どうぞご安全に。そしてそのあとは少しゆっくりのんびりしてください。組子と組ファンのご多幸をお祈りしています。







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