駒子の備忘録

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宝塚歌劇星組『夜明けの光芒』

2024年06月20日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 シアター・ドラマシティ、2024年6月3日15時(初日)。
 東京建物Brillia HALL、6月18時15時。

 19世紀初頭のイギリス、テムズ川河口近くの片田舎。幼くして両親を失ったピップ(暁千星、少年時代は藍羽ひより)は唯一の身寄りである姉ジョージアナ(澪乃桜季)と、その夫である心優しき鍛冶屋のジョー(美稀千種)とともに暮らしていた。近所の大邸宅サティス荘の女主人ミス・ハヴィシャム(七星美妃)は養女エステラ(瑠璃花夏、少女時代は乙花菜乃)の遊び相手として、週に一度ピップを屋敷に招いていたが…
 脚本・演出/鈴木圭、作曲・編曲/吉田優子。チャールズ・ディケンズ『大いなる遺産』を原作にしたミュージカル・ロマン、全2幕。

 私は原作小説は未読、月組版もスカステでも見たことがないと思います。Kスズキ、生きていたのか…など思ったりもしましたが、ともあれ観てみなくては語れないからな、と初日からいそいそと出かけてきました。なんか孤児が見知らぬ誰かから遺産を相続することになって…みたいな話らしい、とは聞いていて、まあベタに考えれば舞い上がって転落するようなお話なのかな?くらいの想像で席につきました。なのでわりとまっさらな状態で観ましたし、どう進むお話なんだろう?とかなり興味深く観ました。
 で、結果として、私はとてもおもしろく観ましたし、おちついてブリリアで観てもなかなかいい作品なのではないか、と確信を深めました。というかブリリアへのサイズアップが正解だった気がします。それくらいのスケールはある作品ですよね。ありちゃんものびのびやっていたし、広い空間を2階席まで楽々と掌握していたと思いました。
 もちろんディケンズ様々でキャラクターやストーリーがまずおもしろい、というのはあるかと思いますが、演出の手腕もなかなかよかったように思います。恋敵のドラムル(天飛華音)を演じるかのんくんにもう一役「闇」という役を与えて、これが主人公と光と影になるような、あるいはダーク・ピップとも言えるような存在として働かせる…というアイディア自体は目新しいものではないと思いますが、なんせかのんくんがバッチリ機能していて素晴らしかったですし、闇ダンサー男女のナンバーもとてもよかったです。生徒の起用を増やすためもあるとはいえ、少年ピップのひよりんと少女エステラのなのたんがまた抜群に上手くて、素晴らしく機能した、というのもあります。簡素ながらいろいろ形を変えるセット(装置/稲生英介)もよく工夫されていましたし、時代を反映したお衣装(衣装/植村麻衣子、衣装監修/有村淳)もとてもよかったです。主題歌は私にはやや凡庸に聞こえて、ありちゃんの特に芸のない声で二度もただまっすぐ歌われるとちょっと恥ずかしいくらいでしたが、ルリハナがスキャットのように歌うリブライズは素晴らしかったです。脚本もちょいちょい言葉が足りないように思われなくもなかったけれど、目をつぶれる範囲でしたし(毎度上から目線で申し訳ない)、本当に良い仕上がりだったように思います。
 一幕が、風呂敷を広げただけのお話の序盤で終わったように感じ、二幕は逆にぎゅうぎゅうのてんこ盛りでかえって観客の気持ちがついていききれず中だるみすら感じないこともない…という、やや困ったナゾ緩急はあったかなと思いますが、たっぷりのフィナーレもあって、やはり総じてよかったんじゃないかと思います。期待しすぎていなかったせいなのか(すんません…)私はすごく満足度が高かったです。
 一幕ラストの、暗転や時計の音が入るのや客電がつくのや休憩アナウンスが入るタイミングが、ブリリア公演では上手く調整されていたのもよかったです。まあリピーターが良きところで上手く拍手を入れる効果もあるとは思いますが、初日は段取りが良くなくて観客もとまどっていたので…そういう気まずい思いをお客にさせてはいけません。
 要するにザッツ・ディケンズなビルドゥングス・ロマンですが、なんというか「大人のお伽話」的な部分もあると思うので、『BIG FISH』とはまた違った意味で宝塚歌劇と相性がいいんだろうな、とも感じました。ファンタジーを成立させる力が、宝塚歌劇にはあるんですよねえ…! また、私はありちゃんのことは特に好きでも嫌いでもないのかもしれない…とか思っていたのですが、今回、やはり真ん中に置くのになんの遜色もないしむしろ引き立つし、リアル男優が演じるピップには「ケッ」と言っていたろうけどありちゃんピップだと多少愚かでも薄情でもしょうもなくても許せちゃうんだな、とか感じ、改めて男役の魔法のすごさ、スターの魅力、ありちゃんの持ち味やパワーといったものを考えさせられました。それはエステラもそうで、これはずいぶんと難しいヒロイン役だと思うのですが、やはり綺麗なだけの女優さんにツンケン演じられたら「ケッ」と思いそうだな…と感じました。イヤしかしルリハナは素晴らしかったなホント! このカップルの相乗効果もあり、ノーストレスで楽しく観られた、というのも大きかったのかもしれません。
 好みで言えば『ブエノスアイレスの風』が好きだけれど、ニンだったかと言われると…とも思うし今となれば若干まだあっぷあっぷしていたようにも思うので、今回はありちゃんはいい主演作を引き当てた、ということなのではないでしょうか。てか宝塚歌劇はこういう文芸路線ももっとちゃんとやるべきですよね。いい企画がいい座組で出来て、何よりでした。

 というわけでありちゃんピップ、よかったです。童顔で長身の超絶スタイルが、鍛冶屋エプロンからフロックコートまで似合いまくっちゃってたまりませんでしたし、ある意味で等身大の青年を屈託なく丁寧に演じていて、素敵でした。そしてラストのチューね! アレにはもう「あっ、同意取ってない!」とかつっこめませんよね、はーきゅんきゅんした!
 ルリハナのヒロインもホント素敵で、まず登場の赤いドレス姿の艶やかさったら! 顎も首も肩も背中も素晴らしく美しく、洗練されていました。深みのある声がミステリアスで役に合っていたし、そう育てられてしまった、という悲しみがにじみ出てからのお芝居もとてもよかったです。フィナーレのデュエダンもとても良きでした。うたちとは持っている手札がほぼ同じだと思うので、あとはこっちゃんの好みで決まるんでしょうか…ぐうぅ、ふたりとも好きなだけにつらいわ…!
 そしてかのんくんがホントよかった、なんでもできるのは知っていたけどホント上手かったです。一度バウ主演してからの別箱2番手、飛躍しますよね…! あとは補正か、もうひと息下半身が痩せるといいのかな…タッパがないのでありかりんに並んでいくとなると見せ方を工夫しないとね、とは案じています。
 3番手格はつんつんなのかな、これがまた上手いんですよね…! これは単にニンでやっているんじゃないと思います。こちらも華はあれどタッパがないからそこは心配ですが、次のバウ主演候補になっていくんだろうから(同期の大希くんとどうするんだ問題もありますが)、期待しかありません。
 オレキザキや朝水パイセンが頼れるのもデカい。りらたん、澪乃ちゃんの手堅さ、七星ちゃんのなかなかな冒険もハマりました。そしてビディ(綾音美蘭)ですよ! 私は初日はビディエンドなのか!?と思ったくらいでした。なのでジョーとの結婚についても初日はちょっと驚きと笑いのさざ波が客席に広がっちゃってましたけど、そこから調整してきたと思うんですよね。ジョージアナに近いくらいの年上のおちついた女性で、ピップのことが好きではあったんだろうけれど、もっと親身になってくれていたタイプで、だからジョーの後添いに納まるのも納得…というふうに、上手く持っていっていたと思いました。可愛いダンサーだけでなく、演技も出来るんだよ!となればこれから起用も増えていくでしょうから、楽しみです。
 そしてひよりんとなのたんのしごできっぷり…! 単なる子役ではない、がっつりお芝居パートを担当する存在として光っていました。パレードは最初に出てきて最後までふたりで真ん中でキャッキャしていて、実に良きでした。なのたんはお歌もよかった…! 実は、子役かー…とちょっとしょぼんとしていたのですが、蓋を開けたら出番も多いし歌も演技も見せ場があってしかもとてもいいし、フィナーレの闇の女ではバリバリ踊っていてサイコーだしで、ファンとしては舞い上がったのでした(//o//)。
 フィナーレはデュエダン、かのんくんセンターの群舞、そしてありちゃんのソロという贅沢仕様でした。このソロダンスがまた圧巻で、でも単に身体が利くネー、みたいなだけじゃない情感がある踊りなのがとてもよかったです。そしてこの尺、場が保つんだからホントたいしたものです…!
 わりと短い公演期間ですが、愛される作品に仕上がってよかったです。
 なのでなおさら、次の本公演、頼むよ…!というキモチです……










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