駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『ロジェ/ロック・オン!』

2010年09月08日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 東京宝塚劇場、2010年8月26日マチネ、31日マチネ。

 第二次世界大戦も終盤を迎えようとしている頃、ある一家が突然、何者かによって襲われた。唯一生き残った少年ロジェ・ジャルダンは、目の前で両親と妹の命を奪った男に復讐するために生きることを誓う。そして終戦から二十数年…未だ裁かれずにいる戦犯たちは世界中を逃げ回っていた。戦犯たちが逃亡し続けられるのは、彼らに手を貸す組織が存在するからである。戦犯逃亡組織の全容を解明すれば、家族を殺害した犯人・シュミットにたどり着けると考えたロジェ(水夏希)は、インターポールの刑事となり、ひたすら調査を続けていたが…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城。

 私が宝塚歌劇を観始めたときの雪組トップスターはイチロさんでしたが、最初から何故かずっと、愛が一番ない組でした…
 全組全公演できるだけ一度は観て、あちこちにそれなりにお気に入りも作って…なのに一番マイ・スターがいないままの組なのですよ。
 トップで言うと、ユキちゃん・ブンちゃんはわりと好きだったんだけれど、短命だったしね…
 今も、はりきって好きなのはコマくらいなんですね。チギは格好いいとは思うけれど、好みとはちがくて積極的に好きという感じはしない。ヒロミも好きなんだけれど、とにかく公演にあまり通っていないので、いい役をやっているのを見たことがない。キタロウにもトークなんかには好感を持っているのですが、舞台の上ではまだぴんとこない。キムの笑顔がずっと好きなんですが、これまた舞台の役で感動させられたことはない。娘役ちゃんにいたっては、まひるがちょっと好きだったくらいかな…? あ、さかのぼってグンちゃんがトップだったこともあったか。彼女は好きでした。
 今公演で卒業のミズ先輩も、好きでも嫌いでもないんですよ。そんなテンションで見るな、と言われればそれまでなんですけれど…


 暗いとかしんどいとかの前評判は聞きつつも、まあなるべくフラットに観たつもりです。私、正塚作品、嫌いじゃないし。
 しかし、ねえ…


 キャラクターに愛嬌が感じられなさ過ぎ、というか…
 その役を演じるスターのファンにとっては、その役を愛することは当たり前なのかもしれないけれど、役のキャラクターとしての魅力が演じるスターの魅力におんぶにだっこでは、ファンでない観客にとっては当然しんどいわけです。
 もっと、ロジェ自身に愛嬌、可愛気が欲しい。そういう演出をしてほしい、台詞を書いてほしい、エピソードを作ってほしいです。
 そりゃ家族を殺されてつらいのはわかるよ、復讐したい気持ちだってわかるよ。でも普通の人はそのあと二十数年間もただただそのことだけを考えて生きてこられるわけじゃないから、ロジェにはやっぱり共感しづらい。
 そのハードルを越える魅力を役に作らないと、観客は彼にうまく感情移入できず、結果、彼のドラマが他人事にしか感じられず、感動もカタルシスも感じられないままに終演を迎えてしまうことになるのですよ…
 少なくとも一見では私はそうでしたよ。
 ミズの独特の声と滑舌の問題もあって、台詞が聞き取りにくかったり、ただキンキン叫んだりキリキリしているだけのイラチな男に見えて、なんだか全然わかんないわけですよ。
 せっかくマキシム(沙央くらま)とかリオン(音月桂)とかの同僚を置いていて、そこには明るいキャラクターを与えているのに、うまくロジェに響いてこないんですね。彼らがあれだけ懐いたり心配するくらいには魅力ある人、という見せ方もできていない。
 これではなあ…

 ストーリーよりドラマより、まずキャラクターを描くものなんですよ、物語って。

 もっとキャラを立てて、その上で戦争とか復讐とか正義とかに対する考え方やスタンスの差をロジェ、レア(愛原実花)、リオンに出させて、それがうまく対比され絡み合い影響しあうような構造になると、もっとおもしろかったのにな…

 たとえばロジェは復讐のために、復讐する相手を捜し出し追いつめるために刑事になったわけですが、リオンは対照的で、誘拐された妹を救出してくれた刑事にあこがれて、ヒーローになりたくて、前向きに刑事になったわけです。
 この対比はおもしろい。
 だから最後の最後にシュミット(緒月遠麻)の潜伏先を割り出したとき、リオンは逮捕に向かおうとするのに(いやホントはそんな台詞はないんですけどね)、ロジェは刑事であることを捨ててただ復讐のために、相手を殺すためにそこへ行こうとする。だからリオンはそれを止める。裁くことは刑事の仕事ではないし、血で血を洗っても誰も帰らないし、ロジェが傷つくだけだし、何より殺人犯として追われる身になってしまうし、もしそれを追う任務が自分に課せられたりなんかしたら、リオンは泣いちゃうからです(^^;)。

 ロジェは、でも、リオンに一応は説明し、謝ってから、行きました。
 全然無視して何も言わずに行ってしまうこともできたわけだけれど、彼なりに誠意はあって、そうしたのです。このあたりのドラマも、もっと際だつはずなんだけれどなあ。

 さらに言えば、正塚作品はクールでドライな肌触りが特徴なんだけれど、だからこそ奇異にも見える突出したスキンシップ・シーンが入ることが多く、男同士の友情だったりじゃれあいだったり馴れ合いだったりするのですが、当然観客の心を揺さぶる要素です(^^)。
 リオンがロジェの過去を知りたがったり、ロジェがそうさにリオンを同行させたがったり、置いていくために手錠をかけたりのふれあいシーン(笑)も、もっともっと効いてくるのになあ…

 一方、戦犯を追うヴィーゼンタール機関の調査員レア・コーエンはユダヤ人で強制収容所からなんとか生還した両親を持つものの、自身は戦後生まれで戦争を直接には知らない世代、とされています。
 それでも今なお両親は戦争の記憶にさいなまれ苦しんでいて、彼らをそんな目に遭わせた者たちがのうのうと逃げ延びていることに義憤を感じ、働いている。
 彼女が戦犯を追う理由は、理屈っぽくもあり、でも感情的でもある。そしてロジェとはまた温度が違う。
 そしてロジェがシュミットを追いつめたとき、彼こそが強制収容所で所長の命令に背いて収容者を解放した男だったと知るのです(ホントはそんな展開じゃないけど)。その意味ではシュミットはれあの両親の恩人なのです。だけどロジェにとっては復讐の対象なのです。そのねじれ。このドラマももっともっと際だつよう描けたはずです。

 シュミットがロジェの家族を殺したのは、事故のようなものだった。
 彼はいつか残された少年が自分を殺しにくることを予感し、その予感におびえながらも、自分で命を絶つこともできず(ホントはそんなことは言われてもいませんが)、罪滅ぼしというのでもないけれど、そもそも持っている技能を生かして地域の人に医療を施し、感謝されて生きている。
 彼に救われた人間、命を助けられた人間は、彼が殺してしまった人間の数よりおそらくはるかに多い。もちろん人の命は数の問題ではないが、しかし…

 ロジェがシュミットに銃を向け、シュミットもまたロジェに「撃て」という、そんな状況ではたして本当にロジェは引き金を引いてしまうのか、どうなのか…もっと緊迫し盛り上がりせつなくなる演出が、できたはずなんだけれどなあ…


 ロマンスが弱い、どころかない、のは、もう言っても詮無いからいいや。

 でもたとえばヤコブ(彩那音)はレアを好きだったりするんじゃないの?とか、ドミニク(愛加あゆ)はいつもイライラしていて人の顔を見もしないご主人なんかより、いつもニコニコして彼を迎えにくるマキシムに惹かれていたりすることにしてもいいんじゃないの?とか、マリア(舞羽美海)はもちろんシュミットが好きだったんだろうけど、シュミツトのところにちょくちょく来る危険な香りのする怪しい男クラウス(早霧せいな)に惹かれたりもしていてそんな自分を戒めているんじゃないの?とか、クロード(真波そら)って実はリオン好きでしょ(!)とか、いろいろできるはずなんですよ。
 人間がきちんと描かれていれば、そこに通う感情がもっともっと見えてくるはずで、自然と培養されてしまって、さらに困った観客が妄想してしまって…と展開できるものなのに…
 なのに、カスカスだもんなあ…

 もったいないよ…


 ショー『ロック・オン!』は作・演出/三木章雄。Rock onとLock onをかけているわけですね。
 出色はなんといってもプロローグ。セリの使い方が上手くて、次々現れるロックスター男たちのかっこよさにヤラれました。客席下りも豪華で、観客もみんな大喜びで…ミズがずっとずっと推進してきた「客席参加型」ショーの集大成シーンでしたね。
 私は二度目の観劇時、上手ハジの最前列だったのですが、ヒロミの真ん前ポジションで、目が離せなくなり見つめたまま手拍子していたら、その手をそっと包んで笑ってくれました! 恋に落ちたよ!!(爆)
 その後もずっと好きなコマとヒロミばかり見ていました(^^;)。
 第3場のオペラ座も素敵。アリアのミナコのドレスをせっせと脱がすミズのドリーマーがいい。影の男ではキタロウとそらくんにやっぱり目がいきました。
 第5場のショータイムは二度の観劇で両パターンが見られた果報者でした。ラテンの方が好みかな? 特に銀橋でキムがミナコと絡むのがよかった。トップコンビがいつもくんで二番手男役は二番手格の娘役と組む…というのもいいけれど、私は宝塚歌劇の基本はトップトリオの三角関係にあると思っているので、トップ娘役と二番手男役が絡むのもイイと思うのですよ。
 第6場のラビリンスでは、最後にひとり舞台に残ってのびのび踊る月の王のミズが印象的。大劇場千秋楽の挨拶で、昔はひとりで舞台にいることが怖かったけれど、今はリラックスしすぎて自分の家みたい…みたいなことを言っていましたが、まさしくそんな感じでなんの気負いも気兼ねもなくただただ楽しそうに踊っていました。そんな境地に至れたからこそ卒業なのだ、と思うと本当に泣けてきます…
 極楽鳥のロケットはもちろんそらくんメインで。
 そして第7場の黒燕尾、音楽は変わったロックで難しいんだけど、ダンスはびしっと決めて、さすが水先輩の教育が行き届いた男役40名です。見惚れました。


 「歌劇」9月号のサヨナラ特集はとてもよかった。
 大野先生の「送る言葉」にはニヤニヤさせられたし、生徒たちからのコメントはどアタマがユウヒからで
「水は最初からキレイなフォームで全速力で走っていました。ぼんやり宝塚人生を歩いていた私は、いつも水の切れ味のある走りを尊敬していたよ」
 から始まっていて「ホントにもう!」でした。
 後輩から愛され尊敬されている様子が伝わってきて、本当に素晴らしいタカラジェンヌだったんだろうと思います。
 ちなみにまりもみなこ対談も萌え萌えでした…!


 今週末、ご卒業ですね。
 おめでとうございます。


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