駒子の備忘録

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韓流侃々諤々neo 11『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』

2024年07月07日 | 日記
 2018年tvN、全16話。 BSJapanextで全27話で見ました。原題は『私のおじさん(ナエ アジョッシ)」で、「マイ・ディア~」みたいなのは言わずもがなの邦題でしょうかね。英題としてもともとついていたのかもしれません。
 主人公はイ・ソンギュン演じるパク・ドンフン。私が韓ドラに一番ハマって見ていたころはええ声のお兄さんな俳優さんでしたが、今や立派なええ声の中年俳優に…(笑)建築関係の、デザインとかより強度設計とかが専門の、仕事ができて真面目で寡黙で地味だけど周りからも慕われている、優しくて我慢強くて弱音を吐くのが下手で、強がるのとは違うけれど甘え下手で、自分が損しがちな優等生タイプのサラリーマンです。庶民的な、というかもっと言うと貧しい町の出身で、老母と兄と弟がいてみんなうだつが上がっていません。妻は美人で有能そうな弁護士で、子供は海外留学させていて、そういう意味では勝ち組で地元の期待の星なんだろうけれど、ちょっと虚無…という境遇でしょうか。カットがあるのかそういう演出なのか、細かい経緯がけっこう語られないままに話がぐいぐい進むのですが、時系列的には、妻の大学の同期生で自分からしたら後輩の男ト・ジュニョン(キム・ヨンミン)が縁戚の関係か会社の社長に就任してきて、自分はミスもしていないのにいきなり左遷され、さらに親しい先輩が常務に選出されそうなところを社内政治の陰謀に巻き込まれて…という感じ。会社の会長はいい人だけれど療養中で、世襲させるような子供がなく、社内人事も割れて荒れているのでした。
 ヒロインのイ・ジアンはドンフンの職場の派遣社員。演じるIUは「国民の妹」と称される大人気のシンガーソングライターだそうですね。笑うと可愛いし、綺麗にしたらめっちゃ綺麗なんだろうなあ。でも今回は二十歳そこそこの、仕事はできるけれど無表情で無愛想で…という役どころ。両親はなく、聴覚障害がある祖母を介護していて、他にもバイトを掛け持ちしている極貧少女です。結局のところどういう関係なのかよくわからなかったのですが、家庭内暴力?をふるいまくっていた男を祖母を庇って刺し殺し、しかし未成年だし相手が悪いし正当防衛だし…みたいなことで不起訴とされた過去があります。照会されても公式には出てこないし、履歴書なんかにも書かなくていいものではあるのですが、人の口に戸は立てられません。そして殺された男の息子に、借金取り兼嫌がらせ復讐のようにつきまとわれている…
 実は社長のジュニョンはドンフンの妻カン・ユニ(イ・ジア)と不倫していて、それもあってドンフンを社から追い出したくて仕方がないのでした。しかしそもそもでは彼らは学生時代に恋人同士でドンフンの方があとから割って入った形だったのか?などは全然説明されません。子供を留学に出し、お互い仕事に忙しく、というか夫が実家べったりでユニも寂しかったのかもしれないけれど、どんな経緯で、どの程度本気でジュニョンとつきあい出したのかもけっこう謎です。ラブラブなときは、上手く夫と別れて再婚するつもりでいたようですが…
 で、ジュニョンが会社からドンフンを追い出そうとする工作に、謝礼欲しさでジアンが裏で動き出すのですが…というような顛末の物語です。
 まあ、なんというか、ホントしょっぱいんですよ。脚本も演出もものすごく絶妙に上手い。ジアンのつらい境遇とか、ドンフンのしんどい境遇とか、周りのキャラたちの配置とか、細かいエピソードも本当に上手い。そしてせつない、どうにもならない。ジアンはお金のために動いているようで、だんだんドンフンの優しさにほだされてきて、逆にジュニョンから彼を守るようなことすらする。自分が何に巻き込まれているのかわかってきたドンフンも、やがて妻の浮気を知り、なけなしのプライドを傷つけられて追い込まれていく…
 ひとつベッドに眠っているのか謎だし、仕事の忙しさや兄弟との呑みにかまけて妻と向き合っていなかったのは本当でしょう。でも愛していたし、年月が経てば夫婦なんてこんなもの、と甘えてもいたのでしょう。でも浮気相手が、自分を見透かしたように鼻で笑ういけすかない後輩で、かつ今は一応上司で社長…つらくないわけありません、怒り狂って当然です。でもじゃあ熨斗付けて譲ってやるよ、とも言えない。彼女は可愛い息子の良き母親でもあるからです。周りからもできすぎた嫁をもらったと思われている…この八方ふさがり感!
 一方でジアンも、手を差し伸べてくれた人が今までもいなかったわけではないんだけれど、たいてい一、二回の好意を見せただけで去ってしまうし、行政のケアからもこぼれ落ちているし、地力で、強かに知恵を使って、犯罪ギリギリのことでもなんでもして食べていかなければならない。そのためには利用できるものはなんでもする、けれど全然幸せになれない…蟻地獄のようなつらさが本当にしんどくて、ピカレスク・ロマンなんかでは全然ない。でも、騙そう、引っかけようとしている中年男の思わぬ優しさ、頼もしさに、心が揺れてしまう…告白しても、ハニー・トラップにしかならないのに。むしろそんなスキャンダルも捏造しようとして、思いとどまったのに…
 はー、しょっぱい、しんどい、せつない。数回目からは毎日見ていて、たまにゴルフ中継とかで放送が飛ぶと嘆き悲しみましたよ私…ちょっと『ごめん、愛してる』を見ていたときと似た感覚でしょうか。ゴールが見えなくて、悲劇の予感しかなくて、やめてやめてがんばってみんな幸せになって…!と祈りながら見ました。
 ベタだけど、できすぎなようだけれど、解決されず棚上げなままの問題もあるけれど、綺麗なラストでよかったです。優しくしてくれた人への恩返し、意地悪してきた人への意趣返しは、「幸せになること」。どんな喪失の痛みにも日にち薬は効くのです。そうやって前を向いて、笑えるようになって、だから再会できた。ここからもう一度連絡を取って、今度はジアンがドンフンにおごって、それで何かが始まるのかはまた別の物語です。実際、ドンフンはユニとは離婚していないようで、子供もいるしこれからも離婚しないのでしょう。そしてもうジアンにももう別の誰かがいるのかもしれない。年齢差も二十以上あるし、あのほのかな恋心は当時の追いつめられた状況が見せた幻だったのかもしれない、し、そうでないかもしれない。本当に本気の恋が芽生えかけていたのかもしれない。でもそういうのも全部、また別のお話で、このお話は、ふたりが再会して、別れて、終わり。お互い振り返るけれど、タイミングがズレてふたりとも相手の背中を見送っている。でも、笑顔を浮かべている。それでいい、そういうラストでした。
 はー、よかった。満足です。良きものを見ました。








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