駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『裏表太閤記』

2024年07月09日 | 観劇記/タイトルあ行
 歌舞伎座、2024年7月6日16時半(七月大歌舞伎夜の部)。

 大和国信貫山にある松永弾正(市川中車)の館を、織田信長(板東彦三郎)軍の使者である多岐川一益(松本錦吾)、服部弥兵衛(大谷廣太郎)が信長の御諚を告げに訪れる。弾正は主君や先の将軍を攻め滅ぼし、東大寺大仏殿を焼き討ちにする大罪を犯していたが…
 脚本/奈河彰輔、演出・振付/藤間勘十郎。1981年明治座初演、全3幕。

 三世市川猿之助(二世猿翁)は埋もれていた狂言の再創造に熱心で、これもそのひとつなんだとか。近松門左衛門の『本朝三国志』始め、上演の機会が少ない先行の「太閤記もの」の数々をつなぎ合わせて、初演は一日がかりの通し狂言として上演されたんだそうです。羽柴秀吉(松本幸四郎)の活躍の物語を表、明智光秀(尾上松也)たちの悲劇の物語を裏、とする趣向だそうです。
 大河ドラマや歴史小説なんかでこのあたりの史実はひととおり知っているつもりだし、宣伝ビジュアルはポップだし、通しだし、最近の新作だし(二百年物がざらにある世界では43年ぶりの再演なんて「最近」なのだということが、私にもわかってきました…)、私でもわかるはず、楽しめるはず…とチケットを取って出かけてきました。
 今回は夜の部のみでの上演なので、大幅なカットや補綴がされたそうですが…でも、あたりまえですが完全新作スーパー歌舞伎ではないので古典寄りでしたし、澤瀉屋が指向するスピード、ストーリー、スペクタクルの「3S」からするとちょっともの足りなかったかな…というのが、私の率直な感想です。ま、期待しすぎちゃったのかもしれませんが…これでもド古典よりはかなりスピーディーらしいんですけどね。
 でも光秀が松也で秀吉が幸四郎ったって、幸四郎さんは二役の鈴木喜多頭重成の方が出番が多いくらいだし(イヤこの人はさらに孫悟空もやるんですけどね…)、光秀の妹・お通(尾上右近)が信忠(板東巳之助)に縁づいていて…ってドラマもあるのになんか中途半端で、「通し」感がないな、と感じてしまったんですよね。せっかくの裏表の趣向が生きていないというか。
 いろんな作品からの名場面ピックアップ・ダイジェストになっているので、くわしい人は前後も補完して観られるのでしょうが、私は素人だからピックアップの仕方が良くないように感じられるわけです。話がつながってないじゃん、通ってないじゃん…と思ってしまう。ひとつひとつの場面はちゃんとドラマがあって、おもしろく観たんですけどね。「馬盥」とか、歌舞伎ってホントこーいうの上手いよな、とか思ったので。あと歌舞伎あるあるすぎる生首ネタとかね。
 でもさー、みのさまが素敵だったし、むずがる赤ん坊に薙刀キラキラさせてあやすお通、ってのがめっちゃ素敵だったので、こーいうキャラたちを生かさんでどーする、って気がしちゃったんですよね。彼らと鈴木親子のドラマは重ならないんだしさ。もっとちゃんと関わり合いつつ綺麗に流れるお話は作れるでしょ、と思ってしまった…
 本水チャンバラとか、楽しくていいんですけどね。ホント、歌舞伎の本質って別に高尚な芸術とかじゃなくて、お客を驚かせてナンボ、喜ばせてナンボなんだよね、というのも最近やっとわかるようになってきました。だから猿だから、というだけで夢オチで『孫悟空』がぶっこめる。そして大詰ラストは大坂城大広間で五人の華やかな三番叟フィナーレでオチる。わかるし楽しいし艶やかでうっかり満足しちゃうんだけれど、そもそも私が観たかったものとは違ったな…とは感じてしまったのでした。
 弟橘姫ネタはたまたまだったのかしらん? メインのお役が鈴木孫市(市川染五郎)だった染五郎くんはますます素敵でした。












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