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「富士日記」 39 (旧)八月十一日(つづき)、十二日

(墓地から見える富士山)

お彼岸で、女房の実家のお墓参りに行った。見上げて気付いたら、千葉山の陰から、富士山が顔をのぞかせていた。当地の旧五和村からは、山に登らないと富士山は見えない。ちょうど千葉山の陰に入るからである。最近、伊勢の義姉さんの葬式に参列して、そろそろ自分も墓地を手配して置かなければと、思い掛けていたところで、富士山が見えるなら、この墓地もいいかなと思った。曹洞宗観勝寺の墓地である。

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「富士日記」の解読を続ける。

酉の時を限るものから、暫しはなど呟けど、軍防令に、凡そ辺城の門は、遅く開きて、早く閉じよ、とやらん見えたれば、関守を恨むべくも無し。
(原注 関市令にも、凡そ関門は日の出に開き、日の入に閉ず、と見えたり。)

術なくて、関の此方に人々宿りとる。入り日を招くことは難(かた)ければ、今宵、つとめて(早朝)鳥の空音をこそなど、言いしろいつゝ枕を取る。
(原注 源氏、橋姫巻に、入り日を返す撥(ばち)こそありけれ。)
(原注 淮南子覧冥訓に云う、魯陽公、韓と難を構う。戦い酣(たけなわ)にして日暮る。戈(か)を援(ひ)きて、これを撝(さしまね)けば、日これが為に反ること三舍なり。)

※ 三舎(さんしゃ)- 昔の中国で、軍隊の3日間の行程。1舎は30里。
(原注 韓非子内儲篇に云う、虞公と夏戦い、日落ちんと欲す。剣を以って日を指し、日還って落ちず。)
※ 鳥の空音(とりのそらね)- 鶏の鳴きまねをすること。
(原注 鳥のそら音、史記、孟賞君伝に見ゆ。)
※ 孟賞君伝(もうしょうくんでん)- 秦を脱出時、鶏が鳴くまで開門しない函谷関の関所の役人を、鳥の空音をして、開門させて関所を越えたという故事。
※ 言いしろう(いいしろう)- 言い合う。


十二日、昨日の山路に困じたりしげにや、味寝して明くるも知らぬを、主に驚かされ(起され)て、起きてみれば、昨日のごと(如)、空掻き曇り、雨降り出でたり。
※ 困じる(こうじる)- 疲れる。
※ 味寝(うまい)- 気持ちよく熟睡すること。


今日は山中の習いと言わん、頼みもなければ、蓑笠設け(準備し)て、卯の時過ぐる頃、関を越え、八王子、日野など過ぐるほど、雨弥増(いやまし)に降りたり。府中にて、昼の餉(かれいい)(た)うべて、高井戸、四谷に至れる頃、暮れ果てたり。
※ 頼み(たのみ)- 頼る人。案内人。

道連れとなりし人々は、甲斐の国の人なれば、夜深く行き着かんこと、如何にぞや侍らんとて、四谷に宿りたり。我どちは家路なれば、よしや更けぬともとて、別るゝ比(ころ)は、やゝ雨も小止みて、戌の時ばかり、家には帰り着きにたり。
※ 我どち(わがどち)- 自分たちどうし。仲間どうし。
※ 小止み(おやみ)- 雨・雪などが少しの間降りやむこと。
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