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河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

PC版に一覧等リンクあり。
OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2483- 瀬川裕美子、ピアノ・リサイタル、ドゥルカマラ島~時間の泡は如何に?d→d~、2018.1.21

2018-01-21 19:55:18 | リサイタル

2018年1月21日(日) 4:00-5:30pm トッパンホール

瀬川裕美子 ピアノ リサイタル vol.6
〈ドゥルカマラ島~時間の泡は如何に?d→d~〉


J.S.バッハ フーガの技法 BWV1080より I   3′-

ブーレーズ ピアノ・ソナタ第3番より トロープ  5′

メシアン 《4つのリズムの練習曲》より〈火の島 第1〉〈火の島 第2〉 2-4′

ブーレーズ ピアノ・ソナタ第3番より コンステラシオン―ミロワール  9′

鈴木治行 Lap behind(委嘱作品)  8′

Int

モーツァルト 幻想曲 ハ短調 K396(断片)  3′

クセナキス ヘルマ  7′

武満 徹 雨の樹 素描  3′

シューマン 暁の歌 Op.133  12′

武満 徹 雨の樹 素描II―オリヴィエ・メシアンの追憶に―  3′


(encore)
シューマン 暁の歌 Op.133 第1曲にヘルダーリンの「春」の詩を付けた弾き歌い  3′
      (ハインツ・ホリガー「暁の歌」より冒頭の合唱曲の瀬川による編曲版)


ピアノ、瀬川裕美子


年初から難しいプログラムにあたってしまった。ただいつも通り聴けばいいのだろうが、この25ページにおよぶ詳細なプログラム冊子をみたらそうもいかない。もっともこれをリサイタルの前時間に全部読むのは無理。前もって配ってくれれば、という思いの方が強い。
この日のリサイタルの肝は次のあたりかな。

****
ドゥルカマラ島
時間の泡は如何に?d→d

パウル・クレーのドゥルカマラ島の中央の白い瀕死の顔は、ひっくり返すとd。西洋音楽史の中で長い間、記譜されてきた賛歌ともレクイエムともなったd(ニ長調/ニ短調)。
本日のプログラムの道標となるd。
****

ということで、こうなると、やっぱり、各ピースを皮膚感覚と耳感覚で聴いていくしかない。
作品の断片のようなものが短く奏でられ過ぎていく。断片の集まり。
総じて速め、峻烈で柔らかい音。用意周到な作戦のもと絶妙な仕上げ。それらが見事な果実となった。練り上げられたものですね。

休憩前の最後の曲は委嘱作品で鈴木のLap behind(周回遅れ)、作品の種明かし的解説は冊子に記載されている。むしろ、音の粒が多い曲で泡のモードを最も感じた。

ブレーズ、メシアンの前半、シューマン、タケミツの後半。それぞれ響きの世界に入り込む。暁の歌も企画に合っている雰囲気。やはり、その企画のウエイトにこだわりを感じさせるものだったかな。

リサイタル自体は休憩入れてもかなり短い。一人で全てプレイするのでいたしかたないというところもあるが、作品に身を任せて弾くピースがひとつふたつあってもよかったのではないか。もっともそういう作品もあったのだが、スポットライトの当て方が一方向から、そのような要旨のリサイタルという側面があるのでどうという話しでもない。

このプログラム冊子は、その場のリサイタルとは別に、読んでいて音のイメージが欲しくなるところがあって、この日のプログラム通りCDをつないで聴くのも一興。

アンコールは暁の歌の1曲目に歌詞を付けて、弾き歌いした。
良かったですね。ここに、思いがありそうな気もする。
興味深いリサイタル、ありがとうございました。
おわり

 










2472- シューベルトD959、D960、今峰由香、2017.12.22

2017-12-22 23:28:34 | リサイタル

2017年12月22日(金) 7:00pm Hakuju Hall

シューベルト ピアノ・ソナタ第20番イ長調D959  12-8-4-13
Int
シューベルト ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D960  22-9-4+8

(encore)
シューベルト 即興曲 Op.90-3  5


ピアノ、今峰由香


1年ほど前に出たベトソナ24,25,26と変奏曲の入ったCDを購入して聴いておりまして、その流れでリサイタルを聴きに来ました。

研ぎ澄まされて洗練された音の輝き、音粒の正確な均質感、ピアノの音が身体から出てくるような自然さ、ほどよい距離感、物腰、、
今まで色々とピアノを聴いてきたが、だいぶ違う。しっくりくる。山の高さ、海の深みが、最初からなにかこう、一段違う。

お初で生聴きします。第一印象は音の美しさ。素晴らしくきれいな音。それと、
例えばD959のスケルツォなど、この美しく飛び跳ねるフレーズはどうしてこのような扱い、表現になるのだろうか、なるほどそういう流れなのか。といった具合で、全編に渡り全て納得できるところに落ちる。こういったことが沢山出てくる。丹念な解釈の後の演奏に聴こえる。これも、うなる。ナチュラル。

D959、彫琢された音の美しさにうなるばかり。ハクジュホールは300ほどの贅沢席ホール、天井が高くてピアノの音が押しつぶされることなくきれいに響くので、さらに良い。
大体2楽章までで言いたいことを概ね言い尽くしている感のシューベルト。ベートーヴェン的な壊しては作るといった型ではないいわゆるソナタ形式デフォなので音の流れそのものを満喫すればいいのかなとも思う。
音の粒が徐々に流れとなる第1楽章、見事だわ。ちょっと音が跳び節回しが馴染みやすい第2楽章、最後激しさが覆う。クリアで明瞭、全ての音がくっきりと浮かび上がる。ここまでで大体満足。
と思いきや、次のスケルツォが惚れ惚れする粒立ちで鮮やか過ぎた。ピシーンパシーンと決まる。やっぱりこの楽章、短いけど要る。魅力的だわ。
終楽章の自然な流れと盛り上がり、この感興、パーフェクトでとてつもなく素晴らしい演奏でした。美しい。

鼻かぜ気味なのか楽章間でちょっとグシュグシュありますけど弾くほうは問題無い様で後半D960、これも頭2楽章で言いたいことを大体言っていると思うが冒頭楽章がさらに長くて緩やか。息を整えて、ことも無く渡る平均台のような趣き。作曲家の内面を照らし出す。太過ぎず細すぎず一つの鍵盤と同じような幅で身体から音楽がじわっとにじみ出てくる。
第1主題の後すぐにゴロゴロゴロとくる左手トリルの明瞭なタッチ。もう、いくら長くてもいい、終わらないで欲しいという感じ。
第1楽章の長大なモデラートに続いてアンダンテ楽章。この楽章には第1楽章の響きを今日は特に強く感じた。一体感あるものでした。ここまでで30分越え。
あとは形式を整えるような楽章、と言っては何だが、穏やかだったものが少しずつ浮遊感を感じさせ始め明るさを増して、これからまだ先があるよと言いながらシューベルトが終わる。

ご本人が書いたプログラムノート、味わい深いものです。これら2作品への姿勢、その前にある深い理解。満ち溢れていますね。アカデミックな香りとは別の、愛を感じます。
シュベソナ全部、今、聴きたくなった。ゆっくりタップリ聴きたくなりました。
ためいきばかり出るいいリサイタルでした。
おわり








2464- ベトソナ、テンペスト、31、チャイコフスキー、ドゥムカ、大ソナタ、デニス・マツーエフ、2017.12.9

2017-12-09 22:34:05 | リサイタル

2017年12月9日(土) 2:00pm 小ホール、武蔵野市民文化会館

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第17番ニ短調テンペストOp.31-2  8-7-6′
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第31番変イ長調Op.110  6-3+10′
Int
チャイコフスキー ドゥムカ ハ短調Op.59  7′
チャイコフスキー ピアノ・ソナタ(グランドソナタ)ト長調  11-8+3+6′

(encore)
リャードフ 音の玉手箱  2′
シベリウス 練習曲作品76-2  1′
ラフマニノフ 前奏曲作品32-12  2′
グリーグ 山の魔王の宮殿にて  2′
マツーエフ 即興  5′

ピアノ、デニス・マツーエフ


シーズンの演奏回数が多くて内容もタフといった印象が先に来てしまうマツーエフですけれども、ベトソナは殊の外、落ちついたものでした、最初は。

テンペストは幻想的なプレイで特に1,2楽章の静謐に傾斜していくようなおもむきは味わいがあった。キラキラ輝く水際立った音で、ピアノが物体で作られていることを忘れさせてくれる。アルペジオ風味が割とあって、また四声のうちバスの浮き沈みが冴えている。強調は無く短めに顔を出すがなんだか力が見え隠れするものがある。
鍵盤を押した後、さあっあと腕を上にあげる仕草もあまり無くて、一つ一つの音をじっくりと弾き込んで聴かせてくれる。
終楽章はキラキラワクワクノリノリな空中浮遊感。16分休符のあとの4つの音の流れ自然でした。そしてやや激しさを増しながら最後は弱音で急降下し消え入るように。ピアノさばき冴え渡るマツーエフ。

ワクワクベートーヴェン。最後の3つではこの31番の出だしの下降音型が好み。なんだか途中から始まっているような気持ちにさせてくれる。この第1楽章の前にもう一つ楽章があったんだよ実は、とベートーヴェンが言っているように聞こえる。この悟りのような第1楽章はいいですね。やっぱり3作品一束のような味わいなのかもしれない。
音の粒立ちが良くて、曲想のしっとり感が綯い交ぜになって居心地良い。31番この境地。マツーエフがしっかりと魅せてくれました。聴くほどに奥がある。
2楽章はうって変わって激しい。怒涛のような激しさ。切れ味が鋭い。完璧なタンギングを聴いているような錯覚。彫りが深くて立体的、クラクラするようなパースペクティヴ感。がらりと変わって圧倒的なマツーエフの力腕。息つく間も無くそのまま終楽章へ。
と言っても、強烈な2楽章結尾はスフォルツァンドの繰り返しから最後はピアノにディミヌエンドしてしぼみ、リタルダンド。終楽章の頭はこのモードを引き継いでいる。マツーエフの冷静な音の運び。最初から、全部が見えているのだろう。余裕のパフォーマンス。
清らかな第1楽章、激しいスケルツォ、変幻自在。終楽章のフーガへ。お見事とうなるしかない、この全体俯瞰。
嘆きの歌からフーガへ。なんだか全部嘆きの歌のような気がしてきた。音形を変えて再度嘆きの歌へ。そしてコラール風味な進行は抑え気味マツーエフ。このあとの進行は、ベートーヴェンはどうやってフィニッシュしようか探している雰囲気が漂うところ、全てを解決するように一気に垂直降下する。マツーエフのピアノが炸裂、爆発。フォルテシモ×2の音量だわな。
音符が一つに並んだような錯覚の垂直一気降下。鉄板でもなんでも来い突き破るからみたいな圧巻の響きの中、急上昇しサラリと終わる。鮮やかな31番でした。彼のスパイス見えました。マーベラス。

後半のチャイコフスキーのほうはリラックスして、でも気を抜くことは無い。
ドゥムカは作曲家の明るさ暗さ、独特のメロディー。ほの暗い浅めのタッチが少しモコモコ感を醸し出しながら色々と変化していく。

グランドソナタはマツーエフのリズミックでダイナミックなチャイコフスキーサウンドを満喫。
型が明瞭な演奏。怒涛の流れでいくわけではなくて副主題が物憂げさも漂わせてくれる。第1楽章は総じて激しくて音も華やか。型の規模も大きい。これと次のアンダンテ楽章、付点やシンコペーションのモードの味わいが似ている。静かな2楽章なのにリズムが息づいている感じ。この1,2楽章で、もう、ほとんど、作品の大半を占めてしまった。圧巻の演奏。あとは型の残りをやっていく感じ。腕の見せどころもパワーアップ。
マツーエフは楽章間を殊更区切ることは無くてだいたい続けてプレイする。勢いを感じさせるし、ポイントとなる楽章での一服は音楽の流れを冷静にくみ取っているかな。
チャイコフスキーの短い音符の塊が全部スタッカート風な切れ味の良さでいくら速いパッセージでも全部聴こえてくる。エスカレーターがエレベーターのようになり、最後はロケット発射、華麗な指技。まだ、やり足りないと言っている。凄い凄い。


アンコールは5曲。演奏後一礼して下てに引き、また出てきてすぐにアンコールピースを始める。このあとサイン会も無かったので、時間に追われていたのかしら。翌日ゲルギエフと昼夜2公演、ラフマニノフのピアノ協奏曲全4曲弾かないといけないし。その下ごしらえが要るのかもしれない。などと思う中、ショートピースを次々と。
最後の5曲目は自身作の即興(という曲)。やりたいことをあらいざらい全部やりつくす。最初は静かでややジャジー、ガーシュウィン風ドビュッシー風。だんだんとエスカレートしていき、技のオンパレードで大晦日の売り尽くしみたいになるも一滴の乱れも無い。唖然茫然。ぶっ飛びました。

マツーエフのデリカシーとパワー、心ゆくまで堪能できた三鷹の午後でした。ありがとうございました。
おわり



400人規模ホールにNHKのテレビキャメラが5台も。ステージ2台、客席3台。2018年2月2日(金)朝5時からNHK-BSプレミアム「クラシック倶楽部」で放送とのこと。






2462- メシアン、幼子イエスにそそぐ20のまなざし、エマール、2017.12.6

2017-12-06 23:42:28 | リサイタル

2017年12月6日(水) 7:00-9:35pm コンサートホール、オペラシティ

メシアン 幼子イエスにそそぐ20のまなざし  51-65

     Ⅰ~Ⅹ      6+3+3+4-6-11-4+2+4-8
Int
     ⅩⅠ~ⅩⅩ  6-3-4+4-11-3-5+6-10-13


ピアノ、ピエール=ロラン・エマール


エマールは先週末、デュトワN響の伴奏でラヴェルのレフトハンドを好演。今日はメシアンのロングな作品。
前半10曲、休憩20分を入れて後半10曲。

この作品は幸い5月にもオズボーンのピアノで聴きました。
2345- メシアン、幼子イエスに注ぐ20のまなざし、スティーヴン・オズボーン、2017.5.18

そう言うこともあってだいぶ見通しよく聴くことが出来た。
エマールの弾く20のまなざしは、見た目のコンセントレーションモーションを横に置くと、一歩引いて弾いている印象。
タッチが重くならずみずみずしくて、音から音への推移にあまり隙間を作らずつなげていく。規模の大きいピースの後は一服おくが、そうでないものはつなげて弾いていく。つなげて弾いているものは曲の表情の変化がそれほど濃くならない。音の粒立ちの良さが気持ちいい。

(テーマの目安)
Ⅰ 愛のテーマ
Ⅱ 星と十字架のテーマ


Ⅴ 神のテーマ (数字の3がキーワード)

Ⅶ 星と十字架のテーマ
Ⅷ 

Ⅹ 狩のテーマ、幸せのテーマ
intermission
ⅩⅠ 神のテーマ、聖母マリアと幼子のテーマ
ⅩⅡ
ⅩⅢ
ⅩⅣ
ⅩⅤ 神のテーマ、和音のテーマ
ⅩⅥ
ⅩⅦ
ⅩⅧ
ⅩⅨ 愛のテーマ
ⅩⅩ 和音のテーマ、神のテーマ

無調的な運びが全面を覆い微妙に不安定な進行。何かが解決に向かうというよりもそれぞれのピースの積み重ねが別のモードを引き起こすような具合、無機的ではない。メシアン流語法が若いときから出来ていたのだろう。このままオーケストラに編曲してもその響きの魅力は増すばかりのようだ。
それぞれの主題にはコクがあり、噛むほどに味わいがでる。聴くほうの気持ちが作品と一体化してシンクロしていくようだ。単独でピースを噛みしめるのもいいが積分の妙、これは心理的なものの累積現象のようなものだろう。そういうところがメシアンにはある。
10曲目のテーマは印象的でした。音の粒がジャズのアドリブ風味を感じさせるもので音粒が面白いように連鎖していく。それまでの静謐な空気が一気に解放された。エマールのノリ、効きましたね。幼子を満たすフレーヴァーが心地よい。

ここで休憩。
11曲目は休憩前の10曲目の激しさの残り香が漂う。オズボーンのように休憩を置かず一気に弾くのもいいし、この日のエマールのようにじっくりと連鎖を感じさせてくれるのもいいものだ。後半はピース毎に区切りを明確にせずつなげていくのが目立った。(それやこれやで全体としてはオズボーンより10分ほど速めの展開となった。)
中音域の抜けた高音低音、ギザギザと降下をしていくスケール、メシアン流のエキサイティングなシーンが続く。エマールの決め具合良くメリハリ効いています。
終曲の繰り返され続けるフレーズ。これがオーケストラなら多彩な音色変化をつけながらきらびやかなクライマックスにもっていくところ。ピアノ一本のエマールはそれに勝るとも劣らない鮮やかなもの。音の間隔を微妙に動かし、強弱のうねり、粒立ちよく進行。究極の心理的累積感による音楽的感興を呼び起こす。凄い技。
ピュアなまなざし、しっかりと見えました。

このホールは1600強のキャパでオーケストラの音量向きとは言えない。ピアノ単独でのリサイタルや室内楽には申し分なく良く響く。横のバルコニーは角度が悪くていけない席が多いけれどもそれを避ければ居心地よく聴ける。
おわり









 


2458- ベトソナ32、ディアベッリ、中里真由美、ピアノリサイタル、2017.12.2

2017-12-02 22:42:22 | リサイタル

2017年12月2日(土) 1:30-3:30pm ソノリウム

ショパン マズルカ ロ長調op.56-1     5+5
ショパン マズルカ 嬰ハ短調op.50-3

ベートーヴェン ピアノソナタ第32番op.111  10-17

Int

ベートーヴェン ディアベッリの主題による33の変容 ハ長調op.120  55

ピアノ、中里真由美

プログラム後半が目の覚めるような演奏でディアベッリの達人のような具合で前半とは別人の様相。32番のアリエッタはディアベッリのための前出しだったのかと思えたほど。
小鳥の鳴き声のような冒頭主題、そして33個のアリエッタが一度そう思ってしまうと最後まで続いたな、と。頭の中をずっと駆け巡るアリエッタ主題。

みずみずしくて生き生きしたプレイ、鋭角的な鋭さが十八番で自信満々の弾き。後半大詰め短調になる変奏のあたりでは右手がアドリブのように動きが冴える。鮮やかなディアベッリ、申し分ない。楽しめました。

ソノリウムはピアノの音には十分な広さを持ったところではなくて、もう一回りの大きさが欲しい。
おわり


2457- Water 小菅優 ピアノ・リサイタル、2017.11.30

2017-11-30 23:58:13 | リサイタル

2017年11月30日(木) 7:00-9:20pm コンサートホール、オペラシティ

メンデルスゾーン 無言歌集、ヴェネツィアの舟歌第2 op.30-6  4+5+3+3+3+4
フォーレ 舟歌第5番嬰ヘ短調op.66
メンデルスゾーン 無言歌集、ヴェネツィアの舟歌第3 op.62-5
フォーレ 舟歌第10番嬰ヘ短調op.104-2
メンデルスゾーン 無言歌集、ヴェネツィアの舟歌第1 op.19-6
フォーレ 舟歌第11番嬰ヘ短調op.105

ラヴェル 水の戯れ  5

ショパン 舟歌嬰へ長調op.60  9

Int

武満徹 雨の樹 素描  6+4
武満徹 雨の樹 素描Ⅱ-オリヴィエ・メシアンの追憶に

リスト 巡礼の年第3年から、エステ荘の噴水  6+14
リスト バラード第2番

ワーグナー/リスト編 イゾルデの愛の死  8

(encore)
ラヴェル 夜のガスパールより、1.オンディーヌ(水の精)  7
ショパン 24の前奏曲op.28より、第15番ニ長調 雨だれ  6
ショパン 練習曲op.25より、第12番 大洋  3

ピアノ、小菅優

Four Elements Vol.1
4元素(水・火・風・大地)の初回テーマ、ウォーターのリサイタル。水絡みの作品を並べたもの。
冒頭1曲目はメンデルスゾーンのボートソング。情感がこもった実にいい演奏。
プログラム最初の6曲はメンデルスゾーンの無言歌8巻48曲のなかで、ヴェネツィアの舟歌のタイトルが有るもの3曲をピックアップし、フォーレのバルカローレ3ピースと交互に並べたもの。水絡みですな。

冒頭の2ピース、メンデルスゾーンの第2、フォーレの第5番。この二つを聴いただけで、なんて素晴らしい作品なんだ、今まで、こんなに素晴らしい作品たちを、なんで聴かなかったんだろう。もう、これ、実感。
自分が聴いているのは、狭いな、自ら狭めている。反省しながら聴いていました。これだけでも、小菅さん、ありがとう。

メンデルスゾーンは心情といったものがストレートに滲み出てきますね。これらボートソング3曲は作曲家が付けた表題のようですから、その思いもひとしおか。
CD漁りがまた楽しみになって来た。

プログラム前半はさらにもう2曲、ラヴェルとショパン。
水の戯れは、水に光があたったような輝き、というよりも、透明なガラスがきれいに割れて散らばっていくようだ。音で描く色模様、素晴らしいと、この言葉だけ。惚れ惚れする。

ショパンの舟歌は規模の大きなピースで流れよりも型を感じる。構えた美しさを魅せてくれます。ゆっくりした演奏でした。小菅さんのピアノは圧巻でした。

もう、ここまでで、満ち足りた。たっぷりとゆっくりと流れる時間、いやいや、幸せの極み。
後半がある。

タケミツのレイン・トゥリーはプログラムノートに小菅さんが個人的にインスパイアされてピックアップしたであろう話しが書かれてありますね、興味深いもの。
かりそめの形、水の粒をピアニストが自ら耳を澄ましてプレイ。その音を聴衆が聴く。味わい深いです。こうゆうのってやっぱり生で、鍵盤側2列目ぐらいの接近遭遇で聴くと空気感がよくわかる。

リスト2曲、バラ2はこの日のリサイタルのうち一番長いもの。このあとのトリスタンもそうですが、水絡みというよりも、選択の強い意志か。
バラ2はロ短調ソナタが書かれたころのもうひとつのロ短調ということでしょうか。緩急二つの主題がそれぞれに膨らみを持っているような具合の弾きで、練り上げられたエッセンスを感じさせてくれる。余裕のプレイ。大きく泳いでいくような演奏は確かに水なのかもしれない。ピュアなサウンドも素晴らしいもの。

最後はトリスタン。ワーグナーの息の長い一つの音をピアノで表現するのは至難で、それにピアノからフォルテへ、みたいな表記が有ったら困ることこの上ないと思うが、リストはさざ波のように息を続けていく。イゾルデの歌のラインはハーモニーの中に溶け込んでいる。
ワーグナーのうねりと小菅の分解された流れるプレイ。見事な合体というしかない。ため息の出る演奏。悲劇のクライマックスが目に見えるよう。

気持ちが静まるいいリサイタルでした。
アンコール3曲も含め心ゆくまで楽しめました。
ありがとうございました。
おわり




2448- デジュー・ラーンキ、ピアノ・リサイタル、2017.11.14

2017-11-14 23:09:00 | リサイタル

2017年11月14日(火) 7:00-8:40pm フィリアホール

モーツァルト ピアノ・ソナタ 変ロ長調KV570  6-8-4
シューマン フモレスケ変ロ長調op.20  6-4-4-3-8
Int
ブラームス ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ変ロ長調op.24  20-6
(encore)
シューマン 森の情景 より、孤独な花 Op.82-3

ピアノ、デジュー・ラーンキ


今日は最前列さんになりました。

昔、高校の美術の先生が、素晴らしい絵というものは近くから見ても遠くから見ても美しいものだ、と、何かの話の脈絡で語られたことがあってそれがずっと今でも脳に突き刺さっていて、また、その先生の好みがヤン・ファン・アイクらしくて、まぁ、同じタイミングでの話ではありませんけれども、後年オランダに行ったときにアイクの絵を見ながら、そのセリフを思い出すことがあった。今でも引っ掛かりのあるセリフで脳内滞留。

彫琢の美、デフォルメや誇張の前にやることがあるだろうとラーンキが言ったかどうか知らないけれどもそういった事を感じさせる。
ラーンキを聴くのは今年2度目。
2409- ベトコン4、ラーンキ、マーラー5、上岡、新日フィル、2017.9.14

それから、2015年にも聴きました。
1820- ウィンドSym、バルトークpf協1、ラーンキ、運命、ノット、東響、2015.7.16

あと、40年前にも聴きました。
870- ラーンキ&バル3 シチェドリン&カルメン 1977.9.14


変ロ長調の作品、3連発。全部聴き終わると身体がこの調に馴染んでくるの。かもしれない。

端正なプレイ、時折1拍目がふわっとして柔らかくなる。ジャブジャブしない。局部肥大化やデフォルメなど余計なお化粧が無い。
モーツァルトの流れが最初からとてもいい。ちょっときつめなところもあって激しさが出たりする。作品のスタイルが前面に出てくる。きれいな響きで満喫。

シューマンはやや抑えたテンペラメントが色々と手を替え品を替え変え浮き沈みする。作曲家独特のそのモコモコっとしたところをラーンキがすっきりと表現、自然なメリハリ。作品の事がよくわかる演奏。いい作品でした。

ブラームスは大曲でした。最後のフーガが結構長くて、その前にある主題と25個の変奏、ひとつずつ取ると短いもの。次々とあっという間に去っていく感じなんだが、ブラームスがキラキラと輝いている。フォルムを崩すことなく端正に、そしてタッチは見事に光る。ブラームス独特の色合いとラーンキの鮮やかなプレイがマッチしたいい演奏でした。

かぶりつきで聴いていると、なんだか、自分のためだけに弾いてくれているような錯覚に陥る。
ありがとうございました。
おわり








2440- カティア・ブリアティシヴィリ、ピアノ・リサイタル、2017.11.6

2017-11-06 23:22:49 | リサイタル

2017年11月6日(月) 7:00-9:20pm サントリー

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57 熱情  9-7+4
リスト ドン・ジョヴァンニの回想  15
Int
チャイコフスキー(プレトニョフ編曲) くるみ割り人形  17
ショパン バラード4番ヘ短調op.52  11
リスト スペイン狂詩曲S.254 R.90  11
リスト(ホロヴィッツ編曲) ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調S.244  5

(encore)
ドビュッシー 月の光  5
リスト メフィスト・ワルツ第1番  3
ヘンデル(ケンプ編曲) メヌエット  3
ショパン 前奏曲ホ短調op.28-4  2

ピアノ、カティア・ブリアティシヴィリ


前回カティアさんを聴いたのはこのとき。
2061- パーヴォ・ヤルヴィ、ブニアティシュヴィリ、N響、2016.2.17

髪がモップのように多かったが今日も多かった。
情熱的な部分をピックアップした記事が多いが、実際は繊細でデリカシーに富んだところが魅力的で、弱音系での鮮やかな弾き、多彩なニュアンスで細やかな表現が素敵、最初の一音でホールの空気を変えてしまう。
前回聴いたシューマンの協奏曲ではソロのところでガクッとテンポを落とすので多少違和感があったが、今日リサイタルで聴いてみると色々と納得するところが多い。まぁ、あれはリサイタル弾きだったんだろうと。

本編6作品と盛りだくさんの内容はいきなり熱情から始まりました。
振り子動機がまるで序奏のように山谷を作るがすぐに滑るような流れになる。頭から鮮やかで間髪入れずに引き込まれる。アウフタクトへのこだわりはあまり無くて弱音フレーズが殊の外美しい。運命動機を蹴り上げるようなことはせず、全般にドラマチックな弾きというよりも、シンフォニックな多彩なパレット、細やかに流れていく味わい深いフレーズ、引き出しの多さ、色々と感じる。肩は髪をかきあげる時しか動かない。何かに固定されているのではないかと思えるほどだが、その肩の力が抜けたプレイは、フォルテは押しよりも粒立ちの良さや水際立ったタッチを感じさせるもので弱音フレーズでの鳴らし具合とほとんど変わらない。ピュアで繊細なものが少しずつ積み重なっていくような熱情でナチュラルヒート。力むことの無い熱情、力感よりもデリカシーを得ました。良かったと思います。演奏スタイルから彼女の考えていることを殊更に詮索してもしょうがないとも思う。人はそれぞれ何を考えているのか外からは分からないものだ。赤いロングドレス、華があって美しい。本当に考えていることはいまだ霞がかっていて見えていなくてそれを彼女自身が一番よくわかっている、そんな気がしましたね。情熱的熱狂も冷静さの枠の中にあるのかもしれないと思ったのはある種の哀しさを感じたからかもしれない。

ドンジョ回想。
両腕が別の生き物のように飛び跳ねる。圧巻の連続離れ技に悶絶。軽やかといえる。全く重くない。別次元パラフレーズ!、とは言え、
真ん中のお手をどうぞパラが静かで美しさを湛えている。ここでもそういったところでの弱音系の流れに惹かれました。美しい響き、ストリーム。

ここまで前半、プレイヤーによっては精根尽きるかもしれない。彼女のタッチだとこの先フォーエヴァーにいけそう。後半は4曲。


後半は、プレトニョフが編曲したチャイコフスキーのナッツクラッカーからのスタート。これが熱情に次ぐ規模の大きさ。7曲もありますから。
いかにもプレトニョフ好みの編曲。彼の上品なデティールのデリカシーを心ゆくまで楽しめるピース集。佳作傑作。これはカティア好みなのだろうなとも思う。
チャイコフスキーの旋律の美しさを思う存分楽しめる編曲、真ん中に置いたインタルードさえ極め付きの主張と美しさの極み。彼女の真価はこういった曲にある、と、次第に次第に傾いていく。納得。

バラ4。散文、消えゆく形、弱音から熱へのカーヴ、自然で見事な作品。溶けるような演奏でした。味わい深過ぎて涙が出る。ため息も。
後半も同じドレスで登場したカティア。前半のドンジョ前に椅子の高さ調整を随分と長いことやっていた。後半はジャストフィットしたのかもしれない。ナッツクラッカーとバラ4、拍手にちょっと応えて間髪入れず次々と弾いていく。チャイコフスキーからショパンへの流れは彼女の演奏スタイルによく合う。
それに音が実にきれいだ。サントリーは半年に及ぶ改修を終えてこの9月1日から再開となったが、床の板も張り替えたという。ここでピアノのサウンドはたくさん聴いてきたが、以前の焦点が定まらないような響きは消え、締まった感じで粒立ちがよくなった。混濁はホールのせいだったかと脳裏を色々とかすめた。
今日は、リサイタルでは使わないひな壇のうち奥の二段を上にあげていてコロセウムの観客席のような具合でホール席9割がた埋まっている状況で、そこに客が座ってもいいぐらいでもったいない気もしたが、あの逆円錐形の半円が壁のようになったところもあるのかもしれない。いい響きでしたね。

一礼して次のスペイン狂詩曲。プログラム解説によると重要な演奏会で何度となく取り上げられていて十分に弾き込まれた十八番とある。フシ的にはちょっと渋いところも。つかむまでに少し時間がかかった。変幻自在、自由に動き回る。カティアの冴え技、堪能。お見事。

もう一礼して続けざまに今度はハンガリー狂詩曲の2番。これは馴染みのもの。ホロヴィッツの編曲はヴィルティオーゾスタイル完全満開であっという間の5分でフィニッシュ。本来だとスペイン狂詩曲と同じだけの長さがあるはずだが、離れ技のおいしいところだけを選りすぐって集めたような編曲。もはや、何もかも、圧倒的。

ピアノの事はよくわからないが、おそらく、難しい作品が沢山並んだのだろうと思う。今のプレイヤーは技術的なことはみんなクリアしていてその先をどう仕上げるかという余裕と意気込みがあるし、そういったところでも不要な心配は無用で安心して濃い演奏を楽しめる。現代聴衆のデフォな幸せというところもある。

アンコール4曲。多くの拍手になにやら思い立ってすぐ弾きはじめるようなところがあって、それは今した決断なのだと魅せてくれる。
空気をもう一段変えてくれた月の光、最後のショパンまで、ピアニシモの美しい演奏に聴き惚れました。


色々と発見するところもあり充実した内容で存分に楽しめたリサイタルでした。満足です。ありがとうございました。
おわり






2433- イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル、2017.10.20

2017-10-20 23:31:44 | リサイタル

2017年10月20日(金) 7:00-9:35pm サントリー

クレメンティ ソナチネ ヘ長調op.36-4  4-2-2
ハイドン ピアノ・ソナタ ニ長調Hob.XVI:37  7-3-4
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57 熱情  11-7-9
Int
ショパン バラード第3番変イ長調op.47  10
リスト 超絶技巧練習曲集から
           第10番ヘ短調  6
           第8番ハ短調 狩り  4
           第5番変ロ長調 鬼火  5
ラヴェル ラ・ヴァルス  20
(encore)
ラフマニノフ 楽興の時より第5番  6
ショパン ノクターン ホ長調 op.62-2  8

ハッピーバースデー 聴衆コーラス

ピアノ、イーヴォ・ポゴレリッチ



ポゴレリッチを聴いたのは記憶が定かでなくて以前1回あったかどうか。たぶん今日が2回目だと思う。ベトソナがプログラムにあったので、それで聴きに行こうと思い随分前にチケットを確保した。ベトソナ一覧はこちら

プログラム前半は明るくて軽め。済んだスコアはピアノの左横にバサッと置き、そこから次のスコアを取り出しザックリと弾き出すといったモーション。フメクラーさんはポゴレリッチにかなり近くに座ってますね。
前半サラっと聴くとエモーショナルなものは求めていない弾きだなあといった感じなんだが、最初のクレメンティからじっと見て聴いていると、強い弾きと弱い弾き(フォルテとピアノ)の両腕の上下運動が同じように見える。同じような押しで強弱が出ているように見えて不思議だなあと。案の定、あのような弾きだと熱情は激烈さとは別方向なんだろうと思う間もなく別方向。アタックが強くなくてこれまで聴いてきた同作品とはかなり印象が違った。強弱は出るのだが角が取れている。ゆっくりとした演奏で味わい深かった。
タッチの強弱を見せず、主旋律の殊更の強調が無いし、音の流れの切り替えも強調しない。陰影が有り、音色色あいは変化していく。これら諸々、聴いていると自然でシンプルな世界ですね。
ハイドンの延長のような響きから始まりベートーヴェンの静謐な世界を垣間見れた。そのハイドンは2楽章が3拍子の短調と思うが、なぜか葬送行進曲のような趣きがあった。
ポゴレリッチはステージの明かりを少々落として弾いているようでその色合いとプログラム前半の明るさの差が印象的でもありました。
改修後のこのホールで9月1日から演奏会やピアノを色々聴いてます。以前あったピアノのふやけたような音、それとガラスが壊れるような響き、これらが混ざったような音響だったのが、改修後は芯が出来て締まったように感じる。以前よりは随分と聴きやすくなった。
まぁ、ここまで3曲で割と納得してしまった。それに、高僧みたいな雰囲気ですな。
3曲、拍手させずのほぼ連続演奏。

後半の1曲目、ショパンの曲はバラードテンポより平面の広がりを感じさせてくれる。ポツポツとした響きが印象的。それとここらあたりから、押しの一定化に加え、指の塊がなんだかピアノのハンマーに見えてきた。内在する劇的な音が頭に少しずつ響いてくるような妄想か。ゆっくりと長い。
リストの3曲では、ハンマーで弦を直接叩いているのではないかという妄想の深化。
ここまで例の譜面バサッと置き拾いで前半同様、拍手させずほぼ連続演奏。

最後の3曲目ラ・ヴァルス、名状し難い演奏。激烈さと不思議に伸ばされた音価。普段、オーケストラ編成で聴く機会が多くて馴染みのある曲ながら、同じような具合にフシを追っていくのが困難なところが多く有った。
同じピアノ版の演奏を6月にヒンターフーバーの破壊的な演奏で聴いた。その時は11分。今日のポゴレリッチは20分ジャストの演奏。ほぼ倍。人により違いは出るものだとは言うけれどもこれだけ違うと、全く別の曲、知らない曲を聴いているようなところが何か所かあっても不思議ではない。自分がどこを向いているのかわからなくなるところが何度かあって、びっくり。平衡感覚か崩れた。
これが何かといえば、ポゴレリッチの感性なのだろうか。今日、強弱、アタック、流れ、ハンマー、色々なものが頭に浮かんできたがそれらを凝らして見ると、ラ・ヴァルスの弾きに作為は全くなくて彼の感性の集大成のスーパー・パフォーマンスと。それはしかし、彼が通ってきたもののようでもある。二面性は無いと思う。
これで思い出すのはムラヴィンスキーの演奏です。逆説的な強弱、引き伸ばし、怒髪天を衝くプレイ、全てゼロから自らの感性で作り上げてあげてきた演奏はユニークなものだが、作為は無くものすごい説得力となる。ムラヴィンスキーの恐るべき演奏はこれで垣間見ることが出来る。
1251- シベリウス交響曲第7番 演奏は曲を超えた。異形の絶演!ムラヴィンスキー&レニングラード・フィル


ラ・ヴァルスのあと、味わいが深い聴きごたえ十分のアンコール2曲をたっぷりと。申し分ない秋の夜長だ。いい演奏。

そして、ポゴレリッチの誕生日。ケーキとお花、それに聴衆によるハッピーバースデーコーラスのプレゼント。笑顔で崩れたポゴレリッチの顔が印象的。
今日は色々と考えることが多かったです。
素晴らしいリサイタル、ありがとうございました。
おわり




2427- モーツァルト、6変、ヴァイオリン・ソナタ36、28、33、42、イザベル・ファウスト、アレクサンドル・メルニコフ、2017.10.13

2017-10-13 23:18:39 | リサイタル

2017年10月13日(金) 7:00-9:15pm 王子ホール

オール・モーツァルト・プログラム

6つの変奏曲ト短調K360  11
ヴァイオリン・ソナタ第36番変ホ長調K380  7-8-4
ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調K304  10-6
Int
ヴァイオリン・ソナタ第33番ヘ長調K377  6-8-6
ヴァイオリン・ソナタ第42番イ長調K526  7-10-7
(encore)
ウェーバー ヴァイオリン・ソナタ第2番Op.10-b第2楽章  2

ヴァイオリン、イザベル・ファウスト
フォルテピアノ、アレクサンドル・メルニコフ


プログラムが最後の曲以外、当初のものと全部順序変更。そのノーティスを見落としてしまい、勉強不足もありなじみのない作品、最後まで混乱してしまいました。1曲目で変だなあとは感じましたけど、後の祭りというやつですね。

モーツァルト・サイクル、連日3公演の中日にうかがいました。
この315席ホール、何度か来たことがありますが、今日のリサイタルの音量だとこれ以上大きいところでは厳しいと思う。聴衆は息をころして聴く感じ。
フォルテピアノとヴァイオリンがユニゾン風になるところでは音色がよくブレンドされている。バランスはちょうどよかった。
モーツァルトの神経細胞を直接見ているような作品で色々と興味深く聴くことが出来ました。
おわり









2422- ベートーヴェン、創作32変、32番、ディアベッリ変、コンスタンチン・リフシッツ、2017.10.6

2017-10-06 23:39:43 | リサイタル

2017年10月6日(金) 7:00-9:20pm ヤマハホール、銀座

オール・ベートーヴェン・プログラム

創作主題による32の変奏曲ハ短調WoO.80  11′
ピアノ・ソナタ第32番ハ短調Op.111 11-20′
Int
ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲ハ長調Op.120  61′

(encore)
6つのバガテルより第5番ト長調Op.126  2′

ピアノ、コンスタンチン・リフシッツ


華金、雨の銀座、こってりとディープナイトを。
などというあまったるい妄想を完全にぶっとばしていただきました。草木もなぎ倒す筆舌に尽くしがたいぶっ飛びプレイに悶絶。

当夜のリサイタルは、当世、ご多分にもれず副題付き。
変幻自在~ベートーヴェンの変奏曲の世界
というもの。確かにバリエーション3曲なんだが、それよりも変幻自在というほうに完全に向いたものでした。

プログラムは巨大。前半2曲目に111を置くというもの。これを聴いて1曲目の創作主題変奏曲は吹き飛んでしまったが、それでも圧倒的な強い弾き、切れ味の鋭さ、明快な音楽づくり等々はその1曲目において既にヴェールを脱いでおり耳に刻まれていたから気持ち、少しは心の準備ができていてそれなりに冷静に聴くことが出来たという心的作用子としてはあれがあってよかったという話にはなる。というぐらい、ハートの中にバシバシと容赦なく踏み込んでくるような演奏ではあったのだ。

強くて太くてンスピレーションの塊のような111プレイ。横滑りしない深い弾きは腕まくりした腕そのもののような無骨さも垣間見える。
下降する2音から始まったとめどもなく強い弾き。仰天弾き。誰にも止められないだろう根っこの生えたような音。くさびのような第1楽章。
そして第2楽章ベートーヴェン・リフシッツワールド。変奏曲とはいってもあまりの激烈なデフォルメに途中から追えなくなった。変奏曲のような推移のメリハリはほとんどない。第3変奏あたりからだろうか、音楽は異常に盛り上がり最高潮に達する。鍵盤崩壊を起こしそうな打撃。即興、アドリブのような音の流れ。アナーキーな世界へ。空中分解したのは聴いているこちらだけなのだろうが、完全に方向感を失ってしまった。なんだろう、この世界。
この楽章頭、指を軽く落としていくデリカシーの塊のような主題、そして5変奏終えた後の静寂のコーダ。これらの間に展開しためくるめくような変奏。なんという見事なフレームワーク。あれだけ崩壊したように聴こえたベートーヴェンがパーフェクトに自在なフォームで成り立っていたということをはっきりと感じさせてくれるリフシッツベートーヴェン。はるかな高みに連れ込んでくれたリフシッツの演奏はお見事と言うほかない。エキサイティングベートーヴェン。30分越えの演奏でした。

後半は巨大なディアベッリ。とことん33個数えてやれ、という気持ちで臨んだのだが、やっぱり無理。
音は強いが強引さを全く感じない演奏は彼の一つのスタイルなのだろうからナチュラルなのだろう。こちらも前半のあれで多少は慣れたのもあるかもしれない。
そういったこととは別にもうひとつ印象的なのは短調のバリエーション。力を抜き物憂げな色あいが濃くにじみ出てくる。作品の幅がグッと広がりますね。
一つ一つの変奏の際立った色彩、強烈なコントラストにより全体の振幅がものすごく大きくなり、巨大な作品を聴いていることを実感出来る。巨大な作品であることを感じさせてくれるリフシッツの演奏、まずはベートーヴェンありきという強烈な説得力。
ということで短調の変奏が続くあたりで、その見事さにカウントを自然忘却。ビッグな演奏に感服。タップです。

物理的な音の強さを作品の表現エレメントのひとつとして濃く体感、また、その裏にあるものまでことごとく体感できた一夜でした。
腰砕けで雨の銀座を退散。ありがとうございました。
おわり








2420- 藤田真央 ピアノ・リサイタル、2017.10.3

2017-10-03 23:24:37 | リサイタル

2017年10月3日(火) 7:00pm 小ホール、武蔵野市民文化会館

モーツァルト ピアノ・ソナタ第18番ニ長調K.576  5-5-4′
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第32番ハ短調op.111  9-17′
Int
シューマン 暁の歌op.133  3+2+2+3-3′
リスト ピアノ・ソナタ ロ短調S.178  30′

(encore)
プーランク 即興曲 ロ短調  2′
ショパン ノクターン第20番嬰ハ短調 遺作  3′
プロコフィエフ ピアノ・ソナタ第7番 第3楽章  4′

ピアノ、藤田真央


藤田さんはこの3月に一度聴いておりまして今回二度目となります。
2289- 藤田真央 ピアノリサイタル、2017.3.10

前回が3月10日、今回10月3日のリサイタル。

今日のプログラムは本編が4曲、ともに違う作曲家のもの。アンコール3曲も合わせると全部違う作曲家。
お試し版なのかどうかわかりませんけれども、そんなこととは関係なくどれもこれも素晴らしいものでした。特に本編後半2曲、暁の歌、ロ短調、これらには惹かれました。グイッと。

リストのロ短調は形がわからないけれどもファウスト・シンフォニーのように聴き終わったら何やら主題は一個しかなくてそれの使いまわしで一見、無骨なテイスト。でも何故か魅力的。わざと粗野に見せているのではないのかと勘繰ってしまう。
藤田ロ短調は入りが自然でああ得意そうだなと直ぐに思う。下降する音形の流れがとても自然。リストのやや乾いた情感、そこにウェットな水滴をちりばめていく。ときに粒立ちのいい水切りの輪のような模様が浮かんでくる。少し埃っぽい隙間に水を差していくような気配。
同じようなフレーズが全部表情を変えて流れる。素晴らしい表現。振幅も大きい。申し分ないダイナミクス、曲が生き物のように動いている。
曲想の変わり目のギリギリ手前のあたりでテンポを落として、指を全部広げて掌返しのような形、小指一本でささえてなにやらマジシャン風な音が鍵盤から出てくる。あれは何という技ですかね。あの動きで音がナチュラルに奏でられるのだから練習の積み具合も山のようなんだろうねと思っちまう。

ロ短調の巨大さに感服。思えば前半のベトソナ32、激しい演奏でしたけれどもこのリストの前触れだったのかと。ユラユラと揺れ動くようなところがあった32。ざわつきとストレートな推進力。
一服休憩してロ短調の前に、暁の歌。
ベートーヴェンとリストに挟まれたシューマン。ジャストフィット。物憂げな中になだらかな野原を上り下るような呼吸。曲想とプレイが見事に一致にしていて伸縮もいい。何かを考えさせてくれるシューマンの5ピース。新鮮でした。

最初の曲、モーツァルトはこうやって並べて聴くとものすごくデリケートで神経を使う曲なんだろうなあとは思うけれども、これは肩の力を抜いて楽しめましたね。ピアノ・ソナタ全開で、全部聴きたくなった。魅力的なモーツァルト。

アンコール3曲含め、楽しめました。印象的なリサイタルでした。ありがとうございました。
おわり






2415- ベートーヴェン・プラス Vol.4 横山幸雄 ピアノ・リサイタル、2017.9.23

2017-09-23 23:00:29 | リサイタル

2017年9月23日(土) 10:30am-4:20pm コンサート・ホール、オペラシティ

オール・ベートーヴェン+

第1部 10:30開演
 ピアノ・ソナタ第13番変ホ長調Op. 27-1  3+2+3+6′
 ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調「月光」Op. 27-2  5-2+7′
 ピアノ・ソナタ第15番二長調「田園」Op. 28  9-6-2-4′

Int

第2部 11:50開演
 7つのバガテル Op. 33  3-2-2-3-3-3-2′
 2つの前奏曲 Op. 39  5-3′
 ピアノ・ソナタ第16番ト長調 Op.31-1  7-8-8′

Int

第3部 13:30開演
 ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」 Op. 31-2  7-7-5′
 ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調 Op. 31-3

Int

第4部 14:30開演
 バッハ:半音階的幻想曲とフーガニ短調BWV. 903
 モーツァルト:幻想曲ニ短調 K. 397
 ショパン:即興曲第4番嬰ハ短調「幻想即興曲」Op. 66
 ショパン:幻想曲へ短調 Op. 49
 ショパン:ポロネーズ第7番変イ長調「幻想ポロネーズ」Op. 61

Int

第5部 15:40開演
 シューマン:幻想曲ハ長調 Op. 17

(16:20 終演予定)

ピアノ、横山幸雄


一日損した気分の秋分の日、あまり気張らず3か所巡り。
一つめは横山さんのロングリサイタル。朝の10時半から夕方4時半頃まで。
二つめの予定があるので作品31の真ん中テンペストを聴いたところで退出。18番までは聴くつもりでいたのだが、予定が押し気味で、各部の頭に横山さんのトークが入るのでさらに押した感があり、やむなくテンペスト止まり。

13,14,15,16,17の5ベトソナと7つのバガテル、2つの前奏曲。まぁ、これだけ聴ければほぼ満足。
横山さんのベートーヴェンは5月のガル祭でたくさん聴きました。今日も楽しみですね。

どの作品も肩の力が抜けていて本当に軽く弾いている感じ。そういったリラックスベトソナはフォルテのところでも透明さを保ったままで響いてくる。折れるカーヴが無い。自然に波打っている。ベートーヴェンの揺らぎは強くて柔軟。どれもこれもいい演奏。
13番は切れ目のないプレイで流れる。この作品のポテンシャルを再認識。大きい作品、魅力的。その大きさと幻想、醸し出す横山ピアノ見事です。
月光はガル祭でも単品で聴きました。今日は13番に続いての演奏。第1楽章のモードは13番を感じさせるも明らかにムードが3楽章寄りにシフトしている感がある。淡々とした演奏だがそういったことを思わせてくれる。すっきりとした中間楽章。これ必要ですね。
次の田園。全編を覆う魅力的な下降音型が印象的な曲。最下点に向かって押し込むようなものではなくて均質。むらが無い。2楽章などシンプルイズベストな雰囲気。大きな曲、田園を満喫。
ここで一服して次に進む。

7つのバガテル。明るくて大規模な作品でした。どこで終わってもいいような、いつまでも続きそうな、そんなピースのかたまり。
2つの前奏曲は粒立ちの良さ。
この2作品は譜面を見ての演奏と見うけられました。
16番は洗練された味付けで、ずれやねじれがカッコよく弾かれていて鮮やか。大変にバランスのいい演奏でした。
ここで2回目の休憩。

次は作品31のうちさっきの16番に続きテンペストと18番。
テンペストは一つずつの粒が小さくきれいに響いてくる。最初の13番からそういった力むことの無い演奏が延々と続く。
終楽章の無窮動、ピアノとフォルテのコントラストが素晴らしい。フォルテではややエキサイティングなところも。テンペストの嵐か。
最後はひっそりと沈みこむ。第1楽章のシベリウス第1番終楽章的エンディングとともに印象深い。

ここまで聴いて退席。

ホールは1階席は8割がた埋まっている。2,3階の左右バルコニーは普通に座ると舞台は見えない極悪席で、席を変えてほしいという方や、そもそも舞台を見ずに音に集中するかたなどまちまち。ホールサイズは横山クラスにはちょうどいいと思うのだが、舞台が見えない席が沢山あるホールなので、ここではなく別のホールでやってほしい。上野の大ホールで4,5階を閉めて3階席まで使う、など。演奏会は視覚的インパクトが大きいので、その点、この初台は全くよくない。
おわり



 


2399- バッハ、ブリテン、無伴奏チェロ組曲全曲演奏会、上森祥平、2017.9.2

2017-09-02 23:31:34 | リサイタル

2017年9月2日(土) 1:30-7:30pm 浜離宮朝日ホール

オール・無伴奏チェロ組曲演奏会

バッハ  第1番ト長調  19′
ブリテン 第1番     25′
バッハ  第4番変ホ長調 27′
Int
バッハ  第2番ニ短調  23′
ブリテン 第2番     21′
バッハ  第3番ハ長調  24′
Int
バッハ  第5番ハ短調  29′
ブリテン 第3番     21′
バッハ  第6番ニ長調  33′

チェロ、上森祥平

(encore)
ヘンデル オンブラマイフ  2′
チェロ、上森祥平、平井裕心、佐藤さくら、福富祥子


上森さんの演奏は、昨年2016年の東京春祭りの室内楽で初めて見ましてきっちりとした演奏に惹かれました。今年の春にはドヴォコンを聴いて、その時に今日のリサイタルのチラシを見つけ、早々とチケット確保。究極の9曲です。

なにやら毎年恒例のリサイタルのようでしたが、そういった事に関心がありませんので、潜入という事でもなくて淡々とかぶりつき席で。

午後の1時半から3曲ずつ、2回の休憩を挟み、終わったのが7時半頃。ロングなリサイタルでしたが最後、整理体操風なアンコールがありご本人も色々と楽しんでいるようで、余裕の演奏、余裕の体力ですね。驚きました。

バッハは端正な演奏。余計な膨らみとかそういったものが無くて実に心地よく聴いていられる。演奏に入る前に彼独特の‘構え’があって気持ちを集中してから演奏に入るのがよくわかる。バッハはそういったことにピッタリの作品ですね。ひとつの組曲6曲で規模が大きい。CDではたまに聴くことがあるのだが、その感触とこうやって生演奏で聴くのでは聴後感が全く違っていてその巨大さに唖然とする。上森さんは全てのピースに入念に構えの型を作り精神集中してプレイを始める。6曲ずつ全36曲、同じようなテンションで進められる演奏はほれぼれとする見事さだ。バッハ満喫。
一番ヘビーと思われる6番ではもはや突き抜けていくような壮快感があって高みに駆け上がり野原を軽くステップしているような趣き。

サンドウィッチされた3曲のブリテンはバッハに完全融合。サンドウィッチは成功のカギですね。それぞれ素晴らしい作品で特に3番には劇的なドラマを感じる。上森さんのうったえる力が凄かったですね。

聴くほうとしても一つ越えたような気持ちになる。そして何度でも聴きたくなる。巨大なバッハ、ブリテンにふさわしい演奏でした。全く素晴らしい。
上森さんのチェロ、これからも聴き続けていきたいものですね。ニヤケのない彼の表情も好感です。
おわり







2397- ベトソナ、27,30,31,32、イリーナ・メジューエワ、2017.8.26

2017-08-26 19:18:09 | リサイタル

2017年8月26日(土) 2:00pm 小ホール、東京文化会館

オール・ベートーヴェン・プログラム

ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 op.90  7-8′
ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109  4+3+15′
Int
ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110  7+2+13′
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111  10-18′

(encore)
6つのバガテル ト長調 Op.126-5  3′

ピアノ、イリーナ・メジューエワ

ベトソナ後期3発に27を加えたうれしいプログラム。
メジューエワさんなにかすっきりしていますね。細身でさっぱりしていて気持ちがいい。
日本デビュー20周年記念リサイタルの一環。プログラムは縦書き。

スランプ時期の27番、この第2楽章が好きでよく聴く。マイプレイリストにも入れてある。憂いを含んだ明るさなのだろうか。少し、気持ちが痛くなるようなところもある。音楽は滔々と流れベートーヴェンはメロディーメーカーとあらためて実感。
メジューエワさんのピアノは殊更に流れを追うことはしない。結構なくさびを入れつつ、かといって執拗に深いものではなくてニュートラルな心地。
この日の使用ピアノは1925年に作られ、たくさんの演奏に使われてきたSteinwayを日本でリビルドしたものということ。楽器のことは詳しくありません。
弾き始め、ちょっと乾いていて締まったサウンド。少し割れ気味なところがあったように思います。弾きこんでいくうちにそれが無くなった。(気にならなくなった?)
最後のアンコールのところで、最初の印象に戻ったような音になった感じで少し不思議。
といった具合で聴いた27番でした。曲の雰囲気、彼女に良くマッチしたもので、3発にこれを盛りくんでくれたのはハッピー。

続いて30番。終楽章の変奏に至る前の2楽章ともに比較的ゆっくりとコクのある演奏で味わい深い。変奏曲の大きさとともにこの2楽章の味付けバランスが絶妙で切り離された終楽章の感覚がまるで無い。3つでひとつ、これ実感。6つの変奏、夢のような時間。最高。

休憩を置いて31番。3発ではこれが一番好み。途中から始まったような音楽は、この序奏から霊感に満ち溢れている。最後の最後、終楽章フーガで行きつくところまで行ってしまっていて、もはや、エンディングへの解決策がないのではないかと思われる高み頂点までいってしまい、突然の5小節であっと言わせるあまりに見事なフィニッシュとなる。言葉にならない鮮やかさに何度聴いても立ちすくすのみだ。メジューエワの離れ技的凄味は超エキサイティング。素晴らしい。
嘆きの歌は大変に濃い演奏、多才なニュアンスが心を込めてちりばめられていて自然な流れ。2回目はさらに濃厚フレーバーが注がれ、そのあとのコラールは明確にスフォルツァンドまでもっていく。圧倒的な弾き。クリアなアタックに身も心も奪われた。うーん、素晴らしい作品、そして演奏。空気の振動が見える。

最後の32番、もう、気持ちは整理運動みたいな心持ち、最初はね。
頭の下降音型が哲学的過ぎて、最初から疲れが出るような気持ちにさせてくれる曲ではあるのだが、最終的にはピュアな世界に満たされる。
第1主題の吸引力が凄くて整理体操はすぐに追い払われ、もうひと運動絶対にするべきと直ぐに思わせてくれる。凝縮された音楽は圧巻で、極みの音楽、極まれり。
メジューエワの集中力は高みに達してる。聴いているほうも同じく。
結末の楽章の五つの変奏。分離していたりくっついていたりとプレイヤーによって色々と感じはあるのだけれども、彼女のはつながっている感じ。流れに殊更に重きを置くスタイルではないピアノかと思うのですが全体のバランスが良くてゆがまない。少し強く弾きこまれた縦の深さを感じながらひとつずつ進行していく。妙な力点が無くて譜面から出てくる音を感じさせてくれる。そういえば全て譜面見ながらのプレイでした。
音の粒がピュアでクリア、ベートーヴェンの結末は音がポツポツと極みの美しさで弾かれていく。美しい静寂だ。

ということでこの日もベトソナ満喫しました。クタクタです。いい気持。
おわり