書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

木村尚三郎ほか編 『中世史講座』 6 「中世の政治と戦争」

2017年12月16日 | 日本史
 竺沙雅章「宋代の士風と党争」から。

 台諫の発言が公議を反映するといえば、はなはだ聞こえはよいが、往々にしてそれは恣意的主観的であった、まったくの公正な議論とはいえない。
 (本書119頁)

 そもそも当時の台官諫官に現在の我々が頭に想い描くところの“公正”という概念や“公正たれ”という倫理規範は存在したのか。私は『国朝諸臣奏議』を通読して、どちらのそれも見いだせなかった。
 また、本書には小野和子氏の「明代の党争」も収録されている。出版年から推測されるように、視角も議論も下部構造が上部構造を規定するという大前提枠組のもとにある。つまり社会経済史の変形であって政治史でも政治過程分析でもない。ここに人間はいない。


『ブックレット菜の花17 部落解放史の最前線 啓発・教育の現場と研究をつなぐ』

2017年12月16日 | 数学
 服部英雄・寺木伸明・布引敏雄・石瀧豊美著、社団法人福岡県人権研究所編集・発行、2013年2月。

 赤根武人の母親(生母、実の母親)は被差別民だったという説が山口市の被差別のなかに以前よりあることを知る。布引敏雄「幕末長州藩の被差別民 『有志』と『力量』」。高杉晋作の有名な赤根に対する罵倒「あに武人がごとき一土民の比ならんや」(天野御民の証言を筆記)も、本来は「土民」ではなかったのではないかとの推測も。本書74-76頁。

歴史学研究会/日本史研究会編 『日本史講座』 4 「中世社会の構造」

2017年12月16日 | 日本史
 冒頭「刊行にあたって」に、「〔編集方針〕(1) 社会主義体制の崩壊、市場の暴走、テロや民族紛争・戦争、国際社会の分裂と国際協調の模索、環境破壊など、現代が直面する諸問題の由来を歴史のなかに探ることを通じて、未来に繋がる歴史像の創造をめざす」(iii頁)とある。そして第1章は、「『二〇〇一年九月一一日のニューヨーク等における国際ネットワーク・テロ(所謂「9・11同時多発テロ事件」)は、一大国による世界支配の成立とその意味を問い直させる事件であった」(1頁)と始まる。章名は「『元寇』、倭寇、日本国王」であるにも拘わらずである。中世どころか日本史そのものがおのれ等の主義主張運動のダシであると高らかに宣言しているに等しい。こんな歴史学は衰退したとしても当然であろう。“本気”が感じられないのだから。

(東京大学出版会 2004年9月)

Wikipedia, "Alphabet effect"

2017年12月16日 | 人文科学
 https://en.wikipedia.org/wiki/Alphabet_effect

 Loganの論文を数年前に読んでいて、あとから(つい先ほど)この項がウィキにあることを知った。であるから議論の紹介内容はこれで間違いないことは確認したが、いずれにせよ、表音文字がいかなる機能と過程をもって使用者の抽象的思考や、はてはゼロの発見にまでのeffect効果を生み出すのかの説明も証明もない。ethnocentric以下の批判は尤もである。
 「それでもどこか注意すべき議論や洞察があるかもしれないから」とあれこれ検討するいう意見をどこかで見たおぼえがあるが、自論の立証に失敗している議論や論著はそうと分かった時点で一顧の価値なしと捨て去るべきではないのか。それ以上かかずらうのは時間の無駄であろう。このような見地は、目当ての病状には効かない薬を、副次的作用にみるべきものがあるからと服用し続けるようなものである。