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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

今週のコメントしない本

2007年03月31日 | 
①感想を書くには目下こちらの知識と能力が不足している本
  長澤規矩也 『書誌学序説』 (吉川弘文館 1974年11月重訂)

②読んですぐ感想をまとめようとすべきでないと思える本
  なし

③面白すぎて冷静な感想をまとめられない本
  J.M.ロバーツ著 金原由紀子訳 『世界の歴史』 6 「近代ヨーロッパ文明の成立」 (創元社 2003年6月)

④参考文献なのでとくに感想はない本
  ムハンマッド・ディブ著 篠田浩一郎/中島弘二訳 『現代アラブ小説全集』 9 「アフリカの夏」 (河出書房新社 1978年8月)

  百目鬼恭三郎 『奇談の時代』 (朝日新聞社 1978年10月第3刷)

  木田元 『闇屋になりそこねた哲学者』 (晶文社 2003年1月)

  原田敬一 『シリーズ日本近現代史』 ③ 「日清・日露戦争」 (岩波書店 2007年2月)

  上杉和彦 『戦争の日本史』 6 「源平の争乱」 (吉川弘文館 2007年3月)

  Michael Kublin/Hyman Kublin 『Russia』 (Houghton Mifflin Company, Boston, 3rd edition, 1990)

⑤ただ楽しむために読んだ本
  加藤剛 『こんな美しい夜明け』 (岩波書店 2001年9月第2刷)

  安野光雅 『旅の絵本』 Ⅰ―Ⅵ (福音館書店 2003年10月第49刷ほか)
  
⑥感動した本
  なし

思考の断片の断片(36)

2007年03月30日 | 思考の断片
●「新編 靖国神社問題資料集」の件。

 戦後の日本の保守思想は、戦前の富国強兵式の愛国(軍国)主義とは根本的なところで決別していると私は判断していた。だからこそ中国の「愛国無罪」や北朝鮮・韓国の「国家の利益と威信に資することなら何をしてもよい」といったナショナリズム、また両国の「祖国のために喜んで死ね、そうでない奴は非国民だ」「外国人はみな敵だ、殺される前に殺せ」式のショービニズムを、近代このかたそのままの古色蒼然たるものとして厳しく批判してきたのだが、この報道に接して判断の足場が大きくゆらいだ。近隣諸国を軍事力で侵略して自国の領土を拡大するという考えを絶対の禁じ手としない思想の流れはどうやら力を保って生き延び、いまだ死んではいないらしい。
 私はもう口を噤むべきか。

鶴見俊輔 『鶴見俊輔集』 10 「日常生活の思想」

2007年03月30日 | 人文科学
“女の仕事には終わりがないと言われますが、それは女の仕事が生命の世話であるからで、男の仕事がひとくぎり、ひとくぎりにできるのは、それだけ生命からはなれているからではないでしょうか。軍人の仕事は殺す用意をすることだし、チッソのように環境破壊をする企業も数多くあります。そういうふうに反生命をになう仕事をわきにおくとしても、おおかたの会社、工場の仕事は、ただちに生命の世話をしているとは言いにくいでしょう。
 これに反して、うまれたばかりの赤ん坊は、長いあいだ目をはなすというわけにはゆきませんし、子どもに食べさせるということも、そのあとかたづけをふくめて、一日のおおかた心からはなすというわけにはゆきません。食物を直接につくる農業の場合、いまの日本では多くの場合、婦人にになわれています。
 この数年、私はおもに家にいて、主婦のする仕事をならいおぼえて、その立場から世界を見ることをまなびました。そのように、一日中の雑事のあいまに文章も書くというくらしをしていると、観念のうえでのつじつまのあった思想体系について、うたがわしさを感じるようになります” (「『カント? ウフフ』の立場」 本書399-400頁)


 私もこの文章を書いた当時の鶴見氏とちょっと似たような生活を送っている。とはいえ私の場合、在宅の仕事なのを幸い、子育てと家事でできるかぎり妻の手伝いをしているだけだが、それでもいろいろ考えることがある。
 たとえばこんなことだ。
 独身者と既婚者(あるいは結婚経験者)の間には、埋めがたい溝があるということ。
 既婚者(あるいは結婚経験者)同士の間でも、子供がいるかいないかで、大げさに言えばお互いの世界観に逾えがたい壁ができるということ。
 そしてこれは男に限ったことになるが(私は男だから男のことしかわからない)、子育てや家事をある程度以上、自分でするかしないかで、感じ方や考え方、また興味の対象、何が自分にとって大事かという人生の順番づけといったモノやコトに、相互理解が困難な――ほとんど不可能ではないかと思えるほどの――差異が生じてくるようだということ。

(筑摩書房 1992年2月)

思考の断片の断片(35)

2007年03月28日 | 思考の断片
●「朝鮮日報」2007/03/28 07:45、「慰安婦:米国務省『日本は責任ある対処を』」
 →http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/28/20070328000007.html

 無邪気な馬鹿。

●「人民網日本語版」2007年3月23日、「外交部報道官『温家宝総理の訪日、成功に期待』」
 →http://j1.peopledaily.com.cn/2007/03/23/jp20070323_69131.html

 腹黒い馬鹿。

●「中央日報」2007.03.28 08:15:15、「【社説】真剣さ足りない日本の慰安婦謝罪」
 →http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=85913&servcode=100§code=110

 只の馬鹿。

●「中央日報」2007.03.27 19:12:12 、「『日本政府は責任ある態度を』…米国務省の変化の理由は?」
 →http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=85912&servcode=200§code=200
 
 だがこれはかなり鋭い。

●「MSN毎日インタラクティブ」(スポーツニッポン)2007年3月28日、「植木等さん:無責任男“自由と平等”日本に浸透」
 →http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/geinou/news/20070328spn00m200012000c.html

 ちなみに無責任男の名前は平均(たいら ひとし)。だから、誰もが思いつくはずの「植木等も真っ青の無責任さ」という表現は、いかにもおもしろいが使いづらい。
 あと日本に残る無責任男は、高田純次とかいけつゾロリ(声/山寺宏一)ぐらいか。
 何れにせよ、黙祷。

思考の断片の断片(34)

2007年03月27日 | 思考の断片
●「むじな@台湾よろず批評ブログ」2007-03-27 01:46:32、「『諸君!』論文は民進党と無関係! アンディ・チャンこそ米帝右翼の手先!」
 →http://blog.goo.ne.jp/mujinatw/e/ef11c544b764d55fc2cef8d1f6f4a18e
●「日知録」2007年03月12日 (月) 17:21 、「歴史の曲がり角(8) [AC論説]No.199  歴史の曲がり角(8)『李登輝の転向』はウソである」
 →http://josephblog.blog19.fc2.com/blog-entry-213.html

 前者は後者への反論。さしあたっては、どちらの言い分に分があるかについての関心より、このお二方が正面きって議論を闘わせるのを睹る興奮のほうが大きい。

思考の断片の断片(33)

2007年03月27日 | 思考の断片
●「中央日報」2007/03/27 12:01、「日本の市民団体、韓国で『壬辰倭乱』反省集会を開催」
 →http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/27/20070327000029.html

“この日の集会で、歴史学者の川本良明氏(63)は「もしも当時、豊臣秀吉の朝鮮侵略を反省していたならば、近代日本の侵略史はなかっただろう。(日本が反省をしなかった結果)1910年に朝鮮を併合した後、武断政治で膨大な土地を略奪し、非暴力かつ正当な行動である3・1運動に対しても民族抹殺を目的とした恥ずべき弾圧を強行した」と主張した”

 民族抹殺か。こういう人物は自虐的ではなくて、単に無知であるか、さもなければ、馬鹿か嘘吐きである。

木村毅編 『明治文學全集』 97 「明治戦争文學集」

2007年03月26日 | 文学
 桜井忠温「肉弾」と水野広徳「此一戦」を読む。日露戦争の戦記物といえば、陸戦なら「肉弾」(1906年)、海戦なら「此一戦」(1911年)と、まずこの二つに指を屈するのが相場だそうだが、いざ読んでみた感想はといえば、前者は、軍歌を大ボリュームで流しながら「御国のために死ね」とひたすら怒鳴り続けているのを延々聴かされるようなものである。こんな時代に生まれなくてよかったという以外、感想の持ちようもない。
 もっとも、後者を読むと明治はこんな単純なばかりの時代ではないと思わせられる。「此一戦」では、いかにも明治風の国権的な愛国主義の間に、
 「大和魂は孟子の言う浩然の気であり、つまりは精神の崇高さの謂である。戦場で敵を殺したりする行為はその勇気の一面の表れの一つではあるが決してその全てではない。医師が危険を犯して伝染患者の治療に従事したり、学者が利欲の外に超然として学術の研究に従事することもまた大和魂の一面の発露である」(要約)
 などと、ひどく今日的な思想が展開されていたりするのである。
 なお、上記二作のほか、渋川玄耳「従軍三年(抄」(1907年)とレンガード「旅順籠城 剣と恋(抄)」(1912年邦訳出版)が掘り出し物だった。後者はロシア側から見た日露戦争(就中旅順戦)戦記。

(筑摩書房 1983年10月初版第3刷)

今週のコメントしない本

2007年03月24日 | 
①感想を書くには目下こちらの知識と能力が不足している本
  なし

②読んですぐ感想をまとめようとすべきでないと思える本
  シーラ・ジョンソン著 鈴木健次訳 『アメリカ人の日本観 ゆれ動く大衆感情』 (サイマル出版会 1986年6月) 

  鶴見俊輔 『鶴見俊輔集』 10 「日常生活の思想」 (筑摩書房 1992年2月)

③面白すぎて冷静な感想をまとめられない本
  吉川幸次郎 『中国文学雑談 吉川幸次郎対談集』 (朝日新聞社 1977年3月) 〈再読〉

④参考文献なのでとくに感想はない本
  柳田泉 『明治文学研究』 第八巻 「政治小説研究 上」 (春秋社 1967年8月)
  柳田泉 『明治文学研究』 第九巻 「政治小説研究 中」 (春秋社 1968年9月)

  保阪正康 『昭和史の大河を往く 「靖国」という悩み』 (毎日新聞社 2007年1月) 

  Рыбаков Б. А. История России, 1 том, Москва, 1995.

⑤ただ楽しむために読んだ本
  フレッド・アステア著 篠儀直子訳 『フレッド・アステア自伝 Steps in Time』 (青土社 2006年11月)

  パウサニアス著 馬場恵二訳 『ギリシア案内記』 下 (岩波書店 1992年2月)

  柴田宵曲 『明治の話題』 (筑摩書房版 2006年12月)
  
⑥感動した本
  中村一恵 『スズメもモンシロチョウも外国からやって来た 帰化動物と日本の自然』 (PHP研究所 1990年7月)

今谷明 『戦国大名と天皇 室町幕府の解体と王権の逆襲』

2007年03月23日 | 日本史
 おもしろい。著者が書中巨細となく紹介・叙述する、おびただしい事実がおもしろい。
 そこでこの本がおもしろさ無類であるという上に立って言うのだが、室町幕府の解体は確かにあったとしても、王権の逆襲のほうはどうだろう。いったん用済みとなって、うす暗い片隅に追いやられて埃をかぶっていた由緒ある御輿が、自分には関わりのない環境の変化によって新たな利用価値を見出され、積もった埃を払って再び担ぎ出されるのを、「逆襲」と呼べるだろうか。
 大宅壮一は『実録・天皇記』で、日本歴史において天皇の権威がしばしば劇的に興隆する情況をたしか、“天皇株の上昇”といった風の表現で形容したと記憶する。こちらのほうが見方として妥当ではないかしらん。

(講談社学術文庫版 2001年1月)

I. I. ロストーノフ著 大江志乃夫監修 及川朝雄訳 『ソ連から見た日露戦争』

2007年03月22日 | 東洋史
 原著は1977年刊、つまりソ連・ロシアの歴史においてかの悪名高い“停滞の時代”ブレジネフ時代の出版物である。だから構成や文体が平板で硬直しているはやむを得ないとしても、内容や視点もスターリン時代ほどではないにせよやはり教条的である。よって巻頭に置かれた大江氏の「解説」を前もって一読して内容を頭に入れておくことと、さらに本文中〔 〕で処々に挿入されている、これも大江氏による割注に忘れず目を通す作業が、不可欠である。

(原書房 1980年7月)