書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

李開 『戴震評伝』

2013年03月17日 | 東洋史
 戴震がなぜ啓蒙思想家なのか、それは封建専制主義と資本主義萌芽時期の狭間に生まれたから啓蒙思想家なのだという、信じられないくらいに逆立ちした馬鹿なことが書いてある。その封建専制主義と資本主義萌芽時期は誰が決めたのか。こんな阿呆に評価されては戴東源も浮かばれまい。

(南京大学出版社 1998年8月)

David Sloan Wilson 『Darwin's Cathedral: Evolution, Religion, and the Nature of Society』

2013年03月17日 | 社会科学
 ものすごく詰まらない。核心の大問題と枝葉の小問題を同じ比重で論じている。切り口というものがない。自分の視点(とそれから責任において)どこに焦点を合わせるかというところがまるで見受けられない。文章に個性が感じられない。よくできたAIの書いた作文のようである。あるいは知性だけ人間なみに発達した昆虫のそれの如き。Chapter 2 の「The Views from the Social Sciences」というタイトルを見てウンザリした。検証できず比較がその替わりであると平気で抜かす奴らの学問など科学と言えるか。

(Univ of Chicago Pr (T); New版 2003/10)

桑田佳祐 『LIVE TOUR & DOCUMENT FILM「I LOVE YOU -now & forever-」』完全盤(完全生産限定盤)[DVD]

2013年03月15日 | 芸術
 ライブを観て私が感じたことを、メイキングビデオのインタビューやそこで収録された最終横浜アリーナでの「青葉城恋歌」替え歌で、桑田さん本人が、今回のライブの目的としてすべて(そうすべて!)語っているので、何も言うことがない。ただひとつ、これまでに観た桑さんのライブやコンサートのなかで(ソロ・サザンを問わず)、今回のツアーが、作りこみも歌・パフォーマンスの水準も、ダントツに最高である。

(ビクターエンタテインメント 2013年3月)

荒川慎太郎・高井康典行・渡辺健哉編 『遼金西夏研究の現在』(1)(2)(3)

2013年03月13日 | 東洋史
 (1)松川節「モンゴル国における契丹文字資料と研究状況(1)」(同書101-107頁)によって、契丹大字の解読が徐々に進んでいることを知る。

 (2)森部豊「唐末・五代・宋初の華北東部地域における吐谷渾とソグド系突厥 河北省定州市博物館所蔵の宋代石函の紹介と考察」(同書25-45頁)。後漢時代には既に中国にやってきていたソグド人はアイデンティティを保ったまま、突厥や吐谷渾といった周囲の大集団の生活習慣を取り入れて文化的には同化しつつ、婚姻においては北宋初期に到ってもなお頑固にもとのソグド人時代の範囲で行い(もちろん外部とのそれもあったが)、その関係を保持したと見られる由。では米芾(1051年生まれ)はどの程度「ソグド人」だったのかと妄想。

 (3)井黒忍「金初の外交史料に見るユーラシア東方の国際関係 『大金弔伐録』の検討を中心に」(同書31-45頁)。2005年に杉山正明、2007年に古松崇志の両氏によって、「澶淵体制」なる概念が提出されていたことを知る。「契丹・宋が対等な国家として共存するための仕組みと、この仕組みによってユーラシア東方で維持された複数の国家が共存する国際秩序の双方を包み込んで、『澶淵体制』と呼ぶ」と古松氏は定義づけ、「澶淵の盟が持つ歴史的意義を的確に説き明かしたのである」。20年前の修士論文で「澶淵の盟」を扱い、ここまで明確ではないにせよ同じ視点から当時の東アジア世界の情況を観ていた私には、とりわけ感慨が深い。少なくともこの時代のこの地域には「中国=唯一の中華」を思想的中心とする冊封体制は、現実にも理念的にも存在していなかった。

(東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 2008/6・2009/6・2010/6)

佐口透 「東トルキスタンのカザーフ人」

2013年03月11日 | 地域研究
 素描ながら、同テーマの教科書的存在ではないかと思った。管見の限り、中央アジア側(西トルキスタン)から見た当該分野の研究(ロシア語)は、東トルキスタンの同胞については、案外粗放な印象がある(いろいろ政治的配慮があるのだろうが)。末尾「参考文献」が面白い。次に当たるべき研究を教えられた。

(『シルクロード』1-1 1975年6月 39-43頁)