仕事でオーレル・スタイン Serindia (1921年)のごく一部を読む。
文中、“Limes”の意味が分からず、英語辞典を引いた。“lime”は「石灰」とある。しかし石灰は物質名詞だから複数になるはずはない。「ライム(の実あるいは木)」という意味の“lime”もあった。これは可算名詞だが、文脈と合わない。“linden”(菩提樹)と通用という説明もあるがおかしいのはライムと同じ。第一“Limes” と語頭が大文字になっているから固有名詞である。
どうにも分からず先達の教えを請うた次第である。
その結果分かったのは、スタインは中国の万里の長城をローマ帝国が辺境に設けた城壁になぞらえて、“リーメス・ウォール”(the Limes Wall)と呼んでいたことである。“Limes”はその省略形だった。つまりラテン語だったのである。
おそまきながら自分で調べ直してみた。
DVD-ROM 平凡社『世界大百科事典』第2版より
リメス
limes
ローマ帝政初期には単に小道あるいは道を意味したにすぎないが,のち敵地への軍事行動の際に軍隊により切り開かれた道を意味するようになったラテン語。次いでこの語は防備された億所や信号塔を備えた軍道を,そしてついには帝国国境を意味するに至った。ローマの拡大が続いている間は,静止した国境という考えは存在しなかったが,拡大の速度が緩み,ついには拡大が止まると,国境という概念が生じた。河川や山脈などの自然の遮断物が存在しない地域では,ドミティアヌス帝の時代以後,石壁,柵,堀,土塁などの人造の遮断物が築かれるようになった。ブリタニアにおける石造の〈ハドリアヌスの防壁〉と〈アントニヌスの防壁〉,ドナウ川上流とライン川上流を結ぶ地域における柵,ヌミディアにおける堀などが大規模なものである。 (市川 雅俊)
(河出書房新社 1989年11月)
(中央公論社 1984年8月13版)