恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

番外:ちょっと、違うの

2021年02月05日 | 日記
 邪な大義(東京でやるのに「復興五輪」)と虚偽の理由(スポーツに適した7月)で呼び込んだ東京オリンピックに、私は最初から反対で、それを当ブログでも口頭でも言い続けてきた。どうせロクなことにならないと思ったからである。

 そうしたら、本当にロクでもないことが立て続けに起きた。私も、マラソンの開催地変更あたりまでは、正直ザマミロくらいに思っていたのである。

 ところが、突然の疫病禍である。その後の一連のオリンピックをめぐる出来事を見ていて、問題は東京に限った話ではないと考えたので、私はオリンピツク自体の廃止、あるいは長期休止に主張を変えた。抜本的な運営方法の改革が必要だと思ったからである。

 まあここまで言ったし、これでオリンピック話も打ち止めにしようとしていたところに、今度は組織委員会会長の元首相から飛び出してきた、絵に描いたような差別発言である。

 すると直後に、周囲から「南さん、あなたの言うとおりになりましたね。本望でしょう」と言う人間が現れた。

 しかし、こういう言われ方は心外なので、いささかここで存念を申し上げる。

 私の主張は全く変わらない。ただ、それを忌憚なく言えるのは、私とは反対の意見も自由に主張できる状況においてである。
 
 私が今深く懸念するのは、コロナ禍が深刻化するにつれて、世論の大方がオリンピックの中止や延期に傾いたこの時期、組織トップからこれほど馬鹿げた発言が出たとなると、オリンピツク開催を推進・支持する人たちが意見表明しづらくなるのではないか、ということである。

 それどころか、万が一にも「自粛警察」ならぬ「オリンピック警察」が現れて、オリンピツク関係者や選手、その家族などに、理不尽な圧力がかかるようになれば、件の発言以上の「国辱」になりかねない。

 というわけで、私は今や、「本望」どころか、成り行きを深く心配している。

 それにしても、もう事は個人の失言問題をあっさり超えて、日本社会におけるジェンダー問題の認識を根本から問うレベルに達してしまった。

 ここでまた、私はこれまでブログや口頭で繰り返して来た考えを言っておきたい。

 年齢や世代などの属性を問題にするのも、性別同様、差別に当たるかもしれないが、社会的な大変動期に突入したと実感する昨今、自らの過去を省み、批判を受けるのは覚悟の上で、あえてもう一度述べる。

 どの業界であれ分野であれ、もう60歳以上の(特に)男性に「指導者」を期待してはダメである。就中、「後期高齢者」に組織運営上の「トップ(業務に実権を持つ代表者)」をさせるのは、避けるべきだ。彼らが「トップ」を務められるのは、成長や発展をしなくてもよく、なんら「改革」も「先見の明」も必要としない、ほぼ「前例」だけで運営可能な「旧態依然」的組織だけである。

 何事によらず例外はある。高齢でも自由で柔軟な発想をする人物はいるだろう。しかし、そのような例外を当てにして組織を運営するのは、宝くじに経営を頼る企業のようなものである。

 差別や偏見は、個人の「性格」の問題ではない。それは「無知愚昧」から来る。しかもそれは、従来の「豊かな」経験や知識が更新されない結果の「無知愚昧」であることが多い。だから、往々にして、「偉い」「年寄」からズレまくった差別発言が出るのである。

 私も現在62歳だ。おそらく自分の中にも、そういう偏見や差別意識があるに違いない。だが、それを自覚することは実際には極めて難しい。ならば、個人の心がけの問題にするだけでは不十分である。これは社会や共同体の構造問題にしなければ、事態の好転は期待できないだろう。

 だとすると、まず第一になすべきは、遅くとも10年以内に、国会議員は無論のこと、あらゆる業界・分野の指導者層を、法的強制的に男女同数にすることである。おそらく、ここ三十年も叫ばれてきた「構造改革」に、一番効果があるのはこれだ。そして、順次、年齢やマイノリティなどをめぐる「多様性」を法的に組み込んだ組織編成を義務付けて行けばよい。

 だから、最後に言っておこう。我が宗派の修行道場も大半は男女が別である。特に両大本山は男性僧侶のみだ。

 私は修行の便宜上、男女を分けることには基本的な合理性があるとずっと思ってきたが、この先の時代を考えると、今が変え時である。修行道場は性別を問わず、修行僧を受け容れるべきだ。

 これを第一段階に、宗派内の各組織は、指導層の男女同数を目標として、計画的に女性を登用する施策を立案・実行すべきである。それを当然とする組織だけに将来の希望があると、私は考える。

 今回の発言が不幸中の幸いにも、このような日本社会の構造改革の契機になるとすれば、それは失言どころか、日本の未来をひらく歴史的栄光を帯びた逆説になるだろう。