恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

教えて下さい2

2015年09月20日 | 日記
 19日未明に成立した法律の、担当大臣さえまともに答弁できない無様な出来や、「裏口入学」と揶揄される杜撰な立法過程については、すでに世上で多く論じられているので、ここでは触れません。
 しかし、それにしても今回特にわからないのは、この法律の言うところの「集団的自衛権」や「後方支援」が、我が国の「自衛」や「安全」にどう役に立つのか、ということです。以下、疑問を申し上げますので、ご存知の方にご教示願えると、ありがたいです。

「集団的自衛権」や「後方支援」とは、軍事的に同盟関係にある国が「共通の敵」と目する国や集団に向かって武力を発動したり、発動の手助けをするのですから、要するに「打って出る」わけで、国内にとどまり「外国の侵攻から自衛」することとは、まるきり別の話です。つまり、基本的に我が国の「自衛」には無益なはずです。このことをもう少し具体的に考えると、

一、アメリカについて
 アメリカにしてみれば、自国の行動を軍事的に補完してくれる話ですから大歓迎でしょうが、他方、自分たちが日本を助けるかどうかは別問題でしょう。
 極東アジアで騒動が起こった場合、アメリカがすでにある安保条約の義務(思えば、これだってもう「集団的自衛権」の範疇内だろう)を超えて、いわば今回日本が行った法制定の「意気に感じて」、直ちにかつ無条件に我々に加勢してくれるなどと期待するのは、どう考えても甘くないか。
 そもそも、安保条約の義務に応じてアメリカが動くレベルの状況でない限り、我が国の「存立危機事態」など、存在しないのではないか?
 また、安保条約の「義務」を確実に果たさせることの「担保」がこの法律だと言うなら、それ相応の「条約改定」とのセットでなければ無意味でしょう。

一、中国について
 万一、尖閣諸島に向かって中国が軍事力を発動するなら、文字通り「自衛」すればよいだけで、「集団的自衛権」とは無関係です。
 アメリカと一緒になって軍事的に対決すると言うなら、それはもはや「全面戦争」でしょうから、いったい中国とアメリカの指導者の誰が、そんなことまでする気になるのでしょう?
 その一方で、我が国と中国とが大規模に軍事衝突したにもかかわらず、安保条約を結ぶアメリカが一切行動しなければ、少なくともアジアにおけるアメリカへの信頼は完全に無に帰しますから、この選択はないはずです。ということは、安保条約の義務にしたがってアメリカが行動する以上、いまさら日本が「集団的自衛権」など「法制」化する必要はありますまい。

一、北朝鮮について
 北朝鮮が軍事的に仕掛けてくるとすれば、実質的な脅威はミサイル攻撃です。まともな損得計算からすれば、日本を攻撃しても一文の得にもならないのは自明ですから、この攻撃は「正気を失った」結果、起るわけです。下手をすると、やみくもな乱射になってしまい、もう「自衛」のしようがありません。
 だったら、ミサイルを発射する前に「先制攻撃」で発射基地を潰すしかない、ということになります。すると、これはもう「自衛」ではありません。こちらの「先制攻撃」の後、相手が反撃を自粛すれば、我が国は国際社会において、再び「侵略国」に追い込まれ、完全に面目を失いかねません。相手が自粛しなくても、「21世紀のパールハーバー」呼ばわりされるかも。
 このような場合に、「集団的自衛権」は、いったいどこでどう役にたつのでしょう。

一、それ以外について
 たとえば、アブラが切れたから鉄砲持って海の外へ飛び出すなどというのは、ただのヒステリーで、まともな「自衛」ではありません。

 では、「集団的自衛権」と「後方支援」は我が国の何の役に立つのか?
 アメリカの補完なら、そう正直に言って選挙で信を問うべきだし、「国際貢献」なら、難民大量発生のご時勢、他にやりようがいくらでもあるでしょう。
 どなたか教えて下さい。