くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「私と踊って」恩田陸

2013-03-22 04:00:23 | 文芸・エンターテイメント
 恩田さんのノンシリーズ短編集「私と踊って」(新潮社)。トリビュートものは恩田陸を語る上で重要なファクターかと思いますが、今回はかなり顕著でした。
 例えば表題作も、ピナ・バウシュという方をモチーフにしているそうですし、「二人でお茶を」はディヌ・リバッティ、「東京の日記」はリチャード・ブローティガンを設定に考えた話のようです。
 まぁ、モデルから離れても十分に伝わるのですが。
 さらには田部未華子写真集とかNHKスペシャルの企画本とか星新一のトリビュートとか、そういう依頼を受けて書いた作品も多いようです。
 恩田さんの感覚的な部分が突出していると感じました。わたしはもともとストーリー性のある話の方が好きなんですが、こういうカードの切り方ならのめり込んで読めます。いろいろとテーマの断片もあるように思い出ましたが、いちばん見えたのは「プロバガンダの悪意」のようなものですかね。「さいころの七の目」とか「東京の日記」に現れていると思うんですが。
 好きなカラーは、まず「思い違い」です。他の作品と比べてわかりやすい(笑)。たくさん人物が出てきてスラプスティックな展開をするのは「ドミノ」を思い出しますね。ある喫茶店にやってきた二人の女性が、
「同窓会の通知、来た?」
「二歳下の妹には来たんだけどね」
 と語り合っている。エンディングの「バリバリ愛校心の強い同窓生」はナイスです!
 あとは、「火星の運河」。イメージの中の女性の蝶のような存在が、読者にはつかみやすい。「台北小夜曲」と対になっています。
 「二人でお茶を」の展開も、不幸を予測しつつもそれを突き抜けた明るさが支えてくれて、ほっとします。
 あがり症のピアニストの卵。突然憑依したようになって、コンクールを総なめにします。自分の中にいる誰かが、自分を通して練習している。一緒に練習していると、どう弾いていいのかがわかってくる。鮮やかな覚醒のように、曲想へのアプローチも変わる。
 短い中に、憧れのピアニストを内部に宿してしまったらしい男の困惑と喜び、相手を理解していく感謝が感じられるのです。
 装丁とか構成とか、そういうのもおもしろかった。
 わたしは恩田さん、短編の方が好きなんだと思います。


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