くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「薔薇を拒む」近藤史恵

2010-07-27 19:35:17 | ミステリ・サスペンス・ホラー
これぞ近藤史恵の王道! すばらしい、もう興奮して寝てなんかいられません。隔たれた山荘、謎めいた美少女、妖艶な婦人、過去をもつ少年たち、愛犬、復讐、これでもかこれでもかと、近藤ワールド炸裂です。
「薔薇を拒む」(講談社)。ラストの着地が見事です。「この薔薇は、ぼくに与えられたものではない。」もうこれしかない。
終盤で、えっ、それが犯人? ちょっと待ってよー、と思いもしましたが、続く真相には納得です。
オープニングの「救えなかった人たちの美しい面影」がまた効いている。
幼いころ、両親を事故で亡くした博人は、施設の所長から耳寄りの話を聞かされます。ある屋敷に住み込みで働けば、将来大学の費用を全て出してもらえる。
同じように雇われた樋野という少年とともに、博人はその屋敷(光林家)に向かいます。最寄駅から車で一時間ほどかかる屋敷に着いたとき、樋野は牢獄のようだとつぶやきます。
東京で大きな会社を経営している光林の、妻と娘がここで静養しているのでした。博人は娘の小夜に好感をもち、屋敷で働けることに幸せを感じます。
しかし、どうして自分と樋野は光林に選ばれたのでしょう。樋野の父親は連続殺人犯、博人も同じ施設の女の子を殺した疑いをもたれた過去がありました。年頃の娘をもつ親としては、最も近づけたくないタイプであるはずです。(これは後にある刑事も指摘します)
屋敷を取り仕切る中瀬、家庭教師のコウさん、お手伝いの登美さん、通いの弥生さん。人手も充分あるはずなのに。
そんなとき、中瀬が湖に浮かんだボートから死体で発見されます。
小夜の亡くなった姉夕日、別の施設で被害にあった少年の噂、様々な憶測が飛び交うなか、博人は樋野と小夜が恋に落ちたことを知るのです……。
終盤、読者は小夜の身におきた悲劇を知ります。そして、博人の選択を。ただの「鹿」ではない彼らしい道ではありますが、「春琴抄」のような味わいを醸し出していますよね。
けれど、もう「博人」はどこにもいないのだな、と思いました。彼は「光林薫」としての人生を選んだのです。小夜に現実を知らせないためには、彼の周囲の人間にも同じように呼ばれなくてはならないし、自分の声すらももう忘れたというくらい、薫としての生活に慣れている。
この作品、近藤さんにとっては「ゴシックロマン」だそうです。自分の好きな世界観を描いてくれる作家がいるのって、幸せなことだなと思いました。装丁も美しい。語り手の気持ちに溶け込んで、しみじみと読みました。

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