くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「密話」石川宏千花

2016-02-21 05:40:00 | 文芸・エンターテイメント
 図書館で見たときから気になっていた一冊です。石川宏千花「密話」(講談社)。
 カバーは蓋の開いたマンホール。
 この下の下水道に、メアリーは住んでいます。
 子どものような大きさで、涙は泥水の臭いがする。
 誰にも気づかれず、教室のゴミ箱の陰や家の暗がりに潜んでいるメアリーを見つけたのは、転校してきたマミヤくん。
 はじめてできた友達に有頂天になるのですが、やがてマミヤくんは秘密の「お願い」をするようになります。

 担任のアイコ先生が自分だけに冷たい。だから、お願い。
 メアリーは不審を感じながらも、アイコ先生の家に忍び込んでネコを連れ出し、お母さんの眠りを妨げます。
 やがて、明るかったアイコ先生から笑顔が消え、学校も辞めてしまう。
 マミヤくんのクラスメートのカセくんやスナミさんの様子を見ているうちに、メアリーは自分が彼のためにしてきたことは間違っていたのだと気づくのです。
 
 もう、メアリーが気になって気になって。
 率直に言ってしまえば、彼女(?)は妖怪なのだと思います。
 仲間がおらず、自分だけで何者かを知らないまま長い間一人生きてきたメアリー。誰もその存在を見ようとしない。知らないふりをする。
 孤独な彼女を見つけて名前をつけたマミヤくんを、一途に信じようとするのです。でも……。
 「メアリー」と呼ばれていたのではなかった。
 そう知った瞬間の胸を刺すような痛み。
 異形のものである彼女が、マミヤくんと友達になってはいけなかったと気づく場面が印象的です。
 後悔と、苦しみと。
 いるはずのないものは、見ない。周囲の人々は、メアリーが「いる」ことを知りません。
 メアリーは小学六年生のきらきらした輝きが大好きで、しょっちゅう学校に出かけていたのだそうです。でも、自分が見つかってはいけない存在だということはわかっている。
 異質な存在でありながら、幼い子どものように純粋なメアリー。連載時のタイトルは「わたしと友だちになってはいけない」だったそうです。
 もっと語りたいことがあるけれど、うまく表現できません。
 メアリーの悲しみを、世の中が繰り返しませんように。

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