くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「市立第二中学校2年C組 10月19日月曜日」椰月美智子

2010-08-28 06:13:41 | 文芸・エンターテイメント
朝読書にちょうどいいショートストーリーズだと思ったんです。思ったんですが……。
その予感は外れでした。この構造的な造り! 読み終わってから座席表を手掛かりにひとつひとつ確認する自分がいます。
佐藤ひとみはダンスに夢中で、喧嘩が強い(らしい)荻野のことが好き。同じ班の隼人に好かれています。
高橋直也は、学年でいじめのターゲットになってしまった内海窓華とは幼なじみ。陸上部。遠藤浩介とゲーム仲間。
楠木瑞希は男の子からの視線を意識しすぎて卓球の試合に負けるような女子で、ヘアスタイルが決まらないのはチーコ(飯田知果子)に紹介された美容院のせいだと決めつけたり、わざと友人の消しゴムを自分のペンケースに入れて騒ぎ立てるような面倒くさい子です。小学校から仲良しだった穂香は、映画の好きなみちると親しくなり、瑞希自身はチーコと仲良くなりますが、なんとなくあやふやな部分もある。
学級委員の金子さんは親切ぶってるけど、実は意地悪で親しい友達はいません。遠足の班決めで穂香、みちる、瑞希、チーコは彼女と同じ班になりますが、穂香とみちるは金子さんのことが嫌いなのです。
2年C組38名のクラスメイトたち。一人一人の心理や状況にスポットをあてながら、ある秋の一日をクローズアップしていく物語です。椰月美智子「市立第二中学校2年C組10月19日月曜日」(講談社)。
椰月さんのうまいところは、特定の子のモノローグと、その子を周囲から見ている子との多視点を用意していること、そういう中で「金子さん」のような生徒の内情には踏み込んでいかないことではないか、と。
金子さん、とにかく外側からの描写です。不良っぽい佐伯も、お母さんの髪をセットするという物語を読んだあとにはシンパシーを感じるのですが、彼女にはそれがない。
同じように、この日も休んでいる瀬尾真の視点はありません。杉山貴大の回想で知るだけ。
それにしても、帯にはこの貴大が大々的に取り上げられていますね。「10時24分、貴大は里中さんを好きになる」
これは、嘘です。この日好きになった訳ではない。
わたしは、この物語で椰月さんのもっとも思い入れがある人物は里中秋穂だと感じました。彼女の行動は「体育座りで空を見上げて」の妙子によく似ているから。母への苛立ちとか。そうじゃないですか?
彼女への憧憬を抱く貴大にとって、こういう行動は予想外だろうし、秋穂自身も自分がそういう存在だとは考えていない。当たり前のことではあるのですが。日常の切り取り方がおもしろいのです。
椰月作品、思春期にヤンキー的なものに走る傾向があるように思うのです。破滅的な衝動がそうさせるのかしら。「ホットロード」世代?(笑)
まあ、それはともかく。
内面に踏み込まないといえば、玲奈と優美が二人で帰る章はひたすら台詞のみ、というのもおもしろいと感じました。
なにしろ学校で読んだので、実に「近い」感覚でした。でも、この学校、男女の机が二つくっついているのが驚き! そして、四時間めが終わったあとに、15分の帯時間(モジュール?)で学活。ひーっ、15分で何ができるの? 1時まで給食準備もできないとは! (でも、もう1時6分には食べ始めている……。)
さらに、5時間授業の日は週に三日もあるのですが。(うちは毎日6時間あります)
ああ、こういう瑣末なことが気になってしょうがないのはよくない癖ですね。
後半、人気者でありながら内海に対しての指導がうまくできずに困惑している北村先生の独白もありますが、保健の矢吹先生に共感します。
年を取るのは自由に生きていくこと。もっと手足を伸ばして生きていくことができる。
閉鎖的な暮らしの中にもやがて解放は訪れます。
今、どこか窮屈な思いをしている思春期の子たちに、読んでほしい物語でした。