くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「彼女のこんだて帳」角田光代

2010-08-14 06:05:22 | 文芸・エンターテイメント
これは! 「街の観覧車」構成ですね! おもしろかった。正直、角田光代がこんなにサラっと楽しく読めたのは初めてです(笑)。ずっと読んでみたいと思っていた本ではあるのですが。
「彼女のこんだて帳」(ベターホーム出版局)。わたしの利用している図書館には入っていない、文庫にもなってない、この前仙台の本屋で見たら料理本コーナーにあったので図書館の棚をもう一度見たのですが、悲しいかな、やっぱりないのです。
それで、先日見かけてついに買いました。横書きだしどうかなーと思わないこともなかったのですが、料理にまつわる本は大好きなので。
感想を書く前に、「街の観覧車」について。ご存知の方も多いかと思いますが、阿刀田高さんの連作短編集です。十二話の主人公が、それぞれ前の短編に顔を出している。結果として、同じ社会にいる人たちの生活が多面的に見えてくる小説です。
この小説も、一話めの主人公立花協子の同僚が二話の、その姉が三話の主人公となり、最後に再び協子の消息に触れて終わります。彼女が四年間付き合った恋人と別れ、インターネットでラム肉を取り寄せて夕食を作るというストーリーの終結は、やっぱりネット通販で知り合った魚屋の奥さんの視点です。そこで読者は、物語がぐるりと一回りする間、協子に新しい恋が巡ってきたことを知る。
どの回も登場人物と料理とをうまくクロスオーバーしていて、ショートストーリーとしても料理本としても魅力的です。
ただ、実際に作るかといわれると、こういうオシャレな献立はわたしには作れないかも。ラムチョップなんてこのへんでは売ってないし。
かぼちゃの宝蒸しや、トマトのミートボールシチュー、豚柳川ならありですかね。タイ料理もおいしそうだけど、うちの食卓には受け入れられない気が……。
「運命の人」を求める女の子の「恋するスノーパフ」、鬱屈した妹の気持ちを晴らしたいと思う兄の物語「ピザという特効薬」、ちょっと考えられない食材で調理しようとする恋人に困惑する「合作、冬の餃子鍋」がおもしろかったですよ。
で、いちばん印象に残ったのは、「なけなしの松茸ごはん」です。同棲に踏み切ったことへの不安を感じながら、それを断ち切るかのように松茸を買った依子が主人公。三万円近くするんだよ! オトコらしいっ!
この話を読んでいて、十年くらい前にV6の番組でやっていた「高校生のカップルが同居してみたらどうなるか」という企画を思い出しました。結婚したい、でも親からは早すぎると反対されている二人が、期間限定で一緒に住んでみるけど喧嘩ばかりというもの。お互いの価値観が違うのが見えてくる様子に、ハラハラしたものです。ヤラセという噂もありましたが、こんなに続きが気になる番組、なかったです(笑)。
この状態では、同居解消後二人は別れちゃうんだろうな、と思ったものですが、フツーのカップルとして交際を続けるエンディングにびっくりしました。
わたしにとって角田さんは、なんともいえないほど胸を掻きむしられるような、そんな存在です。だから、わりとパワーのあるときしか読めないのですが、これはとてもすんなりと入ってきました。向田邦子好きだとか共通項もあったし。
あとがきにかえてのお母さまとの思い出が、またしんみりと胸を打ちます。