くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「エデン」近藤史恵

2010-08-15 06:17:29 | 文芸・エンターテイメント
「ねえ、チカ。きみにも呪いがかかっているのかい」「超弩級のがね。きみが走り続けるのなら、いつか話してあげるよ」
白石誓に再会です!
近藤史恵「エデン」(新潮社)。とてもよかった。胸にしみいるような物語でした。
舞台はツール・ド・フランス。パート・ピカルディの一員として大会に臨むことになる誓は、直前にスポンサーの撤退を聞かされます。日本に帰ることになるのか、他のチームに移籍するのか。全く先が見えない状態ながら、エースのミッコのアシストとして出場することになります。しかし、監督がメンバーたちに提示したのは、クレディ・ブルターニュの新人エース・ニコラをサポートするようにとの要請でした。
ミッコのアシストを第一とするか、それともチームのスポンサーが見つかるかもしれないという機会を選ぶか。揺れ動く誓の心を、後押ししてくれたのは、「超弩級の呪い」(でも、これは決してマイナスイメージの言葉ではないのです。近藤さん、すごい!)の「あの人」、つまり石尾さんですね。怪我で苦しいレースを強いられたミッコに、誓は言います。あの人だったら、今の自分の立場にいたらどうするだろう。どんなことでもしてヨーロッパを走り続けるに違いない。
「でも、気づきました。ぼくは彼ではない」
誓はアシストとして走ることを決めます。
こういう言葉が出てくるのは、あのとき石尾さんをアシストして走ったことを思い出したからではないかとわたしには感じられました。誓は、アシストとしての自分に、自信をもてたのだと思います。
流れてくるドーピングの噂。ニコラの実力とチームの駆け引き。彼の友人であるドニ。山岳とロード。チャンピオンを表すジャージ「マイヨ・ジョーヌ」。
日本からきた深雪と親しくなったニコラは、自分がマイヨ・ジョーヌを取った記念品のマスコットを簡単にあげてしまいます。彼の気持ちを理解しながらも、自分だったらそんなことはできないと思う誓。山岳賞のジャージを、地獄までも持っていく、と。
わたしはモッテルリーニが気になっています。存在感がある。今回はカタカナ名前の人が多くて、外国ものが苦手なわたしにはなかなか覚えられなかったのですが、近藤さんの描写から伝わってくるものがあり、あまり苦労しませんでした。
さて、わたしの友人は大学で近藤さんと同級生だったのです。この夏、彼女とも久しぶりに会って三時間半、しゃべりまくりました。学生時代、「三島や寺山が好きな子がいるよ」と聞いていたのですが、それが近藤さんです。
彼女にも「サクリファイス」薦めておきました。友達の著作を読むのは、また違う感じがするかもしれませんねー。