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終わらない、終わるはずない「令和の米騒動」日本人は飢餓の時代の入口に立った

2025-03-29 18:38:43 | 農業・農政

(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に投稿した原稿をそのまま転載しています。)

 昨年秋、全国の食卓を揺るがした「令和の米騒動」に収束の気配が見えない。「新米の集荷時期が来れば価格は元に戻る」と繰り返してきた農林水産省の説明も虚しく、今も米の価格は高値に張り付いたままだ。今、私の地元のスーパーでも、5kg入りの米が1袋3,500円程度で売られているが、昨年の今ごろはこの価格で10kg1袋が買えていた。体感的には米価格は2倍に上昇したことになる。

 この騒動にはいつ終わりが来るのか。それ以前に終わりが来ること自体、あるのか。長年、農業界の片隅に身を置き、その変化を追ってきた私の目には、もうこの騒動が終わることはないように思われる。それどころか、十数年後に振り返ったとき「今思えば、あれが飽食の時代から飢餓の時代への転換点だった」と言われる歴史的転機かもしれないのだ。

 ●農水省公表資料「民間在庫の推移(速報)」が語る現状

 農水省が毎月、公表している「民間在庫の推移(速報、2024年12月末時点)」を見て、私は愕然とした。米不足問題は、実際には報道されているよりもずっと深刻だ。この数字から、私は今後の推移を、おおむね以下のとおり予測する。

・スーパー、米穀店の店頭で「お1人様5kg1袋限り」等の購入数量制限が始まる時期は、早ければ4月上旬、遅くとも4月中(※)
・店頭からお米が消え始める時期は、早ければ大型連休前、遅くとも5月中
・お米が完全に姿を消す時期は、早ければ5月末、遅くとも6月中

 8月になって騒ぎが始まった昨年より1か月半程度早く、今年は事態が進行すると予測する。

 そもそも、農業問題に少しでも知識がある人であれば、往時より少なくなったとはいえ、現在も年に700万トン程度、米が獲れているという基本的数字が頭に入っているだろう。この収穫量からすると、収穫直後の11~12月でも民間在庫が300万トン程度というのは、半分弱にしか過ぎない。私は、最初にこの数字を見たとき、あまりに少なすぎて何を意味しているのか理解できなかった。

 だが、表の欄外に「注」として「2 出荷段階は、全農、道県経済連、県単一農協、道県出荷団体(年間の玄米仕入数量が5,000トン以上)、出荷業者(年間の玄米仕入量が500トン以上)である」「3 販売段階は、米穀の販売の事業を行う者(年間の玄米仕入量が4,000トン以上)である」と記載されているのを見たとき、すべての謎が解けた。

 この表に掲載されているのは、全国の農協グループ及び「全集連」(全国主食集荷協同組合連合会)加盟集荷業者が集荷できた量だけである。逆に言えば、農協・全集連を通すことなく出荷された米は、この表には含まれていないということになる。

 1995年に廃止されるまで、日本には食糧管理制度(食管制度)があった。農協と全集連は、食管制度の下で、政府管理米と並んで正規米に位置付けられていた自主流通米の政府指定集荷団体として認められていた法人で、自主流通米の集荷比率は農協9割、全集連1割といわれた。

 奇しくも、食管制度解体から今年でちょうど30年になる。農協・全集連が集荷できているのが全収穫量の半分弱に過ぎないということが、このデータから見えてくる。もっとも、食管制度時代には、米どころが多い東日本では政府米2割、自主流通米7割の比率で、米どころが少ない西日本では政府米3割、自主流通米6割といわれてきた。食管制度廃止によって政府米がそのまま民間流通に移行したと仮定すれば、農協・全集連が集荷する旧「自主流通米」の減少幅は1~2割ということになる。これを多いと見るか、それほどでもないと見るかは意見の分かれるところだろう。

 日本の米の年間収穫量は、前述のとおり、ここ数年は700万トン程度で、需給はほぼ均衡しており、いわれているほどの「米余り」は実際には起きていなかった。計算の便宜上、年720万トン収穫できているとすると、1か月に60万トン消費されている。つまり「民間在庫の推移(速報)」は、流通量だけでなく消費量の面でも実勢の半分しか反映していないことになる。農協・全集連が集荷できた年300万トンの米が、月に20万~30万トン程度消費されているということを示したものに過ぎない。

 残る半分は、大きく分けると大口需要者(外食産業など)による直接買い付け、農協・全集連以外の流通業者による集荷分、そして産直などの小口需要ということになる。これら(産直除く)は外食産業、病院・学校給食の他、いわゆる「中食(なかしょく)」に回る。中食とは、外食と家庭「内食」の中間的形態で、具体的には弁当・総菜のことを指す。作って食べるまですべてが家庭内である「内食」と、作って食べるまですべてが家庭外である「外食」の中間的形態(作るのは「外」、食べるのは「中」)なので、このように呼ばれるわけだ。

 これら外食・中食によって米の半分が消費されており、近年はこの分野が伸びているため、米の消費量は言われているほど減っていない。減っているのは一般家庭で炊飯して食べる米だけだが、この分は農協・全集連が多くを扱ってきたため、「民間在庫の推移(速報)」では減っているように見えるという数字のマジックの面が大きい。

 ●日本では、ウクライナ戦争開始後、農協・全集連が集荷量を大きく減らした

 「民間在庫の推移(速報)」資料から、クリアに見える点がもう1つある。近年、秋の収穫期直後の11~12月時点で、おおむね300万トン台で安定していた流通量が、令和4/5年度(2022~2023年度)を境に大きく減少していることだ。

 この年に起きた大きな出来事は、いうまでもなくウクライナ戦争だ。同時に、燃料費、資材費の大幅な値上がりが始まった。この値上がりに耐えきれず、多くの農家が離農したことが、この表から見えてくる。

 米生産量全体としても670~680万トン程度に減っているが、この減少分(マイナス30~40万トン)は「民間在庫の推移(速報)」における減少幅とほぼ一致する。「民間在庫の推移(速報)」は農協・全集連が集荷した米だけを対象にした統計であり、ウクライナ戦争後の燃料・資材費の値上がりに耐えきれずに離農した農家のほとんどが、農協・全集連に出荷していたことも、この資料は示している。

 ●ウクライナ戦争を契機に起きた農協の集荷力の低下が「一般家庭」を直撃した

 離農のほとんどが農協・全集連に出荷していた農家に集中していたという私の推測通りだとすると、次のような結論が導き出される。ウクライナ戦争後に急騰した燃料・資材費の価格転嫁を、農協・全集連が認めなかったのに対し、それ以外の流通業者は認めた可能性が高いということである。

 この結果、農協・全集連に出荷していた農家の多くが農業に希望を失って離農するか、燃料・資材費高騰分の価格転嫁を認める農協・全集連以外の流通業者に出荷先を切り替えるかのいずれかを選んだと考えられる。こうして、流通量減少の影響が外食、中食には及ばず、農協・全集連が集荷した米を取り扱っているスーパー・米穀店だけを直撃したのだ。

 元々このような状態であるところに、「民間在庫の推移(速報)」に戻ると、令和6~7(2024~2025)年は、令和5~6(2023~2024)年に比べて、前年同月時点での流通量がさらに39~50万トンも少なく推移している。1か月の米消費量が60万トン(うち、一般家庭消費分が半分の30万トン)であることを考えると、平均で1.5か月分に相当する。つまり、昨年は8月に始まった米騒動は、今年は1か月半早まり、6月中旬には始まることになる。

 一般家庭で消費されている米(=外食、中食除く)が月に30万トンであることから考えると、政府が実施を公表している21万トンの備蓄米放出くらいではまったく足りない。その効果は、おそらく「令和の米騒動第2弾」の始まる時期を、半月~20日程度遅らせるのがせいぜいだろう。備蓄米21万トンを放出しても、令和の米騒動第2弾は、7月上旬までには始まると考えられる。

 今後、「米を隠し、売り惜しむ米穀業者」というストーリーで、マスコミによる米穀業者バッシングが激化すると予測する。だが、彼らの名誉のために述べておくと、米穀業者が保管している米は、外食産業など「すでに買い手がついている、売約済のもの」がほとんどであり、いわゆる「売り惜しみ」ではない。もちろん売約済なので、外食産業には契約通りの価格で出荷されることになろう。昨年起きたのと同じように、「レストランなどの外食や、弁当業者等には十分な量の米があり不足していないにもかかわらず、スーパーや米屋の店頭にだけ米がない」という状態が繰り返されるに違いない。

 石破政権は、参院選後まで米不足を先送りできるとの腹づもりのようだが、おそらくその見込みは外れる。参院選がまさに公示され、運動期間に入る頃に米が完全に消えるという、石破政権的には最悪のシナリオになる可能性が強まってきた。

 米不足が原因で、この夏、自公政権が倒れることになるかもしれない。野党もまとまれずバラバラだが、それでも「バラバラなりに非自民政権が成立」した1993年の再来は十分あり得る。思えばこのときも、時期を同じくして「平成の米騒動」があった。やはり歴史は繰り返しているのだ。

 長年、減少が続いているとされてきた米の需要は、すでに見たとおり下げ止まっており、今後は上昇に転じる可能性もある。これまでの農業政策は行き詰まっており、物価高とインフレの時代にふさわしい新たな政策に改める必要がある。

 3月30日、東京都内で「3.30「令和の百姓一揆」トラクター&デモ行進 農民に欧米並みの「所得補償」を!」行動が行われる。農業者によるトラクターデモは、米不足に収束の兆しが見えない中、注目を集めるに違いない。

(※)筆者が福島原発事故刑事訴訟関係要請行動のため3月3日(月)に上京した際、調査を行った「肉のハナマサ赤坂店」では、すでにこの日、「お1人様2袋(10kg)まで」の購入制限が行われていたのを確認している。

<参考資料等>
・農水省資料「民間在庫の推移
全集連(全国主食集荷協同組合連合会)

(文責:黒鉄好/2025年3月29日)


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