(この記事は、当ブログ管理人がインターネットサイト向けに執筆した原稿をそのまま掲載しています。)
2011年1月15日、東北新幹線小山駅構内で発生した架線トラブルと配線接続ミスが連続して起き、朝7時頃から不通となった東北新幹線は午前11時半過ぎに復旧するまでに4時間半を要した。JR東日本で復旧が遅いのは今に始まったことではなく、当コラム筆者もすでに諦めの心境だが、今回は私自身が所要のため大阪に向かわなければならず、この遅れの影響で珍しい体験をすることになった。
予定では新白河を12時15分に発車する「やまびこ214号」に乗り、東京方面に向かうはずだった私は、遅れのため「次の新幹線は13時40分過ぎに到着見込み」とのアナウンスをようやく耳にした。しかし、やってくる新幹線は本来なら新白河を9時20分に発車しているはずの「やまびこ210号」だという。駅でのアナウンス通り13時40分に発車とすると、定刻の4時間20分遅れだ。私は、わかってはいたものの、最近はJRの営業約款に当たる「旅客営業規則」さえまともに理解していない係員も多いことを知っていたので、終着駅に2時間以上の遅れで到着した場合、列車の指定のない自由席特急券でも払戻しの対象になることを最寄りの駅員に確認した上で、乗車券(新白河~新大阪間往復)と特急券(新白河~東京、東京~新大阪のそれぞれ往復)を買った。
私がここ白河に住むようになってから早いものでまもなく4年を迎えようとしているが、新白河から大阪へ行くとき、特急券はともかく、乗車券はいつも往復乗車券としてまとめて買うことにしている。理由は簡単で、新白河~新大阪(大阪市内)は営業キロで741.8kmあり、JRグループが往復割引の対象としている「片道601km以上」に該当するからである。往復乗車券は使用開始前に往復まとめて買わないと適用されないから、まとめて買う癖をつけているのだ。
結局、「やまびこ210号」はアナウンス通り13時40分頃にやってきた。その後は順調に走行を続けたものの、それまでの大幅な遅れはいかんともしがたく、4時間20分近い遅れを引きずったまま東京に着いた。この瞬間、新白河~東京間の自由席特急料金2,720円の無手数料全額払戻しが確定した。物心ついたときから35年以上、鉄道ファン人生を続けている私だが、2時間以上の遅延による特急料金無手数料全額払戻しは在来線で過去に一度あるだけで、新幹線では今回が初めてというきわめて珍しい体験である。
特急・急行列車が2時間以上遅れて終着駅に到着すると、乗客が特急・急行料金の無手数料全額払戻しを請求することができるというのは、旅客営業規則282条の規定に基づくものだ。「旅行開始後又は使用開始後」に、「列車が運行時刻より遅延し、そのため接続駅で接続予定の列車の出発時刻から1時間以上にわたつて目的地に出発する列車に接続を欠いたとき」「着駅到着時刻に2時間以上遅延したとき」には、事故発生前に購入した乗車券類について、「旅行の中止並びに旅客運賃及び料金の払いもどし」「有効期間の延長」「無賃送還並びに旅客運賃及び料金の払いもどし」のいずれかを請求できる、とある。「急行券」の場合は「当該急行料金の全額」を請求できることになっている(規則上「急行券」「急行料金」という表現になっているが、特急とは特別急行の略なので、この規定は特急券・特急料金にも当然、適用される)。
http://www.jreast.co.jp/ryokaku/02_hen/07_syo/03_setsu/10.html
http://www.jreast.co.jp/ryokaku/02_hen/07_syo/03_setsu/11.html
この「2時間ルール」は特急・急行料金の払戻しとして一般利用客にも比較的よく知られていると思われるが、実際の運用を改めて見ていると大変興味深いものがある。列車の遅れは刻一刻と変化するため、規則では「2時間以上の遅延」の判定を各列車の「着駅到着時刻」(各列車ごとに設定されている最終の駅に到着した時刻)で行うことにしている。つまり、途中駅の時点では2時間以上遅れていても、着駅に到着したとき遅れが2時間未満に収まっていれば払戻しは受けられないのである。一方、着駅に到着した時点で2時間以上遅れていた場合、遅延が2時間未満の途中区間だけ乗車した場合でも払戻しの対象となる。「遅延の判定を着駅で行うのだから、列車の着駅まで乗らずに途中駅で降りた乗客はどうなるのか」と尋ねられそうだが、この場合も列車が着駅に着いた時点で2時間以上遅れていれば払戻しを受けられる。
払戻しを受ける場合、注意しなければならないのは、自動改札機を通過したら特急・急行券が回収されてしまうので、自動改札機は通らず、有人改札で特急・急行券に遅延証明をもらうことだ。特急・急行券の払戻しはその日でなくても1年以内なら有効だが、特に列車・座席の指定がない自由席特急券・急行券の場合、時間が経てば経つほど遅延の事実確認が難しくなるから、後日払戻しを受ける場合でも遅延証明はその場で直ちにもらっておくようお勧めする。
今回、私が乗車した「やまびこ210号」は、列車単位で見ると着駅である東京に到着した時点で4時間20分程度遅れていたが、私が乗車した新白河~東京間に限れば所要時間は通常とほとんど変わらなかった。それにもかかわらず、2時間以上の遅延の判定を列車単位で、かつ着駅で行うため、遅れに巻き込まれて長時間車内で待たされた乗客も、遅れてしまってから乗車し、結果的に所要時間は通常とほとんど変わらなかった乗客も一律に救済されることになる。
旅客営業規則を見ると、「ただし、指定された急行列車(指定急行券以外の急行券の場合は、乗車した急行列車)にその全部又は乗車後その一部を乗車することができなくなつたときに限る」(第282条の2(2)号)と払戻し条件を限定しており、厳密に言えば、購入した特急券のとおりに乗車できた私のような乗客には払戻しをしなくてもよいことになる。しかし、実際には遅れた列車の乗客全員を被害者とみなして請求があれば全員に特急・急行料金を払い戻す運用が国鉄時代から変わらず行われてきた。列車遅延の「迷惑料」として、払い戻される特急・急行料金が事実上の既得権益になっている現状の中で、今さら運用を変更することは乗客の納得を得られないだろう。
東北新幹線では、私が巻き込まれた15日の遅延の後、17日にも新幹線の車両やダイヤ、乗務員割り当てなどの運行全般を管理するJR東日本の情報システム“COSMOS”(コスモス)のトラブルによる遅延が発生した。ポイント故障が発生し、走行中の列車をいっせいに停止させようと、“COSMOS”に大量のデータを送ったところ、データ処理件数が“COSMOS”が一度に処理できる限界の600件を超えたため、システムが不安定になったことが原因という。
“COSMOS”は2008年の年末にもトラブルで大規模運休を引き起こしている。どういうわけか、“COSMOS”が原因の新幹線トラブルは冬、それも雪で大規模な運休・遅延があった直後に起きる傾向がある。2008年末のトラブルの原因は、雪で大幅に乱れた列車のダイヤや乗務員運用を一度に大量修正しようとして修正データの入力時間の制限に間に合わなかったことが原因だった。
私たちが家庭で使っているパソコンでも、扱うデータ量が処理能力ぎりぎりになるとパフォーマンスが著しく低下するように、“COSMOS”のような大規模システムもやはり処理能力ぎりぎりのデータ量を送ることは運用上好ましくない。システムを構築した関係者にしてみれば、余裕のある運用をするためデータ処理量に上限を設けておきたい気持ちは理解できるが、今回はそれが裏目に出てしまったといえよう。
“COSMOS”は、旧国鉄時代の新幹線運行システムを廃棄して、1995年にJR東日本が導入したものでありJR東日本の責任は免れない。長野新幹線はまだなく、東北新幹線も東京~盛岡間だけだった導入時と比べて、処理すべきデータ量は大幅に増加している。いつまでも不安定な“COSMOS”はそろそろ卒業して、別の安定的なシステムの導入を検討すべき時期に来ているのではないだろうか。
2011年1月15日、東北新幹線小山駅構内で発生した架線トラブルと配線接続ミスが連続して起き、朝7時頃から不通となった東北新幹線は午前11時半過ぎに復旧するまでに4時間半を要した。JR東日本で復旧が遅いのは今に始まったことではなく、当コラム筆者もすでに諦めの心境だが、今回は私自身が所要のため大阪に向かわなければならず、この遅れの影響で珍しい体験をすることになった。
予定では新白河を12時15分に発車する「やまびこ214号」に乗り、東京方面に向かうはずだった私は、遅れのため「次の新幹線は13時40分過ぎに到着見込み」とのアナウンスをようやく耳にした。しかし、やってくる新幹線は本来なら新白河を9時20分に発車しているはずの「やまびこ210号」だという。駅でのアナウンス通り13時40分に発車とすると、定刻の4時間20分遅れだ。私は、わかってはいたものの、最近はJRの営業約款に当たる「旅客営業規則」さえまともに理解していない係員も多いことを知っていたので、終着駅に2時間以上の遅れで到着した場合、列車の指定のない自由席特急券でも払戻しの対象になることを最寄りの駅員に確認した上で、乗車券(新白河~新大阪間往復)と特急券(新白河~東京、東京~新大阪のそれぞれ往復)を買った。
私がここ白河に住むようになってから早いものでまもなく4年を迎えようとしているが、新白河から大阪へ行くとき、特急券はともかく、乗車券はいつも往復乗車券としてまとめて買うことにしている。理由は簡単で、新白河~新大阪(大阪市内)は営業キロで741.8kmあり、JRグループが往復割引の対象としている「片道601km以上」に該当するからである。往復乗車券は使用開始前に往復まとめて買わないと適用されないから、まとめて買う癖をつけているのだ。
結局、「やまびこ210号」はアナウンス通り13時40分頃にやってきた。その後は順調に走行を続けたものの、それまでの大幅な遅れはいかんともしがたく、4時間20分近い遅れを引きずったまま東京に着いた。この瞬間、新白河~東京間の自由席特急料金2,720円の無手数料全額払戻しが確定した。物心ついたときから35年以上、鉄道ファン人生を続けている私だが、2時間以上の遅延による特急料金無手数料全額払戻しは在来線で過去に一度あるだけで、新幹線では今回が初めてというきわめて珍しい体験である。
特急・急行列車が2時間以上遅れて終着駅に到着すると、乗客が特急・急行料金の無手数料全額払戻しを請求することができるというのは、旅客営業規則282条の規定に基づくものだ。「旅行開始後又は使用開始後」に、「列車が運行時刻より遅延し、そのため接続駅で接続予定の列車の出発時刻から1時間以上にわたつて目的地に出発する列車に接続を欠いたとき」「着駅到着時刻に2時間以上遅延したとき」には、事故発生前に購入した乗車券類について、「旅行の中止並びに旅客運賃及び料金の払いもどし」「有効期間の延長」「無賃送還並びに旅客運賃及び料金の払いもどし」のいずれかを請求できる、とある。「急行券」の場合は「当該急行料金の全額」を請求できることになっている(規則上「急行券」「急行料金」という表現になっているが、特急とは特別急行の略なので、この規定は特急券・特急料金にも当然、適用される)。
http://www.jreast.co.jp/ryokaku/02_hen/07_syo/03_setsu/10.html
http://www.jreast.co.jp/ryokaku/02_hen/07_syo/03_setsu/11.html
この「2時間ルール」は特急・急行料金の払戻しとして一般利用客にも比較的よく知られていると思われるが、実際の運用を改めて見ていると大変興味深いものがある。列車の遅れは刻一刻と変化するため、規則では「2時間以上の遅延」の判定を各列車の「着駅到着時刻」(各列車ごとに設定されている最終の駅に到着した時刻)で行うことにしている。つまり、途中駅の時点では2時間以上遅れていても、着駅に到着したとき遅れが2時間未満に収まっていれば払戻しは受けられないのである。一方、着駅に到着した時点で2時間以上遅れていた場合、遅延が2時間未満の途中区間だけ乗車した場合でも払戻しの対象となる。「遅延の判定を着駅で行うのだから、列車の着駅まで乗らずに途中駅で降りた乗客はどうなるのか」と尋ねられそうだが、この場合も列車が着駅に着いた時点で2時間以上遅れていれば払戻しを受けられる。
払戻しを受ける場合、注意しなければならないのは、自動改札機を通過したら特急・急行券が回収されてしまうので、自動改札機は通らず、有人改札で特急・急行券に遅延証明をもらうことだ。特急・急行券の払戻しはその日でなくても1年以内なら有効だが、特に列車・座席の指定がない自由席特急券・急行券の場合、時間が経てば経つほど遅延の事実確認が難しくなるから、後日払戻しを受ける場合でも遅延証明はその場で直ちにもらっておくようお勧めする。
今回、私が乗車した「やまびこ210号」は、列車単位で見ると着駅である東京に到着した時点で4時間20分程度遅れていたが、私が乗車した新白河~東京間に限れば所要時間は通常とほとんど変わらなかった。それにもかかわらず、2時間以上の遅延の判定を列車単位で、かつ着駅で行うため、遅れに巻き込まれて長時間車内で待たされた乗客も、遅れてしまってから乗車し、結果的に所要時間は通常とほとんど変わらなかった乗客も一律に救済されることになる。
旅客営業規則を見ると、「ただし、指定された急行列車(指定急行券以外の急行券の場合は、乗車した急行列車)にその全部又は乗車後その一部を乗車することができなくなつたときに限る」(第282条の2(2)号)と払戻し条件を限定しており、厳密に言えば、購入した特急券のとおりに乗車できた私のような乗客には払戻しをしなくてもよいことになる。しかし、実際には遅れた列車の乗客全員を被害者とみなして請求があれば全員に特急・急行料金を払い戻す運用が国鉄時代から変わらず行われてきた。列車遅延の「迷惑料」として、払い戻される特急・急行料金が事実上の既得権益になっている現状の中で、今さら運用を変更することは乗客の納得を得られないだろう。
東北新幹線では、私が巻き込まれた15日の遅延の後、17日にも新幹線の車両やダイヤ、乗務員割り当てなどの運行全般を管理するJR東日本の情報システム“COSMOS”(コスモス)のトラブルによる遅延が発生した。ポイント故障が発生し、走行中の列車をいっせいに停止させようと、“COSMOS”に大量のデータを送ったところ、データ処理件数が“COSMOS”が一度に処理できる限界の600件を超えたため、システムが不安定になったことが原因という。
“COSMOS”は2008年の年末にもトラブルで大規模運休を引き起こしている。どういうわけか、“COSMOS”が原因の新幹線トラブルは冬、それも雪で大規模な運休・遅延があった直後に起きる傾向がある。2008年末のトラブルの原因は、雪で大幅に乱れた列車のダイヤや乗務員運用を一度に大量修正しようとして修正データの入力時間の制限に間に合わなかったことが原因だった。
私たちが家庭で使っているパソコンでも、扱うデータ量が処理能力ぎりぎりになるとパフォーマンスが著しく低下するように、“COSMOS”のような大規模システムもやはり処理能力ぎりぎりのデータ量を送ることは運用上好ましくない。システムを構築した関係者にしてみれば、余裕のある運用をするためデータ処理量に上限を設けておきたい気持ちは理解できるが、今回はそれが裏目に出てしまったといえよう。
“COSMOS”は、旧国鉄時代の新幹線運行システムを廃棄して、1995年にJR東日本が導入したものでありJR東日本の責任は免れない。長野新幹線はまだなく、東北新幹線も東京~盛岡間だけだった導入時と比べて、処理すべきデータ量は大幅に増加している。いつまでも不安定な“COSMOS”はそろそろ卒業して、別の安定的なシステムの導入を検討すべき時期に来ているのではないだろうか。