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JR尼崎事故判決/無罪で再びJRを免罪、しかし今後に一筋の光も

2015-03-28 13:50:02 | 鉄道・公共交通/安全問題
昨日、大阪高裁で判決が言い渡された福知山線脱線事故を巡る歴代3社長の裁判について、レイバーネット日本に報告を書きました。こちらから読むことができますが、当ブログにも全文を貼り付けます。(以下、文中敬称略)

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2005年に起きた福知山線脱線事故。神戸地検が不起訴とした歴代3社長(井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の3被告)について、神戸第1検察審査会が二度にわたる起訴相当議決を出し、2010年、3社長は強制起訴。以降、裁判所が指定した弁護士(以下、指定弁護士)が検察官役として通常の刑事裁判と同様の裁判が行われてきた。

1審、神戸地裁は13年9月、禁固3年の求刑に対し無罪判決。指定弁護士側が控訴し、14年12月の被告人質問で3社長側が改めて無罪を主張し結審。今日を迎えた。

朝、自宅前で取材を受けた遺族のひとり、藤崎光子さんは「1審判決はJRの主張を引き写しただけでひどいものだった。良い判決を勝ち取るため、公正判決を求める署名に取り組んできた。高裁では司法の良識に期待する」と述べた。また、午前中、改めて事故現場を訪れた藤崎さんは「ここに立つたびに『私はなぜこんなところで死ななければならなかったの』という娘の声が聞こえる」と語った。

判決言い渡しは大阪高裁201号法廷で午後2時から。これに先立ち、1時58分、民放テレビによる代表撮影が行われる。

午後2時。「被告人は前へ」。横田信之裁判長の声で、あらかじめ入廷していた3社長が被告人席に並んで立つ。

「これから業務上過失致死傷事件に関する判決を言い渡します。主文:本件各控訴を棄却する」。指定弁護士側の控訴を棄却。すなわち1審の無罪判決を維持する、との内容だ。

裁判長に促され、法廷右側の弁護側席に戻る3社長。判決理由の朗読が始まった。

傍聴席から見て、弁護側席右から2人目に井手。弁護士を挟み、4人目に南谷。弁護士を挟み、一番右の席に垣内。6人が並ぶ。井手は視線を上に向け、南谷はじっと目をつむり、裁判長から最も遠い席にいる垣内は基本的に裁判長のほうを見ながら、時折机に目を落とし、判決を聞く。傍聴者の反応が気になるのか、傍聴席に視線を向ける瞬間もあった。無罪判決を受けても厳しい表情のまま、3社長は何を思うのか。

一方、検察側席では、指定弁護士が落ち着かない表情をしている。隠しきれない判決への怒り、不満は傍聴席にまで伝わってくる。

判決は、3社長が有罪となるためには「一般的な大規模鉄道事業者の取締役の立場にある一般通常人と同様の情報収集義務に基づいて、因果関係に基づいた具体的な予見可能性が証明されることが必要」と有罪のハードルを極めて高く設定。「単なる事故の不安等では足りない」と指定弁護士の主張を退けた。「現場担当者からの報告を待たなければ社長らが情報収集できないような場合、(より多くの情報に接している)現場担当者の方が罪に問われやすくなりバランスを欠く」との指定弁護士側の主張に対しては「社長らが情報収集を適切に行えたとしても、結果回避ができたとは必ずしも言えない」という驚くべき論法でJRを免罪した。「どのみち事故は避けられなかったのだから無罪」という司法の居直りであり、無罪との結論はやはり初めから決まっていたと言わざるを得ない。

速度照査型ATSが設置されているカーブは危険だから安全対策を講じるべきだった、とする指定弁護士側の主張に対しては「ATS設置基準を満たしているからと言って直ちに危険とはいえない」、また普通鉄道構造規則での通常の基準(カーブ関係600m以上)に反する半径304mのカーブは違法とする指定弁護士側の主張に対しては「普通鉄道構造規則では、地形上等のためやむを得ない場合は半径160mのカーブまで認めている」「このようなカーブは全国至る所にある」とした。半径160mのカーブまで認められる「地形上等のためやむを得ない場合」とはどのような場合なのかの具体的基準も示さず、「同じような場所がどこにでもあるから違法ではない」とするのも司法の居直りだ。

全体として、判決は、福知山線脱線事故の原因について具体的に検証もせず、「一般論としては~」「他にも同様の事例があるから~」と言うだけのものだった。大阪高裁のこの論法を認めた場合、そもそもATS設置基準は何のためにあるのか。国土交通省令である普通鉄道構造規則は守る必要もないただの作文なのか。鉄道に関するすべての安全規制の体系が根底から崩れ去ることになる。聞けば聞くほど疑問ばかりが膨らんでいく。

1時間半に及んだ判決言い渡しの中で、小さいが今後に向け、収穫が2点だけあった。そのひとつは「JR西日本は我が国を代表する大規模鉄道事業者であり、安全対策では他の鉄道事業者をリードすべき」とした指定弁護士側の主張を認めたこと、もうひとつは「法人組織としてのJRの責任を問うのであれば(指定弁護士側の主張は)妥当する面がある」と裁判長が判決理由の最後にわざわざ判示したこと――である。

前者は、原発事故をめぐる裁判の中で、「通常の企業に要求される程度の安全対策は講じており、津波は予見できなかった」とする東電の主張を打ち砕く根拠になる(東電のような代表的企業は通常の企業の安全対策程度では責任を免れない、と主張する根拠を得たことになる)。

また後者は、遺族の一部が求めている組織罰法制(一例として、企業に対する罰金刑を規定した英国の「法人故殺法」がある)が整備されれば企業を有罪に問える、との司法の見解を示すものだ。通常、裁判官が、起訴事実となった罪(今回は業務上過失致死傷罪)以外の罪について、間接的にであれ言及するのは極めて異例である。1審・神戸地裁では、判決言い渡し後、閉廷前に裁判長が「このような事故で誰も罪に問われないのはおかしいという被害者の方の感情は理解できる」と発言したが、これは裁判長の不規則発言であり記録に残らなかった。

今回、判決文はまだ入手していないが、裁判長は明らかに判決理由の一部としてわざわざこの点を判示しており、判決文としてこの判示内容が記録されることは小さくない意味を持つ。1審での裁判長の発言よりさらに踏み込んで司法が組織罰法制の必要性に言及したものとも言える。企業経営者個人の罪しか問えない現行刑法に対する司法の問題意識が特定の一裁判官だけにとどまらず、司法内に広がり始めていることを示している。組織罰法制の整備に向けた運動展開が今後の課題であることがいっそう浮き彫りになったといえる。

「これだけ多くの犠牲者を出しながら、なぜ誰ひとり責任を問われないのか」という遺族・被害者の疑問に、司法は今回も答えなかった。だが、えん罪防止の観点から、刑法は拡大解釈が強く戒められる法律のひとつであり、適用条件には厳格さが要求される、との原則を司法が守ったこと自体は理解できる。問題はやはり、現行刑法が100年前の明治時代に作られた骨格をそのまま維持しており、責任と権限が分散した株式会社制度の下での企業犯罪という事態に全く対処できないことにある。100年に及ぶ立法不作為が現在の遺族の悲しみを招いているのである。

世界で最も企業が活動しやすい国を目指し、私たちの残業代まで取り上げようとする安倍政権が、企業の手を縛る組織罰法制に取り組む可能性はない。私たちが国民運動としての大きなうねりを作りだし、組織罰の法制化に乗り出していく必要があることを、今回の判決は改めて示した。

判決言い渡しは1時間半に及んだ。午後3時半、閉廷。

(報告・文責 黒鉄好)

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【JR尼崎事故】JR西日本歴代3社長へ、27日、いよいよ高裁判決

2015-03-25 23:31:20 | 鉄道・公共交通/安全問題
乗客ら107人が死亡した2005年のJR福知山線脱線事故をめぐって、検察審査会による2度の起訴相当議決を受け強制起訴とされた後、1審・神戸地裁で無罪とされた井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛のJR西日本歴代3社長に対する控訴審判決が、いよいよ27日午後2時から、大阪高裁(第201号法廷)で言い渡される。

1審の無罪判決後、遺族のほとんどが控訴を希望したことから、検察官役の指定弁護士が控訴した。大阪高裁での実質審理は、昨年12月の被害者による意見陳述1回が行われたのみ。遺族らが希望した被害者参加制度の適用も見送られるなど、訴訟指揮も良いとは言えなかった。下級審判決を変更する際に開かれる弁論も開催されず、事実上、1審の無罪判決を踏襲するとみられる。

裁判所は、この間、一貫して事故の具体的な予見可能性を否定し、速度照査型ATSの設置を命じなかったことが過失とは言えない、としてきた。福知山線事故以前にJR函館本線で起きた貨物列車の転覆脱線についても、予見可能性を検討すべき事例とは言えないとしてきた。だがこの判決は間違っている。列車の重量や車種に関わらず、一定の条件を満たす場合(カーブでの遠心力と重心からの重力の合力を示す線が車輪より外側に出た場合)に転覆脱線するということは、すでに脱線理論として確立しているのだ。神戸地裁の判決は、この理論を無視または否定するものであり、きわめて非科学的なものである。

10万人を超える労働者の大量解雇とともに「発車」した殺人JR体制は、四半世紀が過ぎた今なお死屍累々だ。安全が完全崩壊した北海道、採算も環境対策も度外視したリニア建設へ向けて暴走するJR東海、経営安定基金を飲み込んだまま上場へとひた走る九州。北陸新幹線の華々しい開業の影でずたずたに引き裂かれた在来線の鉄道ネットワーク。

東日本大震災の津波で大きく被災した山田線沿岸部(宮古~釜石間)はついにJRとしての復旧を見ないまま、今年2月、三陸鉄道への売り渡しが決まった。JRが復旧費を全額負担し、復旧させた上で地元に拠出する交付金は当初、5億しか提示されなかったが、地元自治体の粘りで30億まで引き上げられた。国鉄再建法による特定地方交通線の第三セクター鉄道化の際、国が送った転換交付金は営業キロ1kmあたり3000万円が上限だったから、宮古~釜石間の営業キロ(55.4km)に当てはめれば16.6億円相当ということを考えると、国鉄再建法による赤字路線切り捨てのときに比べれば山田線沿線自治体は倍近い額を確保したことになる。しかし、転換交付金を送られた第三セクター鉄道でさえ、すでに4線(北海道ちほく高原鉄道、神岡鉄道、三木鉄道、高千穂鉄道)が赤字や災害を理由に消えている(この他、のと鉄道も廃止されたが、これは厳密に言えば赤字が原因ではない)。

福知山線脱線事故は、決してこのようなJR体制と無縁ではない。これらの出来事のすべては「利益優先、安全軽視」という地下茎でつながっている。それゆえに、この3社長の裁判は、JR体制を根底から裁くものでなければならないと当ブログ、安全問題研究会は考える。

さて、安全問題研究会は、福知山線脱線事故としては関西地区で言い渡される最後の判決となる今回、大阪高裁を訪れる予定だ。地元メディアや労働組合(特にJR西日本労働組合)による関係者の大量動員が予想され、1審・神戸地裁に続き競争率10倍を超える厳しい抽選になる可能性がある。だが、法廷に入れなくてもいい。JR史上最悪の事故の判決で、司法が「井手天皇」にどのような審判を下すのか、その歴史的瞬間を目に焼き付けておきたいと思う。

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地下鉄日比谷線事故から15年

2015-03-09 21:17:59 | 鉄道・公共交通/安全問題
社長「今も申し訳なく」日比谷線事故の慰霊式典(読売)

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 乗客5人が死亡、64人が重軽傷を負った日比谷線脱線衝突事故から15年を迎えた8日、東京都目黒区の事故現場近くで慰霊式典が行われ、関係者が犠牲者の冥福を祈った。

 小雨が降る中、事故発生の午前9時1分を迎えると、東京メトロの奥義光社長らが衝突現場脇にある慰霊碑に向け、黙とうをささげた。奥社長は「事故から15年がたったが、今も大変申し訳なく思っている。安全確保に向けて最大限努力していきたい」と述べた。当時を知る社員は半数以下となったが、奥社長は「事故の与えた影響をこれからもきちんととどめていきたい」と誓った。
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早いもので、あの日比谷線事故から15年が経った。60年の歴史を誇った旧帝都高速度交通営団で唯一の死亡事故だ。

当ブログとこの事故との関わりは、過去の記事に書いたとおりだ。当時、横浜在住だった私は危うく自分がこの事故に巻き込まれかねなかった。亡くなった5名の方々と私との差は、ほんの紙一重だったと今でも思っている。

この事故に関してのこの間の新しい動きとしては、事故10年に当たる2010年に初めて事故現場の慰霊碑を訪問したこと(過去ログ)、そして2013年には、「失敗学会」において、学会員のひとり、吉岡律夫さんが当ブログ掲載の慰霊碑の写真を使って発表を行ったことが挙げられる。吉岡さんは福島原発事故における失敗の研究をしている方で、過去の鉄道安全・公共交通の分野に関する私の活動が、よもやこのような形で原発事故の失敗研究と結びつくことになるとは夢にも思っていなかった。世の中、何が何とつながるかわからないものだと思う。亡くなった5名の方のためにも、当ブログ管理人は鉄道の安全のために尽くさなければならない。

なお、亡くなった5名の方の遺族の中に、東京メトロの対応にいまだ、納得していない方もいることを、最後に付記しておきたい。

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「JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問主意書」に対する政府答弁書

2014-11-30 22:06:09 | 鉄道・公共交通/安全問題
当研究会が、山本太郎参議院議員を通じて提出した「JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問主意書」に対する政府答弁書が決定されたのでお知らせします。

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答弁書


答弁書第七四号

内閣参質一八七第七四号
  平成二十六年十一月二十一日

内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員山本太郎君提出JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員山本太郎君提出JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 国土交通省としては、平成二十六年一月二十四日に鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)第二十三条第一項及び旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六十一年法律第八十八号。以下「JR会社法」という。)第十三条第二項の規定に基づき国土交通大臣が発出した「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」(以下「命令」という。)を受け、北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)において策定され、同大臣に報告された命令別添別紙2「第一歩の改善」についての措置を講ずるための計画は、基本的に命令の内容を踏まえたものであると認識しており、当該計画の実施状況についても、JR北海道からの定期的な報告、五年程度の常設の監査体制等により、適切に把握することとしている。

三について

 お尋ねの点については、鉄道事業等監査規則(昭和六十二年運輸省令第十二号)第七条第二項の規定に基づき平成二十五年九月から平成二十六年一月までの間にJR北海道に対して実施した保安監査(同規則第三条第一号に規定する保安監査をいう。)の中で、事実関係の確認を行った。JR北海道からは、検査データの改ざんに係る具体的内容に関する資料は残っておらず、詳細については不明である旨の回答を得ている。

四について

 国土交通省としては、JR北海道が、輸送の安全の確保を前提としながら、経営基盤の確立を図ることが必要であると考えており、このため、JR北海道に対して、JR会社法第十二条第一項に規定する経営安定基金の設置に加え、日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律(平成十年法律第百三十六号)附則第四条及び第五条の規定に基づき、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」という。)を通じ、老朽化した施設の更新等のため、平成二十三年度からの十年間で総額六百億円の助成金の交付等の支援を行っているところである。

 また、同省は、JR北海道に対し、命令において、安全確保のため必要な設備投資を早急に行うため、安全投資と修繕に関する五年間の計画の策定及び機構からの助成金等の活用の前倒しの検討を命じたところであり、同省としては、当該計画の実施状況を把握し、適切に対処してまいりたい。

五について

 鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成十三年国土交通省令第百五十一号)等において規定されている鉄道車両の定期検査の周期は、技術の進展等を背景として、走行試験、外部有識者による検討等を踏まえて定めており、適切なものであると考えている。

 なお、御指摘のトラブルの原因については、JR北海道より、第三者も交えた検証の結果、エンジンの構造上の問題と特定されたとの報告があったところである。

六について

 御指摘の「交通権」の意味するところが明らかではないが、鉄道軌道整備法(昭和二十八年法律第百六十九号)に基づく災害復旧事業費補助については、同法第八条第四項において「鉄道事業者がその資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるときは・・・補助することができる」と規定されており、これを踏まえ、鉄道軌道整備法施行規則(昭和二十八年運輸省令第八十一号)第十五条の三第三項第三号イにおいては「三年間・・・における各年度の鉄道事業の損益計算において経常損失若しくは営業損失を生じていること」、同号ロにおいては「基準期間における各年度の鉄道事業者が経営するすべての事業・・・の損益計算において経常損失若しくは営業損失を生じていること」等が規定されているところであり、経営の厳しい鉄道事業者が対象となっている。

 地域の鉄道の復旧については、基本的には事業主体である鉄道事業者が、地方公共団体等と議論しながら対応していく必要があると考えている。また、鉄道を含む地域の公共交通については、交通政策基本法(平成二十五年法律第九十二号)及び地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成十九年法律第五十九号)において、地方公共団体は、地域の諸条件に応じた施策を実施し、地域公共交通の活性化や再生に主体的に取り組むよう努めること、国は、交通に関する施策の総合的な策定及び実施や情報提供等に取り組むよう努めること等が定められている。

 このような見地から、地域の公共交通が確保されるよう適切に対処してまいりたい。

七について

 中央新幹線(東京都・名古屋市間)の環境影響評価については、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)に従い、平成二十六年四月二十三日に東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)から送付された「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書」(以下「環境影響評価書」という。)について、環境大臣は同年六月五日に意見を述べ、国土交通大臣は、当該意見を勘案し、同年七月十八日にJR東海に対し意見を述べた。この意見を受けて、JR東海は同年八月二十六日に補正を行った環境影響評価書を同大臣に送付した。同大臣は、当該補正後の環境影響評価書の記載事項及び同年七月十八日に述べた同大臣意見に基づいて、中央新幹線(品川・名古屋間)の建設の事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうか等を審査し、同年十月十七日に工事実施計画を認可したものである。

八について

 御指摘の「リニア中央新幹線建設費として九兆円を見込んでいる」の意味するところが明らかではないが、中央新幹線(東京都・大阪市間)の工事費については、全国新幹線鉄道整備法(昭和四十五年法律第七十一号。以下「全幹法」という。)第五条第一項の規定に基づき、国土交通大臣は、機構及びJR東海に対し、建設に要する費用に関する事項等の調査を指示し、両者は、「中央新幹線(東京都・大阪市間)調査報告書」において、南アルプスルートの場合の建設に要する費用を九兆三百億円と報告した。これを受けて、全幹法第十四条の二の規定に基づき、同大臣は交通政策審議会に諮問し、同審議会における審議を経て、同大臣は、全幹法第七条第一項の規定に基づき、建設に要する費用の概算額九兆三百億円を含む「中央新幹線の建設に関する整備計画」を決定したものである。

 なお、中央新幹線(東京都・大阪市間)の工事費については、今後、平成二十六年十月十七日に認可した工事実施計画の区間以外の区間に係る環境影響評価を行い、その結果を踏まえ、JR東海による工事実施計画の認可申請の段階で精査されるものと考えている。

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JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問主意書

2014-11-14 22:50:00 | 鉄道・公共交通/安全問題
安全問題研究会は、山本太郎参議院議員を通じ、11月13日付で「JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問主意書」を提出したのでお知らせします。

なお、質問主意書の内容は以下の通りであり、政府は、質問書受領後7日以内に答弁しなければならないと定められています(国会法75条)。この質問主意書を政府は11月21日に受領しているので、11月28日までに答弁が行われることになります。

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<参考>国会法

第75条 議長又は議院の承認した質問については、議長がその主意書を内閣に転送する。
○2 内閣は、質問主意書を受け取つた日から七日以内に答弁をしなければならない。その期間内に答弁をすることができないときは、その理由及び答弁をすることができる期限を明示することを要する。

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(参議院サイトより)

JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問主意書

 昨年から顕在化した北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)における事故は、最悪期を脱したものの、依然として完全には収束していない。本年一月には旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(以下「JR会社法」という。)に基づく史上初の監督命令が出される一方、レール検査データの改ざんが明らかになるなどJR北海道の安全管理体制が問われる事態が続いている。こうした中、ローカル線の経営が深刻化しており、災害で不通となった路線の復旧スキームを見直す声が野党のみならず与党にも出ている。また、東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)に対し、国土交通省が着工を認可した中央新幹線(東京都・名古屋市間)(以下「リニア中央新幹線」という。)は問題だらけの計画である。こうしたことを踏まえ、以下質問する。

一 レール検査データ改ざんや脱線事故等が続くJR北海道に対しては、国土交通省が今年一月二十四日、鉄道事業法に基づく事業改善命令に加え、JR会社法に基づく監督命令を出した。これを受け、JR北海道は、「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」における「二 第一歩の改善」について措置を講ずるための計画(以下「計画」という。)を策定し、今年七月二十三日付けで国土交通大臣宛の報告書を同省北海道運輸局へ提出している。

 計画に対し、現在、国土交通省による検証・確認作業はどの程度進んでいるのか。また、不備な点があるとの認識は持っているか。持っている場合、追加でどのような対策を講じるのか、明らかにされたい。

二 JR北海道が現状の職員数のまま、提出した計画に基づいて安全性を向上させることが可能と考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

三 新聞報道によれば、JR北海道におけるレール検査データの改ざん問題に関しては、一九九一年と一九九八年に会社と国鉄労働組合北海道本部(以下「国労」という。)との労使交渉の際、国労側が改ざんが行われている可能性を会社に指摘、調査を申し入れながら、会社が「法令に基づいて検査が行われているものと信じている」として何らの対策も講じなかったとされている。政府として、この事実を把握しているか。把握しているのであれば、当時、政府としてJR北海道に対し何らかの指導を行った事実はあるか。また、把握しながら何らの指導も行っていなかった場合、その理由を明らかにされたい。

四 私が、昨年十一月六日付けで提出した「JR北海道で発生した連続事故及び日本国有鉄道改革の見直しに関する質問主意書」(第百八十五回国会第四五号)の質問三に対する答弁書(内閣参質一八五第四五号)は、JR北海道に対して、「法第十二条に規定する経営安定基金の運用収入」、「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律(平成十年法律第百三十六号)附則第四条の規定に基づき独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」という。)が発行する特別債券の引受けによる利子収入が得られる措置」、「同法附則第五条の規定に基づく機構の助成金等として、十年間で総額六百億円の支援」により「JR北海道は、平成二十五年三月期の子会社を連結しない単体の決算及び連結決算において、それぞれ約九億円及び約七十三億円の経常利益の計上を行っているところである」としているが、最も基本的なレール検査等の安全対策すら実施できないJR北海道の実態に目を向けることなく、「利益が出ているからいい」というのは著しく誠意、真摯さを欠いた不当な答弁であると言わざるを得ない。

 鉄道事業者にとって、安全は最大の商品であり、安全輸送が確保できてこその利益でなければならないと考えるが、この点を踏まえ、再度、政府の見解を問うので、真摯に答弁されたい。

五 二〇〇一年九月に実施された規制緩和により、従来「三年(新車は使用開始から四年)または走行距離二十五万キロメートルを超えない期間」とされていた気動車の検査周期が「四年または走行距離五十万キロメートルを超えない期間」と改められた。一方、新聞報道によれば、二〇一三年四月に発火トラブルを起こした特急「北斗」用車両(キハ一八三系)は前回の検査からの走行距離が二十一万キロメートルであったほか、二〇一二年九月にも同様に直前の検査からの走行距離が二十一万キロメートルでトラブルを起こした例がある。

 長距離列車が多く運行一回当たり走行距離が長いこと、力行運転(動力をかけた状態での運転)の時間が多いこと、寒冷地であることなど北海道特有の事情があるにせよ、このようなトラブルの事例から、二〇〇一年に行われた検査周期の緩和は全く不適切である。この規制緩和を見直し、少なくとも緩和前の基準に戻すことが必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 自然災害で被災した鉄道事業者の路線復旧に対する国庫補助については、現在、鉄道軌道整備法第八条第四項において「その資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるとき」に限って国庫補助を行うことができるとされており、事実上、JR各社を含む黒字鉄道事業者に対しては国庫補助の道が閉ざされている。一方、二〇一一年七月の「新潟・福島豪雨」以来一部区間が運休したままになっているJR只見線(福島県)について、地元からは復旧への強い要望が出ており、今年七月には、自民党国会議員連盟が只見線復旧に対する国庫補助の道を開くため鉄道軌道整備法の改正を目指す方針を確認するなど、政権与党内部からも法改正への動きがみられる。

 国鉄改革関連法案が審議されていた参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会において、一九八六年十一月二十八日、「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」を含む附帯決議が可決されるとともに、当時の橋本龍太郎運輸大臣、葉梨信行自治大臣が決議の趣旨を尊重する旨表明している。国民の公共交通としての国鉄を引き継いだJR各社線の災害復旧に国が責任を持つことは、国会からの要請であると同時に、国民の基本的人権の一つである交通権を確保する見地からも必要不可欠のものである。

 東日本大震災という未曾有の大災害により、東北地方のローカル線の多くが被災しており、いまだ復旧に至らない路線もある。資金力を有するJR各社であっても、災害の規模によっては復旧費の捻出が困難な状況が起こり得ることを示している。国民の交通権を確保するため、基幹交通であるJR各社の災害復旧には、鉄道事業者の経営状態にかかわらず国による資金拠出の道を開くため、鉄道軌道整備法の改正が必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 リニア中央新幹線の建設については、今年六月五日、国土交通大臣宛てに提出された「中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見」(以下「環境大臣意見」という。)において「本事業の工事及び供用時に生じる環境影響を、最大限、回避、低減するとしても、なお、相当な環境負荷が生じることは否めない」、「本事業のほとんどの区間はトンネルで通過することとなっているが、多くの水系を横切ることとなることから、地下水がトンネル湧水として発生し、地下水位の低下、河川流量の減少及び枯渇を招き、ひいては河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能性が高い」として懸念が示されている。国土交通省は、環境大臣意見を踏まえた対応にJR東海が万全を期しているとは言えない中で、なぜこのような拙速な認可をしたのか。

八 JR東海は、リニア中央新幹線建設費として九兆円を見込んでいるが、東海道新幹線建設の際も、当初、千九百七十二億円と試算されていた建設費は、一九六三年三月になって二千九百二十六億円に上方修正されている。最近の石油・資材価格及び職人の人件費の高騰に鑑みれば、リニア中央新幹線の建設費も高騰が予想される。リニア中央新幹線の建設費について、JR東海が試算した九兆円に収まると考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

右質問する。

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会計検査院、鉄道施設の保守について、JR北海道、四国に再び「意見表示」

2014-11-02 22:51:44 | 鉄道・公共交通/安全問題
会計検査院が、鉄道施設の維持管理について、JR北海道・四国を検査した結果、社内規定通りの点検が行われていない等の実態があったことから、2012年に引き続き、この2社に意見表示を行ったことが明らかになった。

<各種報道>
レール異常164カ所放置 JR北海道 検査院が改善要請(北海道新聞)

JR保線不備 安全面の総点検が急務(北海道新聞社説)

<会計検査院が行った意見表示の内容>(会計検査院ホームページより)

●会計検査院法第36条の規定による意見表示~「鉄道施設の維持管理について」

JR北海道関係
JR四国関係

会計検査院は、「国が資本金を出資したものが更に出資しているものの会計」を「必要と認めるとき」に検査することができる(会計検査院法による)。JR北海道・四国・九州は、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が全株式を保有しており、その鉄道・運輸機構は国が出資しているから、会計検査院はJR北海道・四国・九州の会計を検査することができる。

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JR尼崎事故控訴審始まる 3社長、改めて無罪主張 次回で結審の報道も

2014-10-13 17:51:19 | 鉄道・公共交通/安全問題
尼崎JR脱線 3社長控訴審初公判、被告人質問を採用(神戸)

尼崎JR脱線控訴審 「情報収集で予見可能」指定弁護士、新たな主張(産経)

尼崎JR脱線控訴審初公判 一審から1年、遺族「やっと」(神戸)

2005年、乗客・運転士107名が死亡したJR尼崎事故を巡り、井手正敬元会長、南谷昌二郎元会長、垣内剛元社長に対する1審の無罪判決を不服として、検察官役の指定弁護士が控訴していた強制起訴裁判で、10月10日、3社長らに対する控訴審の第1回公判が大阪高裁で行われた。

出廷した3社長は、1審・神戸地裁に引き続き、事故は「予見不可能」として再び無罪判決を求めた。報道によれば「組織のトップは重要な経営事項に関し、高所的立場から的確な指示をすべきだ。(積極的な情報収集を課せられれば)経営事項の決定が遅れる上、専門的見地から離れた誤った判断に陥りかねない」と主張したが、これは「積極的に情報収集などしない方が的確な指示ができる」、別の言い方をすれば「経営トップは何もしない方がいい」というものだ。経営陣みずから己の無能をさらけ出すに等しいばかげた主張であり、当ブログとしては全く考慮に値しないと考える。

10日の公判では、次回、第2回公判を12月12日(金)に指定。ここで被告人質問を行うことが決まった。被告人を出廷させ、関係者(裁判官、検察官(今回の裁判では、検察官役の指定弁護士)、弁護側弁護士)が被告人に質問できるものだ。被害者参加制度が適用される場合は被害者も被告に質問できるが、今回は予定されていないという。

遺族など被害者19人が控訴審に参加するが、1審の41人から参加者が大幅に減った背景に、司法へのあきらめを指摘する声もある。神戸新聞の報道によれば、次回の第2回公判で早くも結審との報道もある。大阪高裁が1審の無罪判決を見直す気があるのかきわめて疑問だと言わざるを得ない。

この訴訟を担当する横田信之裁判官は、厚労省郵便不正事件の刑事訴訟を担当、村木厚子・厚生労働事務次官に無罪判決を言い渡した裁判長として知られる。量刑実務大系(大阪刑事実務研究会 編)という専門書の「被害者と量刑」という章の執筆も手がけている。えん罪を厳しく恐れ、検察側の立証に少しでも疑問があれば、無罪判決を書ける裁判官のようだ。「疑わしきは被告人の利益に」(最高裁白鳥決定)の原則からすれば、原則に忠実な仕事ができる良心的裁判官との評価も可能だが、企業など社会的強者の不作為による過失犯罪で、市民の多くが強い処罰感情を持つ事件にもこの原則を適用した場合にはかえって市民的利益を損なう可能性が高い。「疑わしきは被告人の利益に」の大原則は堅持しつつも、企業犯罪に対してはその適用の是非を再検討する時期にきている。

尼崎事故の遺族たちは、すでに今年2月、組織罰法制に関する勉強会を立ち上げ、賛成・反対様々な有識者の意見を聞きながら学習を進めている。日本に巣くう癌・経団連にとって不利になることは大手メディアが一切書かない中で、アジアプレス・ネットワークが伝える次の2本のニュースが、法人処罰を巡る動向を追った報道としては光っている。

●JR福知山線脱線事故判決、歴代3社長に無罪判決~法人処罰導入へ議論を

●JR脱線事故9年~「組織罰」導入を求める遺族たち

法人を処罰する法制度が不備であることは、福島原発事故でも改めて浮き彫りにされている。「『事故を予測できなかった』という理屈が通るなら、過去に例がない事故では誰の責任も問えない」(遺族・上田弘志さん)、「ATS整備について『他がやっていないから、うちはしなくもいいんだ』という考え方でいいのか。危険個所はないのか注意を払い、あれば対策を考えるのが経営者ではないのか。この判決だと、怠惰な経営者ほど責任追及ができない結果とならないか」(強制起訴第1号事件となった「明石歩道橋事故」で指定弁護士を務めた安原浩さん)との指摘は重い。

やはり、こうした事態を改善していくには法人処罰立法が必要だと思う。まだ具体化していないが、セウォル号沈没事故を契機に、韓国でも企業を処罰する法律を作る動きがあり、日本国内の法人処罰立法の検討状況に関する情報を提供してほしいとの依頼も当研究会にあった。法人処罰に関しては、2012年4月21日、「ノーモア尼崎! 生命と安全を守る4.21集会」で安全問題研究会が行った報告「尼崎と福島―今、私たちに問われているもの」をご覧いただきたい。

控訴審に参加する遺族が41人から19人へと半分以下に減ったとしても、当ブログと安全問題研究会に「諦め」の文字はない。当ブログは控訴審でも、引き続きこの裁判を追っていく。

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【管理人よりお知らせ】安全問題研究会が12日、国土交通省申し入れを行います。

2014-09-10 22:41:55 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

安全問題研究会は、来る9月12日(金)午後、JR北海道の安全問題やリニア問題、ローカル線対策について、国土交通省に申し入れを行います。

申し入れ・要請内容は以下の通りとなる予定です。

------------------------------------------------------------
2014年9月12日

 国土交通省鉄道局長 様

安全問題研究会


   JR北海道の安全問題、リニア中央新幹線問題等に関する要請書

 当会は、各鉄道の安全や地域公共交通の存続及び利便性向上のための活動を行う鉄道ファンの任意団体です。これまで、国内各地の鉄道を初めとする公共交通に乗車して点検を行う活動、鉄道事故の原因調査や学習会などを通じて安全問題や地方ローカル線問題の検討を行ってきました。その結果、日本の鉄道や公共交通を巡る政策について、改善を要するいくつかの事項が認められるに至りました。

 本日は、そのような改善を要する事項のうち、特に緊急を要するもの及び影響が特に深刻なものについて、下記のとおり要請を行うこととしました。

 当会としては2012年以来の要請となりますが、貴職におかれましては、本要請の趣旨をご理解の上、ぜひ実現していただくとともに、本要請書に対して、2014年9月30日までに文書による回答を行われるよう要求いたします。

   記

《JR北海道問題》
1.JR北海道の特別保安監査、刑事告発及び監督命令を受けた安全対策について

 国土交通省による特別保安監査、刑事告発及び監督命令を受けたJR北海道について、法令遵守意識の徹底をはかるとともに、安全確保に必要な増員等の措置を行わせること。

【説明】
 JR北海道では、2009年頃からレール破断や信号配線ミス、富良野駅における営業列車と保線用車両の衝突などの事態が相次いでいたが、ついに2011年5月には石勝線トンネル内での特急列車火災事故が発生。2013年にもエンジンからの出火による車両火災や貨物列車を中心とした脱線事故、レール保線データの改ざん問題が連続的に起きたことから、国土交通省は特別保安監査の結果に基づき、JR北海道に対する刑事告発を行った。また、これと並行してJR会社法(旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律)による史上初の監督命令が行われたことは周知のとおりである。

 JR会社法に基づく監督命令は、主として経営陣に責任を求めるものであると同時に、国として、JR北海道の企業体質を問題視した結果であると当会は受け止めている。実際に、保線データの相次ぐ改ざんや「野帳」の破棄、また以下の2で取り上げた車両検査体制等の問題は、同社に法令遵守意識が全くなく、また、法令遵守したくてもできないほどの経営効率化を迫られていることを示すものである。また、これは全国1社方式による「内部補助」(儲かる路線で儲からない路線を支える)を否定し、儲からない地方路線だけを集中的にJR北海道に背負わせる形で出発した国鉄分割民営化の明らかな帰結である。

 JR北海道の社員数が、営業キロ1キロメートルあたりで比較した場合、JR東海のわずか3分の1である事実をふまえると、JR北海道には鉄道部門(特に保線、施設、車両部門)の早急な増員とともに、技術の継承を困難にしている業務の外注化を中止することが必要と考える。外注化の中止と増員に向けた具体的な方策を明らかにされたい。

 また、昨年11月、山本太郎参院議員が提出した「JR北海道で発生した連続事故及び日本国有鉄道改革の見直しに関する質問主意書」に対する答弁書において、政府は「JR北海道における輸送の安全を確保し、利用者の安心を確保するため、鉄道事業等監査規則第7条に基づき平成25年9月以降JR北海道に対して実施した保安監査の結果の整理・分析等を踏まえ、引き続き適切に対処してまいりたい」旨を表明している。保安監査の結果を受けたJR北海道の安全対策について、現時点で国として取り組むことが決まっているものがあれば、併せて明らかにされたい。

2.会計検査院から指摘を受けた車両検査体制の改善について

  会計検査院から指摘を受けたJR北海道の車両検査体制の不備について、同社に必要な対策をとらせること。

【説明】
 2012年11月2日に会計検査院が内閣に送付した平成23年度決算検査報告において、JR北海道の車両検査・修繕に不備が指摘され、「是正改善の処置」を行うよう意見表示が行われた。

 具体的には、(1)自動列車停止装置(ATS)車上子の作用範囲を確認する応動範囲試験について、整備標準では交番検査の都度、装置が動作する距離を測定することとされているのに、実際には、3回に1回しか測定しておらず、残りの2回は目視による動作確認を実施しただけであった、(2)整備標準に基づく交番検査の検査項目のうち、測定を行うこととされている項目(測定項目)について、記録状況を5運転所等で共通して配置されている気動車1車種についての測定項目を確認したところ、測定を行うこととされている27項目のうち6項目において、運転所等により検査記録に測定結果が記録されていたり、記録されていなかったりしていて、検査記録が運転所等により異なるものとなっていた、(3)電車の交番検査を実施している2運転所等の検査記録を比較したところ、1運転所等では、測定項目以外の装置の作用及び機能を検査する項目についても記録しているのに、他の1運転所等では、測定項目以外の項目は自動列車停止装置に関するものを除き記録しておらず、検査記録が運転所等により異なるものとなっていた――等である。

 こうした事態は、JR北海道が自社の制定した検査マニュアルさえ遵守せず、日常的、全社的に「手抜き検査・修繕」がまかり通っていたことを示している。また、外部から指摘を受けるまで社内で自浄作用も働かなかったことを意味しており、同社の法令遵守意識を根本から問い直さなければならない深刻な事態である。

 JR北海道は、今後、是正改善の処置を執ったうえで、会計検査院に報告を行う義務が生じるが、監督官庁としても鉄道事業者が日常的に行う車両の検査修繕に対し、不断に検証・指導を行うことは当然である。貴局として今後、どのような対策を考えているのか明らかにされたい。

3.石勝線での列車脱線火災事故に伴う安全基準の見直しについて

  JR北海道・石勝線での列車脱線火災事故を踏まえ、特に車両火災に関する安全基準を強化すること。

【説明】
 当会が、2008年に情報公開制度に基づいて貴局から公開を受けた「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準」(平成14年3月8日付け国鉄技第157号)を、JR北海道・石勝線での列車脱線火災事故を踏まえて再確認したところ、新幹線と地下鉄以外の車両では座席の表地に難燃性の材料の使用を義務づけているものの、詰め物にはその義務が課せられていなかった。

 新幹線や地下鉄以外の路線でも最近は長大トンネルが増える傾向にあり、新幹線や地下鉄と同様の安全基準が必要であると考える。全ての鉄道車両で座席の表地も詰め物も難燃性の材料使用を義務づける方向で上記解釈基準の改正を行うよう、2012年にも当会として要請を行っている。その後の検討状況はどのようになっているのか明らかにされたい。

4.気動車の検査周期に関する規制緩和について

  国土交通省が2001年に実施した気動車の検査周期の緩和を見直し、元の基準に戻すこと。

【説明】
 国土交通省では、2001年9月、気動車の検査周期について大幅に規制を緩和し、従来「3年(新車は使用開始から4年)または走行距離25万キロメートルを超えない期間」としていたものを「4年または走行距離50万キロメートルを超えない期間」とした。

 一方、この間の新聞報道によれば、2013年4月に発火トラブルを起こした特急「北斗」用車両(キハ183系)は前回の検査からの走行距離は21万キロメートルであったほか、昨年9月にも同様に直前の検査からの走行距離が21万キロメートルでトラブルを起こした例がある。

 長距離列車が多く運行1回あたり走行距離が長いこと、力行運転の時間が多いこと、寒冷地であることなど北海道特有の事情があるにせよ、このようなトラブルの事例から、2001年に行われた検査周期の緩和は全く不適切であったものと当会は考える。この規制緩和を見直し、少なくとも緩和前の基準に戻すよう求める。

《中央リニア新幹線問題》
5.JR東海が進める中央リニア新幹線計画について

  問題だらけの中央リニア新幹線については、全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画の承認を取り消し、建設を認めないこと。

【説明】
 JR東海が進めている中央リニア新幹線は、確たる需要予測もないまま建設が進められており、失敗公共事業の典型である。東京~大阪間全通予定の2045年度における「需要予測」は2011年度における東海道新幹線の輸送実績(443億人キロ)の約1.5倍(年間675億人キロ)という非現実的なもので、2013年9月には山田佳臣JR東海社長みずから「(リニア新幹線は)絶対にペイしない」と発言している。1988年10月には、葛西敬之JR東海会長(当時)が「3分の1は国のカネが必要。ナショナルプロジェクトで推進しなければならない」と発言しており、初めから税金投入ありきでの建設というのがJR東海の認識である。

 JR東海は、建設の根拠として「建設から50年経過し老朽化した東海道新幹線に代替路線が必要」としているが、東海道新幹線の老朽化、代替路線の必要性は認めるものの、リニアの大阪開通が31年後では遅すぎて代替路線とならない。工費を減らし、工期も短縮して現在の新幹線方式で代替路線を造るほうが、現在の新幹線と乗り換えなしで直通でき、適切といえる。

 また、(1)全区間の71%をトンネルが占める状態で事故が起きた場合の避難・救助体制、(2)超伝導磁気浮上式で動くリニアの電磁波の健康への影響、(3)山梨実験線での走行実験で明らかになった騒音問題、(4)静岡県内の生活用水として利用されている大井川での水量の減少、(5)南アルプスの直下、日本有数の地震帯である中央構造線をトンネルで貫くリニアの地震対策…等々、リニア中央新幹線には問題が山積している。一方、リニアによる時間短縮等のメリットは現行の新幹線方式でも実現できるものがほとんどであり、あえてリニア方式で建設する必要性は認められない。

 日本と同様にリニアの建設計画があったドイツでは、連邦議会が特別法を制定して自ら厳格な事業評価を実施した結果、投資回収の困難性、深刻な環境破壊、他の鉄道との直通運転が一切できないネットワーク性の欠如などの問題点が明らかになり、2000年に計画は中止されている。現在、リニア方式による鉄道の建設を計画しているのは世界的にも日本以外になく、今後も見通しは明るくない。このような中でリニア中央新幹線の建設を容認すれば将来に大きな禍根を残すことになる。当会としては、リニア中央新幹線計画を中止すべきと考える。

《整備新幹線及びローカル線問題》
6.整備新幹線及び並行在来線の取り扱いについて

  整備新幹線開業時に並行在来線の経営をJRから分離することを取り決めた「整備新幹線の取扱いについて」(平成8年12月25日政府与党合意)を破棄し、並行在来線の安易な第三セクター転換が行われないようにすること。

【説明】
 この合意のため、過去、1997年の長野新幹線開業時において信越本線・横川~軽井沢間が廃止となったほか、信越本線、東北本線、鹿児島本線のそれぞれ一部がJRから経営分離され、沿線自治体が出資する第三セクター鉄道への移管を余儀なくされた。この移管によって沿線自治体は衰退し、沿線住民は運賃値上げや不必要な乗り換えを強いられるなど、明らかなサービスの低下が見られる。こうした並行在来線の分離は、JRの公益企業としての責任放棄である。

 とりわけ北海道では、2016年に予定されている北海道新幹線新函館開業を機に、並行在来線である江差線が第三セクターに移行することが決まっているが、JR北海道でさえ既存路線の維持に苦しみ、民営化以降すでに道内で10線区が廃止される中で、江差線を第三セクター化することは、事実上同線を即時切り捨てるにも等しい暴挙である。

 鉄道の先人たちが現在に残してくれた在来線鉄道ネットワークを破壊し、「線路はつながっていても一体運行が存在しない」姿に変えた政府与党合意を直ちに破棄し、これ以上の並行在来線切り捨てが行われないよう求める。

7.災害復旧費の国庫補助の拡大について
  黒字鉄道事業者に対し、災害復旧費の国庫補助を禁じている鉄道軌道整備法を改正し、JRにも災害復旧費の国庫補助が行えるようにすること。

【説明】
 自然災害で被災した鉄道事業者に対する国庫補助については、現在、鉄道軌道整備法第8条第4項において、「その資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるとき」に限って国庫補助を行うことができるとされており、事実上、JRを含む黒字鉄道事業者に対しては国庫補助の道が閉ざされている。

 一方、2011年7月の「福島・新潟豪雨」以来一部区間が運休したままになっているJR只見線(福島県)について、地元からは復旧への強い要望が出ており、今年7月には、自民党国会議員連盟が只見線復旧に対する国庫補助の道を開くため鉄道軌道整備法の改正を目指す方針を確認するなど、政権与党内部からも法改正への動きがみられる。

 国鉄改革関連法案が審議されていた参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会において、1986年11月28日、「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」を含む附帯決議が可決されるとともに、当時の運輸相、自治相が「決議の趣旨を尊重する」旨を表明している。国民の公共交通としての国鉄を引き継いだJR線の災害復旧に国が責任を持つことは、国会からの要請であると同時に、国民の基本的人権のひとつである交通権を確保する見地からも必要不可欠のものである。

 東日本大震災という未曾有の大災害により、東北地方のローカル線の多くが被災しており、いまだ復旧に至らない路線もある。資金力を有するJRであっても、災害の規模によっては復旧費の捻出が困難な状況が起こり得ることを示しており、当会としても、国民の交通権を確保するため、基幹交通であるJRの災害復旧には、鉄道事業者の経営状態にかかわらず国が資金拠出の道を開くことが必要と考える。黒字鉄道事業者に対しても国が災害復旧費を補助できるよう必要な法改正を求める。

(以  上)

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レイバーコラム第19回 日航機事故から29年~フジテレビ特番を見て やはり解明されなかった「疑惑」

2014-08-21 21:47:54 | 鉄道・公共交通/安全問題
(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 単独機の事故としては世界最悪の520人が犠牲となった1985年8月のJAL123便墜落事故から29年が経過した。月日の流れの速さを改めて感じるが、私の脳裏に焼き付いたあのむごたらしい酷暑の夏の記憶は今なお決して薄れることはない。「御巣鷹の尾根」は今なお私、そして安全問題研究会の原点だ。

 ところで、今年の8.12はいつもの年と少しばかり違った。フジテレビ系列の全国放送として、特別番組「8.12日航機墜落30回目の夏~生存者が今明かす“32分間の闘い”ボイスレコーダーの“新たな声”」が放送されたからだ。

 この番組の放送は8月10日の産経新聞で予告された。フジサンケイグループ内での「自画自賛的番組宣伝」であろうと自戒を込めつつも、その大々的な予告ぶりに、多くの人がいまだ謎に満ちたこの事故の「真相究明」に対するいくばくかの期待を抱いてこの番組を見たようだ。運輸省航空事故調査委員会(事故調、現在の運輸安全委員会の前身)が発表した「後部圧力隔壁崩壊説」に一度も納得できたことがない私ももちろんこの番組には注目していた。

 だが同時に私は、事故というより「事件」と呼ぶほうが適切かもしれない「御巣鷹の真相」は、おそらくこの番組でも明かされることはないだろうと思っていた。なにより30年近い歳月は短いようで長い。当時を知る関係者も少なくなり、遺族ですら高齢化で険しい御巣鷹の尾根への慰霊登山を断念する人が毎年増え続ける現実がある。今頃になって新事実が飛び出すくらいなら、とっくの昔に出ていて不思議はないし、圧力隔壁崩壊説に疑問を抱く人なんて日本全国に今なお数万人単位で存在する。

 ミサイル撃墜説、自衛隊「無人標的機」衝突説を初めとして、この間、ありとあらゆる言説が流されてきた。この事故のことを卒業論文のテーマにしようと考えた学生が教授に相談したところ「君の命が危ない。悪いことは言わないからやめなさい」と言われた、またある大物政治家が「私が首相になったらすべての真相を明らかにする」と漏らし、そのために政権中枢から遠ざけられた、など事故から数年は事実とも嘘ともつかない風説も乱れ飛んだ。だが、そのどれもが決定的な証拠を欠いたまま、事故原因に納得できない人たちが独自の真相究明を今なお続けようとしているのが、この事故の特異なところなのだ。

 そんなモヤモヤ感が払拭できないまま、歳月の流れによってそろそろ真相究明をあきらめざるを得ないのかと思っていた矢先のことだけに、この番組の大々的な予告はいやでも目を引く。私は「この事故に関して今さら怖いものなどあるか。何が来ても驚かないから、来るなら来い」と思いながら、放送開始を待った。

 ●事故調追随の「肩透かし」

 だが、2時間半にも及んだ番組の感想を一言でいうなら「とんだ肩透かし」だった。たった4人の生還組のひとり、吉崎博子さんの証言を掘り起こしたことは評価するが、救出活動に従事した人たちの人間ドラマに仕立てるのが目的の番組だったというほかなく、事故当時、焦点となっていた点はものの見事に言及されなかった。

 たとえば異常事態が発生した1985年8月12日18時24分35秒頃の「ドーン」という異常音の後のボイスレコーダーの会話内容はどう聞こえるか。急減圧はあったのか。事故現場の特定になぜ一晩もかかったのか。乗客を救助しようと米軍が事故現場上空に到着し、降下準備まで整えながら「日本政府が米軍の救援を拒否し、帰還命令が下された」とする米空軍アントヌッチ中尉(当時)の米軍準機関紙”Stars and Stripes”(星条旗)における証言は事実なのか…等々。

 こうした点にひとつでも肉薄できるなら、この番組は評価に値すると思っていたが、私を含め「事故調報告否定派」の人々が最も知りたかったこれらの論点を意図的に無視し、あろうことか、米国の音声分析会社まで持ち出した挙句に「原因は事故調報告通り圧力隔壁崩壊」というのだ。どう考えても、事故調報告への異論、疑問が依然として収まらない日本社会の現実に業を煮やした「誰か」が圧力隔壁崩壊説の正しさを宣伝するために仕組んだ番組としか思えない。見終わった後、私は思わず脱力してしまった。

 テレビ番組としてのインパクト、衝撃という意味では、事故20年後の2005年に放送されたTBS「ボイスレコーダー~残された声の記録~ジャンボ機墜落20年目の真実」に遠く及ばなかった。これと前後して、運輸省・事故調、日本航空がひた隠しにしていたボイスレコーダーが何者かの手によって流出したとのうわさが流れていたが、この番組ではボイスレコーダーの生音声が流れることによって流出が事実であることが裏付けられた。

 同時に、事故直後、「どーんといこうや」という機長の発言が記載されたボイスレコーダーの筆記録が事故調によって公表されて以降、「投げやりな態度で乗客を死に至らしめた」として社会的に糾弾されていた乗務員に対する社会的評価が180度変わった。墜落の最後の瞬間まで懸命に着陸を目指そうとしていた乗務員の奮闘が生音声によって明らかになり、慰霊登山で遺族から怒鳴られることがあった高浜機長の連れ合いが「生音声放送後は感謝されるようになった」と述懐していたことが印象に残っている。

 私自身は、操縦席が機体の先頭に位置している以上、事故が起これば真っ先に死ぬことになる乗務員が、乗客を救う以前の問題として、自分の命を捨てるような真似をするはずがないと信じていたから、「投げやりな態度で乗客を死に至らしめた」との批判に対しては、そんなことがあるはずがないと疑問を抱いていた。

 結果的に、ボイスレコーダーの生音声が流出したからといって、「加害者」であるはずの乗務員の遺族も「被害者」であるはずの乗客の遺族も誰も困らなかった。むしろ事故を起こした会社を手を携えて追及できる契機にさえなった。

 日航乗員組合の組合員で、同社の航空機関士(当時)だった芹沢直史氏は、事故の真相究明に取り組んでいたジャーナリスト角田四郎氏に対しこのように答えている。「過去、日航では自社機事故の後、返還されたボイス・レコーダーは必ず乗務員に公開され、その一部は訓練に供されています」「通常なら〔事故原因の〕調査中にボイス・レコーダーを聴かされ解読する手伝いをすることさえあったのに、今回は一切ノータッチです。組合からも再三、公開を要求してきましたが、今だ応じていません」(注1)。

 それでは、この事故に限ってボイスレコーダーはなぜ公開されず隠されたのか。別の言い方をすれば、ボイスレコーダーの生音声が流されることによって「困る」のは誰か。その点こそが事故原因のカギを握るといえる。

 ●小規模の減圧はあったが急減圧はなかった

 明らかにしてほしかった論点がいくつかある。その最大のものが、18時24分35秒頃に「ドーン、ドーン」という異常音が響き、警報が鳴動を始めた直後、ボイスレコーダーに記録された高浜正巳機長の声がどのように聞こえるかだ。事故調が発表したこの部分の筆記録は、1985年8月27日の第1次中間報告では「何かわかったの」だったのが、翌86年6月3日の「聴聞会報告」では「なんか・・・・」になり、87年6月の最終報告では「なんか爆発したぞ」になるなど二転三転している。

 事故調が航空工学の「専門家」を揃えながらこの程度の解析もできないという事実に驚かされた。後に、「なんか爆発したぞ」との筆記録の記載に対し、疑問の声が上がり始めた。この時点では、123便はまだ「スコーク77」(いわゆる非常事態)も宣言しておらず、この時点で「ドーン」音がなぜ「爆発」とわかるのか、というもっともな疑問だった。2005年のTBS「ボイスレコーダー~残された声の記録」による生音声の放送で、この部分が「なんかわかったの」であることがはっきりした。インターネット上に流出した生音声を拾って私は何度も聞き直したが、「なんか爆発したぞ」に聞こえたことは一度もない。

 事故直後、事故調委員の間で、また「圧力隔壁崩壊説」に批判的な有識者の間で最も鋭い論点になったのがこの部分の聞こえ方だった。「初めに爆発が起こって圧力隔壁が壊れ、続いて垂直尾翼が崩壊。与圧(注2)がなくなって急減圧が起きた」という事故調の描いたストーリー通りであるためには、この部分はどうしても「爆発したぞ」でなければならなかった。

 この部分に触れなかった時点で、私は「今回の番組はダメだな」と確信したが、その通りだった。生音声における高浜機長の声が実際には「爆発したぞ」でなく「なんかわかったの」にしか聞こえなかったからこそ、ボイスレコーダーは隠されなければならなかったのだ。

 圧力隔壁崩壊説が間違っていることを、私は、これまでに接したいくつもの証拠を挙げて証明することができる。そのひとつが下の写真だ。遺族の小川領一さんが公表したもので、撮影は事故で亡くなった父の哲さん(当時41歳)。この写真を掲載している「御巣鷹の謎を追う」(米田憲司著、宝島社、2005年)では領一さんによる写真の公表日時を「85年10月13日」としているのに対し、前述のジャーナリスト角田四郎氏の著書「疑惑 JAL123便墜落事故 このままでは520柱は瞑れない」(早稲田出版、1993年)では「事故の5年後に公表」としているなど、情報に混乱も見られるが、そのこと自体は写真の信頼性に傷をつけるものではないから、ご紹介する。



 この写真で注目すべき点は、なんといっても酸素マスクを着用していない乗客がいることだ。この日の123便は満席で、キャンセル待ちも回って来ず、搭乗をあきらめた人も多かったから、使われていない酸素マスクの座席に「主」がいなかったわけではない。

 この写真が撮影された時間、123便は少なくとも高度6000メートル以上を飛行していた。123便の高度変化は下の図の通りである(事故調発表のデータを基にしており、これも「御巣鷹の謎を追う」に掲載されている)。



 上空で、大気が存在するのは高度約10000メートルまでといわれる。私たちが生活している地上の気圧は、気象条件によっても変化するが概ね1000hPa(ヘクトパスカル)程度。高度1000メートル上るごとに気圧は約100hPaずつ減少するから、高度6000メートルより上を飛行しているこのときの123便の機外の気圧は約350~400hPa程度だ。富士山頂の約半分程度の気圧しかないことになる。こんな状態で、事故調報告通りに圧力隔壁が崩壊、垂直尾翼が機体から離脱して機体後部に大穴が開き、機内と機外の気圧が同じになるほどの急減圧が起きれば、まず酸素マスクなしで意識を保つことは無理だ。それなのに、123便の機内では乗務員はもとより一般乗客の中にさえ、酸素マスクを使用していない人が多くいるのがわかる(赤丸を付けたのが使われていない酸素マスク)。どうみても急減圧が起きている機内には見えない。

 さらに、これほどの高度を飛行しているにもかかわらず、操縦席では機長、副操縦士、航空機関士のだれも酸素マスクをしていないし、急減圧発生の際は直ちに「デコンプレッション(急減圧)!」と乗務員が称呼しなければならないとされているにもかかわらず、ボイスレコーダーの生音声にはそのような声はなかった。 

 圧力隔壁説が正しいとした場合に、機内で乗員乗客が酸素マスクをつけなくてよいほどの状況と整合性をとれる説明をするためには、少なくとも123便が発表よりかなり低高度を飛行していなければならない。たとえば、高度が3000メートル程度であれば圧力隔壁が壊れ、機体に大穴が開いたとしても、急減圧は起こらずに済むであろうから、矛盾なく圧力隔壁説を事故原因とできるであろう。ただし、今度は事故調が発表している高度図がおかしいという話になり、やはり事故調報告は全く信用できなくなる。

 私は、123便がこうした低高度を飛行していた可能性はほぼなかったと思っている。第一、発表された航路図によれば、123便は富士山のすぐ近くを飛行しており、これほどの低高度を飛行していたら、御巣鷹の尾根に到達する前にどこか他の山に激突していたであろう。そもそも低高度ほど気圧が大きいから空気抵抗も大きい。垂直尾翼を失い、油圧による操舵機能も失われていた123便がそのような大きな気圧に抗しながら飛行するのは困難を極めたはずである。操縦不能に陥りながら、墜落まで123便が30分以上も飛行を続けることができたのは、空気抵抗の少ない高高度だったからだと考えるのが自然である。それでは、急減圧は…? やはり「なかった」と判断せざるを得ない。

 事故調が圧力隔壁説にこだわるのは、事故を起こした機体番号JA8119号機がこの前年、大阪空港で起こした「しりもち事故」と関連づけたかったからだろう。事故がボーイング社の設計ミスによるものとなれば、日米航空業界の威信に傷がつく。JA8119号機特有の問題であり、ボーイング社の設計ミスでないとなれば、日米航空業界を打撃から守ることができる。不可解な事故調の姿勢、そして「起きていた事実からは全く導き出すことができない」矛盾だらけの圧力隔壁説に対する事故調の異常なこだわりの背景に、やはりこうした「政治決着」の臭いを感じざるを得ないのである。

 ●それでもわかった「いくつかの新事実」

 それでも、2時間半にわたったこの番組が全くの無駄だったわけではなく、いくつかの発見はあった。異常発生直後、羽田に帰ることを求めた123便は管制に対し右旋回を要求した。事故当時、「左旋回でUターンしていれば太平洋上に着水でき、もっと多くの生存者を残せたかもしれない。右旋回を要求したことが、迷走の果てに山に向かう原因となった」として乗務員を批判する論調があったが、今回の番組では、異常発生当時の気象データを基に、123便が飛行していた区域で南西から北東への風が吹いていたことを明らかにした。

 事故以来、長い間私を支配してきた「右旋回要求の謎」がこれにより氷解した。東京から大阪に向かっていた123便は東から西へ飛行していた。南西から北東へ風が吹いている状況で123便が左旋回を選んだ場合、瞬間的にではあるが、旋回途中で南西からの逆風を正面に受けなければならなくなる。油圧を失い、操縦不能となった123便にとって、それは受け入れられない危険きわまる賭けを意味する。一方、右旋回なら南西からの追い風に乗れ、難なくUターンできると操縦席が考えたとしても不思議ではない。旅客機の操縦席には、風向風力の状況は表示されていたはずであり、私は、右旋回を要求した高浜機長以下、当時の操縦席の判断を支持する。

 もうひとつ、123便に使用されていたボーイング747型機では、左右の主翼に2つずつ、計4つ付いているエンジンの出力を、各エンジンごとに個別にコントロールできると分かったことである。航空関係者は先刻承知であろうが、私を含め、こうした事情を知らない一般視聴者にこのことを明らかにした意味は大きい。ただ、今回の番組が、元パイロットを出演させたうえで「乗務員の手の癖により各エンジンの出力にばらつきが生まれたこと」を123便の迷走飛行の原因としていることには私は納得できない。

 なぜか。123便は油圧を失い、方向舵は利かなかった。操縦桿も重くなり操作できない状況だった。この状況で、123便の3人の乗務員は、32分間も墜落を免れながら、「操縦不能」のはずの機体をある程度コントロールすることに成功している。発表されている航路図とボイスレコーダーの生音声を聴きながら私が独自に書き下ろした筆記録を突き合わせると、たとえば18時47分ごろ、「コントロールとれ右、ライトターン」「山にぶつかるぞ」という高浜機長の声の後、航路図は実際に右に変化しているし、その後、18時48分ごろには「レフトターン・・・レフトターン」という高浜機長の声の後、左旋回こそできなかったが、航路図ではそれまで続いていた右旋回が止まり、直進に変化している。

 操縦桿が利かなくなり、「操縦不能」となっていたはずの機体をある程度、乗務員がコントロールできていたことは当時から知られていたが、どのようにして操縦席がそれを可能にしたのかにはこれまであまり言及されていなかった。4つのエンジンの出力を個別にコントロールできるとなれば、右旋回したいときは左側のエンジンの出力がより大きくなるようにし、左旋回の時はその逆にすれば、操縦桿が利かなくなってもある程度、機首を操縦席の望む方向に向けることができる。

 123便は、不時着を想定して車輪を降ろした影響で空気抵抗が増し、18時40分ごろから急速な降下が始まっていた。この極限状況の中でも、乗務員が左右思う方向に機首を向けられた背景として、私は、操縦席が左右のエンジン出力差を利用して機体を操縦していたのだと確信を持った。実際、あの状況ではそれくらいしか方法がないし、航空機のプロである乗務員はその程度のことには当然想像が及ぶと思う。それを、「乗務員の手の癖により各エンジンの出力にばらつきが生まれたこと」が123便の迷走飛行の原因とはなんたる言い草だろうか。高浜機長以下、3名の乗務員を愚弄するものであり、私は、フジテレビのこの見解には撤回を求めたいと思っている。

 たかが29年、されど29年。慰霊登山を続けていた遺族が高齢化のため引退し、子や孫の世代が慰霊登山を引き継ぐようになった。今年の御巣鷹には関越道バス事故の遺族なども登り、安全への誓いを新たにした。今年2月には、首都圏を襲った大雪の影響で、多数の墓標が倒壊し、日航社員が修復にあたった。8.12当日も、大雨の影響で登山道の脇の斜面が崩れ、一時通行止めになったが日航社員が応急処置をして復旧させた。「多くの人が命を散らさざるを得なかったこの場所を守りたい」というのが関係者の共通する思いだ。御巣鷹は今、安全を求める人たちの聖地となりつつある。日航社長も毎年、慰霊登山を続けている。そのことは評価するが、一方で日航ではこの1年間の整備ミスが16件に登り、御巣鷹事故以降では最大件数になったと報道されている。

 安全意識を持つのはいいとして、それが掛け声だけになっていないか。経営陣と現場との意思疎通がうまくいっていないのではないか。それ以前に、安全のため、声を上げ行動していた165名の労働者の解雇をなぜ見直さないのか。来年はいよいよ御巣鷹から30年になる。遺族たちは「みんながまとまって法要ができるのは33回忌が最後ではないか」と危機感を募らせる。30年は確かに節目だが通過点であり、幕引きを許してはならない。なにより事故原因すら究明されていないのだ。真の原因が明らかになり、無残な最期を遂げざるを得なかった520柱が安らかに眠れる状況になるまで、御巣鷹をめぐる安全問題研究会の活動に終わりはない。

注1)「疑惑 JAL123便墜落事故 このままでは520柱は瞑れない」(角田四郎著、早稲田出版、1993年)
注2)気圧の低い高高度で、機内の気圧を地上と同程度に維持するシステムのこと。

(黒鉄好・2014年8月20日)

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御巣鷹から29年・・・今ごろフジが特集番組を放送、その真意は?

2014-08-11 22:23:16 | 鉄道・公共交通/安全問題
「ドーン、ドーン、ドーン」日航機墜落30年目に判明した爆発音 フジが特番(産経)

まぁ、報道しているのが産経だし、フジサンケイグループによる宣伝、煽りの可能性もある。もちろん、当時の技術では解析できなかったボイスレコーダーの音声がわかるようになることは大切だが、やはり30年近い年月の流れは大きく重い。ボイスレコーダーの解析が進んでも、それだけで「圧力隔壁破壊説」を覆せるようほどの新事実が出るとはとても思えない。私は一応、録画予約をしてはいるが、冷静に見ようと思っている。

123便のボイスレコーダーの音声は、事故から15年後の2000年に流出、TBSテレビの番組でダイジェスト版が流された。殺人罪の時効がちょうど成立する「15年」でボイスレコーダーの音声がテレビ放送されたことを不審に思う声は当時、あちこちで聞かれた。

850812JAL123便ボイスレコーダー


この音源は当時、放送されたものと思われるが、爆発音が2~3回聞こえたことは周知の事実である。「ドカン、ドカン」という爆発音が冒頭、2回聞こえるが、聞きようによっては「ドン」「ドン」「ドーン」と3回であるように聞こえなくもない。それを今さら「衝撃音が3回確認できた」「新事実」と言われても釈然としないものがある。

上の音声ファイルを聞く方は、2回(あるいは3回)とされる衝撃音の直後の会話に注目してほしい。「ブーブーブー」と警報が鳴り始めた後、「まずい」「なんかわかったの」という声が聞こえないだろうか。

1985年の事故当時、運輸省航空機事故調査委員会(現在の運輸安全委員会の前身)が公表したボイスレコーダーの筆記録では、この部分が「なんか爆発したぞ」となっていた。この部分が「なんかわかったの」「なんか爆発したぞ」のどちらなのかを巡っては、事故調委員の間でも論議を呼んだし世間の大きな関心も集めた。事故調の発表に対して、一部の委員から「衝撃音の正体が何か、コックピットでまだ何もわかっておらず、123便がスコーク77(非常事態)も宣言する前の段階でなぜ爆発とわかるのか」と疑問が出された。当時、国が描いたシナリオである圧力隔壁崩壊説へ“誘導”するためには、この部分がどうしても「爆発したぞ」でなければならない事情があった、とされ、一気に事故調報告改ざん疑惑が噴出したのがこの部分を巡ってであったことを考えると、当ブログはまずこの部分がどのように「解明」されるのかに注目している。

12日にこの番組を見る方は、この部分に最も注目してほしいと思う。番組を見て、何か思うところがあれば、明日以降また追記したい。

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