アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

The Spanish Prisoner

2007-11-11 11:42:17 | 映画
『The Spanish Prisoner』 David Mamet監督   ☆☆☆☆

 スパニッシュ・プリズナー。謎めいていてカッコいいタイトルだ。昔たまたまケーブルテレビで観て妙に印象に残り、DVDを購入した。久しぶりに再見したが、結構面白い。話も面白いが、ストーリーより雰囲気で見せる映画だと思う。

 いわゆるコン・ゲームもの。主人公の実直な青年が騙される話である。ジョーはある会社の開発担当者で、莫大な利益をもたらす「プロセス」と呼ばれるモノを開発する。この「プロセス」はノートに書かれた膨大な数式の集合体で、具体的に何なのかは説明されない。「プロセス」完成間近となったが、会社が彼の報酬について確約してくれないためジョーは不安になる。同じ頃ジョーは出張先のカリブで大金持ちのジミーと知り合い、美人の妹を紹介されることになる。ジョーはジミーにあちこち連れまわされるが、美人の妹とはなかなか会えない。やがて美人の妹は存在しないことがふとしたきっかけで分かり、ジョーの疑念をかきたてる。そしてジミーはジョーが報酬について会社と対立している件で弁護士を紹介すると言って、プロセスのコピーを持ってきてくれ、と持ちかけてくる……。この先はネタバレしないように書きません。

 主人公のジョーはあまり知らない俳優さん。実直で知的で嫌味のないキャラクターで、いい味を出している。これが妙に馬鹿っぽい男だったりしたらぶち壊しだ。大金持ちのジミーはスティーヴ・マーティン。いつもと違ってシリアスな役だが、なかなか似合っている。とっても嫌な奴だ。彼以外にはあまり有名な俳優は出ていない。が、みんな結構適役だ。ジョーの会社の同僚のスーザン役の女優も普通っぽい感じでいい。

 まあジョーは結局プロセスを騙し取られ、さらに警察には自分が盗んだと疑われてしまうという悲惨な状況になっていくが、二重三重に張り巡らされた罠はよく出来ている。というか出来すぎなぐらいだ。観ていて「そういうことだったのか」とかなり感心してしまう。ここまで凝った詐欺をやるかというぐらい凝っているが、まあ「プロセス」には莫大な価値があることになっているのでおかしくはない。
 しかし詐欺そのものは凝っているが、映画としては地味である。多少のアクションシーンはあるが派手ではないし、物語の展開もスリリングというより淡々としている。そういう意味でコン・ゲームを題材にしたハリウッド映画のあれこれとは一線を画している。この映画の美質はハラハラドキドキではなく、全体に漂う不安な情緒である。じわっと腰が冷えてくるようなイヤーな感じ、これがこの映画の醍醐味だ。私はこういうのはかなり好きである。このイヤーな感じが絶頂に達するのは、もちろんジョーが持っているプロセスを書いたノートが、いつの間にか真っ白になっているシーンだ。場所はニューヨークのセントラル・パーク。うわー嫌だ。
 
 というわけで、この雰囲気はかなり好きなのだが、残念なことに結末が弱い。結局ジョーは救われ悪は滅ぶわけだが、観客を納得させるためにハッピーエンドにしました的なとってつけた感じは否めない。一種のどんでん返しだが、それまでの渋い雰囲気が薄まって軽くなってしまった。しかもご都合主義的で、バタバタとあっけなく決着がついてしまう。映画の方向性としては、むしろ騙されたままくらーく終わっていくような映画ではないだろうか、これは。観客に自分が詐欺にあったような不快感を残したまま終わるような。そんな映画誰も見たくないか。
 ちなみに、この映画のラストでは突然日本人が大活躍する。こういう日本人の使い方はアメリカ映画には珍しいなあ。

 まあ地味な映画なので、映画館で観ると物足りないかも知れない。これはやはり私のように、何気なくテレビで見て妙に印象に残ってしまう、というのが正しい鑑賞法だろう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿