アブソリュート・エゴ・レビュー

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ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(その1)

2017-07-22 13:11:41 | 映画
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』 ギャレス・エドワーズ監督   ☆☆☆☆☆

 英語版ブルーレイを購入して鑑賞。公開時に映画館でも観たが、日本人の私としてはキャプション付きの方がやっぱりストーリーが良く分かる。一体何年アメリカに住んでるんだという話だが、それはそれとして、過去のスターウォーズ・シリーズの中でもかなり評価が高い『ローグ・ワン』、やはり私もこれは傑作だと思う。シリーズの本流から外れた一作だけの番外篇ということだが、それだけに物語がしっかり完結しているし、ストーリーの流れも美しい。噂では完成前に大幅な撮り直しがあったらしく、そのことで全体の整合性についてあれこれ言う人もいるようだが、ネット情報によれば撮り直しはラスト部分だけだったようだし、実際に観た感想としてさほど気にならない。

 おそらく流れが云々という人は、ヒロインのジンがその庇護者であったはずのソウと訣別した部分の説明がなく、よく分からないということなのだと思う。確かにそこはもう一つか二つエピソードがあってもいい部分だろうが、そうすると三時間ぐらいの大作になってしまうし、そもそもスターウォーズとはそういう派生プロットをたくさん抱え込んだ壮大なスペースオペラ劇なのである。言い出したらキリがない。物語をシェイプアップするなら省ける部分であり、十分想像で補える。要するに「膨らませようと思えばもっと膨らませられる」部分に過ぎない。

 さて、私はこれをエピソード4に匹敵する傑作だと思うが、作品の性格はかなり異なっている。エピソード4が神話的だったのに比べ、リアル志向。もちろんSFなのでリアリズムとは言わないが、戦闘場面などかなりリアルな見せ方を意識してある。それに従来正義の味方だった革命軍も一枚岩ではなく内紛がある、革命軍兵士も正義とは限らず汚いこともする、というような組み立て方が現実的だ。登場人物もルーク、オビワン、ハン・ソロのような分かりやすい原型的キャラクターではなく、等身大の人間として造形されている。

 ストーリーの展開も均整がとれていて、まずバラバラの立場の人間たちがなりゆきで集まり、色んな問題や内紛を越えて結束し、やがて大きな使命を成し遂げる、という流れだ。ざっくり三部構成になっていて、第一部はジンとキャシアンがソウに会いに行くジェダ・エピソード。ここで盲目の剣士チアルートとその守護者ベイズ、更に帝国側のパイロット、ボーディが旅の道連れとして合流する。新しい仲間たちとの運命的な邂逅、意図せぬチーム生成。それがこの章の役割だ。こういう、それぞれ特徴ある仲間がだんだん集まってくる流れはちょっと『七人の侍』みたいで、ワクワクする。特にチアルートは今回キーとなるキャラで、ジェダイではないにしろフォースにもっとも近いところにいる兵士だ。座頭市とカンフーをミックしたような戦闘スタイルも新しく、これまでスターウォーズにはいなかった類のキャラである。憎まれ口を叩くロボットのK2も面白い。

 偶然の出会い、突発的な戦闘、捕縛、そして逃亡と、第一部は冒険活劇要素の愉しい詰め合わせになっている。かつてジンの庇護者であり父親代わりだったソウも戦争の中で不気味に歪んだ人格となっているが、このソウとジンの過去の因縁は軽く仄めかされるのみ。観客は自分で脳内補完して下さい。あと、K2と同タイプのロボットをジンが思わず撃ってしまう場面や、盲人のチアルートが目隠しされる場面など、散りばめられたギャグも効果的である。

 第二部は、ジンが父親ゲイレンと再会するイードゥ・エピソード。父娘の対面という人間ドラマのハイライトであると同時に、自然発生的に結成されたチーム内の不協和音がピークに達する章である。雰囲気はダークで、不安に満ちている。言うなれば、ローグワン・チーム試練篇だ。暗い惑星イードゥの雰囲気もこの悲劇色の強いエピソードにふさわしい。キャシアンのダークサイドが全開となり、彼に対するチーム全員の不審も噴出する。ジンの父親ゲイレンは死に、しかも殺したのは革命軍という最悪の展開になる。

 しかしその裏で、実はキャシアンの改心と再生が始まっている。彼の中に眠っていた善なるものが目を覚ましつつあり、それがクライマックスへの予感となっている。

 そしてすべてがクライマックスへとなだれ込んでいく第三部、デススター・プラン奪取ミッションのスカリフ・エピソード。圧倒的なデススターの威力の前に革命軍は戦いを放棄するが、一部の兵士が、秘密裡に闘うべく集結する。ローグワンが試練を経て浄化され、本当の意味でのチームとなる。そして全力で帝国軍と対決する。

 このクライマックスの一大戦闘シークエンスは、エピソード4がそうであったようにきわめて緻密な設計の上に成り立っている。まず、並行して遂行されなければならないタスクがあり、三つのチームが三つの場所で同時並行的に動く。中心のミッションとなるプラン奪取はジン、キャシアン、K2によって、帝国軍基地の内部で。帝国軍への陽動作戦として実行される地上戦はチアルート、ベイズ、ボーディによって、南国のビーチを思わせるスカリフの浜辺で。そしてシールド解除を目的とした空中戦は、帝国軍基地のはるか上空、革命軍の戦闘機チームによって、実行される。これら三つの戦いの場面がめまぐるしく切り替わりながら、いやが上にもクライマックスを盛り上げていくのである。

 特に浜辺での地上戦は、多勢に無勢のゲリラ戦ながらまずは不意打ちで優勢に立ち、次第に苦戦し、いよいよやられそうになったところで総力を挙げて突っ込んできた革命軍の戦闘機部隊によって巻き返す、という興奮する展開となる。まあ王道なんだが、どうしても燃えてしまうね、この展開は。

 が、とは言ってももともと万に一つの可能性しかない無謀な作戦。次々と襲いかかる困難に、一人、また一人と倒れていくローグワンの仲間たち。エピソード4に誰一人登場しないことから、ローグワンのメンバー全員死亡はほぼ既定路線だったらしいが、ラストに向けて次第に高まっていくこの悲愴感は、これまでのスターウォーズにはなかった要素である。
 
(次回へ続く)



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