アブソリュート・エゴ・レビュー

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アズールとアスマール

2008-03-05 12:17:58 | アニメ
『アズールとアスマール』 ミッシェル・オスロ監督   ☆☆☆☆☆

 フランスのアニメ。日本版DVDを買って鑑賞。まーとにかく映像が綺麗。圧倒的な映像美、とはまさにこのこと。一つ一つの場面をプリントして額に入れて壁に飾りたくなる。緻密だけれどもひたすらリアリズムじゃなく、シンメトリックで独特の装飾性に溢れた構図。まるでマチスのような影がない平面性、光源がどこにあるのか分からない光の偏在性。そしてなんといっても、暴力的なまでに鮮烈なこの色彩。もうこれは催眠的といってもいい。口半開きにしてボケーと見入ってしまう。
 
 御伽噺のような物語は、異文化同士の相互理解というシリアスがテーマをはらんでいて、かなりはっきり前面に打ち出してある。あまりに美しい映像に耽美的作品と誤解しそうになるが、メッセージ性の強い作品である。

 フランス人の子供アズールは、アラビア人の乳母を母代わりに、乳母の子供アスマールを兄弟代わりに育つ。しかし厳格な父はやがてアズールを二人から引き離し、乳母とアスマールを裸同然で家から追い出す。大きくなったアズールは子供の頃乳母から聞いたジンの伝説に憧れ、アラビアに渡る。しかしアラビアではフランスとは逆に青い目は不吉なものとされ、アズールは差別される。落胆したアズールは自ら目を閉じ、盲人となって遍歴する。やがて富裕な商人となった乳母に会い、アスマールと再会するが、アスマールはアズールを恨んでいて口を利こうとしない。そしてアズールとアスマールの二人は、伝説のジンを探し出すための旅に出る。二人は競争しながらもさまざま困難を乗り越え、とうとうジンが幽閉されている場所にたどり着く。アズールが山賊に殺されそうになった時、かたくなだったアスマールの友情が復活する。アスマールはアズールを助けるために瀕死の重傷を負う。「ここにおれを置いていけ。おれはもう駄目だ」と言うアスマールを、アズールは無理をしてかついで先へ進む。しかし魔力を持ったジンを助け出し、その王子となることができるのはたったひとり。アズールとアスマールの友情にはどういう決着がつくのだろうか。

 結末は書かないが、ハッピーエンドである。そしてこの結末にアズール=フランスとアスマール=アラビアの幸福な関係への祈りが込められている。

 おそらくフランスの人種問題などもっとよく知っていればさらに感動できるのだろうが、個人的にはそうしたメッセージ性よりも、圧倒的な想像力で描き出されるディテールに惹かれた。例えば、アズールとアスマールを助ける英知を持ったプリンセス。このプリンセスが幼い少女というのがおかしいが、この姫の住む宮殿がまた素晴らしい。白亜の壁、迷路になった水路を流れる花びら、そしてシュルレアリストが設計したような美しくも奇妙な天体観測の設備。それから、外出を禁じられているプリンセスをアズールが連れ出す夜の散歩。姫は道を見ては驚き、猫を見ては驚き、木を見ては驚く。そしてそれらのひとつひとつに触れては嘆声を上げる。この世界の美と不思議を見ている私達にも思い出させてくれるような、なんとも感動的なシーンだ。
 
 レオノール・フィニとマチスが結婚したような絵にとにかく酔わされる。シリアスで神話的なテーマを持った物語を、圧倒的映像美で描き出した素晴らしいアニメーション作品だ。


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