アブソリュート・エゴ・レビュー

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Live At the Orpheum

2015-03-20 22:39:48 | 音楽
『Live At the Orpheum』 King Crimson   ☆☆☆☆★

 いやーびっくりした。キング・クリムゾンのニュー・ラインナップがいつの間にか始動していた。しかもこれが度肝抜く編成で、なんと、7人のメンバー中ドラムが3人。ドラムが3人である。なんで3人もドラムが必要なのかという疑問はさておき、こんな編成のロックバンドは空前絶後だろう。ドラム以外はベースと、サックス&フルートと、ギターが2人。更なるサプライズとしてはレニー・レヴィン復活、メル・コリンズ復活。いやー驚いたのなんの。しかしまあ、何はともあれめでたい。

 ギター&ヴォーカルがジャッコ・ジャコスジクでいにしえのメンバー、メル・コリンズが復活しているというところから、あの70年代クリムゾン復刻バンド「21st Century Schizoid Band」が真正キング・クリムゾンに昇格した、という印象を持つのは私だけではないだろう。実際の経緯は知らないが、フリップとジャッコはもともと交流があったようなので、当たらずとも遠からずというところだろう。しかしそうなると俄然興味深いのは、この最新クリムゾンはここしばらくのヌーヴォー・メタル路線から外れて、もしかすると70年代クリムゾンのテイストが(形を変えてであれ)戻って来るのか、という点だった。

 そして発表されたこのライヴ盤のセットリストを見ると、ははあ、やっぱり来ました。『アイランズ』の曲が。こりゃえらいことになった、というわけでさっそくダウンロードして聴いてみたが、実のところ、最初聴いた時はあんまりピンと来なかった。やはり「21st Century Schizoid Band」的な、回顧的色合いが強い演奏だなあと思った。ジャッコの声が地味だし、サウンドも全体に覇気がないというか、上品に落ち着いていてテンションが緩い。まあこんなもんか、と思いつつ物珍しさで何度か聴いていると、じわじわ効いてきた。そしてある日突然思った。こ、これはこれでかなりイケるんじゃないか?

 やはり、いきなり『USA』を期待してはいけないのである。あれとこれは違うと、何度言えば分かるのか。また、同じじゃ新ラインアップの意味がないのだ。確かにサウンドは渋め、おとなしめだが、その味わいは名人が淹れた抹茶の如し。一曲ずつ見ていこう。

 最初はイントロダクションとして「Walk On: Monk Morph Chamber Music」だが、クリムゾンのイントロダクションらしい不安な情緒はさておいても、後半のサウンド・コラージュがなかなか面白く、『USA』の「Walk On ... No Pussyfooting」はいつもとばす私がこれは毎回聴いてしまう。そしてまず、『Red』から「One More Red Nightmare」。ははあ、そう来たか。というのは、この曲はドラムとパーカッションが派手なのである。トリプル・ドラムをアピールするには確かに向いている。そして実際ドラムが大きくフィーチャーされているが、打撃音が激しく鳴り響くような派手な録り方ではなく、落ち着いている。音数は多いが、圧倒されるような音圧ではない。最初はこれが物足りなかったが、聴き込むとむしろ音の組み立てがじっくり聴けて味がある。ジャッコのヴォーカルはウェットンに比べて個性に欠けるが、無難で危なげがない。ブリューが歌うより違和感は少ないだろう。

 「Banshee Legs Bell Hassle」は2分未満と短い、パーカッションを使ったちょっとした音響作品みたいな曲。次はヌーヴォー・メタル期の「The ConstruKction of Light」だが、これをレヴィンのベースで聴けるのはいいなあ。そしてなんと、これにメル・コリンズのフルートが乗るのである。なんともいえない味わい。新境地。新旧クリムゾンの合体。歳月を越えた叙情性と音響オブジェの出会い。なんといってもいいが、これこそこのアルバムのマカ不思議な魅力である。

 次はついに、『アイランズ』から「The Letters」「Sailor's Tale」の連発。結構アレンジされているのかと思ったら、ほぼ原曲通りである。これを「The ConstruKction of Light」の次に演奏するのもすごい。一気に時代を遡る感じだ。「The Letters」は幽玄に聴かせ、「Sailor's Tale」は幽玄の上に凄愴、怒涛が積み重なっていく。ここでもやはり、『Live at Jacksonville』などボズ時代のブートレグをたくさん聴いた身としては、音の折り目正しさ、おとなしさを再認識する。迫力というより、どこか透明感を漂わせたきれいさがある。

 そして最後は『Red』から名曲「Starless」。『USA』と同じ締め曲なのでどうしても比較してしまうが、やはりテンションの高さと熱さでは『USA』にはかなわない。あの『USA』バージョンの感動的なラストと比べると、この曲ばかりはどうしても不満が残るが、この品の良さもまた味ではある。それから、スタジオ盤と同じくサックスが入っている生演奏というのもポイントが高い。ジャッコのヴォーカルはこの曲でも違和感なく聴ける。どんな曲にでもそれなりに溶け込んでしまうというのは一つの才能かも知れない。

 さてさて、トータルで評価すると、まず新旧クリムゾンのさまざまな味が同居し、融合しているというのが最大のポイントである。フルートが入った「The ConstruKction of Light」のように一曲の中でもそうだし、アルバム全体としてもそう。さらに「Banshee Legs Bell Hassle」のような音響作品も違和感なく入り、クリムゾンの最新ラインアップの音楽性は今までになく幅広い。過去のクリムゾンすべてを融合したような懐の広さがあり、かつ、トリプル・ドラムのような新たな要素もある。そう考えると、やはりこれはとんでもなく魅力的なラインアップである。

 それから長年のクリムゾン・ファンとしては、久しぶりにホーンが入っているクリムゾンというだけで涙腺が緩みそうになる。感慨深い。昔からのファンならこの気持ちは分かってもらえるはずだ。

 というのがこのアルバムの良さだが、悪いところはもうこれに尽きる。なんでたった7曲しか入ってないのだ。圧倒的に曲が足りない。出し惜しみはカンベンしてくれフリップ。
 


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