アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

エピソード3 シスの復讐

2005-06-13 04:40:17 | 映画
 先日映画館でエピソード3を観たので感想を書いておく。

『エピソード3 シスの復讐』ジョージ・ルーカス監督   ☆☆☆

 (ネタばれありなので注意!)
 私はスターウォーズマニアではない。でも旧三部作から新シリーズ過去二作は全部観ていた。正直、エピソード2を観た時はもうどうでもいいモードになっていた。まあ米国在住の身なので映画は全部英語ということになり、細かい会話まで全部理解できないという宿命はある。時々前見た映画を日本語字幕付きのビデオで観て、あ、そういうことだったの、てなこともある。大事なところが理解できていなかったということも確かにある。がしかし、面白い映画はやっぱり英語だけで観ても面白い。従ってここで映画館で見た映画についてレビューする際には、私の英語力は完全に棚上げにさせていただく。
 さて、スターウォーズ新シリーズは旧三部作と比べてやっぱり面白くない。なぜか考えてみた。

1.キャラクターの魅力で劣る。旧三部作の主要メンバーは三作一貫して同じ、ルーク、レイア姫、ハン・ソロ、ダース・ベイダーである。ルークとレイア姫はちょっとおいて、やはりハン・ソロとダース・ベイダーの存在が大きい。ハリソン・フォードをブレークさせたハン・ソロはアウトローで一匹狼、クール、金に汚くひねくれ者、おっちょこちょい、愛嬌がある、そして滅茶苦茶カッコイイというすんばらしいキャラクターだった。ダース・ベイダーの見事さは言うまでもない、バルタン星人とタメをはるグッドデザイン賞ものの造形、スーハーいう呼吸音の不気味さ、J・アール・ジョーンズの魅惑の低音。ところが新シリーズにはこの二人に匹敵するキャラクターがいない。アナキンは言わずもがな、オビ=ワンも立派な人なのは分かるが愛嬌がない。ハン・ソロと比肩しうるキャラクターはいない。それにもちろん、敵役にもベーダーに比肩しうるキャラクターはいない。

2.チームとしてのケミストリーがない。旧作チーム:ルーク、レイア、ハン・ソロ、チューバッカ、+ロボットコンビが醸し出すワクワク感といったらなかった。微妙に仲が悪いルークとソロ、悪口を言い合いながら惹かれあうレイアとソロ、そこに茶々を入れるC3PO、彼らがギャーギャー騒ぎながらミレニアムファルコンに乗り込み、一面の星の海へと飛び出していく時の高揚感、あの感覚こそがスターウォーズ・マジックの核心だったと言っても過言ではない。新シリーズにはこれがない。

3.旧シリーズでも最高作はエピソード4だと思う。筒井康隆氏がどこかに書いていたが、エピソード4は完全に人間の無意識に訴えかける神話のフォーマットにのっとっており(無力な若者(ルーク)が冒険に乗り出し、師(オビ=ワン)と出会い、悪友(ソロ)を得、悪の宰相(ベイダー)との戦いの果て、姫(レイア)を救いだす)、それが万人の心を掴む。旧三部作は全体としてもこの流れに沿っているが、新作は違う。新シリーズはアナキンの成長物語であるが、アナキンがダース・ベイダーであることは周知の事実なので、つまりいかにしてアナキンはダースベイダーになったかというのが新シリーズの骨子である。だから個々のエピソードで描かれる戦いやオペレーションがあまり切実ではない。極端に言えば、もともと新シリーズはアナキンがダースベイダーになるという既知のクライマックスへ向けて張られる遠大な伏線と化す危険性を孕んでいた。そしてそうなりかかっている。

 その他にもルーカスのストーリーテリングがうまくないとか色々あると思うが、エピソード2までの私の感想は上のようなものだった。だからエピソード3もまったく期待していなかった。ただここまで観たら3を観ないわけにはいかない。大体新シリーズは上に書いた通りダース・ベイダー誕生へ向かう遠大な伏線なわけだし、3が最高に盛り上がるのは観る前から分かっている。

 というわけで観たエピソード3だが、予想より面白かった。何が面白かったかというと、アナキンが悪の宰相ダースベイダーと化すその悲劇性、残酷さと、壮大なサーガの円環が見事に繋がったという感慨が渾然一体となって迫ってきて、それが面白かった。すべて想定範囲内の面白さじゃないかと言われればその通りで、それ以外の面白さはなかったと言ってもいい。だから傑作かと言われれば躊躇してしまう。例によってCGは色々と凝っていて、美しい映像を見せてくれるが、別にどうってことはない。
 本作はスターウォーズ・サーガ中最も悲劇的と言われているが、それは話の流れからしてそうならざるを得ない。なんせ三部作の主人公が悪役と化して終わるのだ。それに前シリーズですでに、ベイダーがものすごい負傷のせいであのマスクを付けていることがばらされている。従ってアナキンもものすごい負傷を負い、二目と見れぬ顔になり、挙句の果てにあのマスクを被せられなくてはならない。さすがにその怪我を負うクライマックスの映像はショッキングだった。かなり残酷だ。そこへ運命の残酷さという新シリーズ全体のテーマが重なってくる。悲劇性が盛り上がる。ジョン・ウィリアムズの荘重な音楽も拍車をかける。そしてあのベイダー・マスクがアナキンに被せられるシーン。プシュー、と映画館にあの最初の呼吸音が響いた時、さすがに私の体を戦慄が駆け抜けた。初めてこのシーンを目にするスターウォーズ・マニアの感慨は筆舌に尽くしがたいだろう。サーガ中最も印象的なシーンであることは間違いない。
 それからアナキンもエピソード2より大分良かった。なんか目つきが悪いチンピラみたいだった2と異なり、長髪になって黒衣装に身を包んだアナキンはかっこよかった。印象的だったのは、アナキンがダース・ベイダーと呼ばれるようになり、灼熱の惑星へ赴き、殺戮のために司令室みたいな部屋に入った時、指をちょっとあげてフォースで扉を閉めるのだが、その仕草が確かに旧三部作でお馴染みのベイダーの仕草なのだ。少なくとも私にはそう見えた。

 まあそんなこんなで、想定範囲内ながらも新シリーズ中では最も面白いエピソード3だった。



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