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アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト

2010-04-11 13:14:12 | 
『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』 ウィリアム・S. バロウズ   ☆☆☆★

 再読。これはバロウズが80年代になって出した本で、カットアップやフォールドインといった実験的手法が後退し、ストーリー性を重視し始めたことになっている時期の作品である。『デッド・ロード』『ウェスタン・ランド』と一緒に80年代三部作とも言われている。

 解説でも訳者はさかんに「読みやすい」を連発している。本気でそう思っているのか? だとしたら変態である。そりゃ確かに『ソフトマシーン』とかあのあたりの、カットアップ使いまくりの作品と比べればまだましだろうが、だからって「読みやすい」はないんじゃないか。正直言って、私は読みやすさにおいては『裸のランチ』と大差ないと思う。

 確かに通俗小説的なプロットがかなり利用されている。が、一見筋がありそうで、実はない。少なくとも一貫した筋はない。基本的にムチャクチャである。本書に投入されているいくつかのプロット(らしきもの)とは体中に赤い発疹が出るウィルスB23(これが相当気持ち悪い)、殺人事件を追う探偵スナイド、船に乗り込んで海賊になる少年たち、などである。スナイドと海賊たちの話は時代が異なっている。読み始めてしばらくは、確かにストーリーに連続性がある。珍しいことだ。と思っていると、やがてスナイドは事件の捜査など忘れて本の偽造を始め、砂漠に存在するシティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイトの記述を読んだりし、いつの間にか名前がオードリーに変わった模様である。海賊は服装倒錯者たちと合流し、首吊りゲームに興じ、貴族的でミステリアスで美形の双子があちこちに出没するようになる。どうやらタイム・スリップも始まったようだ。おいおい、伝染病はどうなった? もうメチャクチャだ。

 で、訳者はこれを、文章のカットアップでなくストーリーのカットアップと呼んでいる。

 それじゃ『裸のランチ』と同じかというと、雰囲気はかなり違う。私の趣味から言うとこっちの方がグロ度は高い。それに中途半端にプロットがあるために、完全な断片の集積だった『裸のランチ』よりむしろ迷宮的で悪夢的な印象がある。夢の中で話がどんどん脱線していくあの感じだ。最初に伝染病のエピソードが出てくるが、この赤いブツブツができる病気のおぞましさと、タイトルにもあるように赤い、熱病的なイメージが絡み合って、どんどん増殖していく。スナイドがまだ探偵らしい調査をしている最初の方ではオカルト色もかなり強い(探偵と助手が交霊術の儀式をやったりする)し、後になると首吊りのオブセッションも頻繁に出てくるようになる。タブーなしの想像力は完全に健在だ。それから本書で使われている語彙の統計をとったら、普通の小説とはだいぶ違う結果になるな、ということを読んでいてひしひしと感じる。本書に頻出する語彙というのは、まあたとえば尻、直腸、射精、などである。

 バロウズならではのスラップスティックな感覚ももちろんあって、面白い場面もあちこちにある。バロウズ好きなら愉しめると思うが、私はやっぱり『裸のランチ』の方が好きだ。まあしかし、せっかくだから『デッド・ロード』と『ウェスタン・ランド』も読み返してみようかな。


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