『シャンドライの恋』 ベルナルド・ベルトルッチ監督 ☆☆☆☆
日本版DVDで鑑賞。ベルトリッチ監督の映画は『ラスト・エンペラー』ぐらいしかちゃんと観たことがないが、ああいう歴史大作に比べてこの作品はシンプルなラブ・ストーリーで、小品という印象である。それから東洋に関心を持つ作家というイメージもあるが、本作においてそのまなざしはアフリカに注がれている。この映画の最重要テーマは欧州とアフリカの融合と言ってもいい。
ローマで暮らすアフリカ人女性・シャンドライは教師だった夫を政府に投獄され、メイドの仕事をしながら医学生として勉強に励んでいる。彼女がメイドとして住みこんでいるのは英国人ピアニスト、キンスキーの家で、彼は時間があればバッハやモーツァルトを弾く。一方シャンドライは自分の部屋でアフリカのポップ・ミュージックをかける。ある日キンスキーはシャンドライに唐突で情熱的な愛の告白をする。シャンドライは拒絶し、何でもしてあげると言うキンスキーに叫ぶ。「じゃあ投獄された私の夫を返して!」キンスキーは、彼女に夫がいるとは知らなかった、と謝罪し、その後シャンドライを求めることはなくなるが、そのかわり、彼の家から一つ一つ家財道具が姿を消していく。一方、シャンドライはキンスキーと一定の距離を保ちながらも、彼に対する自分の感情が徐々に変化していくのを感じる。
セリフが少ない寡黙な映画で、ストーリーもシンプルで起伏が少ないけれども、決して禁欲的な映画ではない。溢れる色彩、強調された光と影のコントラスト、螺旋階段をうまく使って高低と奥行きを表現する空間表現など、映像的には非常に豪奢だ。撮影や編集にもジャンプカットや回転するカメラアングルなどが多用され、奔放でバイタリティに溢れている。むしろ悦楽的で饒舌な映像作品だと思う。特に印象的なのは色彩で、シャンドライの黒い肌やキンスキーの金色の産毛までが美しく撮られている。
本作の大きなテーマである欧州とアフリカの融合については、音楽が非常に象徴的な使われ方をしている。キンスキーが弾くクラシック、シャンドライが聴くアフリカン・ポップスが交互に、おそらくほぼ等分に画面を彩っていく。それからもちろん、物語自体がアフリカ人女性と英国人男性のラブ・ストーリーなわけだが、特典映像でのベルトリッチ監督の説明によれば、ローマに住むアフリカ人と英国人ということで二人とも異邦人であり、互いに対等の関係にある。それから面白いのは、ベルトリッチ監督は最初にシャンドライ役の女優サンディ・ニューマンを見た時から強烈に惹きつけられたそうだが、あとになってその理由が分かった、彼女はアフリカ人とイギリス人のハーフであり、それが彼女のえも言われぬ魅力の秘密だったのだ、と語っている。だとすればサンディ・ニューマンという女優そのものが、この映画のテーマと美しさの表象的存在といえるかも知れない。
ただし映像や音楽の豊穣さ、雄弁に比べ、物語の力はいささか弱いように感じた。たとえば登場人物達が唯一心情をさらけ出すキンスキーの告白場面は、唐突であまりに激しく、どうも不自然だ。それからキンスキーのいわゆる「無償の愛」がこの映画の泣かせ所、つまり純愛映画としてのツボとして宣伝されているようだが、あれも必然性が感じられない。つまり、キンスキーにそこまでさせる動機が良く分からない。物語の中で、なんでもいいから彼にその行為を促すきっかけ、理由を与えるべきじゃないだろうか。あれじゃ、ただキンスキーがすっごくいい人、ということでしかない気がする。
あと、個人的にはキンスキーのキャラクターにあまり魅力を感じなかった。わざとかも知れないが、ちょっと情緒不安定気味のキャラで、一歩間違うとストーカーになってしまいそうだ。いずれにしろ、映像美が際立った映画だった。
日本版DVDで鑑賞。ベルトリッチ監督の映画は『ラスト・エンペラー』ぐらいしかちゃんと観たことがないが、ああいう歴史大作に比べてこの作品はシンプルなラブ・ストーリーで、小品という印象である。それから東洋に関心を持つ作家というイメージもあるが、本作においてそのまなざしはアフリカに注がれている。この映画の最重要テーマは欧州とアフリカの融合と言ってもいい。
ローマで暮らすアフリカ人女性・シャンドライは教師だった夫を政府に投獄され、メイドの仕事をしながら医学生として勉強に励んでいる。彼女がメイドとして住みこんでいるのは英国人ピアニスト、キンスキーの家で、彼は時間があればバッハやモーツァルトを弾く。一方シャンドライは自分の部屋でアフリカのポップ・ミュージックをかける。ある日キンスキーはシャンドライに唐突で情熱的な愛の告白をする。シャンドライは拒絶し、何でもしてあげると言うキンスキーに叫ぶ。「じゃあ投獄された私の夫を返して!」キンスキーは、彼女に夫がいるとは知らなかった、と謝罪し、その後シャンドライを求めることはなくなるが、そのかわり、彼の家から一つ一つ家財道具が姿を消していく。一方、シャンドライはキンスキーと一定の距離を保ちながらも、彼に対する自分の感情が徐々に変化していくのを感じる。
セリフが少ない寡黙な映画で、ストーリーもシンプルで起伏が少ないけれども、決して禁欲的な映画ではない。溢れる色彩、強調された光と影のコントラスト、螺旋階段をうまく使って高低と奥行きを表現する空間表現など、映像的には非常に豪奢だ。撮影や編集にもジャンプカットや回転するカメラアングルなどが多用され、奔放でバイタリティに溢れている。むしろ悦楽的で饒舌な映像作品だと思う。特に印象的なのは色彩で、シャンドライの黒い肌やキンスキーの金色の産毛までが美しく撮られている。
本作の大きなテーマである欧州とアフリカの融合については、音楽が非常に象徴的な使われ方をしている。キンスキーが弾くクラシック、シャンドライが聴くアフリカン・ポップスが交互に、おそらくほぼ等分に画面を彩っていく。それからもちろん、物語自体がアフリカ人女性と英国人男性のラブ・ストーリーなわけだが、特典映像でのベルトリッチ監督の説明によれば、ローマに住むアフリカ人と英国人ということで二人とも異邦人であり、互いに対等の関係にある。それから面白いのは、ベルトリッチ監督は最初にシャンドライ役の女優サンディ・ニューマンを見た時から強烈に惹きつけられたそうだが、あとになってその理由が分かった、彼女はアフリカ人とイギリス人のハーフであり、それが彼女のえも言われぬ魅力の秘密だったのだ、と語っている。だとすればサンディ・ニューマンという女優そのものが、この映画のテーマと美しさの表象的存在といえるかも知れない。
ただし映像や音楽の豊穣さ、雄弁に比べ、物語の力はいささか弱いように感じた。たとえば登場人物達が唯一心情をさらけ出すキンスキーの告白場面は、唐突であまりに激しく、どうも不自然だ。それからキンスキーのいわゆる「無償の愛」がこの映画の泣かせ所、つまり純愛映画としてのツボとして宣伝されているようだが、あれも必然性が感じられない。つまり、キンスキーにそこまでさせる動機が良く分からない。物語の中で、なんでもいいから彼にその行為を促すきっかけ、理由を与えるべきじゃないだろうか。あれじゃ、ただキンスキーがすっごくいい人、ということでしかない気がする。
あと、個人的にはキンスキーのキャラクターにあまり魅力を感じなかった。わざとかも知れないが、ちょっと情緒不安定気味のキャラで、一歩間違うとストーカーになってしまいそうだ。いずれにしろ、映像美が際立った映画だった。
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