アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

そして夢の国へ

2008-06-29 19:45:49 | 音楽
『そして夢の国へ』 クロスウィンド   ☆☆☆☆

 80年前後に活動していた日本のフュージョン・バンド、クロスウィンドのサード・アルバムを入手。フュージョンといってもギターメインのインストだからそう分類されているだけで、「異端派プログレッシヴ・ロック」と呼ばれていることから分かるように、実際は技巧的なインストゥルメンタル・ロック・ミュージックと思った方がいい。ギターはジミヘンばりにぐにゃぐにゃしていて、曲調は明るい。1st, 2ndも再発されているが、このサードが最高傑作と聞いてこれだけ買った。

 中心人物はギタリストの小川銀次。この人は一時期RCサクセションに参加してギターを弾いていたこともある。特にギター・インストに興味がある人以外誰も知らないだろうこのクロスウィンドというバンド、私は昔たまたま一度だけライヴを見たことがある。新宿かどこかのライヴハウスだったと思うが、詳細は忘れた。とにかく小さなハコで、かぶりつきで見れたのを覚えている。やはり小川銀次の奔放かつアグレッシヴなギターワークと、バンド全体の勢いの良さが印象的だった。

 小川銀次のプレイはエイドリアン・ブリューっぽい変態要素もあって、このアルバムでもギターで猛獣の咆哮や小鳥の鳴き声のような音を出している。速弾きだけでなくトリッキーな音を多用するギタリストだ。ただし曲はメロディアスで、非常に聴き易い。構成こそプログレ的で複雑だが、このキャッチーさならギターマニア以外にも充分アピールすると思う。音で絵を描く、と形容されるクロスウィンドの(つまり小川銀次の)音楽だが、曲想は確かに童話的・御伽噺的なムードがある。それは収録曲の曲名を見てもらえば伝わると思う。

1.森は不思議なおもちゃ箱
2.あそこへまっしぐら
3.みのむし
4.海太郎とりんご
5.クロスカントリー
6.百獣の王
7.川のほとりで一休み
8.そして夢の国へ

 CDをプレイするとまず扉が開く音がして、ぐにゃぐにゃしたギター音がフェードインしてくる。間髪を入れずに勢いのあるギターサウンドが炸裂、シンセサイザーが奏でる抒情的なテーマへとつながる。『森は不思議なおもちゃ箱』というタイトル通り、ハードなギターソロをフィーチャーしつつもリリカルで爽快な曲だ。『あそこへまっしぐら』もそうだが、小川銀次のギターはどんなにぐちゃぐちゃ弾きまくっても重くならず、爽快感がある。一方、『みのむし』のような抒情的なバラードではメロディ・センスが光る。

 こうした彼らの魅力が集約されているのがタイトル・チューン『そして夢の国へ』で、アコースティック・ギターをバックにした夢見るような女性のスキャットで始まり、徐々に演奏のテンションを上げていく。バンドが全力疾走し始めてからも、あくまでメロディは明るく抒情的だ。クライマックスをアグレッシヴなギターが盛り上げた後でリズム隊がフェイド・アウトし、再びギターが抒情的な主旋律を奏で、オルゴールの音に置き換わって終わる。

 演奏技術と美メロをあわせ持ち、アルバム全体を包み込む夢見るような雰囲気も魅力的だが、残念なことにギター以外の演奏が物足りない。リズム隊は決してヘタではないが、この手に音楽にしては平坦で厚みと面白みに欠け、特にベースは音もプレイも控えめ過ぎる。ギターが弾きまくっているだけにバランスが悪い。その点は小川銀次のワンマン・プロジェクトの弱点が出てしまった感じだ。

 こういうバンドは往々にしてライヴ演奏の方が良かったりする。ライヴ音源も出ているようなので入手してみようかな。


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