アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Jaco Pastorius

2008-09-26 20:50:46 | 音楽
『Jaco Pastorius』 Jaco Pastorius   ☆☆☆☆☆

 フレットレス・ベースの神、ジャコ・パストリアス問答無用のファースト・ソロ・アルバムである。もう何も言うことはない。あらゆるベーシスト必聴の名盤である。ところが私は若かりし頃これを聴いて、「なんか地味だな」と思って拍子抜けした記憶がある。そしてその後長いこと聴き返すこともなかった。ああ若かったよ、若かった。

 馬鹿テクはもちろん存分に堪能できる。一発目の「Donna Lee」からして腰が抜けるほどの速弾きだ。その他「Continuum」「Portrait of Tracy」とベース・ソロ曲が並んでいる。じゃ何が地味かというと、まず音作りが地味に思えた。ベースの音が派手じゃなく渋い。またジャコのベースが出ずっぱりでなく、結構バッキングに回ることが多い。ジャコがベースを弾いてない曲まである。これが物足りなかった。おまけに曲の雰囲気がバラエティに富んでいるのがかえって散漫に思えた。

 すべては私の馬鹿の証明である。もちろん、ジャコは単なる馬鹿テク・ベーシストでなく、優秀なコンポーザーでありクリエイターであったのだ。その後再びこのアルバムと出会い、じっくり聴き込むと、バラエティに富んでいて渋い音作りのなされた曲の一つ一つが、汲めども尽きぬ魅惑の泉であることが分かってくる。ここにハッタリはない。虚栄も迎合もない。音楽を愛するジャコの天真爛漫な感性だけがある。

 ソロ2作目の『Word Of Mouth』はプレイヤーとしてよりコンポーザーとしての才能が目立つアルバムだったが、このアルバムではさっき書いた通りベース・ソロ曲も多く、プレイヤーとしてまたコンポーザーとしての魅力がまんべんなく、バランス良く楽しめる。ジャコ・パストリアスの魅力を手っ取り早く知りたい人はまずこのファーストを聴くべきである。

 圧巻のベース・ソロ3曲はそれぞれ曲調に合わせてベースの音を変えてあり、曲の味わいを最大限に引き出している。パーカッションのみをバックに驚異的な速弾きを聴かせる「Donna Lee」、コーラス効果がかかった広がりのある甘い音で幻惑する「Continuum」、飾り気のないシャープなベース一本で聴かせる「Portrait of Tracy」。それからビッグバンドと共演するヴォーカル入りの「Come On, Come Over」、ピアノとパーカッションとともに疾走するスリリングな演奏とゆったりした演奏が交錯する「Kuru/Speak Like a Child」、ひたすらハーモニクスでバッキングに徹する仰天の「Okonkole y Trompa」など、泉のように湧き出るアイデアがそれぞれ独創的な曲となって結実している。ずらり並んだ芳醇な果実を味わっているような、なんとも贅沢な気分だ。締めくくりはなんとベースが入っていないピアノとストリングスの美曲「Forgotten Love」。単に甘いだけではない不思議なリリシズムを湛えた曲で、ジャコのコンポーザーとしての才能が伝わってくる。

 時にジャコ・パストリアス、24歳。天才とは恐ろしい。


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