アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Livestock

2007-05-19 19:22:07 | 音楽
『Livestock』 Brand X   ☆☆☆☆☆

 『Unorthodox Behaviour』『Moroccan Roll』に続くブランドXのサード・アルバムにしてライヴ・アルバム。驚異の生演奏集だ。

 ずっと昔、ブランドXを初めて聴いたのがこのアルバムだった。フィル・コリンズのドラムとフレットレス・ベースを目当てに聴いたのだが、実は期待していた音と違っていてピンと来なかったのである。ドラムは全曲フィル・コリンズじゃないし、フレットレスの音はこもっていて地味、というか陰気。ジャコパスやミック・カーンみたいな音を期待していた私は「あれ?」となってしまった。それに曲がみんな暗く、キャッチーさがない。超絶技巧はあちこちで聴けるが、テクニックを売り物にしたような演奏にはあまり興味がなかったので、何回か聴いて「はずれ」と判断し、売り払ってしまった。ああ若かったよ、若かった。

 最近スタジオ盤をいくつも聴いてブランドXにはまり、また聴きたくなって入手したら、これが同じアルバムかというぐらい印象が違う。昔自分が何を聴いていたのかさっぱり分からない。パーシー・ジョーンズのベースは妖しさ全開で、ぐっと渋い音ながらも全篇やりたい放題はじけまくってるし、ギターやキーボードも陰影のある格調高い演奏、フィル・コリンズのドラムはもちろんもう一人のドラマーも充分いける。フィル・コリンズと似たタイプで、ブランドXの妖しく繊細な音に合っている。とにかく全員超絶技巧。しかし単に技巧をひけらかすのではなく、独特のメランコリックで陰りのある曲調の中で、抑制をきかせつつも熱い演奏を繰り広げるそのバランス感覚がまた素晴らしい。

 スタジオ盤ではそれなりに明るい曲もあるのだが、このアルバムではメランコリックな曲ばかりで、全体に曲調が似通っているのがパッと聴いた時に地味に思える原因かも知れない。特にPart 1、Part 2合わせて最長の『Isis Mourning』がスローで静か、ブランドXのネクラぶりを遺憾なく発揮した混沌とした曲なので、全体の印象がどのスタジオ盤と比べても暗い。だからこれは彼らの最高傑作とも言われるアルバムだが、最初に聴く一枚じゃないと思う。ブランドXってどんなのか聴いてみたい、という人にはまず『Unorthodox Behaviour』をお薦めする。しかし一旦ブランドXにはまり、この独特のサウンドに病みつきになってしまったら、このライヴ盤は最高である。メランコリックで妖しい部分、つまり彼らの一番「らしい」部分が濃縮パックされているからだ。

 まあとにかく凄い演奏ばかり。ベース、ドラムだけでなく、ギターとキーボードも素晴らしいテクニシャンだし、上手いだけでなく曲にあったいい音を出している。特に哀愁を帯びたエレピの音がいい。しかしどの楽器も音色が渋く、それらが絶妙に溶け合ってこのバンド独特のジャズっぽさ、瞑想性を醸し出している。パーカッションのモーリス・パートもいい仕事をしていて、もともと強力無比なリズム・パートに更に最後の一味を付け加え、パーカッシヴ度を上げている。超絶技巧集団なので演奏力ばかり注目されてしまうが、陰影ありまくりの妖しい曲の数々もいい。熱く盛り上がるばかりでなく、静かで瞑想的な部分もきっちりシブく聴かせるのである。さすが曲者集団。知性と変態性を合わせもっている。

 はっきり言ってキャッチーな曲は皆無なので一般受けはしない。でも味を知るものにとっては極上。ああ、こんなライヴを見てみたい。


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