崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

大統領の涙

2014年06月05日 05時52分59秒 | エッセイ
韓国の地方選挙の結果が与野党のバランスをとったと東亜日報は“絶妙の均衡投票者の心”、船沈没惨事の悪影響があっても大統領の涙で挽回したと報じた。私も朴大統領の涙を見ながら真心が伝わり感動したが、「感情的な(?)韓国人」に影響したのは事実であろう。イギリスの元首相のサッチャー氏を鉄の女と揶揄した言葉を憶えているが、無愛想な朴大統領の涙はより国民を感動させたのである。涙は言葉で表現できない、感情をコントロールできない時爆発的に起こる現象である。しかし俳優は良く泣くことができるのは不思議である。アメリカの眼科医プレスナー氏の研究によると悲しい涙には蛋白質の濃度が高く、特に女性より男性が高いという。
 私は涙は生理的な現象でもあるが、儒教祭祀の哭などは形式化されたもの、つまり哭きや涙、泣くことを文化現象として見ている(拙著『哭きの文化人類学』)。私も親しい友人や愛犬がなくなった時泣いた。感情の処理でもあったようである。日本ではその感情を抑制する。涙を抑制して手に汗が出るという「ハンカチ」(芥川)は感動的である。日韓における涙の質はかなり異なる。涙と泣くことは表現様式であって悲しさや嬉しさそのものの質を意味するものではない。涙はみせなくても悲しさはあることはある。その深層を理解する必要がある。