いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

世界を股にかけるPrivateer(笑)

2008年09月20日 15時18分17秒 | 俺のそれ
先月のグルジア侵攻で、黒海ではグルジア海軍の艦船がロシア軍に攻撃を受け沈められた。その後、ロシア軍は黒海に展開した米海軍との睨み合いとなったが、大規模な水上戦とはならなかった。

この黒海戦から遡ること、約200年。
1813年9月10日、米国のエリー湖で水上艦艇による戦闘が行われた。
米英戦争の一コマ、「Battle of Lake Erie」だ。

米軍側はペリー大佐指揮下、「ローレンス」を旗艦とし、同クラスの「ナイアガラ」他7隻で、合計9隻の艦隊。英軍側はバークレイ中佐指揮下、旗艦「デトロイト」と「クイーン・シャーロット」を主力とする計6隻だった。

米軍の旗艦「ローレンス」が数隻相手に奮戦したものの、激しい戦闘で一度は英軍に奪われてしまう。大佐は脱出し、「ナイアガラ」に移って指揮を継続し、英軍に反撃。最終的には、米軍が英軍艦艇全部を捕獲、旗艦「ローレンス」も奪い返したのだった。この水上戦で勝利した米軍は湖上支配力を活かして、一度は英軍に陥落させられ支配されていたデトロイト砦を、後に奪還することに成功した。


今人気の大河ドラマ『篤姫』で攘夷か開国か、という話が出てくる。開国前夜の日本が描かれており、興味深い。
この当時の米国は、世界の中では途上国であり、今で言えば「新興国」の一つでしかなかった。マディスン政権が勇ましく英国に宣戦布告して始められた米英戦争から40年後、米国海軍ペリー提督率いる「黒船」が江戸にやってきたのだった。
今でこそ「捕鯨反対」を大袈裟に叫んでいるが、米国は当時「捕鯨大国」であり、太平洋でいくらでも乱獲していたのだった。日本には大型の蒸気船は存在していなかったが、米国は遠くの外洋まで航海する大型捕鯨船があった。その寄港地が必要だったので日本に開国を迫ったのだ。

ところで、上記エリー湖での戦闘で米軍を指揮していた「ペリー大佐」には兄弟がいた。大佐はオリバーという名で、彼にはマシューという弟がいたのだった。そのマシューこそ、日本に黒船でやって来た「ペリー提督」だった。ペリー兄弟は米国海軍への貢献が非常に大きかったであろう。


ペリー兄弟の父親もまた、船長であった。
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の時代設定がいつなのかは不明であるが、大体同じような頃かもしれない。ペリー兄弟の父が船長であった頃は、海賊は「pirate」であり、海賊船の数は少なく、どちらかと言えば、海の上では少数派だった。イギリス、オランダ、スペイン、アメリカなどの海軍は殆どが商船であり、専用の軍艦というのは稀であった。商船が何故武装しているかといえば、海賊から身を守るため、というのは、ハズレではない。しかし、本当の敵は別だった。その敵とは、「privateer」という私掠船だ(privateに似た綴りだが、語源は知らない)。

私掠船というのは、簡単に言えば、国家(統治者である王様)が海賊行為のお墨付きを与えた船、ということだ。海賊ではなく海軍船であるけれども、普段は商船として用い、他国の船(たまに自国の船wも)を「襲って奪う権利」を公的に認められている船なのだ。「pirate」はこの公的認可を受けていない、モグリの営業船ということ。「privateer」になれば、営業許可証をもらってる「公認海賊船」みたいなものだ。なので、英海軍の船がスペイン船を襲って、財宝や奴隷を全部掠奪したりすることは、女王陛下の名において認められていた、ということだな(笑)。有名な「privateer」は、”Sir”フランシス・ドレイクだろう。例の、スペイン艦隊を破ったアルマダ海戦の時に大活躍した司令官だ。実態としては、元々海賊船の船長ということなんだけどね。
インド洋で海賊船取締に参加せよ(燃料補給しろ)とか、偉そうに言う国々があるのだけれども、彼ら自身がやっていたことと一体どんな違いがあるのか、一度説明を聞かせてもらえればと思っています。


話を戻そう。
ナポレオン戦争や米英戦争では、これら私掠船が海上戦力の大部分を担っていた。ペリー提督が日本にやってきた頃にも、本物の軍艦だけではなく、私掠船がやってきていたかもしれない。
(1907年のハーグ会議で国際法上で規定されて以降には、禁止されるようになった。欧州では19世紀中頃のパリ宣言以降なくなった)。

<ちょっと寄り道:
映画『アミスタッド』の舞台となった、アミスタッド号の事件では、スペイン(奴隷)船の所有権や犯罪行為についての法解釈とかが紛糾した。当時の海上での権利関係は、不明確な部分は多かったのかもしれない。昔から、「よし、ルールを作ろう(変えよう)」と言える立場にある者が外交的優位な人間(国)であり、外交戦術の力量差が出てしまうのかもしれない。今と何も変わっていない、ということかも。>


さて、現代ではどうなのかといえば、本当に「privateer」が消滅して存在していないのか、疑問の余地があるかもしれない。多分、船には乗っていないと思うが、「プライベート・ジェット」くらいには乗っているかもしれない(笑)。
「privateer」を取り締まるべきだ、と言うと、海では自由にさせろ、規制はよくない、とか言うわけだ。で、自分に都合の悪いことが起こるなら、「国際条約を結ぼう」と言い出して、ルールを変更しようとするのだ。

昨日まで散々掠奪を繰り返していながら、今後は「自国の船」が襲われる可能性が高くなると思えば、急に「制限条約を締結すべきだ」と言い出すようなものだ。これまでスペイン船やフランス船を襲撃して稼いでいた英国船が、今後は襲う利益が減り米国の私掠船に襲われる損失の方が大きいので、「私掠船は禁止しよう」と言い出すようなものだ、ということ。

これが伝統の力、ということらしい(笑)。
欧米で生き延びるというのは、こうしたゲームに勝たねばならない、ということかもしれない。